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2016年09月11日

Noble Audioの新フラッグシップ、Katanaレビュー

Noble AudioのKatana(カタナ)はNoble Audioの最新のフラッグシップIEMです。
Katanaはカスタムモデルとユニバーサルモデルがあり、カスタムはWagnus経由、ユニバーサルは宮地商会(M.I.D)経由で各販売店で購入することができます。本稿はユニバーサルモデルのレビューです。
下記は宮地商会のNoble AudioユニバーサルIEM取り扱いページです。
http://www.miyaji.co.jp/MID/brand.php?maker=Noble%20Audio
下記はWagnusのNoble AudioカスタムIEM取り扱いページです。
http://wagnus.exblog.jp/22822571/

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* "Wizard" ジョン・モールトン

JH Audioが"IEMの神様"ことジェリーハービーで語られるように、またNoble Audioは"Wizard"ことジョン・モールトンで語られます。モールトンが日本でも知られるようになったのはHeir Audioのころだと思います。もともと彼はオーディオロジスト(聴力の専門家)で、名前にドクターが付きます。そういう意味ではキャリアのスタートはジェリー・ハービーよりもセンサフォニクスのマイケル・サントゥッチに似ているかもしれません。
Heir時代から続くWizard(魔法使い)というあだ名はウッドフェイスプレート(おそらく彼が初)や金銀など様々な素材を使った類まれな製作技術から来ているようです。私はHeir時代のモールトンのIEMはTzar350とTzar90を持っています。これらについては下記リンクをご覧ください。
2012年:Heir Audio Tzar 350と90 - ハイインピーダンスの高性能イヤフォン

そして2013年にHeirを出て、Noble Audioという新しい会社を立ち上げました。モールトンはIEMを芸術的に作りたいという志向が強く、Heirではやりたいことができないのでやりたいことのできる会社を立ち上げたということです。JH AudioもジェリーがUEをやめてやりたいことをやるために作った会社であるように、Noble Audioもジョン・モールトンが作りたいものを作る会社というわけです。それを補佐してきたのがNobleの若いCEOであるブラナン・メイソンです。Nobleでは他のIEMメーカーがミュージシャンをメインターゲットにしているのに対して、オーディオマニアを大きなターゲットにしている点も特徴です。

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右:ジョン・モールトン 中:ブラナン・メイソン 左:Wagnus久米さん

モールトンはそれからNobleで水を得た魚のようにだれもが驚くようなアートワークをほどこしたり、Wizardモデルというワンオフ(一点もの)モデルを作ったりとオリジナリティあふれる活動をしてきました。そして傑作と言われるK10(Kaiser 10)を発表します。
Noble Audioというと長い間10ドライバーのK10がフラッグシップというかアイコンのように語られ、K10はJH AudioのロクサーヌのライバルとしてもHeadFiあたりではよく語られてきました。
ジェリーとモールトンの間で好敵手と思ってるかはわかりませんが(今度聞いてみたいところですが)、周りがそういう盛り上げ方をしてきたのはやはりTripleFiからHeadFiにながく関わり、主流派としてのジェリー・JH Audioに、新興勢力としてのWizard・Nobleに期待をしている証拠だと思います。

そして今年発表された最新のフラッグシップがKatanaです。

* Noble Katana

Katanaの名の由来はモールトンがポタフェスの発表会でも語っていましたが、ひとつにはNoble Audioが日本でとても人気があるということ、日本刀(Katana)の正確さ・しなやかさ(flexibility)がオーディオ的見地にも似ていること、そして製作が芸術性も含んでいることなどです。

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K10からドライバーをひとつ減らしたことについての大きな理由はサイズをコンパクトにするためのようです。実際にK10よりも2.5mmサイズが小さくなって、耳に収まりやすくなっています。またKatanaからはKnowlesとの協力でNoble Driverという独自仕様のBAドライバーを積んでいます(詳細は不明)。何ウエイかというクロスオーバーについても非公開とのことです。

音についてはK10とは違う音で、もっとHiFi系にしたいという意図があったようです。これはユーザー要望からということですが、モールトン自身もHeadFiの書き込みの中で「私にとってK10は適温のジャグジーのようなもので、入ったら出たくない感じのもの」と語っていますのでもう少し辛口のきりっとした(熱めの風呂のような?)音にしたいという点もあったのではないでしょうか。

モールトンはK10に関してはHeirを始める前から構想を温めていたと言いますから、Nobleになってからのフラッグシップ設計は実質的にKatanaが最初と言えるのかもしれません。Nobleはユーザーに支えられてきた会社という意識があるからこそ、こうしてユーザーの声を生かした成果がKatanaと言えるのかもしれません。

