DENON DA-300USBはDENONが発売したはじめてのヘッドフォンアンプ内蔵のUSB DACです。USB DAC機能がついたCDプレーヤーはありましたが、単体の製品としては初となります。
USB DACとしては後発になってしまいましたが、その分でDA-300USBには価格付けとそれに対する音質・機能の充実度で作り込みの高さが見られます。そしてDA300においては老舗オーディオメーカーとしてのDENONがそのCDプレーヤー開発のノウハウを注ぎ込んでいるという点も見逃せません。PCオーディオ機器ですが従来のオーディオ製品のエッセンスが詰まっているということです。
* オーディオ機器としてのDA-300USB
まずDA-300USBではAdvanced AL32 Processingというビット拡張の技術が採用されている点が特徴です。これはPCMの入力信号を32bitに補完しながら拡張するということです。CDの16bit精度を32bit精度相当にアップするわけです。
注目すべき点はその拡張された32bit信号を、DA-300USBの心臓でもあるPCM1795 DACチップに伝送するということです。PCM1795は32bit対応のDACチップですから、32bit DACで32bitデータを受けることでPCM1795の性能を最大限に発揮することができるというわけです。
PCM1795はバーブラウンの32bit対応DACチップICで、最近はバーブラウンの主力といってもよいと思いますが、特にDSD対応製品によく使われてます。また同時にサンプリングレートも44kHzならば16倍、192kHzならば4倍相当のアップサンプリングを行います。これも単純な変換ではなく、高精度に補完計算をしながら処理を行います。
普及機(DCD755RE)では普通のAL32 Processingですが、DA-300USBでは高級機(SX1)並みの進化したAdvanced AL32 Processingが採用されているのがポイントです。
また高性能オーディオ機器らしいのはDACマスタークロックデザインです。これはDACの持つクロックをソースのデジタル回路のマスターとして使うことで音質を高めるというものです。
例えばDENONではSACDプレーヤーDCD SX1で、SX1に内蔵されるSACDドライブの部分とDACの部分において音を変換するDAC側のクロックをドライブ側に送ることによってトータルの音質を高めています。これも高級機SX1ならではの機能であり、普及機(DCD755RE)では採用されていません。DA-300USBの設計はDCD1500よりも洗練されていてSX1により近くなっています。
PCオーディオのUSB DACにおいてはもちろんドライブはありませんが、同じく音の入り口であるPCとのUSBインターフェイスの回路部分にDACがマスターとなってクロックを供給することで音質を高めています。つまり仕組みとしては高級機と同じ内容のものを採用しているというわけです。下の図では右がマスタークロック方式で左が従来方式です。クロックの位置に注意してください。
DA-300USBにおけるマスタークロックデザイン
このようにDA-300USBはオーディオ機器としての機能が普及機ではなく、高級機なみの技術が採用されている点がポイントです。このほか、デジタル・アナログ独立電源などオーディオ回路設計が価格にしてはかなり贅沢に作られています。これは当初は価格的に機能設計はDCD1500RE相当の予定だったんですが、音質を突き詰めていくうちに結局Advanced AL32やらマスタークロックデザイン、その他でSX1相当になったということです。
これは実売5万円以下の価格を考えるとたいしたもので、USB DAC後発メーカーとしての戦略的な価格設定であると言えるでしょう。
* PCオーディオ製品としてのDA-300USB
PCオーディオ製品としてのDA-300USBの特徴は対応フォーマットが広いことです。最近はハイレゾ対応製品が気になる人も多いと思いますが、DA-300USBでは話題のDSD再生も含めて市販の高品質音源のほとんどに対応しています。USB伝送制御はアシンクロナスですからDA-300USB側のクロックを使用して高精度のDA変換ができます。
