* ROSIE登場
Sirenの新世代シリーズで唯一発売が延びていたROSIE(ロージー)の発売日が5月27日に決まりました。各ショップで予約を受け付けています。価格はオープンで参考の直販価格は税込みの139,980円です。
ROSIEはマルチドライバーのBA機でユニバーサルモデルです。ドライバー数は片側計6 (高音域に2基、中音域に2基、低音域に2基)個、クロスオーバーは3Wayです。
JH Audioの「THE SIRENシリーズ」では末妹となり、Angieの下に来るエントリー的な位置付けです。他のSiren姉妹同様にロックガールズから名を取っていて、名称由来はAC/DCの「ホール・ロッタ・ロージー」です。
ROISEは価格もSirenシリーズでは手ごろであることから、はじめてSirenシリーズに手を出したいと言う人も多いと思います。そこでまず「THE SIRENシリーズ」を簡単にまとめます。
端的に言うと「THE SIRENシリーズ」とはジェリーハービー率いるJerry Harvey Audioの新世代IEM(In Ear Monitor)シリーズのことです。特徴は以下の通り。
1. 新設計ドライバーとマルチBAドライバーの採用
Sirenシリーズでは高域・中域・低域の各帯域ごとに複数のBAドライバーが採用されています。これによりひとつのドライバーの負荷が減るので全体的な性能が改善されて、特に高域方向の周波数特性も伸ばすことができます。またドライバーも新設計されたものです。
2. 位相を正確に制御した「FreqPhase テクノロジー」を採用
JH Audioの製品ではFreqPhaseと呼ばれる位相特性を改善する技術を搭載していることが特徴です。これにより音場感、音のピントの良さを改善できます。
3. 低域調整機能を搭載したケーブルとロック式プラグを採用
ケーブルはユーザー自身で低域の調整ができる調整機構がついています。(試聴では標準状態にしています)
またアルミ加工によるロック機構を搭載した独自のコネクターにより、安全で強固な接続を実現しています。
またアユートから発売されている「THE SIRENシリーズ」のユニバーサルモデルはAstell&Kernとのパートナーシップ契約により、2.5o 4極のAstell&Kern用バランスケーブルを同梱しています。ROSIEにも含まれています。
「THE SIRENシリーズ」は最近第二世代となりました。ROSIEは第二世代で加わったモデルで、これまでのエントリー的な位置付けのAngieに代わってより手ごろな価格帯を担当します。といってもジェリーの設計したシリーズですからみな個勢揃いのモデルですので単純に松竹梅とはならないかもしれません。自分に好みが合うモデルを見つけるのもまたこのシリーズの魅力の一つです。(他のモデルに関してはこちらとこちらの記事を参照してください)
第二世代は「フルメタルジャケット」と言う愛称の通りにハウジングにそれまでのカーボンやケプラーではなく、チタンやアルミなどのメタル素材が使われています。
ROSIEでは黒色のアルミシェルとカーボンフェイスプレートを採用しています。ベゼル(縁)もアルミ製です。エントリーモデルであっても高級感が感じ取れるボディ造形だと思います。ボディは適度なサイズで装着しやすいのが特徴です。他のSiren姉妹に比べると軽く小さく感じられます。
わずかAngie IIより能率が低いようにおもいますが、ほとんど変わらないくらいだと思います。
箱は他のSirenシリーズ同様に豪華なもので、内箱の中に本体とアクセサリーが詰まっています。
金属製のケースの中に2.5mmバランスケーブルが入っています。これはAstell & Kernなどの2.5mmバランス端子に適合します。
* 音質
音質ですが、製品版をAk320やAK380+AMPで聴いてみました。主に3.5mmで聴いています。イヤピースは標準のラバータイプです(他のSirenシリーズでもそうです)。
時間の都合で一晩だけエージングして、ケーブルはすでにエージング済みのAngieIIのJH Audioの第二世代の標準ケーブルを付け変えて聴いたのですが、ぱっと聴いて音がとても良いので驚きました。あれ、覚えているより良い、と言う感じです。
実はROSIEについてはヘッドフォンブック2016に乗せるためにそのころ(今年の二月)の試聴機(初期版?)を使用してレビューを既に書いています。そのときには高音域と低音域がコンシューマー向けに味付けされて強調されている、つまりヴォーカルが引っ込むドンシャリ傾向があると言う旨で書きました。
そのときは実際にそう思ったんですが、それからROSIEの発売延期があり、満を持して出てきたこの日本での製品版を聴いてみると帯域的には初期版のようにヴォーカルが後退している印象はなく、ヴォーカルは明瞭で聴き取りやすく、引っ込んでいる印象もないですね。むしろ中域は厚く音に適度な厚みがあって、帯域バランスがとても良い感じです。
前に試聴機を聞いた時にはコンシューマーライクな味付けにすることで、プロユースも考えられている上のSiren3姉妹とは差をつけたのだろうと思ったけれども、製品版では十分にプロユースにも使えるのではないかという良い感じのバランスの良さを感じます。JH Audioというブランドから感じる堂々とした音の完成度の高さをROSIEでも感じます。Angieに近いという感じよりも、JH13に近いと言う方が正しいかもしれません。Angieは適度な低域の量感と中高域に強みがあるように思いますが、ROSIEは中高域はAngieほど強くなく、重心が中低域にあるような感じです。低域の量感はAngieよりも抑えてあるように思いますが、十分にあります。(ベース調整ノブの標準位置であっても
