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2014年03月25日

Astell&Kernの新世代フラッグシップ、AK240レビュー

ハイレゾDAPの究極というべきAstell&Kern AK240が先月から発売開始されました。

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AK240のうたい文句は"Be the Ultimate"「究極であれ」ですが、この究極という言葉は今出てきたわけではありません。
いまをさかのぼること7年前に当時のiriver CEOが「究極のプレーヤーを作ろう」と提唱しましたが、このときは技術的な制約で作ることはできませんでした。その機運はiriver内にくすぶっていたのですが、いまのヘンリーパーク氏がCEOになると「この究極のプレーヤーを作ろう」という機運が再び活性化し、そのリードを今回ポタ研にも来日してくれたジェームズ副CEOがとります。そして生まれたのがAK100(初代)です。そのときに掲げたブランドポリシーのひとつが「究極」であり、それがAK240で結実したわけです。

私は初代AK100からずっとこのシリーズを見てきたわけですが、AK100、AK120、AK100MKIIと来て、このAK240では番号が大きく変わっていることに気が付くと思います。AK240という番号からはAK120の倍という印象もあるかもしれませんが、AK240は単なるAK100番台モデルの延長にあるわけではありません。AK240は外も内も大幅に刷新された新世代のフラッグシップと言えるモデルです。そしてそれはAstell&Kernというブランドの方向性を示すコンセプトモデルでもあるといえます。それを以下解説していきます。

* AK240の特徴

まずAK240の特徴と従来シリーズからの変更をまとめます。
細かな仕様は下記AK240の日本語ホームページを参照ください。
http://www.iriver.jp/products/product_98.php

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1. 刷新されたデュアルDACシステム
DAP(デジタルオーディオプレーヤー)は大きく分けて、音源をアナログ音声信号にするDAC部分とそれを増幅してヘッドフォンを鳴らすアンプ部分に大きく分かれます。
AKシリーズはDAC部分の優秀さで知られていたわけですが、そのかなめであるDACチップはAK240ではいままでのウルフソンからシーラスロジックに変更され、定評あるCS4398に変更されました。CS4398はシーラスロジックのトップグレードモデルで、いくつもの高級オーディオ機器にも採用された実績があります。つまり普及タイプであった前のWM8740よりも単体で能力は高いということです。またCS4398はのちに述べるDAP単体でのDSDネイティブ再生の実現にも貢献しています。
AK240は旧AK120がWM8740デュアルだったように、ハイエンドモデルらしくCS4398を左右デュアルで搭載しています。デュアルDACは左右チャンネルを別々に処理できると同時にひとつのDACの負荷が減りますので性能を存分に発揮できます。

2. DAP単体でのDSDネイティブ再生
またAK240は単体でDSDネイティブ再生を実現している点が画期的です。いままでのAK100や120でもファームアップでDSD再生に対応していましたが、それはPCMに変換してDSD再生に対応していたわけです。これはDACチップのWM8740自体がDSD対応できなかったからです。AK240ではCS4398を採用することで、DAP単体でDSDネイティブ再生に対応しました。AK240は最大DSD128(5.6MHz)のネイティブ対応が可能です。
AK240では処理能力の高いデュアルコアプロセッサを採用するとともに、DSD再生の際に負荷がかかると補助的なプロセッサコアが作動してなめらかな再生を保証するようです。これはnvidiaのARMプロセッサにあるようないわゆる+1コアのようなものだと思いますが詳細はわかりません。(これはDSDデコードさせてるXMOSのことかもしれません)
なおPCMでの再生は最大192kHz/24bit、32bit(Float/Integer 24bitダウンコンバート)です。
1.09アップデートでダウンサンプリングですがDXD再生に対応しました。

3. 単体でヘッドフォンのバランス駆動に対応
AK240では単体でヘッドフォンのバランス駆動に対応しています。ポータブルでのヘッドフォンのバランス対応にはさまざまな端子があるので注意が必要ですが、AK240は独自の2.5mmマイクロミニ端子という専用規格を用いています。2.5mmバランス端子のピンアサインは先端からR-/R+/L+/L-です。
これは現在国内でもFitEarやWagnusなどから提供が予定されています。また海外でもMoon Audioなどで対応が考えられているようです。

4. 内蔵メモリ容量は256GB
AK240は内蔵で256GBもの広大なメモリーを有しています。これは現在のDAPで最大のものです。MicroSDカードのスロットはひとつになりましたが、256GBもの内蔵メモリがあるために、むしろスロットは開けておいて購入したハイレゾMicroSDや試聴曲などを使うために取っておいてもよいと思います。