PCMでは192/24bitまでに対応していますが、これはUSBオーディオクラス2で実現しています。そのためWindowsではカスタムドライバーのインストールが必要です。これはASIOドライバーなので、WindowsではDSDはASIOでネイティブ再生ができます。DSDでは5.6MHzまでDSDネイティブ再生に対応しています。
WindowsにおいてはまずDENONのサイトからドライバーをダウンロードしてください。これをPCにインストールします。音楽再生ソフトではDENONのドライバを選択してください。ASIOを使うにはソフトにASIO対応が必要です。ASIO対応されていない場合には通常のドライバとして使うことができます。
つまりWindowsの場合は2つのパターンに分けられます。
1. 使用している音楽再生ソフトがASIO対応の場合
たとえばJRiver Media Centre(JRMC)です。この場合にはAudio DeviceではASIOドライバを選択して、DSDネイティブ再生でもASIOを使うことをお勧めします。この場合はDSDの再生は簡単で、JRMCならば設定からBitstreamを選んでDSDを選択しておけば終わりです。
JRMC19のDSD設定画面
2. 使用している音楽再生ソフトがASIO対応ではない場合
たとえば素のfoobar2000とかiTunesです。この場合にはWindowsのサウンド設定でデフォルトにDENONドライバーを選択します。foobarならoutputの項目で単にDENONドライバーを選択します。前述したようにDENONドライバーはASIOでなくても使用できます(この場合はASIOインタフェースとしては働きません、念のため)。
またfoobar2000の場合はコンポーネントでASIO対応にすることができますので、無料で始めたい場合にはfoobarがよいかもしれません。この場合はDSD設定はややこしいんですが、以前書いたQuteHDのfoobarでの使用記事を参照ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/271984782.html
WindowsにおいてはJRMCが機能も豊富で音質もわりと良いので、JRMCは用意していた方がよいと思います。JRMC19であればPCM音源でもDSD5.6MHzに変換して出力することができます。この設定方法はDSP Studio->output encoding->2xDSD in native ASIOです。ちなみにここでDoPを選んだ場合は2.6MHzでDA-300USB側でロックしますのでPCでもAISOだけではなくDoPが使えることがわかります。
WindowsではASIOを使ったほうがDoPのミュート・ポップ音問題に悩まされない分で良いかもしれません。ただDA-300USBの場合はDoPでも問題はないと思います。
Macにおいては192kHz再生であってもドライバーのインストールは必要ありません。これはWindowsと違ってMacは内部にUSBオーディオクラス2ドライバーを持っているからです。その代わりMacにおいてはASIOドライバーは使えませんので、MacでのDSDネイティブ再生はDoP方式を使用します。
Macの場合には音楽再生ソフトは設定の簡単さと音質の高さでAudirvana Plusがお勧めです。DSDネイティブ再生の設定はPreferenceからNative DSD CapabilityのところをDSD over PCM 1.0と設定してください。これだけなので簡単です。DoPでの曲切り替え時のノイズなどはかなり極小だと思います。
Audirvana PlusのDSD設定画面
MacからはDA-300USBはUSB HighSpeed Audioドライバーという名前で見えますが、注意点はDA-300USBが192kHzまでしか対応しないのにMacからは352kHzまで対応と見えていることです(上の画像でも353が可能になっていることが分かります)。実際に352kHzを出力すると無音です。
この理由はDSD128(5.6MHz)をDoPでサポートするためには352kHzが必要であるため(2.8MHzの場合は176kHzだから)、352kHzを形式上通す必要があるからです。PCMではあくまで192kHzが上限ですから注意ください。
一方でこれにより潜在的な問題が発生すると思います。たとえばAudirvana Plusなどで整数倍の最大値をアップサンプリング指定する場合、44kHzの最大値はこの場合に352kHzに自動的に計算されてしまい無音となりますので、別の設定にするように注意が必要です。
