最近の高性能DACではES9018などESS社製のDACチップを採用するケースが増えています。Resonessence labs(レゾネッセンス ラボ)というと元ESSのキーメンバーが設立した会社のブランドと言うことで、製品のInvictaをはじめとしてESS DACの事実上のリファレンスDACを作るメーカーとも言われています。
そうした意味でResonessence labsはESSのDACの先端的なショウケースとも言えると思いますが、そのResonessenceが開発した注目のコンパクトなDAC製品がHerus(ヒールス)です。
公式情報は下記エミライさんのホームページを参照ください。
http://www.resonessencelabs.jp/products/herus/
1 Herusの特徴
以下Herusの特徴を見ていきます。
1-1 コンパクトさ
前に書いたように最近ではPC/Macのノートブックと組み合わせられる手軽なヘッドフォンアンプ内蔵のコンパクトUSB DACが人気を集め出していますが、Herusもそのタイプの一つです。とてもコンパクトなヘッドフォンアンプ内蔵のUSB DACです。Herusは十分軽く、かつ、ずっしりと質感高い密度感があります。全体にも剛性が高い印象です。コンパクトながら高級感もあります。
入出力はシンプルで片側にUSB B端子(フルサイズ)があり、片側にヘッドフォン端子(ミニではなく1/4インチの標準タイプ)があるだけです。普通ならばこのサイズならミニUSBとミニヘッドフォン端子となると思います。しかしHerusではUSBもヘッドフォンもフルサイズです。これは音質のためと言うこともあると思いますが、サイズにまどわされずに本格的に使用してほしいという作り手側のメッセージのようにも思えます。
表示もRマークが接続確立時に赤く光り、再生時に青く光るだけです。とてもシンプルで簡単に使えます。また、PCなどとの接続も標準のUSB クラス2ドライバー対応ですからこちらも簡単で、難しいところはWindowsではドライバーインストールが必要な点くらいでしょうか。
ボリュームは本体にはないのでパソコンなどの接続ホスト側で変更します。これはHerus側がデジタルボリュームを備えているからで、iPhoneやPCのボリュームで音量を変えます。これはHerusのトリッキーな点で、まずはじめにボリュームをさげてから接続した方がよいし、ボリュームのステップも急な立ち上がりでステップが少し粗いように思えます。ここはHerusの数少ない難点のひとつです。
1-2 低消費電力
こう見ていくと一見普通の簡単シンプルDACにも見えますが、Herusは競合に対してResonessenceならではの長所を秘めています。それはHerusに採用された最新のDACであるES9010K2Mです。
この2Mシリーズは従来のESS DACが8チャンネル(9018)対応だったのに対して2チャンネルに特化していますが、Mが示すようにモバイル機器に対応した低消費電力がポイントです。この強みはiPhoneやiPadと接続する際に発揮されます。これまではこの種の機器ではできなかったことで、先行したDragonflyが消費電力が大きかったのでPCやMacにしか対応できなかったことに対して、HerusではiPhoneやAndroid機器とも接続ができます。
実のところ、この手のコンパクトデバイスではDACとしてはDragonflyのようにES9023を使用した方がDACに2Vのラインレベルドライバが内蔵されている分で回路も簡単にできると思います。しかし、あえて最新技術に賭けて下位のSABERグレード(24bit)のES9023ではなく、より上位のSABER32(32bit)クラスであるES9010K2Mの採用をしたというのは評価できる点です。。このことと先のフルサイズ端子を考えれば、Herusは小型ながら見かけに惑わされない本格的な製品であるということが分かると思います。
またResonessenceにおいてはHerusは2Mシリーズの低消費電力をアピールできるかっこうのモデルであると言えるでしょう。
1-3 DXD、DSD128対応
もうひとつのHerusの特徴はハイレゾ・DSD対応です。PCMにおいては352kHz、DSDにおいてはDSD128(5.6MHz)までの高いサンプリングレートの再生が可能です。
DSDはDoPにより、DSDネイティブ再生が可能です。さきの低消費電力と合わせてiPhoneからもOnkyo HF Playerを使うことでiPhoneからDSD128の再生もできます。これはかなり画期的なことです。
プレイリストでDSDとPCMが混在していて、曲が切り替わってもよく言われるDoPでのポップノイズが出ないのもよく出来ています。
2 ポータブルでの使用
Herusの最大のポイントはやはり低消費電力設計によりモバイル・ポータブルでも使用ができると言うことでしょう。しかもスマートフォンでも使えます。
まずiPhone5を使用してみました。iPhone5ではiOS7から従来のiPadと同様にカメラコネクションキットを使用することで外部DACに出力ができるようになりました。ここではライトニング用カメラコネクションキットを介しています。ただしiPhoneは現在はAppleの正式なカメラコネクションキットの対象機ではありませんので念のため(一時は対象でした)。iPadは正式な対象機種です。
2-1 使用要件
