Music TO GO!

2013年11月20日

シンガポールの新星、Dita Audioのハイエンドイヤフォン、"The Answer"

シンガポールから新しいハイエンド・イヤフォン製品が登場しました。Dita Audioというメーカーの名前も"The Answer"というイヤフォンです。
ホームページはこちらです(日本語もあり)。
http://www.ditaaudio.com/

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1. Ditaのオーディオ哲学

実は私が夏にシンガポールに行ってきたときにこのメーカーの人と会っていろいろと話を聞いてきたんですが、それが日本で初お目見えとなります。Ditaの人は日本にもよく来ていて、ぜひこの製品を日本で初登場させたいと語っていました。日本のユーザーのレベルをとても高く評価しているので、ぜひ日本のユーザーの方たちにはじめに聞かせて評価いただきたいと言う願いがあるそうです。この思いをDita設計者のひとり、ダニーが熱く語ってくれました。

まず彼らはオーディオファイルであるというところからスタートしています。だからオーディオファイル向け「のみ」のプロダクトを作りたい。マスマーケット向けの妥協はしたくないというのを強調していました。Dita Audioの設計者たちはシンガポールではオーディオの代理店もやっていて、オーディオマニアとして満足できるオーディオ再現をイヤフォンで実現すると言う目的で作られています。このためにパーツ構成には妥協なく取り組み、可能な限り高精度のパーツを自社で開発しています。事実上ドライバー素材以外のパーツはほとんどすべてDitaの自社製です。

ダイナミックを選んだのもスピーカーオーディオからきたからということで、その採用はバランスド・アーマチュア(BA)に比べるとより自然であると語っています。またBAの問題は性能を上げるためにはマルチBAで組まねばならず、クロスオーバーなど部品が多くなります。そのさいにクロスオーバーなどのコンポーネントはgenericコンポーネント(汎用品でオーディオ向けではないという意味で)を使わねばならず、オーディオとしての音質が製作者にはコントロールできないと言っていました。これはスピーカーのハイエンドオーディオではクロスオーバーにオーディオ用の特注品を使用しているし、オーディオ的な音質と言うことを語るにはオーディオ用に設計されたパーツを使うことが外せないと言っています。

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たとえばプラグなんかも既製品ではなく、自製で音質的に優れたものになるように非磁性やレゾナンスを考慮して一から設計していて、カーボンファイバーを採用したプラグを作りました。もちろんハウジングもCNC加工の100%メタルシャーシで、これらにはDitaの親会社の持つ金属加工技術をフルに発揮しているのも特徴です。親会社が機械製造のプロなのでハウジングの製造にも活かされているということです。このようにわずかなパーツも妥協なくオーディオ向けとして設計し、不要なレゾナンスを減らすなどの考慮をしています。ドライバー以外はプラグに至るまでほぼ自製で、ドライバーも専業メーカー製だけれども独自のチューニングを入れてるとのことです。

またダニーはデータよりも音楽性を取りたいとも語っていました。たとえばAnswerはややペースのレスポンスが高めにも聞こえますが、これは多くのオーディオファイルはベースが少ないと良いと思ってるが、やはりベースは重要であると考えるという彼らの考えに基づいています。実際にハイエンドスピーカーなどもそのコストのほとんどはおそらくベース再現のためなので、これは納得出来る話ではあります。もちろん彼らの言う「良いベース」は単に低域が膨らむというものではなく、重みがあり解像力があって音楽全体の下支えとなる文字通り「基礎」となるベースです。
そしてまた、アタックとかスピードも持ちたい、躍動感をもって音楽の魅力を伝えたいとしています。

そのシンガポールでの暑い夏の日には夢語りかと思ったオーディオファイルのためのイヤフォンがいま製品となりました。その名もDita Audio "The Answer"です。
本来オーディオ機材であれば当然の細かいこだわりの積み重ねが良い音を作ると言う彼らの哲学が結実した、オーディオ機器としてのイヤフォンです。そして箱には自信の証として設計者のサインが描かれています。

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2. Dita Audio Answerイヤフォン

Dita Audio "The Answer"は形式的にはシングルドライバーのダイナミック型イヤフォンです。プラグさえも自製で、汎用品を使わずに音質を向上させるとともに、スマートフォンケースの厚みのオフセットも考慮された使いやすさも考えられています。ハウジングは航空機グレードのアルミニウムの削りだしからCNCで製作されています。これはDitaの親会社が機械製作を行っているノウハウを生かしています。ハウジング・エンクロージャーはスピーカー設計においては音質の重要なキーポイントとしてあげられますが、イヤフォンの場合にはそうした見地からはあまり顧みられていません。Dita Audioではそこにポイントを置いて音質的に最適化して設計を行い、さらに重心から考慮した人間工学的な配慮をしています。
ドライバーは広帯域で反応が早いということに重きが置かれています。シングル構成と言うのも、もちろんコストのためではなく位相の問題を解決し優れたイメージングを得ると言うスピーカーのフルレンジ的な考え方で採用されています。スペック的にも18-25000 Hzと広帯域ですね。

