Music TO GO!

2014年01月28日

BSG TechnologyのReveelとM/S処理のオーディオ活用

こちらユニークな製品の紹介です。
見た目はコンパクトな普通のポータブルアンプで、アナログイン・アナログアウトがあるだけのシンプルなものですが、ただのポータブルアンプではありません。というかアンプと言えるかどうか。これはBSG Technologyというところの開発した"Phase Layering"技術を応用して作られたポータブル・デバイスです。簡単に言うとDAPなどの出力につなげて音質を向上させるものです。

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Reveelは昨年(2013)の11月か12月頃に発表されたもので、名前は英語の「暴き出す」の意味のrevealから来ていて、文字通り録音されているが聴こえなかった音楽情報を暴き出すというものです。開発元のコメントではこの技術はDSPではなくアナログドメインでおこなわれ、クロスフィードの類でもない、もとの信号にないものは足さないとサイトには書かれています。
これだけ聞くとあやしく聞こえますが、特許情報などから調べてみると実のところ使用されている技術はオーディオの世界に古くから知られているものをベースにしています。それはMid-Sideステレオ処理(MS処理)です。
また本稿ではそれに付随する技術としてBlumlein Shuffleも紹介していきます。なぜかというと、本技術は欧米では"Blumlein Shuffle"として紹介されることが多いようすだからです。

*Mid-Sideステレオ処理とBlumlein Shuffleについて

まずMid-Sideステレオ処理とはなにかというと、録音した情報をL chとR chから派生したMid(中央部)とSide(側方)の情報にわけて、さらにはそこから再度LとRを取りだすというものです。こうすることでステレオイメージの調整ができます。
MidというのはM=(L+R)で計算されるステレオイメージの中央部(センター)の情報で、SideはS=(L-R)で示されるステレオイメージの側方部分の情報です。S=0(つまりL=Rのとき)のときはセンターイメージだけとなるので、Sを増減させることでステレオイメージを広げたり縮めたりすることができることがわかります。なぜ(L-R)の計算で側方部の音が取り出せるかと言うと、LとRに均等にある音は中央部の音ですから、片方を逆相にして加算すればその部分の音は打ち消されるからです。
またLとRは前述の式から2L=M+S, 2R=M-Sとあらわされますから、MidとSide情報からふたたびLとRを取りだすことができます。L/RからM/Sへ、そして再びM/SからL/Rへと戻せるわけです。この際に2倍されるのでオリジナルよりも3dB音圧が上がることになります。

ただ、このMid-Sideステレオ処理では単純にSを増減させると高音域と低音域でステレオイメージが異なると言う問題が出てくるようです。それを解決するのがStereo shuffling(Blumlein Shuffle)という技術です。これはAlan Blumleinというイギリス人が中心に開発したのでそういう名前が付いています。さきのSを単純に増減させるだけではなく、それを周波数ごとに変えると言う手法です(イコライジングします)。これを先に書いたMとSからLとRを取りだすステップの前に行うことをShufflingと呼びます。

これらは1930年代から戦後にかけて研究されていたもののようです。Mid-Sideステレオ処理は主にマスタリングやレコーディングのさいに使われていてDTMをやっている人はなじみのある人もいるかもしれません。これをオーディオ再生に応用したのがこのBSGの技術です。
Reveelで使われている技術はBSG Technologyでは"Phase Layering"と呼んでいて、独自特許を取っています。下記のUS特許がそうです。
http://www.google.com.br/patents/US8259960
BSG Technologyの特許を読むとさきの説明でSを取りだすときにS1=(L-R)、S2=(R-L)としてLとRに付随するSide情報を別々に管理し、さらに最後にMとS1/S2をそれぞれ加算してLとRに戻すときに、黄金比(1.618=5:8)を系数として加算すると言うことです。これによって優れたステレオ再生が得られるというのがBSGの主張する技術です。
ただこうするとLとRの成分が微妙に混じってやはりクロスフィードっぽくなるようにも思えますが、よくわかりません。もしそうだとするとスピーカーよりはヘッドフォンに向いた改良とも言えるかもしれませんけれども。

*BSG Technology Reveel

話をReveelに戻すと、はじめはInner FidelityのCESレポートで触れられている下のページを見てちょっと興味がわいたのでいろいろと調べてみました。HeadFiでもスレッドがあります。
http://www.innerfidelity.com/content/ces-2014-show-highlight-bsg-technologies-reveel-signal-completion-stage-headphones

BSG Technology自体はこの技術をライセンス売りしたいようですが、その効果をデモするために前に$3000くらいのq0Lという高価なプリアンプを以前作っていたようです。今回それを$115のポータブルアンプに応用したのがこのReveelです。もともとPhase Layeringの基盤自体はコンパクトなものだったようです。

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使い方はポータブルアンプと同様にDAPと組み合わせてアナログ接続します。ヘッドフォン出力はReveelのヘッドフォン端子から取ります。ReveelにボリュームはないのでラインアウトではなくDAPのヘッドフォン端子から取るのが良いでしょう。