* Katanaのパッケージ

パッケージはシンプルに感じますが、必要性は満たされています。中にはペリカンケースが入っていてその中にイヤチップ、アンプ結束バンド、カラビナ、イヤフォン本体、ステッカーなどが入っています。イヤチップはプレートにはまっている点がユニークで取り出しやすく思えます。以下の試聴では主に赤ラバーチップを使いました。

IMG_0032_filtered[1].jpg  IMG_0033_filtered[1].jpg  IMG_0044_filtered[1].jpg

イヤチップは4種類ついていて、赤シリコンラバー、青ラバー、二段フランジラバー、黒フォームです。これはHeir時代から同じのように思いますが、チップはきれいに格納できる金属プレートについているのが面白い点です。ユニバーサルだとチップが重要だし、音を変えられるという点でカスタムに対するプラスでもありますので種類が多いのはよいことです。

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Katanaはステムが太いのでややはめづらいのですが、チップのはめ込み位置を上下に加減することで耳にはまりやすくなります。

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これは個人的な耳の相性と音の好みになるのですが基本的には赤シリコンラバーが一番よく、中高域の透明感を出すように思います。また黒フォームもなかなか良く思います。フォームだとフィットはいいけど音を濁らせることがままありますが、これはそうしたことなくバランスよい音です。
社外品だとJVCのスパイラル・ドットがうまく合います。フィットも良いし、音も少し変えられます。

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イヤフォン本体はコンパクトで、質感が高く感じられます。たしかに和風の文様のようにも思えますね。カラーリングはユーザー要望もあり中性的な配色を目指したということですが、電車の中で使っていても目立ちにくい控えめな感覚も和風かなと思えます。

装着感もとても軽く感じられます。ステムは太めで大小大きさ違いの音導孔がうがたれています。
標準ケーブルは軽くしなやかでストレートタイプのプラグがついています。イヤフォンのプラグは2ピンなので多様なリケーブルが楽しめるでしょう。今回の記事ではすべて標準ケーブルで行いましたが、この標準ケーブルもなかなか良いと思います。

* Katanaの音質

Katanaの音質の高さにははじめからちょっと驚かされました。
まず箱を開けていつものように撮影して、さてちょっとエージング前に聴こうと思い、手近にあったAK70+ADL USB OTG+iQube V5で聴いてそのまま凍りついてしまいました(英語で言うとJaw dropってやつ)。ゼロエージングなのに透明感がすごいんです。並みはずれた透明感というべきでしょうか、LyraとかAndromedaもすごかったけれども、これはまた一線越えてる感じです。ちょっと聞いたシガーロスの歌がきれいに伸びたのは驚くほどです。透き通るように美しく、中高域はとてもきれいで整っている歌声がきれいに伸びていくのは感動的なレベルです。

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エージングを進めると次に感銘するのは解像力の高さです。とにかくソースがよくなるほど直線的に音の細かさが向上して、細かい音がよく聴こえます。
さきのAK70+ADL USB OTG+iQube V5のような優れた機材だと、とても細かい音が聞こえます。一つ一つの音があいまいにならずに鮮明に切り立って聞こえるのも特徴で、標準ケーブルでの解像力は現行IEM/イヤフォンでトップクラスだと思います。特にヴォーカルがかすかにため息をつくように消え行くところ、息使いで表現する質感がリアルで、まるでSTAXで聴いてるようです。

ひとつの音のひずみ感のないピュアな美しさも特筆ものです。音のトランジェントも高く、ベースもドラムスもヴァイオリンも楽器の音は贅肉が取れて引き締まったタイトさがあります。リズム感のよさ、畳みかけるインパクトの気持ちよさもトップクラスですね。
音の立体感も高く3次元的な感覚も覚えますが、イヤチップの装着がよくないとこれは喪失してしまいますので注意が必要です。透明感の高さと合わせて、曲によってはヴォーカルが空中に浮いてるように聴こえますね。

色つけはほぼないんですが、ドライでも無機的でもなく、純粋な音というべきでしょうね。ピュアでニュートラルと感じます。重いとか濃いというのではなく、すっきりと軽快で純度が高い感覚です。
帯域特性はほぼフラットでバランスがとてもよく、固有の味付けがないのでほとんどソースの特性をきれいにトレースしてくれます。プレーヤーやアンプの音を忠実に浮き彫りにする。そのためDAPやポータブルアンプの差が大きいといえます。
いろいろ聴いてアンプを変えてみて分かるのはKatanaはとてもソース忠実性が高いというか、アンプの特性をあばきだすという感じです。iQubeV5の時はDAC特性のままベース抑え目だったけど、Mojoだと気持ち良いくらいパンチのあるベースが楽しめます。解像力があってタイトなベースはちょっと快感ですね。

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AK70(USB out), iQube V5, Noble Katana

