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2016年09月13日

トレンドリーダーとしてのアップルと二つの技術トレンド

AppleのiPhone7発表の次の日(9/8)にLightというスタートアップのFacebookに次のようなコメントが載りました。

"Welcome to the multi-aperture future, Apple!"
(マルチレンズの未来へようこそ、アップル)

やっと君もここに来たのかい、というような多少皮肉のこもったコメントは、かつてIBMがパソコン業界にIBM PCで参入したときにアップルが掲げた次の言葉を思い出します。

"Welcome, IBM. seriously"
(ようこそIBM、いやほんとうに)

Appleは業界のトレンドリーダーでもあります。これはAppleが初めて作ったものではなくても、Appleが採用することでマイナーだった技術が一気にメインストリームに浮き上がってくるということを意味しています。昔であればGUIやマウスがそうですし、最近であればWiFi規格の802.11もそうといえるでしょう。
この前のiPhone 7の発表会においてもそうなる可能性のある技術トレンドが二つありました。完全ワイヤレスイヤフォンとマルチレンズカメラです。

* 完全ワイヤレス・イヤフォン

iPhone 7ではイヤフォン端子が廃止されたこともあり、Appleは左右分離型の完全ワイヤレスイヤフォンであるAirPodsも発表しました。
完全ワイヤレスイヤフォン(英語だとtruly wireless)は、左右ユニットが分離したワイヤレスイヤフォンのことです。左右のユニット分離にはいままではKleerなどの技術が必要でしたが、Earinなどをはじめとし、Bluetoothで完全ワイヤレスが採用されることで増えてきました。
BTの場合には1:1通信が基本なので本来は1:2となる左右分離ユニットに送れませんが、それを左か右にまず送ってそこから反対側に送り直すことで解決したイヤフォンです。BTスピーカーでもそういうものがありますが、スピーカーと違ってイヤフォンの場合はコンパクトさが必要であり、さらに電波を妨害する人の頭が近接しているのでより難易度は高いと言えます。

IMG_8624_filtered[1].jpg
Earin

AppleがiPhone 7のイヤフォン端子を廃止し、AirPodsで完全ワイヤレス採用したことで、一部のITガジェット好きのものだったのが、一般にも周知されて「AirPodsは左右どちらかがなくなるだろう」論争なんて言われだしたのも面白いところで、いかにも黎明期を感じさせます。
また完全ワイヤレスはいままでは$300前後でしたが、AirPodsをはじめ、Erato Muse 5やBragi "The Headphone"など$150前後に価格が低下してきました。Bragi DashがIBMワトソンの端末として同時翻訳などの可能性が出てきたのも見逃せない話題でしょう。まだまだ可能性が高い分野です。

完全ワイヤレスについてはうちのブログでいろいろ書いてきたのでこちらのリンクをご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/category/25978943-1.html

* マルチレンズ・カメラ

もうひとつの技術トレンドは冒頭にあげたmulti-aperture cameraです。ただしマルチ・アパチャーというと一般性が低く日本語の座りが良くないのでここではマルチレンズカメラと書きました。アパチャー(aperture)は通常は絞りと訳されますが、ここでは単に開口部のことでマルチアパチャーは複数の開口部、つまりマルチレンズと言い換えることができます。または複眼カメラともいえるでしょう。別の言い方をすれば、ひとつの大口径センサーの代わりにいくつもの小口径センサーを合算して同様な効果を狙うカメラともいえます。この方がスマートフォンやコンパクトカメラには向いているわけです。
つまりマルチレンズ・カメラは初代ライカより続く従来のカメラが一つのレンズ(光学系)だけだったのに対して、複数のカメラユニットの結果を合成して使うカメラのことです。計算して一枚の絵を作るのでComputional Photografyとも言われます。またいくつものカメラを並列で使うのでアレイ・カメラとも呼ばれます。

代表的なものはLight L16ですが、他にもAndroidスマートフォンではすでにいくつか採用されています(LGやファーウエイとか)。冒頭の言葉はLight社がこのiPhone7plusのデュアルカメラを「仲間」とみなしたのでしょう。
すでにAndroidではデュアルレンズは出てはいるのですが、iPhoneはFlicker調べで(キヤノンやニコンも含めても)世界で一番よく使われている「カメラ」です。これにマルチレンズカメラが採用されたことは大きなインパクトとなるでしょう。

iPhone 7 plusではデュアルカメラとして採用されています。この機能仕様については明確でないところもありますが、iOSの開発者ガイドを見ると、単独ではなくデュアルカメラモードで使用すると両方のカメラの情報を合算(combine)して画質を高めると書いてありますので、やはり事前予想のようにアップルが買収したLinx社の技術を使用していると思われます。
Linxの技術でも前の記事で書いたようなクリアチャンネル(ベイヤーフィルタレス)は使用しているかはわかりませんが、二つの視差の違いから深度(距離)情報を得ていることは確実だと思います。この効果は一眼レフのようなボケ味を作るポートレートモードに使用されるとみられています。

pointmap.jpg
深度マッピングの例(Linxページから)

iPhone 7 plusでは今回は56mm相当の望遠カメラが装備されています(もっとも56mmはカメラ界では望遠ではなく標準の範ちゅうですが)。しかし、35mmカメラの換算焦点距離が56mmと言っても実焦点距離は8mm前後だし、8mm/F2.8のレンズは光学的にさほどボケません。そこでデジタルで画像エンジン(ISP)を使用してぼかしますが、このときに自然に効果を生むために距離情報が効果的だと考えられます。

Lytroもこうしたカメラではあり、以前ジョブズが接近したとも伝えられていますが、Lytroの技術は有効画素数が低くて画質という点で使いにくいのも確かで消えていきました。マルチレンズカメラは画質という点でこれからが期待できます。さきのL16はコンパクトカメラなのに5200万画素の画像を作ることができます。詳細は省きますがこれは補完による水増しではなく、複数画像の合成によるものなので真の解像力です。それでいて深度マップでデジタル処理することで一眼のようなボケも使えるというわけです。
たとえば後からピントを変えられると言っても、Lytroのように人物と背景で変えられますでは何回か試して飽きてしまいます。カメラマンが本当に欲しいのは、まつ毛に合わせたはずのピントがよく見るとまぶたにあっていたというような場合でしょう。
一方でこれらは一枚撮るのに時間がかかるという問題もあります。L16だと一枚の5200万画素の画像を得るために1300万画素x10枚の合成をするので、一枚一分弱かかるのではと言われています。この辺もデュアルだとさほどではないと思いますが、これからの課題でしょう。

先日Google(GV)もLightに投資したことでマルチレンズ技術はAndroidスマートフォンにさらに活かされていくのではないかともいわれています。かたやアップルはLinxの技術でデュアルカメラを作ったというわけです。この分野にも注目していきたいものです。
posted by ささき at 21:37 | TrackBack(0) | __→ 完全ワイヤレスイヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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