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ケーブルには2タイプあり、それによってAnswerには二つのバージョンがあります。ひとつは通常品のThe Fat cableともうひとつはThe Truthです。Fat CableはDitaの開発によるもので、The TruthはケーブルメーカーのVan Den HulがAnswerのために専用に開発したものです。これはVan den HulがDita Audioの思想にほれ込んで特別にコラボをおこなったもので、The Truthでは使用するハンダまでVan Den Hul製と言うこだわりようです。ケーブルの一部が切りかかれていてわざと線材を見せるようにしているのがユニークです。以下の音質レビューは主にこのThe Truth Editionを使用しています。

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箱を開けてまず目に入るのは上でも書いた製作者のサインです。パッケージも高級感があり、積層されています。

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ケースはジッパー付きのソフトケースと、やや容積が大きいセミハードケースが付属しています。

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イヤチップは何種類か用意されています。Answerは音響フィルターの交換はできませんが、チップを交換することで高域特性を変えることができます。中くらいの音導孔のサイズのものが標準で、穴の小さいタイプは高域を和らげ、穴の大きなものは高域をやや強調させます。

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Answerの質感はかなり高いものでハウジング自体は精密感があります。またとても耳にフィットしてはまりやすいので、シンプルな形状ですがよく研究していると思います。
True editionのケーブルはかなり弾力性があって、ケーブルの反発が強いのでShure方式で耳に回すにはメモリーケーブルがもう少し強いのがほしいところです。首のところのチョーカーで締めれば問題はありません。ケーブルの一部に切り欠きがあって、シールドの下の線材が見えるようになっているところがちょっとユニークです。ケーブルの品質にはかなり自信をもっているのでしょう。

3. Answerの音質

自分の持ち機材でいろいろためすとAcoustic Research M1(ARM1)が一番相性は良く、AK100Mk2でもなかなか好印象です。これらの組み合わせはまさにポータビリティも高いですね。

Answer Trueの総合的な印象としては、基本的にニュートラルで付帯音がなく端正な音を鳴らしますが、かといって無機的と言うのとも違います。あくまで音楽的に楽しめます。
アルミ筐体にしては硬質感がなく、クリーンで雑味がないスムーズさが魅力的です。またダイナミズムがあり、スピード感があり楽器音の歯切れが良い点もポイントです。全体に緩さがなく引き締まっていますね。際立つのは立体感と音場再現で、楽器音は忠実でリアルです。ピアノの音色再現なんかは秀逸だと思います。空間に広がるかすかな余韻の広がりが微かに聴こえる感覚が素晴らしいですね。
Van Den Hulはスピーカーケーブルを一組持ってますが、やはり独特の個性があり、透明感と共に音色良い系ではありますね。

また、単なる柔らか系イヤフォンとは異なっていて、シャープなところは芯があって密度感があります。音像はアルミ削りだし素材のようなシャープさではなく角や面取りが丁寧にされてる上質感があります。
解像力や音質レベルはIE800同等以上だと思いますが、違いは滑らかさです。上質さ、品格の高さですね。また、K3003で聴けばものすごく細かい音が聴こえるっていう発見があってすごいすごいって聴くけれども、Answerではそれに加えて滑らかで心地よい響きの良さを発見でき音楽に没入するということも言えます。
おそらく評価が分かれるのは低域、ベースかもしれません。やや強調感はありますが、大きく張り出しているわけではなく、密度感のあるベースの押し出しが強いという感じでしょうか。

True Editionと比べると、標準ケーブルだともっと取り扱いが楽で弾性もしなやかですね。音再現は標準でも十分に堪能できるが個人的にはtrueの方がよりクリアで広帯域感があると思います。やはりTrueの方が一枚上手だと思いますが、やや高域に強めの癖があるなど気になる人はいるかもしれません。これはイヤピースや後述のアプリEQでも調整できますが、音は個人の好みもあるので聴き比べて選ぶのも良いでしょう。特にTrueはバーンインに時間をかけたほうがよいですね。中途半端だとかえってハイがきつめになりがちに思います。

iPhoneではFLAC Playerがお勧めで、iPhone単体でもかなり高いレベルの音再現が楽しめます。解像力も十分に細かく、透明感が高いクリアな音でバランスも良いですね。音の高級感があります。
スマートフォンの利点を生かしてアプリをいろいろと変えてみるのも良いでしょう。たとえばTrue Editionでクリアなのは良いけれどもハイがややきついという時にはOnkyoのHF Playerアプリのハードでは実現困難なほど高精度な64bit EQで調整してみても良いでしょう。またAudiophile PlayerアプリのMAXX DSPを使用して、端正なAnswerをあえてドンドンするロックやエレクトロ向けの激しい音にしてみるのも面白いですね。iPhoneのA6やA7などの高性能さを堪能できて、iPhone単体でもけっこう満足する自分なりの設定ができると思います。またAndroid+Neutronプレーヤーアプリも相性が良さそうです。
ただこの音の良さに気がつくとAKシリーズなどのもっと上級のプレーヤーも欲しくなるでしょう。

