Music TO GO!

2007年04月17日

Triple.fi 10 proレビュー はじめの一週間

Triple.fi 10 pro(以下TF10pあるいはtriple.fi)はUltimate Earのコンシューマー向けハイエンドIEM(In Ear Monitor)の新型です。現在は量産品ではなくLimited Editionという限定の先行品が出荷されています。これまでの経緯などはうちのtriple.fiのカテゴリリンクをご覧ください。

tf10f.jpg

バランスド・アーマチュアは音の再現性は高いけれども周波数特性の広さにかけるようで、各社ともハイエンドは2Way方式を採用しています。triple.fiはユニバーサルタイプで高域がひとつ、低域が二つのドライバーからなる2Wayの3ドライバーです。ユニバーサル(汎用)というのはカスタムモールドタイプに対しての言葉で、プロ向けカスタムモールドタイプのUE10をユニバーサルタイプにしてコンシューマー向けのチューニングをしたものという見方もできます。

triple.fiのドライバーははじめの情報では高域がUE10と同じで低域は新開発という話だったと思いますが、最近の情報では高域・低域・クロスオーバーともUE10と同じらしいということです。ただしプロではなくコンシューマー向けの味付けがされているということです。
クロスオーバーというのは高域と低域のドライバーをどこでオーバーラップさせるかを決める回路で、余分の再生をカットするフィルターも入っている場合があります。言い方を変えるとドライバーに一番得意な周波数だけ(低域用には低域成分だけ)再生させる回路といえます。E5cなどはペンダントのような大きいものでしたが最近のものはイヤホン部分に内蔵されているようです。


ここで聴いているシステムはiPod nano(8GB)->ALO cryo micro dock->Tomahawk->triple.fiというものです。
いままではこれにER-4Pをつけていました。TF10pにしてからその前段のnano/アンプは変わりませんが、この一週間で変わったのはnanoの中身です。
ER-4PのときはおもにJazzや器楽曲を中心にいれていましたが、TF10pはなんでも聴けます。ロックもダイナミックでインパクトがあり、クラシックのオーケストラもスケール感があります。

なんでも聴けるといってもこれは音の広がりとか低域の豊かさといった性能的なポテンシャルについてであって、実際には音調によって好みが出ると思います。
大まかな音の印象という点ではヘッドホンには大きく二つタイプがあると思います。
ひとつはインピーダンスが低い/能率が高いグループで、最近のDENONとかGRADOのように明るく軽快な音調です。
もう一方はインピーダンスが高い/能率が低いグループで欧州系のゼンハイザーとかAKGがそうです。こちらは落ち着いて重厚な音になります。
TF10pはどちらかというと真ん中から少し後者よりに属します。ただしIEMとしては、という注はつきます。

さらに、もう少し細かく耳を傾けてみます。
高域はクリスプ&クリアできれいに上に伸びています。TF10pをぱっと聴いたときの第一の印象としては解像力とか切れ・音の立ち上がりの良さがとても高く感じます。特に楽器の再現性の高さは圧巻でER-4Pよりも楽器の違いと鳴りの違いを明確に再現します。ヴァイオリンやギターなど生楽器の震える胴鳴りは感動的です。
おどろいたのは前に書いたグールドのゴルトベルグ81年録音のアナログ録音とデジタル録音の差がオーバーヘッドの高性能機に近いくらい差がわかるということです。音の材質感というかテクスチャのようなものが感じられる高い再現性を持っていますが、こうしたIEMははじめてです。前に書いたときはポータブル機だと差はあまり分からないと書いたのはER-4Pを使ってさえという意味だったのですが、この部分は書き換えが必要になったようです。
高域に少しきつさを感じることがありますが、バランスド・アーマチュアはエージングにあまり関係しないということなのでこれは残るかもしれません。ただ曲によってはという程度です。

第二の印象はとても豊かな低域です。低域はボンという音の大きさ(強さ)の強調は実はあまりないと思いますが、量感が多く豊かなので結果として低域が強調されて聴こえることにもなります。ドラムのインパクトはダイナミックで気持ちがいいですね。
チェロやコントラバスの音など低域方向の解像力もすごく感じますが、これは高性能のUE10用高域ドライバーによって倍音の再現性が高いということも作用しているでしょう。

音の広がりもなかなか素晴らしくて音の洪水のような情報量の多さとともに包み込まれる感じがあります。TF10pのすごさは先に書いたソロの再現性だけでなく、トゥッティのスケール感がIEMとは思えないくらいあることです。器楽曲はともかく、オーケストラのトゥッティという言葉はER-4のレビューでは出てこないでしょう。
再現力は強音部でも余裕があり割れるところはありません。低域から量感豊かに吹き上がった音のうねりは高域の楽器の美しいきらめきでピークに達します。これがTF10pでは同時におきるのです。