5. 転送はMTPに変更
また、パソコンからAK240への転送は従来のマスストレージクラスではなくMTPで接続されるようになりました。MTPというと難しいのですが、Windowsなんかではドライブのところではなく、ポータブルメディアプレーヤーとして下のほうに出るアイコンです。
注意点はWindowsPCでは特にありませんが、MacではAK240とのやりとりで別途ソフトのインストール(Android data transferなど)が必要です。

6. 刷新されたボディデザイン
まずAK240を見て目を引くのは刷新されたユニークなデザインでしょう。筐体はハイエンドオーディオ並みの航空機グレードのジュラルミン(アルミ合金)です。ボディデザインはかなりユニークですが、これは光のシェードを表したものです。つまり右のボリューム側の張り出し部分は光の陰になるわけです。

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また最近はオーディオ機材にカーボンを使うのが流行りですが、AK240ではカーボンをバックパネルに採用しています。ディスプレイは有機ELの3.31型タッチパネルで広くなりました。

7. 刷新されたプラットフォームと操作系
AK240は外観だけではなく、中身も大きく進化しています。ソフトウエアの中核部分にAndroidを採用したことでプラットフォームが刷新されています。Androidベースではありますが、Walkmanのように素のAndroidをそのまま使うのではなく、高度に手を加えていてふつうの人はまずAndroidが使われていることがわからないでしょう。そうした点を意識することなく、タッチ操作系とWiFiをはじめとする機能に大きなアドバンテージを得ることができています。
またデュアルコアプロセッサが採用され、ソフトウエアの演算性能も向上させました。これはハイレゾやDSD音源の広帯域再生で効果を発揮して再生のもたつきなどの根本的な解決となるでしょう。

8. 多彩なWiFi機能
最後に書きましたが、実のところ個人的に注目度が高いのはこの点です。まずAK240ではWiFiネットワークを使ってスマートフォンのようにアップデートが可能になりました。また家においてはWindowsPC/Macの中にある音源をストリーミングすることが可能です。ワイヤレスにおけるハイレゾデータのストリーミングはPCオーディオの世界においても稀有な実現例です。
そしてWiFi経由でAK240から直接ハイレゾ音源を購入することが可能です(日本では準備中)。

このほかには好評だった光出力、USB DAC機能は継承されました。AKシリーズはファームアップで進化するプラットフォームですのでさらなる進化も期待できるでしょう。

* AK240インプレッション

次に実際にAK240を使ってみてのインプレッションを書いていきます。

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箱には"Native DSD"のラベルが貼ってあり、これがAK240の売りであると主張しているかのようです。箱はAK120よりも大きくなっています。また中箱がフェルト調になり、いままでよりパッケージも高級感があります。中箱はAstell&Kernと印刷されたタブを持って持ち上げてからAK240を取り出した方が良いようです。
本体にははじめ薄くラップがあるので剥がします。液晶にははじめからプロテクトカバーが貼ってあります。

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AK240を手にとってまず思ったのは高級感です。いままでのAK100ラインよりクラス上というより別格にも思えます。AK240の造りの良さには感銘します。AK100/120シリーズの無骨な造形に比べるとエレガントで質感の高さを感じますね。
筐体はハイエンドオーディオ並みの航空機グレードのアルミ合金(ジュラルミン)です。ボディデザインはかなりユニークですが、これはユニークさとともに左手で持った時に指がかかるところに張り出し部分を持つことで握りやすくなっています。また向かって左下の角が取れているのもシェードを表現したデザインだけではなく、手のひらにぶつかる角を削ることで手にやさしくホールドできるように人間工学的にも優れています。デザインはライカのデザイナーに依頼したということです。ライカというとレトロなイメージもありますが、工業デザインには秀でていて、デジタルカメラのS1などもかなりユニークでかつ人間工学的なホールドを意識したモダンなセンスにあふれています。
高級オーディオ機器のような斬新なデザインと航空機グレードアルミの質感は小さいながらハイエンドオーディオの風格があります。

