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2017年08月16日

64 Audioの新機軸ハイエンドIEM、tia Fourteレビュー

64 AUDIOは2010年創業の新世代のアメリカのカスタムイヤフォンのメーカーですが、いまではカスタムイヤフォンの中堅メーカーといえるでしょう。

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当初の会社の理念はカスタムイヤフォンを手ごろな価格で提供するというものだったのですが、最近ではカスタムを取り巻く環境も変わり、ハイクラスなメーカーを目指していると言うことです。後でまた触れますが、本レビューで紹介するtia Fourté(ティア・フォルテ)の開発もその差別化戦略の一環と言えるでしょう。

ちなみに本稿ではTiaやAPEX、CenterDriveなどの基本的な解説は省きます(うちのサイトで検索すると出てきます)。代理店のミックスウエーブの製品ページは下記リンクです。
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=64+AUDIO&cell003=tia+Fourt%26%23233%3B&id=143

特徴

tia Fourteはドライバー数4つで、ダイナミックとBAのハイブリッドIEMです。
私もそうだけれども、たぶんtia Fourteに対してのまず抱く疑問は、「A18/U18が高いのは18個ものドライバーが入っているのだからそれは分かる、しかし4つしかドライバーがないFourteがなぜこんなに高価なのか、」ということではないでしょうか。

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その答えというのはメーカーに聞いてみると、簡単に言うと内部の音響設計がいままでのイヤフォンとは大きく異なり、それに多くの開発費が費やされ、工作精度がとても精密なものであり、製造にもコストがかかっているからということのようです。

A18/U18ではtiaは高域ドライバーのみにtia、つまり不要な共鳴を取って透明感を上げるアコースティック・チェンバー(音響室)が適用されています。Tia(Tubeless in-ear Audio)とはチューブレスのことですが、チューブ自体が問題というよりも、むしろチューブに通すためにBAユニットの音の出る穴が小さいのに無理やりつめるというのが問題ということのようです。
一方でtia Fourteの"tia system"ではHighとMid/Highユニットにtiaの名称が冠されています。さらに内部図解を見ると、4つのドライバーすべてにモールド(区画割り)が施されています。Campfire Audioのアコースティック・チェンバーと異なり、64 Audioのモールドはドライバー全体を包み込むようなものだということです。これは64 Audioの採用するBAドライバーがオープンBAということも関係しているとのこと。(またこれで特許回避もできると思います)
Highドライバーのアコースティック・チェンバーはステム自身でもあり、ファイナルチェンバーと呼ばれます。またダイナミックドライバーもすっぽりとアコースティック・チェンバーに入っていますが、これはより空気の容積が必要なためということです(AZLAの大柄のシェルみたいなものでしょうか?)。

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tia Fourteのアコースティック・チェンバー(モールド)の配置

逆に言うと、そのモールドスペースを十分に確保するために4つしかドライバーがないということになりますね。またこの設計のゆえにtia Fourteではユニバーサルのみで、カスタムは作れないそうです。
tia Fourteではこのようにドライバーがそれぞれ専用の気室に入っていて、エアフローを調整しているというわけです。64 Audioではシングルボア(音の出る孔)を特徴としてますが、音は全て最後はファイナルチェンバーであるシングルボアに直結するチェンバーに集められます。

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Tia オープンBAドライバー

またFourteに採用されている技術のうちでパッシブラジエーターとは低域と中音域ドライバーと相互作用する振動版(ダミーコーン?)で、ファイナルチェンバーに送ってHigh(Tia)とHigh/Mid(Tia)と音を合流させるために使われているということです。これで金属シェルの不要なレゾナンスを減らすことができるということ。

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internal APEXの配置

このパッシブラジエーターを効率的に動作させるためにAPEXモジュールが使われています。(適切にベントを促しているようです)
tia ForteではAPEXはフェイスプレートに露出してなく、M20ユニット相当の機構が内蔵されています。これをinternal APEXと呼びます(上図参照)。これはパッシブラジエーターを機能させるためにフェイスプレートに突出物が設けられないからだそうです。これはTia Forteの底面にあるベント穴に通じているようです。
ちなみにTia技術は正圧(Front Pressure)に関係しています。ですのでこのベント穴は通常の背圧を逃がすものとは異なるかもしれません。その辺はよくわかりませんが、オープンBAということも絡んでの関係があるのかもしれません。

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tia Fourteのベント穴

筐体はアルミニウムの無垢材を機械加工し造り上げ、 フェイスプレートには耐久性が高いパティナ仕上げ(緑青仕上げ)の銅を採用しています。

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このようにTia Forteではとても複雑でかつてないような入念で精密なエアフロー設計がなされているのが分かると思います。これらのことからtia Fourteが高価な理由、そしてtia Fourteではカスタムは作れないという理由もわかってもらえるのではないかと思います。

音質

音の全体に感じられるのは豊かさと倍音のような高級感のある厚みのある豊かな音です。痩せて薄い音の対極にあるような上質な音です。
またこれも独特の空間表現があって、ちょっとUMのMAVISIIに似た感じがあるように思いました。オープン型BAドライバーというのも関係しているかもしれません。音の広がるホールのように聴こえます。
中域から高域は透明感の高い気持ちの良い音ですが、低価格機のような薄手のものではなく豊かな倍音のような厚みが聴こえます。低域もバランスよく、ダイナミックらしい重みのある音を生かしています。

十分な高域と低域がありますが、18ドライバー機のようにワイドレンジ方向には欲張らずに中域を中心に、音の質感に焦点を当ててうまくまとめた設計が感じられます。

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tia FourteはAK380よりもSP1000のように音の質感が高いとそれをストレートに再現してくれます。SP1000はAk380よりもさらに一段以上音質が高くなっています。そこはいままでのスピーカーのハイエンドオーディオのような細かな音再現の品質でもあるわけですが、tia Fourteはそうした領域にも踏み込んで品質の向上を味わわせてくれます。むしろtia FourteはAK380よりもSP1000で能力を発揮するようにも思えます。

まとめと考察

U18は少し前に雑誌でレビューを書いた時に試聴したのですが、ワイドレンジで余裕のある音でいかにもドライバー数が多いという感触でしたが、tia Fourteでは一つの音が余裕があり豊かという感じです。
U18とtia Fourteのどちらが好きかと聞かれたら、個人的にはtia Fourteと答えます。どちらが高性能か、と聞かれると答えに窮しますが。
端的にいうと、U18は音の領域全体が進化し、Fourteでは音それ自体が進化したという感じでしょうか。

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つまりA18/U18のような従来の多ドライバー化とは別のベクトルをもって、少ないドライバーのそれぞれの音の効率を最大に引きだしたものがこのtia Fourteということができます。

64 Audioは冒頭にあげたような高級ブランドへの転換にあたって、二つの戦略というか方向性を考えたと思います。ひとつは従来のトレンドのさらなる追求(さらなる多ドライバー化)、そしてもうひとつは従来にない方向性の模索です。前者がA18/U18 Tzarであり、後者がこのtia Fourteに行きついたのでしょう。
64 Audioは地味に良い仕事をしながらも、この業界ではどちらかというと手堅い裏方にいた感じはあります。このtia Fourteで今後ちょっと楽しみなメーカーになりそうだと、ふと思いました。
posted by ささき at 07:36| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする