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2017年03月22日

VSTハイブリッドイヤフォン、n+um(エニューム) NUM-E1000レビュー

先日のポタ研で注目製品の一つはハイブリッドイヤフォンのn+um(エニューム)でした。特徴は独自技術であるVST(Vertical Support Tweeter)を高域ドライバーに採用している点で、n+um NUM-E1000はVSTとダイナミックドライバーの2ドライバーのハイブリッドイヤフォンです。

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n+umはイヤフォンのブランド名で、イヤフォンの製品名はNUM-E1000といいます。販売はネディアという会社が担当して、フジヤエービックの限定販売です。
販売リンクは下記の通りです。
http://www.fujiya-avic.jp/products/detail128891.html

* エニュームブランドについて

エニュームというのはネディアのブランドで、ネディア・ウルトラ・ミュージックの頭文字をとってn u mとしたということです。またナチュラル(natural)な音、新しい(new)技術、素晴らしい(neat)などnに複数の意味を持たせているので+がついて、n+umとしたということもあるということです。
開発はO2ad(オーツェイド)という会社が担当しています。もしかすとるこの社名はすでに聞いたことがある人もいるでしょう。今回オーツェイドの渡部社長に製品についての話を聞く機会を得ました。

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オーツェイドの渡部社長

もともと渡部社長は以前大手電子部品メーカでセラミックを使用した積層型スピーカーの技術開発のプロマネをしており、その高域に強いという特徴を如何にオーディオに活かすかを模索していたそうです。2014年に同社を退職し、独自にセラミック音響の開拓を進めさまざまなOEM先や提携先と仕事をしていましたが、2015年にセラミックドライバーの共振周波数の問題を解決したVSTという特許技術を開発します。
それを応用したイヤフォンの第一弾がアンティームのSORA(ソラ)です。これはVSTを低価格でも作れる可能性を示したコスパが高いと評判のイヤフォンですが、VSTにまつわる特性をさらに改良し、音質的にも上を目指したいと考えた渡部社長は、販売会社に弟のやっているネディアを選びました。つまりOEMやODMではなく、自分の好きなことをしたかったので、兄弟がやっているという強みを生かしたかったようです。ネディアの渡部(弟)社長も兄の技術を世に出したいと考え、このコラボがはじまったというわけです。ここで渡部社長はSORAよりもより高度なVSTの開発を進めることができました。

コンセプトは「聞く喜び」と「持つ喜び」と言うことで、音もさることながら、筺体部分は制振のために日本の加工会社に頼んだステンレスのローレットで、職人技で製作し一日に30個しか作れないということです。
筺体にはコストをかけて職人の手作りがかかっているので追加生産ができず1000個限定となると言います。

* VST技術のポイント

NUM-E1000のポイントはVSTで20kHzを超えて50kHzに及ばんとする超高音域の再生に挑んだことで、それをスピーカーで言うところの「フルレンジユニット + スーパーツィーター」という構成にまとめたという点です。NUM-E1000ではツィーターであるVSTとダイナミックドライバーの2ドライバー構成ですが、従来的な高域と低域の2Wayというよりも、可聴帯域の16kHzまての音はほぼすべてダイナミックドライバーで担当しています。そのためダイナミックドライバーはウーファーというよりもフルレンジとして捉えた方がよいでしょう。VSTはそれを超えるような超高域の再生を担当しているわけです。
ふたつのドライバー間では電気的なクロスオーバーはありません(VSTの中心部の孔が音響的なハイパスフィルターとして働くそうです)。

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この「フルレンジユニット + スーパーツィーター」という形式で何が良いかというと、可聴帯域の音はフルレンジなのでつながりがよく位相的な問題はありません。そして20kHz以上の音はスーパーツィーターで倍音再生することで高域だけではなく、すべての帯域で音質向上ができるというわけです。
ハイレゾ対応に有利と思いがちですが、実のところ普通にCDで聴いていても音質はよくなります。ハイレゾ対応というよりも、むしろ可聴帯域の音を向上させるのがポイントです。

この方式は私はけっこう好きで、以前Bat PureとJohn Blueのスピーカーを組み合わせたり、村田製作所のスーパーツィーターをディナウディオに組み合わせたりしていました。イヤフォンでもそうしたものができるというわけです。下に記事があります。
http://vaiopocket.seesaa.net/category/6244798-1.html
http://vaiopocket.seesaa.net/article/16778366.html
セラミック発音体は魚群探知機に使われているように超高域の再生に適しているということで、村田製作所の作ったスーパーツィーターもセラミックのドライバーを採用しています。経験的には2Wayスピーカーに組み合わせるよりも、フルレンジのほうがスーパーツィーターの効果はわかりやすいと思います。

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つまりNUM-E1000において、基本の音はダイナミックドライバーの音であり、スーパーツィーター(VST)はそれを高めると言う考え方です。そのため、単に高域だけではなく、低域も含めた全域で効果が出ていると思います。上のスピーカーの例だとスーパーツィーターのあるなしをするようなもので、スーパーツィーターがなくても高域を含めて普通に音は聞こえますが、スーパーツィーターを付けることで音質がかなり向上します。
つまり上の記事で書いたように、ありなしをしてみると、いつもの音となにかちがう、音像がよりくっきりと明瞭になるという感じ、という効果ですね。