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AK120からついている革製の付属ケースもAK240で引き継がれています。もちろんイタリア製の保証書(CONCIATA AL VEGETALE - イタリアなめし本皮組合)のついた本革で、箱を開けると革製品の匂いがたち、本格的な革製品という感じがします。この上質感はAK240の質感の良さに花を添えます。AK100シリーズがブッテーロ革であるのに対して、今回のAK240ではミネルバ革になりました。個人的には実用を感じさせる前のブッテーロよりも、美しく革製品らしく艶やかさを感じますね。
AK120だとあまり考えずに革製ケースに入れましたが、AK240では本体の質感が高いことから、ケースなしでも持ちたいところです。この辺は箱を開けた段階で悩ましく楽しい選択と言えるでしょうね。

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JH13 + AK240

音質ですがエージングなしの箱を開けた状態でまず旧AKシリーズとはレベルの違いを感じます。
まずはじめにアップデートをしてくださいと言われていたのですが、その前にちょっとだけ聞こうと思ってJH13を取り出しましたが、そのままJH13を離せずにずっと聴き入ってしまいました。以下主にJHAudio JH13で聴いています。
音を聴くとAKシリーズとの違いに愕然としますね。豊かな音再現、さらに洗練された緻密な細部表現は圧巻です。
たとえて言うと、まるでポータブルアンプをつけてるかのような豊かな音再現です。実際にいくつかポータブルアンプを後でつけてみましたが、個性としては音の着色の違いをたのしめますが、性能的にはそう決定的な差にはならないと思います。これは以前にプロトタイプを聞いたときにも思ったのですが、製品版ではさらに細部に磨きがかかっています。

AK120でもAK100とは差を感じましたが、いうなればAK100からAK120は細かさなどDACの差、または出力インピーダンスなどの部分・部分での差だったと思います。AK120からAK240はもっと全体的な差を感じますね。完全に別物という感じです。AK120と同じ曲で比較すると、AK240では細部がより音数があり重なり合いが立体的で、全体に豊かで音の濃密感・豊かさが違います。
つまりいままでのAK100/120シリーズとはDACの部分でもアンプの部分でも大きな差を感じます。ディスクリートで設計されたといいますが、いままでのAKシリーズではDACはよいけれどもアンプが弱くてポータブルアンプと組み合わせたいと思っていましたが、AK240ではそれが改良された払拭された感があります。

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また高性能でもいわゆるモニタライクではなく、ドライになりすぎず音楽性が高いのも特徴的です。
ファームウェアのバージョンにも幾分左右されますが、かなりロックポップにも向いたアグレッシブさも聞かせてくれます。良録音のクラシックからオールドロックも対応できるオールジャンルで使えると思います。
最近発売されたアイオナ(IONA)ライブのようにアイリッシュでありながらビートの聴いたロック、またはYuka&Chronoshipのような新しい古いロックの和製プログレバンドでもAK240はカッコ良くスピード感があります。ドラムスやらベースのブンブンビシバシいうインパクトの打撃感が気持ち良く効いています。
またAK240聴いてて思うのはダイナミックとBAの差が良く分かるということです。例えばハイブリッドのUltrasone IQをEstronあたりでリケーブルして使用するとベースのアタック感・インパクトが半端なくクセになります。写真のIQはMMCX Estronでリケーブルしています。

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Ultrasone IQ + Estron MMCX + AK240

オーケストラでのスケール感も一級品だと思います。Reference Records HRX(192kHz/24bit)のブリテン・青少年のための管弦楽入門は文字通りオーケストラのさまざまな要素が紹介され、テストのためのリファレンスに好適ですが、これをAK240で聴くとワイドレンジを感じさせます。とても低い低域までずーんと出て、高い方は鮮明でもきつさはまったくありません。CS4398的な美点も感じますが、高解像度なのにきつさがないというのはハイエンドオーディオのような品質の良さを感じさせます。
もちろん迫力もたっぷりとあります。音空間が広大というか雄大さを感じさせます。AK240の音の良さの特徴は音空間が広いということが挙げられます。これはバランス駆動でなくても実感できますし、いままで音が広いと思っていたZX1よりも格が違います。ZX1では平面でしたがAK240は空間を感じます。ZX1にHPAを加えようと思ってる人は間違いなくこっちの方が良いと思いますね。ZX1も良いと思ってたけど、AK240と比べるとAK240はひとクラスレベルが上という感じです。AK240からZX1に変えると音が薄くなり、力が抜けて、音が歯抜けした感じです。ZX1はDSSEオンでAK240はCD品質ままでも同じで、基本性能の格の違いを感じさせます。

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AK240とSONY ZX1

iBasso DX100あたりと比べても差を感じさせてくれます。音全体のレベルがAK240のほうが高いということもありますが、それよりもAK240では音質の均質性が高くよく整った高レベルな音つくりを感じさせてくれます。ここは老舗iriverの底力というか開発力の高さを改めて感じさせます。

またAK240は圧縮音源でも十分いい音で聴かせてくれます。ロスレスとの音質の違いも明確に描き出す一方で、音作りのバランスが良いので圧縮音源でも破綻しない感じです。iTunes購入のBen HowardのOats in the waterも雰囲気よく鳴らしてくれました。これはWaking Deadのシーズン4でハーシェル医師が自分の無力さに悩み聖書をめくるシーンで印象的に使われてるんで、ネットで曲名調べて買ったものです。はじめアメリカの逝ってる擦れたカントリーSSWかと思ったけど、イギリスの青年SSWだったとは意外でした。日本ではCDで売ってないようですが、こういう音との出会いもあるので、実のところいまだiTunes Storeなんかも欠かせません。

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電池の持ちに関しては、はじめエージングしていた時の感触からするとさまざまなビットレートの曲を入交って使用してだいたい8時間ほどでしょうか。使ってると少し暖かくなるのでまじめに仕事している感じです。
はじめに入っていたファームウエアは1.03でした。これはわりとウォーム感を感じさせるオーディオ寄りのものでしたが、1.05でスタジオ寄りと思われるフラットでより自然な1.05になり、リリース時点では少しまたオーディオ寄りに振ったと感じられる1.07となりました。1.08では大きく変わっていないと思います。ただし上で描いたような音の基本的な特徴は同じです。いまのところ最新は1.09ですがこれはまた少し音が変わって1.05に近く戻った気がしますが、AK240の高性能を生かしていると思います。


またAK240の大きく特徴の一つはDSDネイティブ再生に対応しているということです。いままでのAK100/120シリーズでもファームウェアアップでDSD再生に対応していましたが、これらはいったんPCMに変換をしていました。AK240ではついにDSDをそのまま再生できるDSDネイティブ再生に対応しました。DSD音源は基本的なSACDレベルのDSD64(2.8MHz)とDSDのハイレゾともいえるDSD128(5.6MHz)に対応しています。DSD128対応はPCオーディオ的にも最新のスペックと言えます。ファイルとしてはDFF(DSDIFF)もDSFも両方対応しています。
DSD音源ではオールDSD製作されたというジャズの類家心平の4AMを聴いてみました。AK240で聴いてみるとちゃんとDSDらしい硬さの取れた柔らかいアナログチックな音が出るので感激します。一曲目はかなり派手なうるさい音楽ですが、うるさく感じません。70年代ジャズっぽいと言われる4AMをアナログ的な音で聴くと録音意図がよくわかりますね。パラメータとかいじりながらPCM変換して聞いてたのはなんだったという感じです。4AMってやっぱりこういう音楽だった、と感を新たにさせてくれます。

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FitEarバランスケーブル(試作品)

さらにAK240では音質を高めるためにヘッドフォンのバランス駆動を採用しています。これは2.5mmマイクロミニ端子という専用独自4極プラグの規格を用いています。
これは専用に作られたケーブルが必要ですが、実際にFitEarの須山さんから試作品をお借りして試してみました。パルテールや335DWで比べてみましたが、001標準ケーブルなのでありなしの差がわかります。バランス駆動のAK240はかなり差があると感じます。立体感だけではなく、音の表現力がひとクラス上となります。4芯で空間表現力は音の洗馬レーションが良くなるのはもはや当たり前として、バランス駆動は力もあるのでイヤフォンの能力を引き出してくれる感じが必要です。AK240ではそうした独自の世界をもたらしてイヤフォンの音質を高めてくれることでしょう。
バランス駆動へは設定メニューから切り替えますが、アンバランスと排他的でどちらかしか使えませんので注意ください。

AK240は音質的に高性能で音楽性も高く、アンプ部分を含めたトータルの能力が向上しています。それを外付けのアンプなしでコンパクトなパッケージのまま実現しています。多くの人が、欲しかったのはこれだ、と感じることでしょう。
AK100/120はスタジオ用としても重宝されてきましたが、AK240はAstell&Kernの中でもスタジオ用というよりはオーディオ用のリファレンスモデルとして位置づけられています。
音を聞いてもいわゆるモニターライクな音ではない、これはまぎれもない堂々たる上質なオーディオの音です。
AK240の音質はポタ研の試聴会でも実際にMacbook+据え置きDACと聴き比べて試してみました。堂々とした据え置きDACと高性能スピーカーを組み合わせたシステムでも実証できたのではないかと思います。AK240とAKスピーカーを組み合わせた音は堂々としたサウンドで東京インターナショナルオーディオショウに出品させたいと思わせるほどのレベルの高さを聴かせてくれました。

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Astell&Kernのスピーカーとアンプ

* AK240の機能

次にAK240の機能面での向上を見ていくことにします。

AK240で目立つ特徴の一つは内蔵メモリ容量が内蔵256GBもの大容量を実現したことです。さらに一基のmicroSDXCカードスロットでDAP随一の大容量を実現しています。これも世界最大(14/2/21時点)です。256GB(128GBx2)のメモリを単一ボリュームにしたのも苦労があったということです。
はじめにAK120にはいっていた音源をすべてAK240にコピーしたんですが、60GBもの音源をコピーし終わって、メモリ使用情報を見るとちょっとしか(1/4ほど)減っていないので驚きましたね。これだけあればFLACではなくWAVで入れるというぜいたくな使い方も可能でしょう。

またデータ転送についてAK240では方法がMTPに変わったのも注意すべき点です。MTPはマイクロソフトのものなので、WindowsPCでは問題ありませんがMacでは注意が必要です。
MTPというと難しく聞こえますが、これはWindowsのエクスプローラーでは右下に出てくる小さなポータブル機器アイコンのことです。スマートフォンなんかはよくこれで転送しますね。対して従来のAK100/120ではマスストレージクラスで接続していたのでドライブのところに表示されていたはずです。
少し詳細に書くと、マスストレージクラスの場合はPCのハードディスクにあるのと同じく自分のファイルシステムにあるわけですから、低レベル(ハード寄り)のブロック単位で転送します。つまりマウントが必要であり同時に「安全に取り外し」が必要となります。もし転送中にぬいたりすればパソコンもDAPも痛める危険性があります。
MTPの場合はパソコンから見てDAPがあたかもファイルサーバーであるように転送しますので高レベルのファイル単位の転送です。つまりマウントする必要はありませんし、「安全に取り外し」の要もありません。転送中にぬいてもパソコンもDAPも痛める心配はありません。
しかし基本はWindowsとかAndroid世界のものなので、MacではAK240とのやりとりで別途ソフトのインストール(Android data transferとか)が必要です。ここを注意してください。

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Android data transfer(Mac)

このMTPに見られるようにAK240では随所でAndroid的な振る舞いがかいま見えてきます。AK240では内部的にAndroidプラットフォームに切り替わったのも大きな変化です。
ただしSONYのZX1はほぼ素のAndroidを使用していますが、AK240はたぶん普通では気がつかないでしょう。AK240では作り込みのレベルが違います。AK240におけるAndroid化はWalkmanのように汎用プラットフォームを狙ったものではなく、その中核機能をうまく利用してより高いレベルの機能を実装するための手法と言えます。

たとえばメニューを開けて行くと機能と操作性の向上に気がつきます。ギャップレスやシャッフルなどの設定はAndroidのように上から引き出すメニューで行います。私なんかはシャッフルと順再生をよく使い分けるのでこれは便利ですね。
またキー配列をカスタマイズできるのも片手で操作する際に指で使いやすいように配置ができます。またメディアスキャンやファームウェアの確認には通知ウインドウが使われます。

しかし、やはりAK240におけるAndroid利用の最大のメリットはWiFi機能を大幅に取り入れられたことでしょう。
これには大きく分けると、スマートフォンのようなWiFi経由でのファームウェアアップデート(OTA - Over the Air)、ワイヤレスでのストリーミング再生、そして日本ではのだ準備中ながらワイヤレスでAK240単体でハイレゾ音源の入手が可能となったことがあげられます。WiFi機能を使うためにはあらかじめWiFi設定をしておく必要があります。設定メニューからWiFiをオンにして、WiFiネットワークを選択するとソフトキーボードが現れて文字と数字が入力できます。そこから暗号化キーを入力します。

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まずOTAによるファームウェアアップデートですが、いままでのファームウェアアップデートではまずネットなどでアナウンスを聞いてアユートさんのサイトに見に行って取ってきて、AKに転送して入れて更新するという手順が必要でした。AK240ではWiFiをオンにした時に自動的にアップデートの確認をして、もしあればそのままダウンロードが可能です。

