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2015年08月06日

Maverick(マーヴェリック)・カスタム レビュー

Maverick(マーヴェリック)はいまや人気のUM・ミックスウェーブのユニバーサルIEMですが、そのカスタム版であるマベリック・カスタムが発売されました。

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AK380+Maverick CIEM

本稿は開発者であるミックスウェーブ・宮永氏にインタビューした情報をもとにまとめたレビューです。
製品内容・販売についてはミックスウェーブさんのホームページをご覧ください
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=Unique+Melody&cell003=MAVERICK&id=94

*Maverickのおさらい

まず簡単にもともとのオリジナルのMaverickのまとめをしておこうと思います。
Maverick(マーヴェリック)はカスタムIEMで知られるユニークメロディ(UM)が開発したユニバーサルIEMとして登場してきました。
UMが考えるカスタムイヤフォンのゴールとは、文字通りの「フルカスタム」のようなもので、エンドユーザーが自分で音決めができ、ユーザーが自分でチューニングするということです。それをユニバーサルタイプで実現するためにUMの取ったアプローチは国ごとの代理店と共同開発でその国の事情に「カスタム化」した音決めや開発をするということです。日本からはミックスウェーブの宮永さんがUMに赴いて開発に参加しました。普通代理店はメーカーに意見を言うくらいの影響力のように思いますが、このUMのユニバーサルIEM開発においては代理店とメーカーの共同開発と言ってよいほどかなり深く関与しているのが特徴です。
たとえばまず音決めに関与して、周波数特性、位相について聴きながら各帯域のチューブの長さを決めていきました。UM側がドライバーの選択枝を用意してくれ、Maverickのドライバー構成についても宮永氏が決めたということです。このユニークなドライバー構成がMaverickの一大特徴です。
MaverickはダイナミックとBAのハイブリッドで5ドライバー。ネットワークは4Wayです。高域がBAx2、中音域がBAx1、そして特徴的なのは低音域にBAとダイナミックを両方配置しているということです。

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Maverick IEM

Maverickの特徴は低域をBAとダイナミックでともに担当しているということです。ハイブリッド構成では繊細なBAが中高域、迫力のダイナミックが低域という分担が一般的で、同じUMの既存CIEMであるMerlinはそうなっています。Maverickもはじめの予定ではMerlinのようにダイナミック一発で低域を担当する予定だったそうですが、開発していくうちに20〜40Hz辺りのバスドラムのアタック感が関係してくる箇所がダイナミック一発では再現出来ず、結果的にBAでその部分を補ったということです。
これが音質的に低音域の質を向上させる大きな特徴となり、「独自路線を歩む人」のような意味である"maverick"という名前の由来ともなっています。

*Maverick・カスタムへの進化

こうして登場したMaverickですが、ヘッドフォン祭で披露したときに、その音質の良さに驚いたお客さんから「ぜひこれのカスタム版がほしい」という要望をたくさんもらったということです。そこでユニバーサルIEMとして生まれたマーヴェリックをカスタム化する開発がはじまりました。
(以降もともとのユニバーサルIEM版マーヴェリックをマベユニさん、カスタムIEMマーヴェリックをマベカスさんと略称します)

ユニバーサルIEMであったマーヴェリックをカスタム化IEMするうえでは、まずマベユニさんをそのままカスタム化するという手法も試してみたということです。つまりはユニバーサルIEMをリシェルしたことになりますね。しかし、マべユニさんをただ単にリシェルしただけだと、シェルがカスタムシェルになることにより、マべユニさんよりも低域がかなり増し、それによって全体のバランスが大きく崩れてしまったということです。これは単に低域が膨らんでしまったというだけではなく、低域の増加で低域の倍音が中高域にも影響を与えていたということではないかということです。
また、カナルの長さがカスタムシェルのほうが長いために、イヤーチップが必要なマベユニさんとはボア(音導孔)から鼓膜までの距離が異なります。それで、音の位相やスピード感がバラバラになり、全くといっていいほど意図していない音になったということです。