VSTは振動版がニッケルで高剛性を確保し、ドライバーはセラミックを用いたピエゾ圧電素子(素子を電極ではさんだユニモルフ構造)となっています。ここに実は特許技術があり、VSTの振動は全面駆動ですかと聞いたところ、点支持と全面振動の複合となっているということ。
ダイナミックドライバーの振動版の材質はPEEK(ボリエーテルエーテルケトン)というもので、これは一般的なマイラーとは異なり新素材で、ShureのSRH1540にも使われていましたね。
剛性に優れリニアな特性をもっているということですが、高域が伸びる特性が特に役にたっているということです。また筐体のローレット加工についても、ローレットのあるなしで試してみて制振効果(低域のたるみの防止)があったということです。
今回のNUM-E1000はSORAとは異なりオーディオファイル向けの音つくりをしますが、同時になるべく広いジャンルで楽しめるようにしているとのことでチューニングもそうした点で苦労したということです。
製品のターゲットは音にこだわりがあり、他とは違うものを持ちたい人ということです。

* 実機のインプレッション

箱はシンプルなもので、中にはラバーイヤチップが3種類ついています。本体はステンレス金属で高級感があり適度にずっしりとした重みがあります。ボディがインシュレーターのようでがっしりして制振性がありそうなところも目で見てわかる感じですね。

IMG_4969[1].jpg  IMG_4970[1].jpg  IMG_4974[1].jpg

コンパクトでシンプルなデザインでステムの太さも適度なので装着感は良く、耳では重くも感じるわけではありません。遮音性も悪くありません。

エージングなしでも音は極めて良い印象です。
中高域の解像度の高さと低音のインパクトがすごいという感じで、独特の空気感があるのが特徴的です。独特の質感表現といいましょうか、ダイナミックならではの厚みのある音ですが、きっちりとした芯があります。

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一晩エージングするとクラス上の音になる感じで、ケーブルもドライバーもこなれるのか、低域が深みが増して、高音域がより鋭くなります。ちょっと能率は低めではあります。中高域だけでなく低音域も独特の立体感と言うか空気感があります。
音場の広がりは標準的だけれども、独特の立体感がありますね。

基本的にシングルダイナミックなので、高低のつながりはスムーズで一体感が高く、ヴォーカルがキリッとセンターに像を結んで口元も小さく引き締って歌詞もよく聞こえます。特に女性ヴォーカルが逸品ですね。
低域がたっぷりあるけど、ヴォーカルが引っ込まずに出て来るようです。

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一般の高性能マルチドライバーBAイヤフォンと比べると、音はややコンパクトだけど、ダイナミックらしい躍動感があって、引き締って強靭な音です。きれいに伸びるけれど、BAみたいに細く薄くない感じです。ドライでもないですね。独特の中高域で、BAにない不思議な空気感があります。オーディオファイル向けと言ってもいわゆるモニター的な味気のない音ではなく楽しめるのはダイナミックならではの良いところです。

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普通のダイナミックだと音の芯の鋭さが足りないのでアタックが鈍くなりがちですけど、NUM-E1000は芯が強くその点で不満がありません。緩くなく小口径ドライバーのような音の切れ味があり、制振設計が効いているのかもしれません。たぶんマルチBAよりこっちが好きと言う人も多いと思います。

おそらくスーパーツイーターがなくても、ダイナミックだけでかなり高いレベルだと思いますね。PEEKの採用もよいのでしょう。ダイナミックにしては一つの音の鮮明さ、明瞭さが高いのはスーパーツイーターとしてのVSTの効果のように思えます。高域から低域まで一様な良さがあります。
最近よくあるハイレゾ対応イヤフォンのように不自然に高域を高めた感も少ないです。いわゆるハイレゾ対応イヤフォンも倍音をうたってはいますが、こうした感覚は薄いのでVSTほどにはあまり効いてないようにも思います。

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なかなか隙がなくよくチューニングされていると思いますが、リケーブルできないのが残念ですね。これだけ音が良いと良いケーブル使いたくなります。
ただあまり荒れたザラザラした音ではないので、このケーブルも悪くないとは思います。また今の音に文句もないのでこの音で聴いてほしいという作り手の気持ちもあるのかもしれません。ただ音の好みもあるので調整できる方が良いとは言えますね。あとはバランスにしたいとか、このくらいの音レベルだと上級機と比べて見たくなります。

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主にAK380を使って聞きましたが、iPhoneでもけっこう良いです。ただし一個注意点はiPhone7の3.5mmアダプタで謎のノイズが出てきます(注意書きが同梱されています)。iPadでは問題ありません。iPhoneでも5とか6のように3.5mmがついているものでは問題ありません。なにかセラミックのドライバーと相性が良くないようです。

ちょっと新感覚の鋭く空気感のある中高域が楽しめて、たっぷりした低音のインパクトも良いです。今までのハイブリッドにないような個性もあります。個性的なダイナミックドライバー機としてお勧めです。
これからもVSTでいろいろなアプローチをしていきたいということですので楽しみにしたいものです。
posted by ささき at 22:02 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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