カスタムIEMで知られるユニークメロディ(UM)からユニバーサルIEMが発売されました。
単にユニバーサルIEMがUMから発売されたという以上に注目すべき点はその開発手法です。ここにUMのイヤフォン戦略がかいま見えます。
* UMのイヤフォン戦略とユニバーサル化の開発手法
戦略と言うのは理想的なゴールがあって、そこに到達する道のりを決めるというようなものです。まずUMが考えるカスタムイヤフォンのゴールとは、文字通りの「フルカスタム」のようなもので、エンドユーザーが自分で音決めができ、ユーザーが自分でチューニングするということが目標となっているようです。具体的にはUEのパーソナルリファレンスモニターのようなシステムで周波数特性や位相調整までを個人が行えるようにするというものがひとつ考えられると思います。つまりはユーザーにたいしてのカスタム化の完全な自由を与えるというものですね。
しかし、それをユニバーサルタイプに適用した場合、個人個人が作るわけにはいきません。そこでUMの取ったアプローチは国ごとの代理店と共同開発でその国の事情に「カスタム化」した音決めや開発をするということです。実際には日本からはミックスウェーブがメーカーに赴いて開発をしたということで、その成果が今回紹介するユニバーサルIEMのMaverickとMasonです。
他にはシンガポールやロシアの代理店も同様な開発をしているということです。ロシアについては一部要求が厳しすぎたようでちょっと中止しているようですが、シンガポールについてはLegacyという名前で商品化されています。下記はlegacyについてのリンクです。
http://www.head-fi.org/t/736935/unique-melody-legacy-latest-flagship-12ba-ciem
この国別のユニバーサルタイプはその国でないと買えないということで、Legacyはシンガポールでないと買えませんし、MaverickとMasonは日本でしか買えません。
普通代理店はメーカーに意見を言うくらいの影響力のように思いますが、このUMのユニバーサルIEM開発においては代理店とメーカーの共同開発と言ってよいほどかなり深く関与しているのが特徴です。この辺は実際に開発に参加したミックスウェーブの宮永氏に話を伺いました。
具体的には6日間ほど向こうに滞在して共同作業をしたということです。まずイヤフォンを製作するための技術・ノウハウを伝授してもらったそうで、これには測定機器や3Dプリンタ関連の技術も含まれているということです。
UM社:写真宮永氏提供
実際の開発はまず音決めの関与で、周波数特性、位相について聴きながら各帯域のチューブの長さを決めていくような感じだそうです。UM側がドライバーの選択枝を用意してくれ、MaverickとMasonのドライバー構成についても宮永氏が決めたということです。また外観のデザイン、名称も宮永氏が決定しました。名称については基本的にはUMのネーミングルールであるイニシャル"M"を踏襲したそうですが、シンガポールがLegacyなように絶対的なルールではないということです。
* MaverickとMason
そうして開発されたMaverickとMasonはUMの初のユニバーサルIEMです。それぞれは全く異なる設計で、使用しているドライバーも異なります。さきにも少し触れましたが、どちらも3DプリンタによるユニバーサルIEMです。UMではカスタムは3Dプリンタを導入していませんが、ユニバーサルで3Dプリンタを採用した理由はまずコスト・生産性で、3Dプリンタを採用すると週で100台は生産できるということ。
次はシェル強度で、3Dプリンタを採用するとシェルの厚みが均質になり、一か所の薄いところに応力集中することがないのでシェル強度が上がるということです。
MasonもMaverickもコンパクトで装着感も悪くありません。ケーブルのプラグは2ピンの一般的なものでリケーブル可能ですが、旧UEのようにはめ込み部分がやや深めなのでケーブルのプラグには注意が必要です。下記の試聴はどちらもケーブルはストック(リケーブルなし)で聴きました。
価格は定価はオープンで、参考価格はMasonが13,0000円(税別)で、Maverickが10,8000円(税別)です。
UM Mason
Masonは片側12ドライバーのBA機で、構成は低中高にそれぞれ4ドライバーずつの3Wayです。ロクサーヌと同じですね。
