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2014年12月10日

Lotoo PAW Goldレビュー

いまではハイレゾプレーヤーはたくさん出ていますが、その元祖はHifiMan HM801といえるでしょう。そのHifiManを長年扱ってきたトップウイングさんから年末に新しいハイレゾプレーヤー、Lotoo(ロトゥー)のPAW Gold(パーゴールド)が発売されました。価格的にもPAW Goldはトップクラスのハイレゾプレーヤーとなります。PAW Goldはマニアの話題ではありましたが、いよいよ国内で発売がなされるわけです。先週の金曜日に秋葉原で製品発表会を行い、そこで私がプレゼンいたしました。

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PAW Goldは名門ナグラのポータブル録音機材をODM開発するLotooが開発したものだという点と、ナグラっぽいというかメカっぽい造り、そして高い基本性能が特徴です。
現在は予約を受け付け中で発売は12/19の予定です。

* PAW Goldとは

LotooはInfomediaという中国のメーカーのオーディオブランドです。Infomediaは中国の放送用機器や制御用の組み込み機器の会社で、その分野の中国でのシェアは75%にもなるといいます。
ここで強調したいのはInformadiaが、あの有名なブランドであるNagraのプロ用の録音機器のODM生産をしているということです。ODMとはただ設計書を渡されて生産するだけのOEMとは異なり、自分で設計をする形態のことです。それだけ高い技術力と信頼が要求されます。

彼らはプロ用としてはトップクラスのレコーダーを作れるので、我々はトップレベルのコンシューマーDAPも作れると考えたということです。音質や信頼性についてもコンシューマーメーカーには負けない自信があったそうです。
中国製品と言うことで偏見をもたられる向きもあるかもしれませんが、そうした方は高い品質の代表であるiPhoneも中国生産ということを思い起こしてもらいたいと思います。きちんとした協業体制がればあれだけの品質のものが作れるわけです。

* 外観

やはり見た目のメカっぽさが特徴と言えるでしょう。ハイレゾプレーヤーは未来的なデザインのものが多いので、かえってアピールする部分になっていると思います。

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シャーシは航空機グレードのアルミで製作されています。そのため質感はかなり高く仕上がっています。操作画面のガラスはサファイアガラスです。
サファイアガラスはiPhone6でも採用がうわさされていましたが、ダイヤモンドに近く、ゴリラガラスより4倍硬いと言われるガラスです。かなり傷つきにくいと思いますが、ゴリラガラスよりコストもかかると言われています。

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操作はタッチではなくコントロールキーで行います。この24KのキーもPAW Goldデザインの象徴で、航空機グレードアルミ、サファイアガラスとともに高価なパーツを使用している感じを与えています。
そしてこの特徴的なデザインのキーの意味はギリシャ神話のアポロです。PAW Gold 設計のシンボルはアポロであり、輝きと力強さの象徴、それが音に込めた思いということです。

* 基本性能の高さ

ハイレゾプレーヤーと言えばハイエンドDAC ICの採用ですが、PAW GoldはDAC ICにハイエンドDACの代名詞でもあるPCM1792を採用しています。現在はPCM1795の採用例が多くなってきましたが、音質だけを取ってみるといまだに1792がバーブラウンではトップエンドと言えると思います。またアンプ部分にはAurender FLOWと同じ高出力のLME49600とかなり強力なICを使用しています。しかしながら良いパーツを使用していても、やはり設計自体が重要です。
PAW Goldのポイントは基本性能が高いということです。それはジッター5ps、クロック精度が5ppmという数値に表わされています。ジッター5psというのはポータブルと言うよりももはや高性能DACの数値です。クロック精度も実際には1ppmで設計しているのですが精度を保証するのがむずかしいため対外的には5ppmと言っているそうです。優秀なクロックを使うだけではなく、回路で正確な動作を保証するように設計しているということ。
いずれにせよデジタルオーディオで一番重要なのはタイミングであり、その基本がきちんと出来ているのがPAW Goldです。また出力インピーダンスについても0.1オーム以下と高い性能を示しています。

* ファームウェア

最近よくつかわれているAndroidは操作性や機能追加には優れていますが、立ち上げが遅かったりします。PAW Goldは独自のリアルタイムOSを採用しています。これは彼らのプロ用機と同じです。
これは電源オン・オフ、メディアスキャン、デジタル信号処理の機能の実装などで有利です。Informediaは組み込み機器の会社でもあり、ここは得意分野でしょう。また組み込み系OSは処理が軽いので音質面でも有利でしょう。
ただし現在タグによるアーチストやアルバムの検索はできないので、ファイル名で音源を指示することになります。プレイリストは作成が可能です。

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メモリは内蔵メモリはなく、SDXC(普通サイズのSD)が一枚です。私はTranscendの128GBを使用しています。メニューにカードテストと言うのがあってカードの速度をテストしてくれます。フォーマットはFAT32が必要ですが、PAW Goldに内蔵のフォーマッタがあって、FAT32のフォーマットに悩む必要はありません。
PCからの転送はUSB 3.0を採用しているのも特徴で、高速に転送が可能です。接続はUSBマスストレージクラスです。