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そこでMaverickをユニバーサルからカスタムに再設計するにおいては、ドライバーをそのままにしてチューニングを徹底して行うという方針を立てたということです。具体的にいうと、マベカスさんではカスタムシェルにした状態での位相調整、低域の量感調整、4ウェイのスピード調整等を行ったということです。これは主にフィルター、レジスタ(クロスオーバー)、チューブの長さの3点をマベカスさん向けに調整したということです。これに7か月の時間をかけて行ったということです。マベユニのドライバーユニットは変更していません。
チューニングの方向としては元々宮永氏がドラムなど楽器をやっていたこともあり、楽器の音(特にドラムなどリズム隊)を中心にチューニングしたということです。このことから是非ともインストの曲などを聴いて真価を図ってほしいということです。

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またチューニングの際にポイントになったのはカスタムとユニバーサルの根本的な違いであるダイナミックレンジだそうです。カスタムでは遮音性が高いために静音がより聞こえる、つまり大きな音と小さな音の差のダイナミックレンジが大きくなるわけです。
マべユニさんの時も楽器メインでチューニングを行っていますが、マべカスさんとでは使えるダイナミックレンジが異なるため、その点はマベカスさんがかなり有利になります。これがカスタム化の大きなメリットであり、それを生かしたということですね。
ただし、単純にカスタム化するとベースヘビーになってしまい、おまけに位相なんかも狂うので、カスタム化のメリットを享受するにはきちんと開発期間をかけてチューニングせねばならない、というわけです。

ちなみにドライバーを変えるという選択肢を最終的に取らなかった理由ですが、実のところ開発期間中に何度か違うダイナミックドライバーを使用した試作機は作成したそうです。さきに書いたようにリシェルすることで低域が過多になったため、口径が小さいダイナミックドライバー、アルミ製などもともとマベユニさんに使用しているダイナミックドライバーよりもタイトでレスポンスが良いダイナミックドライバーなどを採用して試作機を作ったそうです。
確かにダイナミックドライバーを上述した仕様のモノに替えた際、低域の量感は減らせたようですが、元々マベユニさんに採用していたBAドライバーとの相性が悪く、それはそれで全く意図しない音になり、結果的にドライバーは変えず調整だけすることにしたということです。

*マベカスさんの到着

今回も耳型は東京ヒアリングケアセンターの大井町店で取得しました。
耳型を送ったのが6月頭で、マベカスさんが届いたのが7月頭なのでだいたい一か月くらいの期間だったと思います。

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シェルはクリアでしたが、クリアシェルの真ん中に大きなダイナミックドライバーがハイブリッドを主張するかのように見えるのが面白いところです。フィットもよく、遮音性も良好です。シェルの透明度も高いと思います。

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Maverick CIEM

ボアはなんと4穴で、それぞれ高音域BA、中音域BA、低音域BA、ダイナミックドライバーに通じています。
透明シェルに透けて見える大きなダイナミックドライバーがハイブリッドの個性を示す特徴と言えますね。

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ハイブリッドなのでダイナミックドライバー用のベントがついています。透明なシェルごしに見ると単に穴が開いているだけではなく、なにかベント機構のようなものが入っていますね。この辺は詳細は分かりませんがなんらかの工夫がなされているのだと思います。実際に穴が開いていることによる遮音性の悪化ということはありません。静粛性は保たれています。


*マベカスさんの音質

まずはAstell & KernのAK240で聴いてみました。ノーマルケーブルでAK240の3.5mmプラグに直結です。
まず感じるのはベースの厚みを感じさせながら、とても情報量が高い、密度感がある濃い音です。全体的な音質の高さはマルチBAカスタムとしてもトップクラスにあると思います。全体の帯域バランスは良好で、低域の量はJH13的というか、多すぎない適度に量感あるベースのレスポンスがあると思います。

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Maverick CIEM + AK240

特徴的なのはやはり低音域の質の高さで、UE18など他のマルチBA機と聴き比べるとベースのインパクトはハイブリッドを思わせるもので、ダイナミック的な厚み・豊かさが感じられます。BAだとすっきりしすぎて物足らないという感じがする場合がありますが、ハイブリッドのマベカスさんでは豊かなベースを楽しめます。同時にドラムスやベースギターなどは分厚い量感がありながら、鋭くインパクト感のあるところはユニバーサル版のマーベリックを継ぐ音を感じさせてくれます。この辺がオリジナルの長所でもあったマーヴェリックの個性であり、それがマベカスさんにも引き継がれていると感じます。
低音域の魅力はダイナミックさだけではなく、畳み掛けるようなパーカッションのスピード感にも聞くことができます。

