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2015年06月30日

Amores Pasados - ジョン・ポッター(ジョンジー、トニーバンクス、スティング)

Amores Pasadosは古楽のテノール歌手ジョンポッターの最新アルバムです。ポッターは古楽・現代音楽では随一の声楽グループであるヒリアードアンサンブルのメンバーとしてよく知られています。
このアルバムはぱっと聴きには普通の古楽のリュートと声楽曲に思えますが、聴いているとちょっと不思議な感覚にとらわれます。それはこのアルバムにはユニークな試みがなされているからです。

ポイントはこのアルバムで起用された作曲家にあります。
17世紀のトーマス・カンピオンらとともに名を連ねるのは、ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズ、ジェネシスのトニーバンクス、そしてスティングです。
しかしこれはジェネシスの名曲をリュートにアレンジしたものではありません。古楽のテキストをもとにジョンポールジョーンズ、トニーバンクスやスティングといった大バンドの作曲の要だった音楽家が自分たちの感性をもとに古楽曲を書き起こしたものです。(ジョンポールジョーンズは本格的な音楽教育を受けています)

ヒリアードアンサンブルの理論家でもあるジョンポッターはライナーノートにこう書いてます。
もともと歌はひとつのものだった。行商人が道端でヴェルディを口ずさんだりしていた。しかし時が進み、歌はポップソングと芸術音楽に分かれていった。
では、何がポップミュージックで何が芸術音楽なのか、そもそも17世紀のダウランドやカンピオンの時代に区別はあったのか、彼らはその時代のソングライターだったのではないか? ...

ポッターはトニーバンクスの作曲したジェネシスの曲はその独特の和声や複雑な構造からテノール歌手に歌わせればそのまま芸術音楽じゃないの、と書いてます。
ジョンポールジョーンズは冒頭のタイトル曲を書いていますが、ロックにおける即興的な要素のひとつが、17世紀の作曲技法のひとつと一致するという点に面白さを持っているということを書いてます。
スティングはこの分野では自分でもグラモフォンから「クラシック」のアルバムを出してますが、ここではロビンフッドをテーマにしたオリジナルの作詞・作曲を手掛けてます。

ただ歌詞については17世紀の古典のテキストを(スティング以外)は使っています。これは歌い手のポッターがなれたテノールの唱法の解釈ができるからだそうです。
つまりこれで古典的な声楽の骨の部分だけをすっぽりと現代ロックの作曲者の感性に置き換えることができるというわけです。ここがひとつポイントであって、よくあるロックのクラシックアレンジとは違うところだと思います。

わたしが感じた不思議な感覚は、聴きやすいというか、耳になじみやすいという感覚です。もっと自分に近いもの、という感覚でしょうか。
このアルバムで特に面白いのは、トニーバンクスのパートです。同じテキストからカンピオンの作曲した「オリジナル」の曲と、トニーバンクスが作曲した「バリエーション」曲が同じタイトルで二組収録されています。カンピオンのオリジナルはきれいですが、シンプルで変化が少なく淡泊に感じられます。トニーバンクスのパートはもっと複雑で音楽の抑揚が豊かに感じられます。

例えば古楽をいま聞いて単純に良いなと思っても、当時の人が聴いていた感じとは異なるでしょう。我々が日ごろ慣れている作曲法も変わっているし、なにより我々自身が17世紀の人たちとは変わっているのです。
そうして、17世紀と21世紀で人の変わったところはどこか、同じところはどこか、と音楽を通して考えてみるのも面白いのではないでしょうか。

試聴は下記ECM newサイトで可能です。
http://player.ecmrecords.com/potter-2441/music

CDのほかに下記のe-onkyoサイトでハイレゾ(96/24)でも購入ができます。
http://www.e-onkyo.com/music/album/uml00028948115570/

こちらはCDのリンクです。

posted by ささき at 22:16 | TrackBack(0) | ○ 音楽 : アルバム随想録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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