Triple.Fiはクラシックやジャズ向けかというとそうではなく、ここで復活パープルのライブ"Come hell..."から定番のハイウェイスターやスピードキングなどに指が動きます。
E500のようなイヤホン自体のウォーム感はあまりありませんが、Tomahawkとの組み合わせでは適度なウォーム感が付加されて、ハイスピード・ダイナミックなノリのよさがとてもいい感じです。低域の迫力とあわせてパワフルなロックもかなりかっこよく鳴らします。何度聴いてもいい曲をさらに何回も聞き返してしまいます(笑)
ただここはTomahawkのダイナミクスをTF10pが遺憾なく発揮していると言ったほうがいいかもしれません。

いっぽうでTF10pの欠点としてよく挙げられるのはミッドレンジです。Headfiのレビューを読むとよく指摘されるのはrecessed mids(中域が引っ込んでいる)というものです。たしかに低域の量感が豊かなので結果として中域が埋もれるように感じることはあります。またヴォーカルの声の再現性自体はかなり高いものがありますが、ややドライ目に聴こえるのでヴォーカルが少し損をしているところはあるかもしれません。
ただし高域方向が美しいので女性ヴォーカルは悪くないといえます。遊佐未森の「君のてのひらから」のキーの高いヴォーカルがひときわ澄んだ美しい余韻を弾きつつ空間に消えていきます。

帯域バランスとしてはやや低域過多とはいえるかもしれません。たとえばER-4Pだと音楽を聴いていて急にe-chat Vancouver(お勧め)などの英会話ポッドキャストに切り替えても違和感なく聴けましたが、TF10pだと会話などはバランスがあまりよくありません。またここでは背景のノイズフロアがやや高く感じます。低域方向の解像力がときにいまひとつ解きほぐれなく聴こえるのも能率が高くインピーダンスが低すぎる問題のように思えます。


音以外では、装着性に難があるというのが一番大きな問題だと思います。海外のHeadfiでもよく指摘されますので、耳の小さな日本人はなにをかいわんやです。わたしははじめてE2cをつけたときのことを思い出しました。
とはいえ、IEMの場合ははまってないと確実に低音が逃げるので、ここは困り者です。

tf10e.jpg

アンプとの相性はノイズフロアの低いTomahawkが抜群ですが、SR71もよいです。ただIEMにSR71はちょっとオーバーすぎるきらいがあります。SuperMacro4はインピーダンス付加スイッチなどER-4Pにはあつらえたようにいいんですが、triple.fiにはいまひとつです。Xinのアンプは一般にノイズフロアがやや高いのが難に思えます。
E5cとかに比べると能率はやや低いのでE5cほどはノイズフロアを引き上げませんが、ER-4にくらべるとやはりアンプを選んでしまいます。
もちろん能率が低目といってもそこはIEMで117dBもありますのでnano単体でも鳴らせますが、ちょっともったいない気はします。単体だといままでTomahawkで感じていた何回も聞き返したいという魔力のようなものは消えうせてしまいます。


ワンフレーズでまとめると、ひとレベル違う切れの良い解像感と厚く豊かな低音で"IEMのEdition7"ちっくと言いたくなります。(もちろん誤解を恐れずにたとえれば、ということです)
またやはりTomahawkを組み合わせるというのがミソです。この手のひらに乗るシステムがフルサイズポータブルシステムに匹敵するという痛快さもあります。nano/tomahawk/triple.fiという組み合わせはひとつのスタンダードと思いますね。自分でも非常に満足するコンパクトシステムができたという感じです。


しかし、、
本当はTriple.Fiを買ったらWestone 3はやめようと思っていたんですが、これが最新のIEMの性能かと思うと逆にWestone 3もほしくなってしまいました(笑)
Westone 3はTriple.Fiとも違ってミッドレンジに強みがあり、全体的にもまたちょっと引いたTriple.Fiよりアクティブな予想もあって使い分けできそうに思います。フィットが悪いTF10pに比べると装着感がよいという評判もプラスです。
あとTF10pはフィットがよければ音的には申し分ないところなのでカスタムのUE10がほしくなってしまいますが、クァッド(4)ドライバータイプの新型といううわさもちょっと見え隠れしているのでここは様子見。。
いずれにせよ、高性能IEMというゴリアテを倒すダビデの世界にちょっとまた興味が出てきました。
posted by ささき at 22:29| Comment(2) | TrackBack(0) | __→ UE triple.fi 10 pro | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
たまにこちらのHPを拝見しています。
ささきさんのコメントに押されていままでER4P/S、SR71とかケーブル各種を買っていましたが今回TRIPLE.FIもいってしまいました。(トマホークはまだですが。)Martin Stadfeldというドイツの若手ピアニストのゴールドベルグ変奏曲を聴いています。これからもすばらしいレビューをお願いします。
Posted by ben at 2007年05月19日 23:34
TRIPLE.FIの購入おめでとうございます。
こまかな演奏のニュアンスも聴き取れるようで、クラシック好きにも良さそうですね。
Posted by ささき at 2007年05月20日 21:07
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