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AK100Mk2だと躍動的な側面もより明瞭に見えてきまます。BAに比べたダイナミックタイプの躍動感がよく出ていて音楽が生き生きと生命力あるものに感じられます。ニュートラル系でリファレンスタイプというと無機的にも想像されますが、Answerではそれはないですね。
音再現がシャープで細かくよく聞こえます。ヴォーカルの声のニュアンスもよく伝えられ、Answer独特の滑らかさと上質感が出ています。楽器の音がよく再現され、高域はTrueの個性もあり鮮明ですがAK100mk2ではそうきつめには出てないと思います(ケーブルのエージングも十分必要ですが)。低域の解像度も高くチェロやベースの鳴りも逸品です。低域の重視は重みとなって現れ、ヴォーカルがそれでマスクされるということはありません。ベースの迫力が欲しい時にも欲しい量感の豊かさが得られます。ドローンのように重い低音が流れる上にささやくようなヴォーカルが乗っていても、両方明瞭に再生できます。Auraのようなアカペラ合唱だとAnswerの良さが際立ちます。発声がスムーズで声の重なりが心地よく、響きやトーンがリアルです。また立体感が際立っていて音の重なり合わせが三次元的です。
ジャズトリオでは切れが良くリズムのノリのよさもあります。Answerは音楽のジャンルは選ばないと思います。

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ARM1だと精緻できりっとした歪みのないような正確な音を叩き出します。これがおそらく上質さという他にAnswerの持ち味のひとつだと思います。音の緩みがなく、引き締まって気持ち良いくらい音が伸びて行きます。無の空間からヴォーカリストが口をあけて発声するリアルな感覚も味わえるでしょう。それに加えて、薄っぺらにならない厚みがあって、滑らかで上質、密度感があるところもAnswerらしいところです。特にスピード感のあるARM1とトランジェントの速いAnswerの組み合わせはかなり良いと思います。またARM1の耳に近いアクティブさもAnswerのダイナミック型の良さを引き出しています。
クロノスカルテットの新作Aheymでは単調な音の流れから複雑に変化していく細やかな音楽の表情を浮き立たせてくれ、ともすると退屈に聞こえそうな現代音楽での細かな表現に注力すると言う魅力を教えてくれます。またTim Heckerの新作Virginsのような現代音楽meetsインダストリアル系はなまじなシステムだとうるさいだけになってしまうけれども、ARM1+Answerは緊張感と迫力を引き出して複雑な音の絡みを解きほぐし、音楽に没入させてくれます。
単に聞き流すというよりもこうした音に注力して取り組まねばならない音楽にもAnswerはその姿勢に答えてくれます。それが真のオーディオ機器というものだと思います。

    

総じて言うと、私みたいに日頃リケーブルしたカスタムで聴いてる人も満足できる音質レベルです。カスタムのマルチBA機とは性格が異なるので優劣をつけるのがむずかしいところではありますが、ダイナミックでは今までのイヤフォンのベストと言って良いと思います。

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4. "Music is a harsh mistress"

Dita Audioのホームページには下記のDita Audioのモットーが載っています。
"Music is a harsh mistress, there can be no compromises".
前節はハインラインの「月は無慈悲な夜の女王("Moon is a harsh mistress")」から来ていますが、「音楽は無慈悲であり、そこに妥協をゆるさない」という感じですね。

日頃高性能イヤフォンで聴いていて、この細かい音再現力は並みのスピーカーオーディオには負けないぜ、と言いつつもやはりオーディオショウなんかでハイエンドスピーカー群を聴くとまだまだ及ばないなあ、なにか越えられない一線がある、と考えさせられます。しかしDita Answerにはそこに一歩近づくなにかがあると思います。さきに感じた多くのイヤフォンとDita Answerの差はそれに対しての「答え」になっているのではないでしようか。
それは単にドライバーだけが突出して新開発のすごいものとか、リケーブルして最高のケーブルを使った、というような一点豪華主義で優れているというのではない、プラグや各種接点の細かいこだわりの積み重ねが良い音を作るというハイエンドのオーディオ機器ならばある意味当たり前のことがなされているという点から感じられることかもしれません。
ヘッドフォン、イヤフォン、ポータブルオーディオが伸びてきていても、どこかで従来のスピーカーオーディオの世界に追いつくためには考え方を変えねばならないところがあると日頃感じるところはありますが、そういう意味でもピュアオーディオ志向の開発者がこうしたイヤフォンを作ってきたということは評価に値すると思います。
いまやヘッドフォンがスピーカーと並んで一人前のオーディオ機器として受け入れられたように、Dita AudioのAnswerもオーディオ機器としてのイヤフォンとしてのターニングポイントとなるでしょう。

実際にすでに販売を開始しているフジヤさんではかなり好評にDita Audioが売れているので、彼らが選んだはじめの日本の市場で評価を正しく受けているということも言えますね。
購入はフジヤさんの下記リンクでどうぞ。

Dita Audio Answer
http://www.fujiya-avic.jp/products/detail53558.html

Dita audio Answer True Edition
http://www.fujiya-avic.jp/products/detail53559.html

posted by ささき at 20:38 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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