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2013年12月07日

CEntrance HiFi M8レビュー

CEntranceはDACportやDACminiなどのオーディオ製品でも知られていますが、USBのファームウエアでも独自の位置を占めています。たとえばPS AudioやBel Canto、BenchmarkなどのUSBファームウエアを提供していたいわばUSB DACの老舗でもあります。HiFi M8はそのデジタル製品に強いCEntranceが出したデジタル入力のみのDAC内蔵のポータブルヘッドフォンアンプです。
いままでの名称でM1とかM7っていうのはありませんが、HiFi M8のM8は"メイト (エム・エイトのアナグラム)"と読むようです。つまりはルームメイトやチームメイトのようにHiFiを聴く相棒というわけですね。またアメリカではバーやクラブで気軽に人に話しかけるときによくHey manとかHey mateと言いますので、そうした気軽さと言う意味もあるのかもしれません。

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AK120+HiFI M8

ホームページはこちらです(代理店Mixwaveさんのページ)。
http://www.mixwave.jp/audio/centrance/hifi_m8.html

1 HiFi M8の特徴

1-1 豊富な機種バリエーションと豊富な入出力の選択

M8にはいくつかのバリエーションがあります。日本ではそのうち前面パネルで二種類、背面パネルで二種類の組み合わせが選べます。M8の音質レベルが高いので、ポータブルだけではなく家を主体に聞きたいと言う場合にも便利なように出来ています。
前面パネルはひとつはXLR2本のバランス端子を持つものがあります。このバランス用のXLR端子は普通のヘッドフォン端子を兼ねているので、外よりも家で多く使いたいと言う人にはこちらがお勧めです。
もうひとつはコンポジャックと標準ヘッドフォン端子、そして4ピンのポータブル用のバランス端子がついたものです。コンポジャックはミニステレオのヘッドフォン端子と光出力が兼ねられた端子です。コンポジャックを使うことで光出力も可能ですので、iDevice機器を使用している場合にはDDコンバータのように使うこともできます。
4ピンのポータブル用のバランス端子はミニXLRともいわれますが、はじめにサミュエルズさんのRSAが採用したことでRSAタイプともいわれます(HeadFi世界的な言い方)。そのためこちらの全面プレートはRSAモデルと呼ばれます。

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背面パネルはデジタル入力がiPhone/iPodなどいわゆるiDeviceから取る方式か、光入力かで分けられます。光タイプはLXと呼ばれます。
これはメインのソース機器をiPodにするか、AK100にするかで分けられます。一方でiDeviceタイプはiPhoneだけではなくiPod Classicも使えますが44kHz/16bitの上限があります。このタイプの入力はiTransportを嚆矢とするAccesseasry Protocol(iPod/iOSをデバイス側としてデジタル信号を取り出す)ですが、これは最近Herusなどでも話題のUSB DACを使うもの(iPod/iOSをホスト側にしてデジタル信号を送る)とは異なりますので注意してください。この方式では専用のDAC(M8やHP-P1のような)が必要です。

もう一方の光入力タイプ(LX)では角型のTOSリンク端子が装備されています。この方式では192kHz/24bitのハイレゾ入力が可能です。一方でこの組み合わせで使用するショートの光ケーブルが必要になってきます。私はこういうのには基本的にカナダのSys-Conceptのケーブルを使うので、今回も発注しました。これは機種ごとのカスタムで、アンプとDAP間のスペーサーなどによる個体差もあるので個々に角度と長さとTOSの向きをはかって注文時に報告が必要です。ただ実際には長さは測っておいて、後はアンプとDAPを重ねた写真を撮ってSys-conceptに送ると見積もりをしてくれます。その旨を注文時に指定しておくとよいでしょう。AK100が丸端子で、M8側は角端子なのでそれも注意が必要です。

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私は主にポータブルで使うし、ハイレゾで聴きたかったので、前面パネルがRSAタイプで背面はLXを選びました。つまりシステムとしてはAK100/120をソース機材として、光ケーブルはSyS-Conceptの特注品でHiFi M8の光入力に接続しています。
M8はポータブルとしては大柄な筺体ではありますが、このようにユーザーの使い方によってセミオーダーのように機種を選ぶことができます。このユーザーの自由に合わせると言う考え方は後の味付けスイッチでも見て取れます。

1-2 デジタル入力専用

HiFiM8の入力ではアナログはなく、USB入力とiDeviceまたは光入力となります。
またCEntranceは前述のようにデジタル技術に強いメーカーですので、デジタル入力のみと言う仕様は強みを発揮できるところだと思います。
HiFi M8ではJitteGurdという仕組みでジッター低減をしていますが、これはDACminiに使用されたものと同じということです。