このほか入力はUSBだけではなくSPDIFや光にも対応してるので広いソースに対応しています。
DA-300USBの背面
また、DA-300USBのハードとして見るとPCオーディオ対応に対応する特徴はポイントは、PCノイズを遮蔽するためにデジタル・アイソレーターを採用していることです。これはトランス結合タイプでPCからのノイズを信号から効率よく切り分けることができます。
デジタル・アイソレーターのダイアグラム図とその効果
ここでもDA-300USBにおいて価格以上にこだわりのある設計をしていることが分かります。この辺は国産老舗オーディオメーカーとしての矜持を感じますね。
* ヘッドフォンアンプとしてのDA-300USB
DA-300USBはUSB DACとしてヘッドフォンアンプも内蔵しているので単体でも高音質で音楽が楽しめます。ヘッドフォンアンプ部分でもフルディスクリート構成のバッファーアンプを後段に採用し、十分な駆動力を確保しています。HD800でも問題あるとは思えません。
ヘッドフォンアンプ部は下図のような構成となっています。
@ボリューム回路前段にアナログ出力との相互干渉を排除するバッファアンプを搭載
A電圧増幅段にハイスピード・ローノイズ高音質オペアンプを採用
B出力バッファにはディスクリート回路を採用
ただスペックを見ると出力インピーダンスが32Ωと高い点が気にはなりますが、ここはさまざまなヘッドフォンとの相性や初期のAK100と同様に安全面などや海外での基準なども考慮して決められたようです。ヘッドフォンアンプもガレージメーカー製が先行していたせいでこの辺は気になりませんでしたが、海外に広く展開するメーカー品が多くなるといろいろな事情も重なって来るようです。
ただ音的に聞く限り、300オームだけでなく32オーム程度のヘッドフォンを使っても低域も十分なレスポンスを得ているので、DA-300に関しては実際的には大きな問題ではないと思います。
* 製品インプレッション
製品を実際に見てみると、パッケージング、梱包などがきれいでメーカー品らしいと感じます。いつもは段ボールにプチプチで無造作に入れられている海外製マニアックオーディオ機器に慣れているので新鮮に感じられます。
説明書もきれいに整えられていますが、マニアック製品を買う人は自分でDSD再生などは調べると思いますが、メーカー品を買う方はもっとコンシューマーよりだと思うので、PCオーディオ周りについてはもう少し詳しい手順書があった方がよいかもしれません。ただDSD再生では海外製再生ソフトを使うことが多いので、その辺まで踏み込むのは難しいとは思いますが、DA-300に限らずこうした製品の課題と言えるかもしれません。
ヘッドフォンプラグはなかなかきっちりとはまって抜けにくいと思います。こうした細かい点までしっかりしてると手を抜いてないという気がします。
外形的には縦横置きのコンバーチブルという点が特徴で、表示画面も縦横に対して回転します。外観デザイナーは女性を起用したということでなかなか滑らかなアールを描いたデザインです。ビスレスを意識したそうで、すっきりした外観です。
音のコメントですが、以下私のリファレンス機であるところのHD800で聴きました。(標準ケーブルです)
まず中高音域は聴きやすい帯域特性を持っています。音調が整っていて音色がきれいと感じますね。高いほうも鋭すぎずに、かつきちんとしたレスポンスを持っています。価格は安いほうですが、高いパーツに頼らずに粗さきつさが少ないのはなかなか注意深く設計しているのだと思います。Goldmundの"All will prosper"でのシンプルなアコースティックギターによる音の細かさも、アーティストが録音に凝っているところが分かるほどに表現を引き出してくれています。
中音域ではヴォーカルが前に出過ぎないので、全体にアグレッシブさがやや抑え目になっているのは自然な感じがするところです。ケイトブッシュの"50words for snow"での落ち着いてしっとりとしたヴォーカルは極めて魅力的でした。
また音空間の表現力もよく、音が滑らかでかつ音空間に深みを感じるのはAdvanced AL32の32bit化の効果が生きているのかもしれません。かなりレベルの高い音だと思います。