宮永氏によるとMASONは「石工」とか「れんが職人」という意味あいですが、「ブランドイメージの再構築」、「また一から立て直す・やり直す」という意味で付けたそうです。MASON、MAVERICKともに、メーカーが開発してきた今までの音とは異なるキャラクターを持っているということで、これはUMのサウンドは「こう新しく生まれ変わったんだ」ということをフラッグシップモデルであり、かつ誰でも使えるユニバーサルであることを利用して広く伝えたかったからということです。
MasonとAK120II
発売後にチューニングがし直されたということでも話題となりましたが、これはチューニング後のタイプです。たしかに先日のヘッドフォン祭で聴いたときにはMasonが元気よくベース過多な印象でしたが、それがおちついて良い帯域バランスになったと思います。全体的な音質も洗練されてフラッグシップらしくなかなか優れています。
相性としては端正なAK120IIと相性が良く、優等生的なそつのない感じで忠実感の高い再現力を感じます。能率も問題なく普通にハイレゾDAP単体でオーケーです。
UM Maverick
MaverickはダイナミックとBAのハイブリッドで5ドライバー。ネットワークは4Wayとされています。ダイナミックドライバーの大きさは10mmで、担当音域は非公表ということ。UMにはMerlinというカスタムの5ドライバー・ハイブリッド機がありますが、設計は異なるものです。
Maverickの特徴は低域をBAとダイナミックでともに担当しているということです。ハイブリッド構成では繊細なBAが中高域、迫力のダイナミックが低域という分担が一般的で、Merlinはそうなっています。Maverickもはじめの予定ではMerlinのようにダイナミック一発で低域を担当する予定だったそうですが、開発していくうちに20〜40Hz辺りのバスドラムのアタック感が関係してくる箇所がダイナミック一発では再現出来ず、結果的にBAでその部分を補ったということです。一方で反応が良く口径が小さいダイナミック一発でスピード感を上げて、ダイナミック一発で済ますという選択肢もテストしたそうですが、BAを足した方が結果的には良かったので、ダイナミック+BAという形式にしたということです。
Maverickは「一匹狼」という意味がありますが、ダイナミック型ともBA型とも言えないサウンドに仕上げたため、その名前にしたそうですがたしかに分かります。
MaverickとPAW Gold
Maverickはインパクトやアタック感が良くキレが鋭いイヤフォンという印象です。特にベースのアタック、インパクトが力強さとシャープさが両立しています。ベースの膨らみ感は少なく、かなり低い深い低域で量感がある良い感じです。そして中高音域もキレが良く明瞭感が高い点も良く、チェロの低く重い弦の唸りも、ヴァイオリンの軽やかな鋭さも両立できています。
普通ハイブリッドっていうと低域のダイナミックのぶわーんという迫力を強調するものですが、Maverickは引き締まって鋭いベースが特徴的です。ベースにBAを加えたのがその目的なら十分達成できてると思います。
Maverickはやや鳴らしにくい(インピーダンスは51Ω)ので、ゲイン高めのオーディオ機器の方が音的な相性もあり良い感じがします。そのためどちらかというとハイレゾDAPよりポータブルアンプ別で力感のあるシステムが良いと思います。Portaphile Micro Muses01みたいにゲイン高めでも良いですね。あるいはハイレゾDAPならゲイン切り替えがついているもので、たとえばPAW Goldのハイゲインなどがキレがよく緩みない低域を楽しめます。
個人的にはMarverikがなかなか魅力的でした。Masonの優等生的な音質の高さも良いのですが、Maverickには個性があり、ちょっと独特のインパクト感と切れの良さがあります。
カスタムIEMメーカーがユニバーサル版を出すというにはさまざまな理由があると思います。これはユーザーのメリットと言い換えてもよいかもしれません。たとえばカスタムに比べて価格を下げるため、カスタムではリセールバリューがないのでそれを防ぐため、また1964ADELのように新技術を投入するテスト用、拡販のため、などなど。UMの場合は大きな戦略のなかのユニバーサルの位置付けというものを考慮して、現地代理店との共同開発を取ったという手法が興味深いものです。
今後のUMの製品に関しても、特にユニバーサルモデルに関しては同様な手法を取るということでまた面白いユニバーサル機が出てくるかもしれません。
Music TO GO!
2014年12月18日
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