今年も様々なことがありましたが、私的な2014オーディオ振り返り記事です。それぞれうちの記事の関連リンクを張っておきましたのでさらに知りたい場合はリンクをクリックしてください。
今年はなんといってもポータブルオーディオの年でした。
年明けからAstell&kernの新フラッグシップであるAK240、ハイエンドメーカーが本気で作ったポータブルのCHORD Hugoの発表とつづき、クラウドデザインでユーザー意見を取り入れたiFI Audio iDSD Micro、据え置きだけどポータブルユーザーからも支持されたAurender FLOW、そしてナグラの血を引くPAW Goldと、粒ぞろいの大物ばかりでした。年初の大雪のポタ妍は伝説になりましたが、まさに危険を顧みずに会場にいっぱいになったポータブルユーザーの熱さがずっと続いて、一般にも波及していったという感じでした。
また今年はイヤフォンの年でした。WestoneはW60とかES60とか当たり年だったし、JH Audioもロクサーヌから始まってレイラ・アンジーの発表に終わり、Nobleも国内導入を果たし、須山さんのところもFitear fitearとか彩など新製品を投入しました。ビクターのウッドもFX1100でハイエンドイヤフォンへの参入をはじめました。
ただ来年はOppo PM-3とかAudioQuest Nighthawkなど、期待のヘッドフォンが見えているのでヘッドフォン話題もまた増えるかもしれません。
ポータブルでは国産メーカーの勢いと追い上げも加速しました。デノンのDA10をはじめとするポータブルアンプもたくさん発売されましたし、SONY系の国産カスタムJust Earも話題となりました。海外メーカーがトレンドを作ってきた分野ですが、これからは国産もそうした点でも期待したいところです。
私は10年もこの分野におりますが、おそらく今年が一番ポータブルの進化が飛躍的だったと思います。性能の向上、価格レンジの拡大もありますが、おそらく今年がひとつのターニングポイントになるのは、ポータブルがオーディオのトレンドリーダーになったということではないかと思います。
AK240は性能だけではなく、ワイヤレスネットワークでのDSD・ハイレゾのオーディオ再生システムを提案しました。このときには同等なシステムはPCオーディオでもありませんでした。またCHORD Hugoも演算性能ではQBD76をしのいでCHORDのそうそうたるラインナップのなかでもトップの位置を占めています。今年は11.2MHzのDSDネイティブ再生も話題となりましたが、ototoyなどでも取り上げられて11.2MHz再生のリーダーとなったのはiDSD microでした。
いままでオーディオ分野ではPCオーディオが最新技術を取り入れるトレンドリーダーでしたが、ポータブルがそれにとってかわった感じです。いままでポータブルはいわば「お下がり・お古」をもらってきたわけですが、それがかわりつつあるということです。ネットワークに関しても近々登場するCelsus Companion Oneのように手のひらでネットワークオーディオシステムが作れるようになりつつあります。しかもWiFiでネットワークを完結させています。
おそらく2015年はPCオーディオにできて、ポータブルオーディオにできないことはなくなるでしょう。需要が進歩を促すわけで、需要あるところが一番伸びるわけですがそれはここでも例外ではないと思います。
また、Hugoがポータブルユーザーだけではなく、従来オーディオユーザーからも支持されているようにオーディオ機器のあり方が変わってきているようにも思えます。おそらくいままで20万から30万のプリメインアンプやスピーカーのあったポジションに、20万から30万のカスタムIEMやデジタルプレーヤーがはいるということで、ポータブル製品の価格レンジの拡大は阻害要因となるというよりも、むしろ世代替わりを象徴しているようにも思えます。
一方で不透明感があるのはPCオーディオの分野です。いままではアシンクロナス、クラス2、DSDネイティヴと進展してきた技術トレンドの次があまり見えません。ハイレゾってこの分野では昔からある言葉であたらしい技術トレンドではありません(マーケットタームとしてのハイレゾは後で書きます)。しかしPCオーディオはどこへ向かうのか、と考えると少し違和感があります。実は見えている分野もあるからです。それは海外ではすでに「この次の技術トレンド」は高音質ストリーミングに向かうだろうと考えられるからです。
たとえば海外における配信からストリーミングへの流れは、オーディオの世界では高音質に向けてTidalやQobuzのようなロスレスストリーミングを生みました。音質とサイズの両立を図ったMeridianのMQAもその流れの中にあり、すでに英国のストリーミングプロバイダーである7digitalがMQAをサポートする旨を表明しています。MQA vs ロスレスストリーミングも来年にかけての話題となるでしょう。
もうひとつの注目点はソフトウエアの変化です。今年はオーディオ向けの高音質再生ソフトでは待望のAudirvana2.0なども出ましたが、注目すべきはAmarra SQだと思います。下記にJohn Drakoのなかなか良い記事を紹介します。
http://www.digitalaudioreview.net/2014/06/improving-the-sound-quality-of-qobuz-spotify-and-pandora/
これが示すのは、ストリーミング時代には再生ソフトのありかたが変わるのではないか、という点です。つまりソフトウエアによる音質向上の焦点は単体のアプリケーションソフトからバーチャルデバイスに移るのではないかということです。
こうした新しい変化が見えないのは日本だから、です。ストリーミングの是非はありますが、それを語る前に日本の音楽リスニングのメインはいまだにCDです。
今年ちょっとショックだったのはTidalがリリースされた日のことです。いつものように海外のニュースをチェックしていると、海外はどこのサイトもTidalのリリースのニュース一色なのに、日本はすぽっと取り残されたように感じたからです。よく重大ニュースが起こった時に民法各社・NHKが全局速報番組をくむのに対して、東京12chがマイペースで映画やってたりするのを揶揄されたりしますが、ああいう感じですね。