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具体的な手順はまずAK240をWiFiネットワークにつなぎます(インターネットにつながってる必要があります)。この時点で新ファームウェアがあると通知ウインドウにその旨が表示されます。次にAK240の設定からアップデートを選択すると、システムとアプリケーションアップデートがあります。更新があるとNEWと出てきます。選択して進むとすぐにアップデートがオンラインではじまります。どのバージョンのどのファイルをメーカーサーバーから落としてくるかと悩む必要がありません。
ただしWiFi環境がないユーザーでもアップデートができるようにアユートさんではこけまで同様のダウンロードファイルでのアップデートも用意しています。これは日本独自のサービスだそうです。

そしてAK240で白眉と言える機能は実のところWiFiワイヤレスによるストリーミング機能かもしれません。
これはPCに内蔵される音源をWiFiワイヤレス経由でAK240にストリーミングして再生するというものです。これはなんとハイレゾ音源のストリーミングにもワイヤレスで対応しています。またiriverの人に聴くところによるとDSDネイティブ再生もワイヤレスストリーミングで可能にしているとのこと。

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MQSサーバー(Mac)

具体的にいうとPC(またはMac)にサーバーソフトをインストールして、公開する音楽フォルダーを指定します。次にサーバーをオンにするとストリーミング可能になります。AK240ではMQSストリーミングをオンにするとサーバーをWiFiネットから検索して、接続します。見つかってPC/Macのサーバーに接続されると、AK240ではいままで内蔵音源が見えていたものが、PCサーバーの中の曲やアルバムを表示するようになります。音源を選んで再生するとPCからAK240にワイヤレスでのストリーミングが開始されAK240でPC内の音源を再生します。
DLNAをご存じの人は、AK240がコントローラとメディアレンダラーが合体したようになると言えばわかりやすいかもしれません。ただDLNAではなく独自のシステムです。
ここまで進歩したハイレゾDSD対応というストリーミング、しかもワイヤレスでそれを行うという高度なシステムは数百万円を誇示するPCオーディオの世界でもまだありません。AK240はそれほど高度な「オーディオ機器」なのです。

* AK240とAstell&Kernの目指すところ

これはもう"MP3プレーヤー"なんていうカテゴリーの機器ではありません。スピーカーの世界の普通のオーディオ機器と同じもので、ただ、とても小さいだけです。もしかするとそれ以上かもしれません。なにしろDSDネイティブ再生やワイヤレスでのハイレゾストリーミング再生など、PCオーディオ機器として考えても最先端の機器でもあります。AK240は高価をよく揶揄されますが、試聴会で披露したように据え置きオーディオと比べてもその音質をゆずるものではありません。

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ポタ件でのAK240発表会の様子(左端は私が発表しているところ)

試聴会ではAstell&Kernブランドのスピーカー・アンプも披露いたしました。一見スピーカー・アンプとAK240は関連なく思えますが、Astell&Kernのポリシーを示すという点で共通しているのです。
それは先日のNewyork Timesの記事が示唆しています。この中でAstell&KernのOwen KwonはAK240は"showing the direction we are headed in hi-fi. (AK240は我々がHiFiへ進むことを示すものだ)”と語っています。この言葉からAK240とハイエンドスピーカー・アンプ製品の結びつけも感じられるでしょう。つまりAK240はAstell&Kernのブランドとしての意思を示すデモンストレーターとしての役割を持ってると思います。上のNewYork TimesのインタビューでもAK240は多くは売れないだろうとiriver側でも考えていたことがわかります。iriverではたとえ売れる製品ではなくとも「究極のプレーヤー」としてこれからAstell&Kernが歩む道を示したかったわけです。
しかし、ふたを開けてみると、AK240はフジヤさんをはじめ各オーディオ店で初回予約完売があいつぐ人気商品となり、ひと月以上たったいまでもたくさんのバックオーダーを抱えています。
iriverのジェームズ副CEOは日本からの意見は特に重要と考えているということを話していました。それはフィードバックが細かく正確で、使いこなすマニア層が多いからということです。そうしてAK100を育てた日本のユーザーが今またAK240の世界を育てようとしています。

いまポータブルオーディオの世界は進化しています。ハイエンドメーカーのCHORDやAyreがポータブル製品を作ると数年前にだれが想像しえたでしょうか。ハイエンドオーディオは死につつあるといいますが、実は形を変えただけなのかもしれません。
進化したスマートフォンが旧来のパソコンに取って代わりつつあるように、進化したポータブルオーディオが旧来のオーディオに代わりつつあるというだれも経験したことのない新しい世界への扉を開けるのはAK240を手にした人なのかもしれません。
posted by ささき at 22:55 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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