34年前の今日、1980年10月1日にはじめてのCDプレーヤーであるSONY CDP101が誕生して、世界初のCDソフトであるビリージョエルの「ニューヨーク52番街」が発売されたそうです。デジタルデータによる初の音源ですね。実質的にそれからずっと今日まで、少なくとも日本ではCDが音楽メディアの主力となっています。
CDという規格は1979年にSONYとPhilipsで制定されたわけですが、CDDAというCDの記録形式は論理的なデジタルフォーマットであるにもかかわらずコンピューターとは互換性がなく、現在ではリッピングという作業によってこの古いCDDAフォーマットのデータをコンピューターにインポートする必要があります。これはある意味仕方がありません。1979年の当時に650MBものデータを扱えるコンピューターなど家庭にはなかったのですから。
コンピューターでCDをメディアとして使うには1985年のハイシェラフォーマット(のちのISO9660)を待たねばなりません。ここでやっとCDがコンピューターから直接認識つまりマウントができる時代になります。
1990年代も後半となると、CDの次世代規格としてSACDが登場しますが、物理メディアとしてのSACDは失速してCDに取って代わることはできず、中身のDSDが後に生き残ります。
2000年代になるとPCオーディオが台頭してきて、それまでの44kHz/16bitという物理メディアに縛られたCD規格に依存する必要は薄れてきます。そしてLINNがStudio Masterという名前で24bitデータを配信を始めて話題となります。ハイレゾ、High Resolutionの音源です。ただしそれは一部の人のものでした。
2013年にSONYが「ハイレゾ」をたからかにうたいあげると、ハイレゾは晴れて市民権をもつに至ります。そして2014年には日本や米国でハイレゾという規格はそもそもどういうものだ、ということでハイレゾの規格化が始まります。
このようにハイレゾというキーワードが浸透してきたことで、最近ハイレゾ対応をうたったオーディオ機材が出てきていますが、違和感を覚えることもあります。たとえば最近のハイレゾ再生機の定義として使われるJASの「高域再生性能 40kHz以上」ですけど、このままだと前にも書いたように40kHzでどれだけ減衰しているのかという基準がないとそもそも規格にならない、とも思いました。最近では自主的に「-10dB@40kHz」とか掲げるメーカーもありますのでこれはよしとして、もうひとつの問題点はそもそもJEITAが音源の定義で44/24もハイレゾ音源と決めているのに、JEITAを基本踏襲すると言っているJASのハイレゾ再生機器の定義が40kHz以上とだけ決めてるのは矛盾してるんではないかということです。
オーディオにおける24bitデータのポイントは、単にダイナミックレンジが広がるということよりも、16bitから24bitに増えたさいの差分の8bitは最下位バイトであるということだと思います。ここはもっとも小さな音の情報がはいっているところです。
16bitしか扱えないソフトやOSの場合には、よく24bitのデータは単に左詰めされて最下位の8bitはなくなります。ディザ処理とか高度な処理がなされる場合もありますが、たいていはそのまま再生されます。これで音が割れたりするわけではなく、単に極小音の情報がなくなるわけです。それは24色の色鉛筆を16色に変えた時に減るのが微妙な変化を担当する中間色だということに似ていると思います。音を豊かにする情報が足りなくなるわけです。音の奥行とかスムーズなつながりが減退するという感じでしょうか。
つまりはこの場合にはいかに小さな音が再現できるかということにハイレゾ再生機の定義がなされるべきかもしれません。これは以前に書いた「遮音性とダイナミックレンジ」の記事にも通じているでしょう。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/403635836.html
弱小音再現の指標としてはSN比などがあるかもしれませんが、それを提案したりするつもりはありません。ただ考え方として、40kHzという一面だけを取り出してとりあえずそれを定義としてしまうのはどうか、ということです。実際はそうした微細な豊かさはもっとトータルに音再現として現れると思います。
高い周波数と倍音に着目するのは良いと思いますが、それがゆき過ぎて耳は20kHzまでしか聞こえないけど顔とか体の表面で40kHzも感じるからハイレゾは意味があるんだ、とかいう話になるとどうなんでしょうか。証明されてないことを前提に仮説をたてるのは「ミステリーサークルはUFOが作ったと仮定すると一番合理的に説明できる」と言ってるのと同じで、便利だけど危険です。
また測定上は40kHzを保証しない機材であっても、測定上40kHzを保証する機材よりも実際に聞いてみてハイレゾ音源の音の豊かさが分かるということはオーディオの世界ではざらにあると思います。メーカーはハイレゾプレーヤーにはハイレゾ対応ヘッドフォンを買って下さい、と言いたいと思いますが、実のところ普及機の「ハイレゾ対応」ヘッドフォンよりも、ハイレゾ対応表明していなくてもフラッグシップクラスのヘッドフォンの方がハイレゾ音源の良さはよく分かるでしょう。
私は個人的にもハイレゾ音源の方が好ましいし、オーディオ業界の活性化を考えるとハイレゾムーブメントはあっていいと思います。またハイレゾに目が向くことで配信がみなおされ、いまCDに束縛されて硬直化してる日本の音楽業界を変えることもできるかもしれません。
しかし、あまりにハイレゾという言葉を便利に使うのは諸刃の剣となりうることを考えておくべきではないかと思います。
Music TO GO!
2014年10月01日
この記事へのトラックバック