2014年の話題はと言えばこうして日本と海外のかい離が起こり始めているという点かなと思います。いままで日本のPCオーディオではアシンクロナス・USBクラス2(Ayreなどゴードン系)、DSDネイティヴ(Playback DesignsとかdCS)、ネットワーク再生(LINN)とやはり海外トレンドを追ってきた経緯がありますので、ここから先は日本独自の方向性が問われるのかもしれません。。
またPCオーディオでは積み残しの課題として、AndroidのUSBオーディオクラスドライバーの実装問題と、WindowsでのUSBオーディオクラス2ドライバーの採用がありました。Androidについては、5.0 Lollipopでついに実装がなされましたが、48k問題とかいまひとつよくわからない実装となっています。ここは様子見ですね。
WindowsについてはWindows 10にむけて有志がマイクロソフトのページで懇願しています。私も投票しましたが、ここはマイクロソフトの開発者も見ていますので、興味のある方はぜひ一票を入れてください。
また今年は「ハイレゾ」がブームとなりました。ブームと言ったのは、そもそもハイレゾ対応はいまに出てきたことではありませんが、各社キャンペーンもありこの一年で急にオーディオ周辺も含めたキーワードとなったからです。言い換えると、ハイレゾというのは技術的にはもはやキーワードにならないけど、マーケットタームとしてキーワードになっているということです。そのためいささか不鮮明さを残して進んでいるように思えます。
たとえば「ハイレゾロゴ」問題です。何回かこれについて書きましたが、まず規格というには40kHzとだけあっても、ここで何dB落ちているかを書かないと規格をクリアするための基準となりません。音茶楽では-10dB@40kHzのように明記していますが、これならば技術的な基準と言えるでしょう。
問題がある例を挙げると、ヘッドフォン・イヤフォンの分野ではBAの扱いです。BAは補聴器ベースの技術ですからいいところ16kHz上限であったものをJH Audioではデュアルで20kHzに引き上げ、ロクサーヌではクアッドで23kHzにさらに引き上げたというところに技術的な素晴らしさを感じるわけですが、かたやハイレゾロゴのためにBAでもカタログにあっさりと40kHzと記される機種があったとしたら不公平感が出ないだろうかという危惧があります。
またサンプルレートの方は40kHzと数値が書いてあるのに、なぜかビット数の方の24bitは考慮がなされていないというのも不思議な話です。かたや44/24をハイレゾとしてみなしているにもかかわらず、です。矛盾の故事ではありませんが、「ハイレゾ対応」のヘッドフォンやスピーカーで44/16と44/24の「ハイレゾの音質の差」がわかるのか、という基準はどうなのでしょうか。
企業秘密と聴覚判断があるのでメーカーに任せるというのは否定するわけではありません。メーカーが判断してハイレゾを聴くのに有意だと考えたモデルがあるなら、それを購入者に勧めるのはけっこうなことだと思います。選ぶ方もわかりやすいですしね。
ただしそれならば、40kHzという規格にならない規格ではなくメーカーの判断と責任でハイレゾロゴモデルを推奨するということだけで良いと思います。かえって中途半端な「40kHz基準」があるのは不透明感と不公平感を生んでしまうように思えます。
また、購入者がハイレゾロゴが付いてればいいのね、って思わないようにするメディアの書き方があると思うし、そこは気をつけていかねばならないと思います。私はCDよりハイレゾ音源を買うし、日本の市場が物理メディア離れできるチャンスだと思うので、ハイレゾ「ブーム」を否定しているつもりはありませんが、手放しにはできない面はあるということです。
このクリスマスにLINNレコーズがスタジオマスターの4GBもの無料配信をしました。1/6までなのでぜひダウンロードをお勧めします(一括DLできるのでDay24を選択してください)が、音楽の内容自体がまず良いと思いました。ハイレゾ音源って初期のころのスタジオマスター配信のLINNレコーズが音楽性と録音のどちらも良く、単に商業主義に陥らない方向にうまくハイレゾ配信をもって行けたという功績が大きいとも再認識しました。ブームの時だからこそ、そうした初心に立ち返る必要があるように思えます。
再認識と言えば、オーディオが世の中のトレンドとシンクロしているということも再認識した一年でした。
たとえばクラウドファンディングです。長くうわさされてきたニールヤングのPONOはKickstarterでデビューして成功を収めました。LH Labsはさまざまなキャンペーンを行い、超高いDACとケーブルを作ってるよくわからないメーカーと言うイメージから脱却したと思います。他にもAurisonics Rockets、マイケルのとこのi5、PS AudioのSprout、1964ADEL、失敗したけどFoobar2kモバイル、新興EarWerkzなどKickstarterとIndieGoGoなどで採用例は拡大をしています。
また話題のトレンド3Dプリンターもヘッドフォン、イヤフォンとも採用が進んでいますね。
結局オーディオは趣味の世界と言っても世の中の流れとは無縁ではいられないし、うまく利用した方がよりよい結果が得られると思います。
まあ、そうした世の中の流れをつらつらと書いてきて今年で10年にもなりました。うちのブログも10周年を迎えることができて、みていただいてきた皆様には御礼申し上げます。
今年特番として4/1にはこんな話を書いていました。ちなみにちょうど10年前にはカメラページで4/1にこんな話も書いてましたが、冬休みのお暇にでもご覧ください。(この年はロバートキャパ没後50年でした)
さて、来年はどうなるのか、楽しみなところです。ちなみに過去の振り返り記事はこちらですので本記事と合わせてご覧ください。
2013年振り返り記事はこちら。
2012年振り返り記事はこちら。
2011年振り返り記事はこちら。
Music TO GO!
2014年12月29日
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