ここで問題となるのはHerusはUSB Bのフルサイズ端子なので、カメラコネクションキットのUSB AメスからHerusのUSB Bメスに接続するケーブルが必要なことです。ここは通常の高品質USBケーブルも使用できますが、ポータブル用途で便利な短いのがなかなかないため、ウエブで入手できるUSB Aオス→USB Bオスの直結タイプのコネクタを使用しました。
これはいくつか種類があるようで試してみるとUSBプラグのはまり具合などに差があるように思えます。試してみると下画像の短いタイプよりも長めのタイプの方がコネクタの接触は良いようです。ただしこれは個体差もあると思いますので念のため。コネクタやケーブルさえ問題なければこのシステムはかなり実用的です。
iPhone/iPad(iOS)自体の制約についてはまず下記の要件があります。これはiTransportやFostexのHP-P1のような専用DACを使うデジタル取り出しとは異なりますので注意してください。
まず組み合わせるUSB DACが標準ドライバーのサポートをしていることです。iOSではドライバーのインストールはできませんので、カスタムドライバーを使用するDACは使用できません。HerusはUSB オーディオクラス2ドライバーをサポートしていますので問題ありません。(iOSでもUSB オーディオクラス2をサポートしていると考えられます)
もうひとつはバスパワーの制限です。これは現在ではけっこうきつくなっているのでたいていのDACはここではじかれてしまいます。回避には電源付きのUSBハブを使うこともできますが、そうするとポータブルではなくなります。この制限をクリアするにはひとつはxDuoo XD-01のようにUSBチャージオンオフスイッチなどを持っていて、内蔵のバッテリーから給電することでも回避できます。ただしそれには内蔵バッテリーが必要で大きくなってしまいます。
もうひとつはこのHerusのようにそもそも消費電力を低減して制限をクリアする方法があります。Herusはこれで要件を満たします。
また、iPhone/iPad+USB DACのシステムでハイレゾ出力に対応するためには、さらにアプリの制約があります。これはiOSアプリがハイレゾ出力に対応していることです。上の写真はヘルゲ・リエンのLINN 192kHz音源をHF Playerで再生しているところです。
ただこれは192kHzのようにハイサンプリングレートよりも、むしろ24bit出力する方が難があるようです。
Golden Earなんかも24bit対応しているようですが、DAC側で192kHzなどハイサンプリングはロック確認できるものがよくありますが、24bit出ているかを表示確認できるものはまれなのであまり確証はありません。FLAC PlayerとHF PlayerはそれぞれDAC内部のI2Sレベルで24bitでビットパーフェクトの確認実績があります。(FLAC Playerに関しては下記リンク参照)
http://vaiopocket.seesaa.net/article/191432693.html
以下ではHF PlayerにハイレゾPCMとDSD64、DSD128の曲を入れて試してみました。FLAC Playerでも前に書いたようにハイレゾ出力が可能です。2.0になって情報表示も出来るようになりました。
またアップルロスレスでのCD品質音源はアップルサンプリング機能をオンにして、64bit EQ HDモードもオンにしています。
イヤフォンはDita Answer Trueです。精緻で切れの良い音のAnswerはHerusとよく合うと思います。
システムはiPhone5(iOS7.0.4)⇒カメラコネクションキット⇒USB直結プラグ(A/B)⇒Herus⇒ミニ標準変換アダプタ⇒Dita Answer Trueとなります。
2-2 iPhoneと組み合わせた音質
ぱっと聞いてとても音質レベルが高いのが分かります。細身でシャープな音で、ハイレゾ192kHzの音源も聴き入ってしまいたくなるように細部の再現も見事です。2LのQuiet Winter Nightを聴くと、音楽の細かな音色や楽器の指使いなど音楽の細部に傾注すると言う感覚が分かると思います。
また音像が小さく引き締まっていてシャープさを感じます。細かい音の抽出はさすがESSという感じでDX100が好きな人は似た印象を垣間見るかもしれません。高いレベルの解像力で、音の明瞭感も高いと思います。
ジャズの楽器のキレやスピード感も一級です。高品質録音では楽器の音は緩みなく贅肉が感じられないほど引き締まっています。周波数特性はかなりフラットになってると思います。低域の強調ってないですね。とはいえ低域は十分なインパクトとアタック感を感じられると思います。これはすぐれたジッター低減だけではなく、0.2オームと低い出力インピーダンスも貢献しているでしょう。DACチップがスターではあるけれども、一点豪華という点にも陥らずに全体にバランスの取れた設計です。
スマートフォンOSでのハイレゾ再生機としてはハイレゾWalkmanは大きく超えるレベルだと思います(F880は以前デモ機試聴をしています)。iPhone(あるいはAndroid)+Herusは問題なくスマートフォンOSでハイレゾを楽しめる機材と言えるでしょう。スマートフォンOSでの音源の可能性も広がります。
よくiPhone単体に比べてもポータブルアンプを付けてもあまり差がないという話も聞きますが、Herusの場合はまるでiPhone単体とは異なるレベルの音です。ハイレゾDAPと同程度のレベルですね。
