ステレオファイルの12/21記事にジョンアトキンソンのMQA解説が乗っていました。
http://www.stereophile.com/content/ive-heard-future-streaming-meridians-mqa
Fig1はシャノン線図で、ダイナミックレンジと周波数の関係を示しています。この前のRealHDの四角を三角にの図と同じですが、これでは192kHz(のナイキスト限界の96kHz)まで図に入っています。ちなみに下では192kHzを4Fs(CDの4倍レート)とも書いています。
これはラベルのストリングカルテットを例にとっていますが、どの音楽もこの傾向になるそうです。赤い折れ線はピークレベルの遷移で音楽情報みたいなもの、青い折れ線は平均ノイズレベル(ノイズフロア)です。24kHz以下に青いノイズの線の下に緑の線がありますが、ここは16bitでの量子化限界で、ここから下が後で出てくる隠し金庫になります。
このFig1を見るといくつかのことに気が付きます。音楽情報を記録するには少なくとも96kHzでサンプリングしたほうが良いこと(図ではナイキスト周波数なので48kHz)、とはいえ図ていうと55kHz以上はほぼノイズと同じであること、24kHz以下ではノイズフロアは16bitの量子化限界より上であること、またRealHDの人もいっていたように「音楽」情報は全体の音の情報量(四角)のほんの一部(三角)であることです。Fig2のオレンジがそうですが、つまり音楽情報の赤い線の上と、ノイズフロアの青い線の下は「空いている」わけです。
この図はラベルのストリングカルテットの録音を例にしていますが、この三角形の傾向はどの音楽でも変わらないということです。そうすると、ハイレゾはよくCDの3-5倍の情報量と言われますが、実際にデータ容量はCDの3-5倍でも情報量としてはそれほど大きな差ではなく、情報量という点からいえばCD品質ですでに十分はいっているということも言えると思います。ただ一応書いておくと、人とサルのDNA(情報量)の差はわずか2%程度ですがこれだけ大きな違いになっています。情報量のわずかな違いも実際に表れてみると大きい、ということもまた言えますので念のため。
オーディオにおいてはその情報をいかに利用するかということになるでしょう。MQAでは後で出てきます。
元に戻ると、RealHDの人も書いていたように、MQAではその高周波帯域の音を可聴帯域に畳み込みます。これをボブスチュワートは「オーディオ折り紙」と言っているということ。これが前回書いた四角を三角に、です。
まずFig2で書かれているように48kHzから96kHz(音源ならば192kHzのハイレゾ音源)のわずかな(C)の部分を(B)の下に「カプセル化」します。つまり使われている部分を使われていないノイズフロアの下に畳み込むわけです。
これでFig3の灰色部分のようにデータが減りました。同様にFig3では今度は24kHzから48kHz部分(音源でいうと96kHzハイレゾ)でも同様に(B)の部分とさきの(C)も(A)の下の16bit量子化限界の下の隠し金庫に畳み込みます。
ちなみに(C)を(B)の下に畳み込んだときは「カプセル化」という手法ですが、(B)を(A)の下に畳み込むときはロスレス圧縮が使われているようです。ちょっとよくわかりませんが、(B)と(C)ではエンコードが異なるようです。(B)の方はより大事だからでしょう。
これで半分の半分になったのがFig4で、これが48kHz/24bitのMQA音源となります。
互換性のことを考えると、48/24のMQAを16bitで再生すると、16bitのノイズフロアの下に隠れてる96kHz以上の「ハイレゾ成分」は再生されない、ということのようです。
そこで例の時間的な正確さ、とかいうMQAの音質に関してですが、20kHz以上は聞こえるのかという根本的な問いに対して、ボブスチュアートは20kHz以上では周波数的な意味より、時間的情報をより鋭敏に捉えるという結論をくだし、20kHz以上ではADC/DACするさいに時間的な汚れが生じるために自然な音に聞こえないという結論を出したようです。
その理論にもとづいて、MQAエンコードするさいになんらかの補正(compensate)処理を上のBやCではくわえているようです。つまり20kHz以上に関してはやはり信号処理がなされているということです。これにはMeridianのアポダイジング・フィルターを使ってますが、それよりも実際のADコンバータの特性に合わせてチューンしたというところが大きいようです。実際にはそう多くのADコンバータがあるわけではないので可能なことだそう。アポダイジング自体の意味はなだらかに落ちていくことですが、デジタルフィルターではプリエコーが出ないものをさしてます。
音質が向上するということについては、下記のMeridianユーザーフォーラムにボブスチュアート自身が書き込んでいます。ここの写真の右上のインパルス応答の図がMQAと従来の192kHz ADC/DACの比較です。
http://www.meridianunplugged.com/ubbthreads/ubbthreads.php?ubb=showflat&Number=226336#Post226336
利点は下記のようなものがあげられています。
エッジの明瞭さ MQA = 4μs 従来は250μs
インパルス持続時間: MQA = 50μs 従来は500μs
MQA はポストリンギングがない
いずれにせよ結論的にはMQAはオリジナルマスターに対してはバイナリ一致しないでしょう。ただしオリジナルマスターとは異なるように手を加えてますが、音質はマスターより良いということになります。
Stereophileの記事では実際の試聴をしたレポートが載ってます。ヒラリーハーンの88/24のハイレゾを聞いた後にMQA版を聞いたらその違いに笑っちゃたといいます。MQA版ではベールが取れて色彩感が出るとともに楽器が濃く感じられるとあります。デジタル的な不自然さも取れて、ハーンのコンサートには何回もいったけどこれが一番生っぽいと言ってます。
レイチャールズとナタリーコールのMQAではより音場も広がり、ヴォーカルの鮮明さがひときわ高いとともに、鋭い音の輪郭だけでなくレゾナンスも正しく聞こえるドラムのインパクトが良いと言ってます。
なかでもメタリカは聴き終わった後に深く一息つくくらい、音のセパレーションも良くヘビメタの迫力がボリュームを下げても十分に堪能できたって言ってます。
反面で欠点はマイクに近く歌うヴォーカルの息遣いが必要以上にリアルに聴こえることだって言ってます。
まとめると、MQA音源の利点はサイズが従来のハイレゾに比してかなり小さくなること、オリジナルマスター音源より音質が高くなることの二点ですね。
MQAはハイレゾ音源というより、ハイレゾデータをもとにしてマスター音源の音質を高めるようデジタルフィルターをかけた音源というべきでしょうか。
MQAはAtlantic Recordsにくわえて英国のストリーミングプロバイダーである7digitalでの採用が決定しています。来年はどう展開するのでしょうか、ちょっと面白いところです。
Music TO GO!
2014年12月23日
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