1-3 バランス駆動対応

HiFiM8のヘッドフォン出力のポイントはバランス駆動に対応していることです。M8ではさきに書いたように前面プレートの選択によってポータブルではRSAタイプ、家用にはXLRx2本(いわばHeadroomタイプ)のタイプが選べます。

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ポータブル用・イヤフォン用のバランス駆動のための端子は主にこのRSAタイプと、HiFiManなどが使う4極端子で一本のTSSRタイプ、そして国内のラトックが使うステレオミニ2本の端子なとがあります。また標準のヘッドフォンのためには上のXLR2本(Headroomが嚆矢)が一般的ですが、最近では一本で4ピンXLRを持ったタイプもよく使われています。なぜXLR(キャノン)が2本かと言うと、はじめのHeadroomのバランス駆動ヘッドフォンアンプが普通のステレオヘッドフォンアンプ二個を物理的にくっつけたようなBTL構成だったからです。


1-4 多彩な味付け機能

HiFi M8の背面には様々な付加機能があります。左からインピーダンス切り替え、ゲインスイッチ、高音域強調と低音域の強調です。HiFi M8はバランスの良い音調ですが、これらの機能を加えてやることで音の味付けに変化を与えることができます。

一番左は出力インピーダンスの変更です。普通出力インピーダンスは低いほどよく音が引き締まってタイトになると考えますが、低いと分析的すぎると感じる人もいるので、膨らみ感があっても迫力と感じるような高い出力インピーダンスを好む人のためにあえて設定スイッチを付けたということです。いわばオーディオマシーナのようなスピーカーより往年のJBLサウンドを好むという感覚でしょうか。これもユーザーのヒアリングを重視して選択の範囲を広げるという入出力選択のポリシーにも共通しているように思います。
次はゲインスイッチで、3ポジションあります。これはめずらしくないですが、これもユーザーの選択肢を広げると言うポリシーにかなっていますね。
次の2つはトーンコントロールのようなもので、低域と高域のレスポンスを調整できます。3段階あって効き目はあまり強すぎず、適度に使えます。M8自体はあまり誇張感のない音調なので、少し誇張した音が好きな人はこれらのスイッチを付加して味付けを行い、さらにさきのインピーダンスも緩くするとロックポップ向けの設定ができると思います。

2. 使用と音質

M8は少し大柄の筺体で、持ち運びはしにくい点もありますが家で使うにはこのくらいの方が安定して設置できるかもしれません。家と外で両方使いたいと言う人には良いかもしれません。また見た目ほどは重くはありません。私はソース機材としてはAK100/120を使用しています。

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今回はポータブルでのバランス駆動をしますので、ケーブルはBeat SuperNovaのRSAタイプを使用してみました。Supernovaのケーブルはやや硬めだけれども取り回しに問題はありません。Beat独特のメモリーワイヤがついていて、耳のまわりに回すShure方式です。プラグはよくできていて、旧UEの引っ込んだプラグにもきちんとはまり、JHAやWestoneなどの弱いプラグ穴でもしっかりとはまります。このほかにもUnique melodyや1964 Earsにも使えるようです。新UE(現行UE)には使ないと思いますので確認が必要です。またこのカスタムイヤフォンタイプのほかにもいくつかタイプがあって、MMCX、ゼンハイザーにも対応できるようです。他のケーブルとも比べてみましたが、価格の割には音質レベルが高いのではないかと思います。特に音がきつすぎずに滑らかさを感じる点は評価できます。M8と合わせて大人の音を堪能できるでしょう。

試聴は下記のような形態です。
AK120 ⇒ 光ケーブル(Sys-Concept) ⇒ HiFi M8 ⇒ Beat Super Nova RSA Balanced⇒ Ultimate Ears UE18カスタムまたはJH Audio 13/16カスタム
AK120 ⇒ 光ケーブル(Sys-Concept) ⇒ HiFi M8 ⇒ ゼンハイザーHD800やEdition8



試聴はインピーダンスは1オーム、低域、高域強調はオフにして始めました。イヤフォンとしてUE18/JH13/16+Beat Supernovaを使用しました。
全体に透明感が高く、楽器音は音像の形よくきれいに鳴るが、いわゆる美音のように音色が脚色されているわけではないですね。
ポータブル機器としては音がよく整っていて破綻がなく、上質なホームアンプをおもわせます。DAC部分はよく出来ていて、ポータブル機器でよく聴かれる荒さやバランスの悪さというのはありません。例えばベースのピチカートなどはキレが良くタイトで性能が高いと感じるけれども、それによってきつさが副産物になるわけではなく、音像の角も滑らかに取れています。立体感は4芯独立したバランスケーブルで聴いてることもあってかなり高いものがあります。
素の周波数特性はわりとフラットで、低域が物足りなければスイッチで加えることができます。ただ素のままでも低域には必要なほどのインパクトは十分あると思いますが、人によっては物足りないと感じるかもしれません。

