JupiterとOrionはALOのKenさん率いる新ブランドであるCampfire AudioのLyraに続く新製品です。Lyra(こと座)と同様に、それぞれJupietr(木星)、Orion(オリオン座)と、キャンプファイヤーを囲む夜空に見える星から名前を取っています。
Lyraはシングルのダイナミックドライバーでの性能をつきつめたイヤフォンでしたが、JupiterとOrionはバランスド・アーマチュアドライバーを採用しています。JupiterはBAを4ドライバー搭載で、OrionはBAのシングルです。
*2016/7/8
Orionについて改稿しました
Jupiter(左)とOrion
KenさんがはじめにLyraでシングルのダイナミックドライバーでの高性能をつきつめたのは、Kenさんがダイナミックドライバーの音が好みであるというほかに、複雑化するマルチBAイヤフォンへのアンチテーゼと言う点もありました。つまりオーディオはシンプル・イズ・ベスト(less is more)というわけで、それがKenさんの信条にもなっています。
右が設立者のKen Ball
今回JupiterとOrionでBAを採用したのは、バランスド・アーマチュアにはやはりダイナミックにない良さがあるので、それにless is moreの思想を盛り込みたいという思いがあったようです。そしてそのために新機軸を採用しています。それがJupiterに採用されたレゾネーター・チャンバーをもちいたチューブレス設計です。
* BAドライバーの本来の音を出すチューブレス設計とは
チューブレス設計というのは文字通りチューブがないということですが、ここでは音導管(サウンドガイド・チューブ)がないということです。
通常見るBAユニットには四角い箱に出っ張った突起がついています。これは音導管(チューブ)につないで音を外(耳内)に出します。
しかしJupiterに採用されているBAドライバーユニットにはこの出っ張りがなく、すっぱりと切られています。Jupiterにはいわゆる音導管がなく(チューブレス)、その通常の音導管の代わりに、BAユニットには「レゾネーターチャンバー(またはアコースティック・チャンバー)」という音響室(空間)がくっつけられています。レゾネーターチャンバーからイヤフォンの音の出る穴(ポートまたはボア)まではストレートです。ちなみにこのチャンバーは3Dプリンタで実現されています。この構造を「Resonator assembly( レゾネーター・アセンブリー)」と呼んでいるとのこと。
ヘッドフォン祭の時に書いてもらったレゾネーターアセンブリーの模式図の一部
真ん中の四角がレゾネーター・チャンバー、上の四角がBAドライバ、下側がポート(ボア)
このレゾネーターチャンバーの目的は音響空間を設けることで帯域特性の改善と拡張をすることです。これによってシンプルにワイドレンジ化が可能となります。
ポイントは従来のサウンドガイド・チューブを使用しないことで音響フィルターも省くことができ、高周波域のレスポンスを向上させる働きがあるということです。つまり従来のチューブによる周波数特性の変化をふせぎ、音響フィルターを使わないことによって高周波域の劣化を防ぐわけです。音響フィルターは帯域特性を改善しますが音を濁らせてしまいます。
チューブレス設計ではBAドライバーの音が直で出るのでバランスド・アーマチュアドライバーが本来持つ周波数特性をより正確に再現することができます。その成果として、高域に角が立たない(歪の少ない)明瞭感ある高域が得られるということ。高域の特性が改善されたことにより、中域(ヴォーカル領域)の表現がより開放的でリアルになり、より自然な階調再現性が得られています。特に中高域の伸びがスムーズで自然になり、能率も改善されると言うことです。
* Jupiter
Jupiterは4基のBAドライバーを採用しています。4基のBAドライバーは2Wayで、低音域に2基、高音域に2基のBAドライバーが配置され、クロスオーバーでつないでいます。低域用は中低域をカバーするもので、高音域用は新型だと言うことです。
国内ではミックスウェーブから発売され、メーカー希望小売価格は税別で114,500 円です。
筺体はニッケルメッキのアルミ製です。やや大柄ですが、見た目より軽くて耳への装着感も良好です。
チップはフォームとラバーがついていますが、Jupiterについてはフォームを主に使いました。
箱はLyraと共通の簡素なものですが、アウトドア志向のブランド名を考えると環境対応の一環と思えます。なかにはLyraのようなレザーケースと2.5mmバランスケーブルがはじめから付属しています(バランスケーブルはJupiterのみの付属品です)。またレザーケースの質感もLyraやJupiterに比べるとより年季の入ったような枯れたというかエージングされた感じの質感がある革を使っています。全体に高級モデルと言うことを意識させてくれます。
イヤホン側端子にはLyra同様にベリリウム銅で加工されたMMCX 端子を採用していてかなりがっちりとしています。
主にMojoと標準ケーブルで聴きましたが、Jupiterは正確で緻密な音再現のMojoが向いていると思います。わりと能率は高い方です。
Jupiterはまず透明感が際立ち、ベールをはぐって言う言葉がふさわしいような、ちょっと独特の鮮度感と言うか生々しさを感じます。ぱっと聴きにLyraでも独特の音の質感表現を感じましたが、やはりJupiterでも独特の音像の質感再現理があります。ナレーションなどの話し言葉がとてもリアルというか自然に聴こえます。本当に耳元でささやかれてる感じがしますね。特に中高音域が透明感があって、よく上に伸びていく感じです。それでいて子音のきつさなどはあまり感じられません。