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Maverick CIEM + AK240

また低音域とともに特筆すべき点は高域の伸びの良さです。きれいに高く伸び切る感じとともに、音の芯が強くクリアで明確な高域は高音域を明瞭に聞かせてくれます。それでいてきつさを感じさせないのは上手にチューニングがなされているからだと思います。少なくとも自分が聴いた範囲のDAPや音楽の組み合わせではS音のきつさは感じられませんでした。
高音域の良さを示すベンチマーキングはベルの音ですが、マベカスでは情報量を豊かに伝えるためキーンという鳴りの鮮明さとともに余韻の微妙な消え入りも感じられます。これはつまりダイナミックレンジの高さによる微小音の再現力の高さでしょう。
楽器の再現はそれゆえひとつの音が鮮明でクリアな背景に浮かび上がり、細かなニュアンスをよく伝えます。これはヴォーカルのため息やハミングをもリアルに聴かせてくれます。

ギターにしろバイオリンにしろ、アコースティック楽器の微妙な余韻、胴鳴りのリアルさは一品です。
マベカスさんで聴いていると音楽が楽しいと感じられますが、その理由の一つは楽器の音がわりと耳に近く、客観的に遠く引いたわけではなく耳に近くなってるのも迫力とライブのリアル感を感じさせてくれるからだと思います。
音場の左右の広さは標準的ながら、前後奥行は立体的で音のシャープさと相まって楽器の重なりが明瞭に重なって聴くことができます。密度感が高い音、という感じでしょうか。

こうした情報量の豊かさはハイクラスのイヤフォンを聴いている満足感を与えてくれるでしょう。後で比較しますが、マベユニから情報量もあがってより生々しくなったように思いますが、これもカスタム化のメリットで表現できるダイナミックレンジが広いからですね。
マベカスさんの一番の売りは独特のダイナミック+BAのハイブリッド構成による低音域の豊かさと鋭さの両立ですが、マベカスさんの良い点はそれだけではなく、高域の明瞭さ、情報量の豊かさが調和してレベルの高さを感じさせるところです。
また単にモニター的な引いた客観性というよりも、音楽的な魅力もあって主観的に音楽を楽しめます。

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Maverick CIEM + AK380

AK240でも最高レベルの音を聞かせてくれますが、AK380でも驚くことに性能がこのままアップしていっそうありえないような音空間を聞かせてくれます。
実際にAK380の性能を引き出すために第一に考えるべきイヤフォンだと思います。AK380の最新DACの音の鮮明さを余すところなく伝えてくれるでしょう。
PAW Goldでもモニターリファレンス機的なとても整った音の世界をそのまま再現してくれ、マベカスのバランスの良さを聞かせてくれます。

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Maverick CIEM + PAW Gold, CDM

また、こうした高性能機だけではなくiPhoneと組み合わせても十分に楽しめる鳴らしやすさも兼ね備えています。Apple Musicをカジュアルに聴きたいときにiPhoneに直でつないで「はじめてのディープパープル」プレイリストなんか聞いても冒頭のスモーク・オン・ザウォーターの特徴的なベースリフを楽しめることでしょう。
マベカスさんとContineltal Dual Monoはまた別に記事にする予定です。

*マベカスさんとマベユニさん

マベカスさんの進化を聴くために、マーヴェリック・カスタムとマーヴェリック・ユニバーサル(もとのマーヴェリック)をAK240を用いて、同じ曲で比べてみます。
まず感じるのは細かなところよりもまず全体的な音質レベルがマベカスの方がレベル上であるということが感じられます。ここではひとレベル違うと言っておきますが、ひとによっては二段違うと言うかもしれません。マベユニでも全体のまとまりは良いのでマベカスと比べなければ、やはり良いイヤフォンだと思います。しかし同じドライバーとはいえ、カスタム化と巧みなチューニングはそれほどの差をもたらしてくれます。