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手に取ってみるとかなり小さくて軽いですね。作りはなかなかしっかりしていて質感も価格にしては悪くありません。
本体にはシンプルにin/outプラグと電源スイッチ、機能のオフオンスイッチがあります。機能のオフオンで利きを確かめられます。ちょっと問題はプラグ間隔が狭いので太いケーブルは使えないことです。また電源をつけたままケーブルの抜き差しをすると壮絶にポップノイズが出るので注意が必要です。

少し手持ちでいろいろと試してみましたが、AK100mk2がよく効果がわかります。
ぱっと目の前が開けて音空間が三次元的に広がり、音に明るさというかきらめきが感じられます。またDAPにも寄るけれども、聴覚的により細かく解像力が上がるように感じられます。また少しですが音圧が上がります。
もとの音は少し明るめに変わるけれども、ほぼ性格的には引き継がれている印象です。周波数的にどこかを上げることはないようにも思いますが、少し中高音域よりになるかもしれません。

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パッケージについてきた標準のいい加減そうなミニミニケーブルでも差があるのが十分わかります。おまけのケーブルだとかえって音が劣化するんじゃないかってポータブルアンプもありますからね。上ではオヤイデの最近出たHPC-MSSケーブル(3cm)を使ってみましたがなかなかよくマッチします。
初めのうちは少しヒスっぽい背景ノイズが出てますけど、バーンインしてくうちに多少収まってきます。ただ完全には収まりません。電池持ちは測ってないけど届いた晩にチャージせずに一晩エージングさせて放置しても切れなかったのでそれなりにあると思います。

書いたようにボリューム増減ができないので固定出力のラインアウトから取ることは出来ません。DAPのイヤフォン端子から取るのに向いてます。あるいはDAP/アンプの二段重ねにプラスワンしても良いでしょう。重量級システムならコンパクトなんで側面につけるとかいいかもしれません。アンプというよりアナログフィルターみたいなものと考えたほうが良いですね。
アンプ作る人はこの辺を研究して機能に取り入れてみても面白いんじゃないかと思います。(下に実例を挙げます)

Reveelは下記サイトで購入ができます。
http://reevelsound.com/
海外送料とかは書いてありませんが、これもなんとか売ってと直メールして頼んだら親切なことにDHL送料を折半してくれて送ってくれました。(通常だとDHL送料だけで$50くらいになるから)
こういう場合はカート使わずに直談判で払い方を相談します。

*M/S処理のオーディオ再生における他の応用例

これでM/S処理のオーディオ再生の応用に興味を持った方もいると思います。これを試してみるにはReveel以外にもいろいろと選択があります。

よく知られているところではあのiFI AudioのiCanやiTubeで採用されている3D Holographic Sound systemもこのM/S処理とBlumleinの技術を応用したもののようです。独特のぱっと広がり明るくなる感じは似ています。
http://www.ifi-audio.com/en/iTube.html
またPHAEDRUSという会社もこのBlumlein Shuffleを応用した機材を開発しています。
http://www.phaedrus-audio.com/shuphler.htm
BSG Technologyもその応用例の一つと言うわけです。前のプリアンプは下記のものです。
http://www.stereophile.com/content/bsg-q248l-signal-completion-stage

またPCで試すことができます。もともとマスタリング向け技術ではあるのでいくつかDSPプラグインがあると思います。わたしが試してみたのはVoxengo MSEDという無料のVST/AUプラグインです。
http://www.voxengo.com/product/msed/
Windows PCだとMSEDはVSTプラグインなので、JRMCならばそのまま使うことができます。DSPスタジオからVSTプラグインの追加でインストールします。JRMCではWindows OSのバージョンにかかわらず32bit版を選んでください。またFoobar2000でもあらかじめVSTラッパーを入れておくことで使えると思います。MacではAUプラグインで提供されています。

msed.gif

立ち上げるといくつかモードがありますが、DTM用途ではなく再生用の場合はinlineを選んでください。encoderはL/RからM/Sへ、decoderはM/SからL/Rへ変換する用途です。inlineはこれらを同時に行います。mid成分とside成分はそれぞれゲインで調整が可能です。

このあたりをいろいろと調べていたのですが、日本と欧米の資料をいろいろと読むと面白い事に気が付きました。
日本ではBlumleinという言葉はあまり出てこなくて、主にM/S処理のことが書かれています。対して、欧米ではM/S処理とBlumlein ShuffleをまとめてBlumlein Shuffleと呼んでいることが多いようです。
日本ではM/S処理と言うのは中田ヤスタカ氏がPerfumeなどの製作で音圧を上げるのに使ったことでよく知られているようです。また欧米ではBlumleinという人はたくさんの特許を持つ多才な偉人だったようで、人物自体がよく知られているようです。iFIのトルステン博士とインタビューしたときにも著書を見せて雄弁に語ってくれたのを思い出しました。
この辺もお国柄と言うのが出ていて興味深いものです。
posted by ささき at 22:55 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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