解像力も高くよくMojoの情報量を引き出すようです。振動版が良く軽く動いているという感じです。
次に感じられるのはとても広い帯域再現力、ワイドレンジ感ですね。高い音は突き抜けるように伸びてシャープです。中高域にかけての鮮明さは印象的です。低い音は深く沈み、超低域の量感もたっぷりあります。このためスケール感があって音に余裕がある感じます。高域もきつさは抑えられていて、低域が張り出して膨らむような感じはなく、良好な周波数特性を感じます。
プレーヤーをAK380AMPに変えるとインパクト感もあり、ダイナミックさも伝わってきます。ぱっと聞くとLyraにも似た音調を感じます。
またiPhone直でApple Musicなんか聞いていてもシャープでのびやかな透明感あふれる音が楽しめます。
JupiterはユニバーサルながらトップグレードのカスタムIEMを超えるほどの音質があり、その音の新しさはベテランの6ドライバー機であるUltimate EarsのUE18と比べるとよくわかります。ここでまず両方とも標準ケーブルで聴き比べてみます。
UE18と比べると、UE18は帯域的に寸詰まりに感じられ、音濁りが感じられます。UE18ではギターのピッキングの切れは鈍く感じられます。Jupiterでは特にヴォーカルが耳の近くにいるように生々しく鮮烈に聞こえるのが特徴的です。Jupiterでは音空間もより広く感じます。UE18はいまでもハイレベルのIEMで、これだけ聴くと良い音です。しかしJupiterと比べるとやはり差は歴然としてあります。
標準ケーブル同士で比較すると、ややケーブルでUE18が不利かとも思ったので、今度はUE18をWhiplashの8芯ケーブルに付け替えてみました。国内価格だと10万円くらいするでしょう。対してJupiterは標準のままで聴き比べてみました。Jupiterで標準として採用されているALO Tinselは26000円くらいですから今度はだいぶ差が逆転してしまいますが、こうするとたしかにUE18の音場の広さやシャープさは向上して差は縮まったようにも聴こえます。しかしこれでもまだJupiterの音の持つ鮮明さ・生っぽさには及びません。Jupiterと比較すると一枚ベールをかんでいるように聞こえますね。ここはもう設計の違いというしかないと思います。
マルチドライバーにする理由の一つは高音域を伸ばすことです。3Wayの6ドライバーよりも2Wayの4ドライバーの方がそれに関しても上に感じられますから、このように高い音の伸びや鮮明さではこのチューブレス方式はかなり効いていると思います。
* Orion
Orionは1基のみのBAドライバーを採用している求めやすい価格のモデルです。シンプルイズベスト(less is more)の設計思想のもとに開発されたと言えるでしょう。
メーカー希望小売価格は税別で38,700 円です。
BA1基にしてはLyraより大きくやや大柄です。ただ装着感を阻害するほどではなく、装着感は良好です。
チップはフォームとラバーがついていますが、Orionについてもフォームを主に使いました。
箱はLyraやJupiterと同じものです。Orionには帆布製のケースが付属します。
たしかにJupiterと比べると音がコンパクトになり、高低の余裕がなくなるように思えますがシングルにしてはかなり優れているように思います。Jupiterで書いたような鮮烈さも持ち合わせています。
低域のアタック感や高域の伸びが両立してるのはシングルBAにしてはかなりワイドレンジだと思います。シングルダイナミックと違って、シングルBAは守備範囲が狭いのでたいてい高域よりか低域よりのどちらかになってしまいますが、Orionはよくバランスが取れていると思います。
様々な楽器のショーケースであり、ワイドレンジ性能が要求されるブリテンの青少年のための管弦楽入門なんか聞いても破綻なくまとまって聴こえます。
なおOrionにはチューブレス設計はなされてなく、音響フィルターや音導管の最適化設計でこの音質を達成しているということです。
Skyバージョン
またOrionにはSkyという日本のみのスカイブルーの限定カラーがあります。200個限定ですので販売店に確かめてくださしい。
* まとめ
Jupiterは上にすっきりときれいに伸びていく中高音域の美しさと、深みがあってソリッドな低音が魅力です。全体的な音質レベルはカスタムを入れてもかなり上位にあると言えるでしょう。BAドライバーの濁りのない純な魅力はこういうことかとも思います。
OrionはJupiterにも似た透明感と、シングルBAでこれだけ帯域が広い点がポイントでコストパフォーマンスは高いと思います。
3way以上が当たり前のようないまでも、2Wayやシングルでこれだけできるということが証明できたのはCampfire Audioの理念の正しさを感じます。
両モデルともワイドレンジであるとともに、独特の鮮度感の高い生々しい質感表現が特徴的です。ここでちょっと思い出したのはBursonのヘッドフォンアンプです。Bursonもシンプルイズベストをテーマにして最小の部品で構成して鮮度の高い生々しい音を可能にしています。Campfire Audioはイヤフォンのメーカーですが、どこか似たところがあるように感じられました。オーディオにおける洗練さ、シンプルさの価値を教えてくれます。
Lyraのときも思いましたが、Campfire Audioって新しい体験があると思います。
こと座(Lyra)は夏の夜空を代表する星座でしたが、オリオン座(Orion)と木星(Jupiter)は冬の夜空を飾る代表的な星ぼしです。これからひときわ明るく輝くことでしょう。
Music TO GO!
2015年11月25日
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