初期版の試聴機で雑誌記事を書いていた時は自分のブログで記事にするときは「JH Audioの作るコンシューマー機の音」というタイトルにしようと考えていたんですが、いま製品版を聴いてみると「JH Audioらしいプロ品質のエントリー機」という方が正しいように思えます。
この音のバランスの良さのほかに製品版のROSIEを聴いてみて、特に標準ケーブルのままで音のクリアさ・明瞭感がとても高い点に驚きました。リケーブルの必要性をあまり感じさせない点は特筆ものかと思います。そしてもう一つのROSIEの音の強みは立体感が際立って良いことだと思います。
帯域バランスの聴きやすい良さと共にこの標準ケーブルでもクリアなことでROSIEはとても広い音楽の守備範囲を持っていると感じます。それに加えてFreqPhaseらしい音の立体感が際立ち、音場感の良さで音質レベルを上質なものにしています。
たとえばAK320との相性が良いと感じます。AK320もDAPとイヤフォンだけのようなシンプルな組み合わせにおいて分かりやすい抑揚のある音の良さがありますが、シンプルに標準ケーブルで音が良いROSIEとも良い組み合わせです。
楽器やヴォーカルの音がクリアに明瞭感高く聴き取れます。シャープでソリッド、音が濃くて中低域に厚みがあり、重厚感を感じさせるほどよいロックンロールサウンドと言う点もJH Audioらしい音のエッセンスがよく伝わってきます。
音楽をランダムに聴いていても、ロックでのインパクトの強さ、クラシックでのオーケストラのスケール感、ポップでのヴォーカルの明瞭感、ジャズトリオの楽器の切れの良いシャープさなど、とてもオールラウンドに会う基本力の高さを感じさせる完成度の高さです。
* ROSIEとANGIE II
それでは上級のAngie IIと比べてどうかということで、Angie IIとAK380+AMPで標準ケーブルで比較してみます。聴いてみるとやはりAngieIIの方がスケール感があり、高域の伸びや力強さ、低域の量感は良いように思います。たとえばバロックバイオリンの中高域で比較すると、ROSIEはやや線がか細く、Angie IIの方がより豊かに倍音の情報量を持っているように思えます。
しかしROSIEは比べると小ぶりに感じますが、Angieのように強くなくても自然に伸びる中高域とともに中低域の厚みがまとまった音の良さを感じさせ、音の輪郭のピントはよりシャープで甘さが少なく、音の立体感がより際立っているように感じられます。この点で標準ケーブルではむしろROSIEの方が好印象と感じる人も多いでしょう。
もうひとつの差のポイントは帯域バランスの重心位置です。ROSIEはAngie IIよりも重心が低く感じられ、より好ましいバランスとなっているように思います。低域の量感はむしろAngieの方があるのですが、重心位置の問題と言いますか。。これによって聴く人の好みの問題が違ってくると思います。
性能的にどうというと、やはりAngie IIの方がよりワイドレンジであると答えますが、そうした重心位置のバランスの関係でROSIEの方がむしろ音としてまとまって聞こえることもあります。
Layla/Angie系のフラット・ワイドレンジ傾向のチューニングとはやや違うのかもしれません。
JH Audioらしい濃密感・濃ゆさはAngie IIの方がありますが、ROSIEも負けずに十分に感じられます。だいたいJH Audioのイヤフォンは濃厚感が特徴ですが、それが上級機に行くほど強くなる感じです。
たとえばBlackDragonやBeatなどでリケーブルする人はAngie IIの方がリケーブルすると伸びしろがあり、より高いところに行く感じです。最終的にはAk380+AMPの良さもより引き出せるようになります。ROSIEでBlackDragonリケーブルするとよりクリアにはなりますが、もともと持っていた良さがなにかなくなるようで、好ましいという言い方をすると、ROSIEは標準ケーブルで使用した方がむしろ好ましいように思えます。
Angie II,Roxanne II,Layla IIはかならずBlackDragonにリケーブルして音を楽しみたい感じですが、ROSIEではあえてリケーブルしない方が音が好ましいように感じられます。チューニングの関係かもしれませんが。。
* まとめ
ROSIEは濃密なジェリーハービーの音のエッセンスが詰まっているハイエンドイヤフォンであるSirenシリーズのエントリー機と言えます。
完成度が高い音で、標準ケーブルのままで音が良く、帯域バランスの良さでオールジャンルの音楽に合います。高い交換ケーブルに頼ることなく立体感が高く、鮮明な音が楽しめます。コンパクトで軽い点も魅力ですので、LaylaやRoxanneでフィットに苦労した人にも良いでしょう。
イヤフォンを標準ケーブルのままで使う人にはROSIEがお勧めです。ポータブルアンプを組み合わせたり、高価なリケーブルをして音を突き詰めたい人にはポテンシャルのより大きな上級機の方がよいかもしれませんが、それぞれ個性のある音なのでひとそれぞれの音の好みもまたあります。
前のレビューでSirenシリーズを擬人化したときにイメージにあったのは来生三姉妹だったんですが、4姉妹となると、ROSIEは三姉妹に末っ子が増えたという点では海街ダイアリーのすずですけど、感覚的には姉たちにも譲らない面もある若草物語のエイミーの方が近いかもしれません。
他のSirenシリーズの姉妹たちが個性あふれているように、ROSIEにも単なる上下のランクに収まらない独特の音の魅力があります。
ROSIEは全国各地のお店でも試聴機が用意されていますので、そのROSIEの魅力を是非確かめてください。
Music TO GO!
2016年05月26日
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