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Maverick IEM & CIEM

まずマベユニではパーカッションの連打などで音の鈍さを感じます。またマベカスの持つ圧倒的な情報量もユニバーサルでは減退して聞こえます。
高音域はマベユニでも綺麗ですが、マベカスのような音の芯の強さ(SN感の良さ)が感じられません。そのため上に伸びていく感じがちょっと劣ります。
ただ二者を比べると音の個性が異なる点もあります。たとえば楽器やヴォーカルの密度感についてマベカスが濃く高く、マベユニはぱらっとして薄めに聞こえることです。このためマベカスは主観的でマベユニは客観的に聞こえます。また能率もやや違い、マベカスのほうが少し鳴らしやすく感じます。
マベカスの場合は音の主張が強いので、曲によってはちょっと薄口のマベユニの方が曲の構成が見えやすいということはあるかもしれません。一方でやはりマベカスさんの音再現の密度感・濃さは音楽を躍動的な魅力を伝え、オーディオマニアとしても圧倒的な再現力のありえなさが楽しめると感じられます。

*マベカスさんとリケーブル

マベカスさんはカスタムでは一般的な2ピンタイプのプラグでリケーブルができます。このさいにオリジナルのマーヴェリック(マベユニさん)ではプラグ面が凹の旧UEタイプでへこんでいるタイプしか選べませんでしたが、マベカスさんではフラットなものと従来通りの凹タイプが選べます。私のはフラットです。
RE1000のところでは書きましたが、凹タイプだとたまに使えないケーブルがあります。はまれば凹タイプのほうが安定性は良いと思いますが、マベカスを買うようなマニアの人はいろんなケーブルを持っているのでフラットタイプをお勧めします。またここが選べるのも実質的なマベカスでの改善点といえると思います。

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Maverick CIEM + AK380 + Beat Super Nova

ケーブルをBeat Super Novaと変えてみましたが、まずノーマルのマベカスさんでもう少しほしいと思っていた横方向の音の広がりが大きく改善されるとともに、よりクリアで音質のリアルさがさらに生々しく感じられるようになりました。良録音アカペラの合唱曲なんか聴くと生々しさに、口を唖然と開けたままになってしまいますね。ヴォーカルのハミングやため息など細かいニュアンスの再現は自然でいてかつ高度な再現力です。ひとことでいうと「リアル」ですね。
またマーベリック兄弟の長所であるベースインパクトの鋭さもいっそう磨かれます。良い面はさらに伸びて、改善点はきちんとカバーされるというなかなか良い組み合わせです。

このほかにもJabenのSpiral Strandの2.5mmバランス使用などもバランスの効果ともども一ランク音質を向上させてくれ、全体の帯域バランスを崩さずに整っている良い組み合わせでした。
このクラスのIEMを買ってリケーブルしない人はあまりいないと思いますが、マベカスさんはリケーブルの期待にも存分に応えてくれる伸びしろもあります。ノーマルでも十分すぎるほど良いんですが、さらに音を自分好みに変えるられ素性の良さもありますね。

* まとめ

端的にいってマベカスさん(+Beat)はいまの私のAK380とのお気に入りペアになって持ち歩いています。AK380とマベカスさんの組み合わせは今年のハイエンドクラスでのスタンダードになるのではないでしょうか。

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この組み合わせはぜひ一度聞いてみてあごを外してほしいですね。こんな人を驚かすような再現力があるのに、音のなり方があくまで自然なこともよい点です。
宮永さんは「求めたものは、"リアル"。これに尽きます。」と言っていました。さらに「チューニングがリアルに近づくと、"良い音源""悪い音源"というのが露わになってしまいますが、"良い音源"を遜色なく"リアル"に聴くというのが、私個人としての一つの愉しみでして、音楽との出会いに感動を覚えるので、下手にイヤホンの中で"フィルター"を作るような事は避けました。」と語っていました。
そのリアルさという、シンプルでいて高い目標はマベカスさんにおいて十分に達成されたのではないかと思います。
posted by ささき at 21:27 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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