もっている最高のヘッドフォンやイヤフォンで聴いてください。使っていると少し暖かくなるのでけっこうアンプ部分もがんばっていると思います。
HerusはiPhone5からDSDネイティブ再生も可能です。DSDネイティブ再生ではHF Playerの設定からDoP出力を選択してください。DSD128だとiPhoneでは考えられないような音が再生できます。しかし、iPhoneからこんな簡単にハイレゾやDSDが再生できるとは驚きです。しかも音質も驚くほど高いですね。私もこんな高音質のUSB DACが直でカメラコネクションキットに付けられるとは思っても見なかったです。
音のレベルは高いのですが、惜しむらくはカメラコネクションキットとUSB直結プラグのようなオーディオ向けではない結線を使用することで、これはノートPCで本格的なケーブルを使う場合には解消できます。
Android端末とはおそらくGalaxy S3、note3やLG G2などのUSBクラスドライバー対応機では、USB OTGケーブル経由で再生が可能であると思いますが未確認です。
3 Windows PC/Macでの使用
もともとはこのタイプのヘッドフォン内蔵のUSB DACはノートPCでの運用がメインに考えられているので、こちらが本筋とは言えるかもしれません。もちろんデスクトップPCにも手軽なコンパクトUSB DACとして使うことができます。家のWindows PC/Macで使うとHerusの入出力がフルUSB Bなのと、標準プラグであることが意味を持ってきます。
HerusはUSB Audio Class2対応ですので、MacOSXはそのままで構いません(MacOSXは10.6.4以降でClass2対応しています)。しかしWindowsではドライバーのインストールが必要です。Linuxは試していませんが、おそらく最新ビルドならばUSB Audio Class2対応ですので接続可能ではあると思います。
ボリュームはやはり本体と連動します。ハード(Device)とソフトウエアの二つボリュームスライダーがあるDecibelで操作するとわかりやすいですが、HerusのボリュームはDevice Volumeに連動するというのがよく分かる思います。
Mac AirとEdition 8で聴いてみましたが、iPhoneからMacに変えて音質が上がるのは無論ですが、やはりケーブルが高音質ケーブルを使えるというのが大きいようにも思います。iPhone+カメラコネクションキットで少し気になった粗さは少なくなり、少し滑らかさが追加されるようにも思います。
HD800でも音量は取れますし、音質的にもなかなかのものがあります。やはり筐体の小ささもあるのか、豊かさとか厚みには欠けますが、シャープで切れが良い点は十分にHD800の良さを引き出せます。
4 Herusまとめ
MacからまたiPhoneに戻してみたところ、こういう場合音が大きく悪くなった感がするものですが、Herusの場合にはMacに比較して大幅に音質低下するというわけでもないように思えます。おそらくHerusが小さいながらも効果的に上流のジッターを除去しているからiPhone+カメラコネクションキットのような構成でも良い音が出ているかもしれません。
Herusのジッター削減の仕組みは詳しくはわかりませんが、サイズからするとES9010K2M内蔵のASRCなどに寄っていると思います。そうするとやはりESSチップの性能が良いことになり、ほとんど素のシンプルなDAC構成でも良い音が出せると証明したのは、ワンチップに周辺回路を統合すると言うESSの手法を実証したことにもなりますね。もちろんHerusのDAC周辺の回路設計も優れているとは思いますが、これはやはりESSのリファレンス的なResonessenceらしいと思います。
Herusを使用していてやはり思うのはHerusの一番の特徴はやはり高い音質だと思います。スマートフォンのiPhoneに付加物を付けるのはやっかいなものではありますが、このくらい音質レベルが高いと積極的に使いたくなりますね。使っていて問題はボリュームのステップが粗いくらいでしょうか。
コンパクトでiPhoneからの直のDSDネイティブ再生やDXD再生のような可能性もありますし、音質の高さと直結しています。価格を考えてもかなり性能レベルが高く、簡単に使えるのも魅力です。
iPhoneユーザーでオーディオ好きなひとはお勧めですね。ノートPCユーザーにも良いのはむろんのことです。コンパクトUSB DACとしてはDragonflyを超えた音質レベルがあると思います。
ただ問題になるのはHerus自体ではなく、カメラコネクションキットのケーブルの音質やUSB直結コネクタの品質などです。
iPhoneライトニングからUSB Bオスでオーディオ向け高品質USBケーブルの10cmタイプ、なんていうのがあればHerusはもっと光ると思いますが、あやしい海外のiPhone OTGケーブル市場を探してみてもないですね。Herusが単体として優れていてもシステムとして考えると足を引っ張られると言うのは、ある意味でHerusが新しいジャンルの製品であるあかしともいえるかもしれません。
Music TO GO!
2013年12月02日
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