Noble KatanaをiQubeV5で聴くと高精細な室内楽向けと言う風にも思えたけれども、Mojoで聴くとオールドロック復古バンドのProducersなんかスピード感とかっこよさにあふれまくって楽しめます。隠しトラックのFGTHのTwo Tribesのベースなどは最高ですね。
AK380+AMPだとAK4490とフェムトクロックの高精細感を活かして、声の消え入り具合が見事です。Ryu Mihoの1曲1GBの11.2MHz DSD「ニアネスオブユー」は手島葵をジャズヴォーカルにしたようなRyu Mihoの声のかすれ具合と表現がよくわかります。
Katanaは音色の微妙な色彩感のようなものまで再現できるので、たとえばRWAK120をソースに使うと、解像感やワイドレンジ感というだけではなく、その音色のリアルさがはっきりとわかるようになります。Vinnieさんが工夫したマルチビットDACのようなMPフィルタや回路改造による音色の良さを堪能できます。

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AK380+AMP, Noble KAtana 11.2MHz DSDネイティブ再生

とにかくKatanaには最高のDAPとアンプを使ってください、と言いたいところですが実はiPhoneでもかなり良いのです。というか、iPhoneってこんなに音良かったったけ?と思うほどです。
最近Apple Musicで聴いていたLorenzo Naccarato Trioの最新作にしてメジャー移籍アルバム(?)のKometで白熱するユーロジャズの演奏のかっこよさには感激します。iPhoneで聴いて鳥肌立つとは思いませんでした。
https://itunes.apple.com/us/album/lorenzo-naccarato-trio/id1085504313
コンパクトさも含めてiPhoneにも合わせられるというのはまさにflexibilityというものかもしれません。

この音を聴いて思いだしたのは前述したHeir TZar 350です。TZar350は350オームという技を使って音の純度の高さ、究極のシャープさと切れ味を狙ったのですが、そうした純粋な音への追求というところが共通しているように思えます(ある意味ER4Sの進化系とも思える)。しかしもっと使いやすく、音はずっと深く突き詰めて、完成度をとても高くしたのがKatanaです。
モールトンは音の傾向を低音強く楽しみ系のチューニングをしたFunタイプと、音のバランスよく正確なReferenceタイプに分けて設計する傾向があり、Heir時代は3.Ai/Tzar90がFun系、4.Ai/Tzar350がreference系だったんですが、Nobleでもやはりそれを引き継く3系統がFunで低音重視、4系統がリファレンス・バランス系統です。そういう意味でもNobleではKatanaがReference系の頂点と言えるかもしれません。
またモールトンは3.Aiや4.Aiと比べてもTzar350ではあえて位相問題のためにドライバーを減らしているんですが、Katanaもドライバーを減らしたのは主にはコンパクトさだとは思いますが、もしかするとシャープさと究極のイメージングのためのこうした位相配慮もあるのかもしれません。

音レベル的にはLaylaと比肩できるほどだけれども音の濃さなど個性が異なっていて、同じケーブルが使えないのでどちらがどっちとは言えませんが、K10がロクサーヌのライバルとして語られたようにもしかすると、リファレンスタイプのIEMというフィールドでKatanaはレイラのライバルとされるのかもしれません。

* まとめ

音質の項が長くなりましたが、音のキーワードをまとめると、高い透明感、小気味良いタイトさやスピード感、切れの鋭さ、ワイドレンジ感、周波数帯域のバランス良さ、並はずれた解像力、ピュアですっきりした純度の高い音などがあげられます。音レベル的には現行IEMトップレベルで、高価だけれども価格以上のものがあるように思います。

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AK70(USB out), Chord Hugo, Noble Katana

あらためてレビューを振り返るとiPhoneと組み合わせても違和感ないコンパクトなイヤフォンが現行ユニバーサルの頂点レベルの性能ということに驚きを覚えます。これはWizradという名に恥じない魔法のような製作技術だと言えるでしょう。
また、Katanaの音には繊細なチューニングを感じます。たしかに「ジャグジーに浸るような」感じとは一味違う、身を正したくなる凄みのある音、鮮明でとても繊細な音です。シャープな音ですが、十分にエージングしておけば聴き疲れするということも少ないと思います。むしろ聴き疲れというよりも緊張感のある音ではありますね。
この緊張感は、カタナ・日本刀を目の前にしたときのものなのかもしれません。日本刀は武器という実用品であると同時に芸術品でもあります。
モールトンはモノづくりと芸術家の両立という点で日本の刀鍛冶に共感したのでしょう。そしてできたものが、このKatanaであり、日本のユーザーへのメッセージでもあると言えるでしょう。

次はリケーブルとかK10との比較編も書きたいと思います。
posted by ささき at 10:39 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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