全体の音の感じはダイナミックでロックのドラムスではインパクトがよく伝わり、リズムの刻みが活き活きとして活力を感じます。
海外メーカーのオーディオ機器は個性的で知られていますが、国産のブランドでもさまざまな個性があると思います。Accupahseは偉大な中庸、Luxmanはおとなしめで上品などなど、DENONは濃くてダイナミックな印象があります。DA-300USBはわりと洗練された音だと思いますが、そうしたダイナミックさも引き継いでいるように思います。
ダイナミックさを特徴とするDENONのD600ならもっとロック・ポップにあった音を出してくれるでしょう。
コントラバスソロのグループSoNAISHの"AMAPOLA"を聞くとHD800でも十分な低域の量感があり、かなり低いところまで低域のレスポンスが伸びて言っているのがわかります。オーケストラでは録音にもうるさい作曲家アルヴォ・ベルトの"交響曲3番"で聴いてみると、各楽器の再現性は悪くないけれども、オーケストラの迫力という点ではHD800では今少しのところもありました。
クラシックはスケール感豊かなDENONのD-7100あたりで聴くととても良くなるでしょう。
一方でHD800で聴いていると、若干ゲインが低めなのでHigh/Lowのゲイン切り替えがあった方が良いと思いました。HD800でもポップ系の高めにマスタリングされている場合はだいたいは十分な音量で聴けますが、良録音のレベルの低い録音の場合は少しぎりぎりな場合もありました。ただDENONでは先に書いた海外の音量制限も考慮しているので、最大音量でも割れないで聴ける音という点に注意して設計しているということです。
そしてDA-300USBにはDSDネイティブ再生機能がついていますので、これはぜひ活用したいところです。DSD5.6MHzで聴くと音楽もいっそう引き立ちます。これはDA-300USBを買った人の特権みたいなものでぜひ体験してもらいたいところです。
DACとしてはDA-300USBのRCA出力から高性能ヘッドフォンアンプのHifiMan EF6につないでみました。同じくHD800で聴いてみましたが、これはちょっと驚きの音ですね。音の再現力に力感と温かみが加わり、かつ細かな音の再現は一級品です。EF6は平面型を鳴らすためのハイパワーマシンですが、その能力を十分に引き出しているように思います。楽器の音の切れの良さと引き締まったところからはDACとしてのDA-300USBのたしかな基本性能を感じ取ることができます。スタジオ系のDACにあるようないわゆる無機的とも言える着色感のなさではなく、音楽的な抑揚が感じられるのでモニターと言うよりはオーディオに使うDACに向いていると思います。
EF6+DA-300USB
DA-300USBは気軽に直接ヘッドフォン端子から再生してもなかなか楽しめる良い音ですが、DACとしてこうした高性能ヘッドフォンアンプあるいはスピーカーアンプにつなぐとさらに素晴らしい音の世界を楽しめるでしょう。
* まとめ
DA-300USBはさまざまなソース機器、さまざまな音源を入力として、デスクトップでの気軽なヘッドフォンアンプとしての単体使用から、オーディオシステムにDACとして本格的に組み込むところまで安い価格で多様に使える製品だと思います。
とにかく価格の割には音質が高く、DA-300USBを選んで聴きたくなるような魅力的な音楽再生が楽しめます。PCオーディオ機材としては5.6MHzのDSDネイティブ再生など最新の音源に対応するのもポイントです。コストパフォーマンスはかなり良いと言えるでしょう。
ヘッドフォンアンプとしてはゲインや出力インピーダンスなど、もうちょっと改良してほしい点はありますが、現状でも問題といえるほどでもないように思います(私みたいなマニアは突っ込みますけど)。
いろいろな基準・規制をクリアしなければならない大手メーカーの場合はマニアックメーカーほどの尖った仕様は作りにくいとは思いますが、反面で国産メーカー品としての品質やサポートでの安心感があります。人によって求めるものは様々なので、こうした選択の余地が広がったのは良いことでしょう。
総じて言うと、後発ではありますが、その分で価格を安く設定していて、設計も高級機のノウハウを上手に使い、DENONらしさ・老舗のオーディオメーカーとしての強みをうまく活かした製品に仕上がったと言えるでしょう。
Music TO GO!
2014年03月24日
この記事へのトラックバック