DACportやDACminiでは乾いたドライな感じもあったんですが、M8ではそうした感はなく厚みがあって豊かな本格的なオーディオの音が基調だと感じます。ただサミュエルズさんアンプのような強い暖かみはなく、全体に着色感も少ないですね。こうしてバランスが取れている分で、ある意味でリファレンス的、アキュフェーズ的というか、割と中庸な印象も受けます。そのために味付け機能があるとも言えますね。
ハイレゾでは単に細かさが向上するだけではなく、良録音のもたらす空気感を良く伝えてくれます。それによってヴォーカルの息遣いをリアルに聴き取れます。

インピーダンス・スイッチを変えると、インピーダンスを高くするにつれて音像が緩く膨らんできます。インピーダンスが低いといわばジャズや弦楽四重奏のような上品な音楽には向いてますが、インピーダンスを高くすることでメタルなど荒っぽい音楽には合うように感じられます。これに低域増強を足すとかなりアグレッシブなロック再生機となります。
一方でロックこそドラムスのシャープなインパクトが必要と思う人はインピーダンスを低くすれば良いし、これもユーザーの音の好みと聴く音楽による選択であると思いますね。出力インピーダンスを変えると、どう音が変わるかっていうのを知るのも面白い機能だと思います。

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イヤフォンからヘッドフォンに変えて聴いてみると、HD800ではむしろこうした高性能ヘッドフォンでHiFi M8の真価が発揮されると感じます。端正で正確、スピードもあり、インパクトのシャープさも高いですね。バランスでなくてもHD800の空間表現力の豊かさを感じられる基本性能の高さがわかります。荒さもなくスムーズで音に深みが感じられ、堂々とした風格がある音でホームアンプらしくもある上質な音です。余裕があり、いかにも無理してボリューム上げてポータブルでHD800を鳴らしてる感はあまりありません。HD800との組み合わせが素晴らしかったのでXLRx2バランスも試して見たくなるほどです。
むしろこうしたフルサイズのヘッドフォンでM8が生きると思えます。HiFi M8がポータブルとホームアンプの両立を果たしていると感じられるところですね。Edition 8でもかなり良く、どちらかというとこうした本格的なヘッドフォン向きかもしれません。家ではHD800、外ではEdition 8など高性能ヘッドフォンを生かすことができます。大柄ではあるけれども、ホームアンプを持ち歩けるように下のがM8とも言えます。

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もちろんUSB DACとしても使用することができます。USB経由でMacに接続すると、さらに音質は向上してかなり上質なヘッドフォンアンプ内蔵のUSB DACとして使えます。

3. HiFi M8まとめ

海外製アンプでは作り手の個性が強く出て脚色的に暖かかったり美音だったりしますが、HiFi M8はベーシックで高い音性能を中心に据え、ユーザーの好みで入出力が選択出来たり、音の味付けを変えたりできるユーザー主体の製品ともいえます。これによってさまざまな用途、多様なユーザーに対応するように考えられた結果なのだと思います。

実はしばらく前のヘッドフォン祭でM8のプロトタイプ(当時は当然名前はなかったですが)をこそっと見せてもらったことがあるんですが、DAC内蔵のポータブルヘッドフォンアンプという初期コンセプトは同じでも、この製品版はそれとは大きく異なってかなり機能豊富で進化したものになっています。たっぷりと時間をかけて入念に作り上げたのでしょう。
またこちらのCEntranceのブログで進捗を途中からオープンにしたこともユニークです。
http://centrance.com/products/new/blog/
この辺もユーザーとのコミュニケーションを大事にしていますね。

プロ機材中心だったCEntranceにとってのコンシューマー・ポータブル機材はDACportもありましたがDACportはMICportの姉妹機ともいえるので、実質的にHeadFi世界向けのポータブル機材としては初の本格的な参入と言えると思います。そういう点でショウにもよく顔を出しているCEntranceのマイケルさんはユーザーの要求を吸い上げて時間をかけて設計したと思いますし、その成果が結実したのがこのHiFi M8だと言えるのではないでしょうか。
posted by ささき at 10:55 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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