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音源はFLACやALACなど多くの音源が使えますが、特徴としてはプレーヤー単体でのDSDネイティブ再生に対応しています。
またスタジオ品質のDSPハード(Blackfin)を搭載しています。これも組み込み系OSの利点と言うことです。DSPでATEとPMEという機能を担当しています。
PMEはいわゆるパラメトリック・イコライザーで、特定帯域を上下させるものですが、ATEは音場を変更したり、ヴォーカルの声質を変えたり、声を近くしたり、楽器の音をスムーズにしたりという処理です。いわゆる信号処理でハードウエアのDSPチップを使っています。
ATEの例としてはBrightというと高域が輝きを増し、Sweetではやや甘めになります。Dentalは子音のきつさを抑えるもので、歯を抜ける音をあらわしているのでdentalといっています。また701はAKG701で、990はDT990とヘッドフォンに合わせた設定とのこと。Diffuseはいわゆるクロスフィードのことです。

また本格的な2Vのラインアウトをもっていますので、外部機器に接続することも用意です。発表会ではiFIのRetroに接続してデモを行いました。

電池は充電式で、約11時間持つとのこと。実際に使ってみてだいたいこのくらいは持つと思います。ユニークなのは電池残量が時間で分かること。これはなんで他のDAPにないのと思うくらい便利です。

* 使用感

まず届くと驚くのはきちんとシュリンクラップされていることです。私みたいに外国製品に慣れていると、アンプが段ボールに]無造作に新聞にくるまってきて向こうの国の新聞をフムフムと楽しく読んだり、とかいうのに慣れてるとやはりこうした細かいところに驚きます。やはりナグラ品質の管理という感じでしょうか。管理と言えば、使用したデモ機には"サンプル"の文字がはっきりと書かれています。これもサンプル機の管理も使用という意図が見えますね。細かい日本人にアピールするくらいしっかりしてます。

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航空機グレードアルミの筐体はさすがに質感高く、持つと重いというよりはずっしりとした質量感を感じます。またボリュームは適度に軽くトルクとクリック感があり、ねっとりと回る感じはやはり精密感があります。モノですね。

起動も早く、すぐに使うことができます。コントロールはキーで行い、選択後に右キーでポップアップ(コンテキスト)メニューが出ることを覚えておいた方がよいです。
表示は録音機っぽいレベルメーターと周波数表示、カバーアートが選べます。カバーアートは埋め込み式には対応してなく、同一フォルダにあるアルバム名(フォルダ名?)と同じファイル名のjpgを表示します。周波数表示では上限70k(90k?)まで表示され、CD品質、96kHz、192kHzの曲でピークが変わるのが面白いところ。ナイキスト周波数(サンプリングレート÷2)まで表示されるわけですね。

ゲインは二段階あって、Lでは高感度BAでの背景ノイズもなく、Hでは平面型のHE560でも鳴らすことができます。またトップウイングさんではHifiManの経験からケーブル式のミニ-標準プラグをつけるようです。普通のミニ-標準プラグだと弱いからだそうです。これでヘッドフォンでも楽しめるでしょう。
充電は5Vではなく12VなのでUSBではなく、専用のチャージャーを使用します。


* 音質

音質は価格に見合った大変高いレベルの音です。まず特徴的なのは音像が明瞭で輪郭が鮮明であることです。緻密で妥協をゆるさんという音で聴いてると緊張感があるほどです。聞き流すというより音に取り組まないと、向き合わないといけないと思えます。音の重なりが明瞭で、例えばヴォーカルの背景にかすかな楽器音が重なってるのが明確に分離できます。
また感じたのは低音域に置いて、とても低い超低域が浮き上がるように出てくることです。これはもちろん100-200Hzあたりを盛り上げるとか安易な作りではなく、ワイドレンジというか基本的な周波数特性が高いんでしょう。
クロック精度が高いと輪郭が鮮明になるとともに低域もしっかりとしてきますが、そんな感もあります。
しかしながら、音に無機的なところやいわゆるモニター的な無味なところはなく、少し暖かみのあるオーディオらしい音です。
ドライブ力も高く、低インピーダンスBAが高インピーダンスダイナミックのように引き締まります。あれ、これ本当にBAだっけと見直したくらい。
ロクサーヌあたりと合わせるとハイエンドオーディオかって思います。何この音ってたひたび、はっとします。

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オーディオでもクロックを高精度にすると良いのはわかりますが、ポータブルもそういう世界になったかという感じ。なお中国サイトで「原子クロックなみ」とサイトにあるのをLottoの人に聞いてみたら「あれは中国国内向けの宣伝文句さ」という感じでした。まあそこまでは無理にしても、やはりポータブルオーディオもクロック精度を求めるレベルの時代になったという気はします。

* まとめ

PAW Goldはナグラゆずりのメカとしての魅力にあふれた作りがまず特徴です。操作性は必要十分なくらいですが、音はポケットに入るハイエンドオーディオ、という感じですね。質実剛健なハイグレードモデルです。

私も長いことポータブルオーディオやってますけど2014年はポータブルオーディオの歴史に残る年になったと思います。大物の発表が相次ぎ、息つく間もない感じでポータブルオーディオが進化してきました。
PAW Goldは高性能据え置きオーディオなみの性能をもって、2015年にむけたリファレンスになりうる音質の高さをもっていると思います。
posted by ささき at 23:27 | TrackBack(0) | __→ ハイエンドDAP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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