わたしがよく使っているRed WineのiModはiPodを高品質なCDプレーヤーとしました。シグナルパスの短縮と高品質なBlackgateコンデンサーの追加で音質は向上しましたが、iPodの内蔵DACであるWolfsonに音質が縛られます。
これ以上の音をiPodから取り出すには、iPodをさらにトランスポートとして使いデジタルで出力して外部DACを利用するしかありません。これならばDAC次第でいくらでも音質が向上できます。
しかし、そのキーはいかにiPodからSPDIF形式でデジタル信号を取り出すか、ということです。
実はiModのVinnieさんもこれに関して研究をしていました。しかしiPodからデジタル信号を取り出せるというところまでは解析しているのですが、それは独自形式であって音声信号とクロックを標準形式であるSPDIFにしないとDACが理解してくれません。このSPDIFで取り出すというところが高いハードルだったわけです。
ところが最近MSBから発表されたこのiMSBLinkシステムはそれをクリアして、かつかなりレベルの高いシステムにしています。
ただしポータブルのシステムではありません。iMSBLinkシステムはiPodをハードディスクトランスポートにしてしまうというものです(はじめ名前はiLinkでしたがiMSBLinkに変わるそうです)。
iMSBLinkのメーカーの紹介ページはこちらです。
http://www.msbtech.com/products/iLinkDetail.php


本体は上の写真のように一見すると普通のiPodドックですが、背面にデジタル出力端子があります。また後述しますが、右の写真のiPodドックに装着しているのがiPodをリモコンとして使えるRFインターフェースです。写真は後述の試聴環境でのものです。
iMSBLinkの背面には上記リンクページの画像にあるようにAES/EBU、同軸、光のデジタル出力端子がついています。使うときはこれをトランスポートとしてPS Audio Digital Link IIIのような単体DACにつなぎます。
これを実現するためには、まずiPodからデジタル信号が取り出せるように改造をします。この改造ではなんらiPodの機能をそこなうことはないようです。iPodのドックはなかなかに奥が深いようで未使用のピンをiMSBLink用のデジタル出力にアサインしているようです。
しかしこのままではSPDIF形式ではないので、外部ドックでそのデジタル信号にクロックを付加しSPDIF変換を行ってデジタル出力します。そのため外部ドック(これがiMSBLinkの本体)が必要です。ドックには同軸と光のほかにAES/EBUのデジタルバランス端子まで備えられています。トランスポートなのでアナログ出力はありません。
実のところiMSBLinkが真にすごいのは(というか病的なこだわりなのは)単にデジタル出力できればいいだろう、というのではなくそれをかなり高度なレベルで実現したというところです。
MSBはアメリカではわりと有名なハイエンドDACメーカーで以前からむこうのオーディオファイルの間では知られていました。
この外部ドックにはそのMSBの数千ドルするトランスポートと同じ高精度のクロックや0.5秒のバッファ、そしてフロントエンドのSHARC DSPなどのハイエンド機材が使われていて、一般的な低価格のiPodドックとは一線を画しています。
それがiMSBLinkを単なる色もの的な製品ではなく、真にハイエンドコンポーネントに組み込むことのできる可能性ある存在にしています。
このように内部的にはかなりハイレベルですが、外観と使い勝手からみるとiMSBLinkは単に普通のiPodドックにデジタル出力がついただけです。またiPodも改造してももとの機能はそこなわれません。これはシステムの柔軟性という意味ではかなりメリットがあります。
つまり同じiPodを外ではポータブルで聴いて、家ではiMSBLinkを使って家のオーディオで聴けるわけです。
またiPodのドックに専用のRF送信機をつけてまるでリモコンのように使うことができます。このため家でも手にiPodをもって外で聴くように自由に選曲ができます。
実のところデジタル領域でのiPod/iTunesシステムの可能性はなかなか高いようで、デジタル出力をうまく作りさえすればビットパーフェクトの出力を得ることができるとのこと。
ハードディスクトランスポートというと最近オンキヨーでもPCのシステムを発売しました。このようにハードディスクトランスポートというと静音PCの応用がまず頭に浮かびますが、iMSBLinkはHDトランスポートはさまざまな形になりうることが可能だということを教えてくれます。
音楽がMP3の圧縮フォーマットであれ、96k/24bitのCDを越える高音質フォーマットであれ、これからネット配信の形に移行して行くとこうしたインフラとしてのHDトランスポートも必要となっていくでしょう。
また選曲の利便性だけではなく、CDのように不安定なポリカーボネート板の高速回転に頼らない安定した読み出しによる高品位なデジタル出力が期待できます。
問題は価格が高いことです。システムでは$2349もします。
http://www.sound4sale.com/
サイトを見るといくつか選択がありますが、わかりにくいのでここは解説が必要です。$1995というのは一台のiPodの改造費とドックの価格です(自前のiPodが必要です)。$199は追加するiPod一台当たりの改造費です。iPodは第5世代の80GBと30GBのものが可能です。
始めから改造されたiPodと外部ドックのセットは$2349になります。
日本ではイーディオさんが取り扱うようです。
2. iMSBLink 試聴レポート
神楽坂のイーディオさんはER-4を初期に手がけたことで知っている人も多いと思います。CESで発表されたシステムを見てさっそくデモ機を持ち帰ったそうですので、試聴させてもらいました。
試聴はCDトラポと聞き比べる形で行いました。またAirMacを使った光リンクとも比べています。
使用した機材は次の通りです。
1) CDT CEC TL-2x (DACとはAES接続) *クロック改造しているそうです
2) iMSBLink (DACとはAES接続)
3) PC iTunesからAirMac (DACとは光接続)
すべてDACはMSBの同じものにつないでいます。MSBのDACはアメリカではわりと定評あるものです。アンプとスピーカーはイーディオオリジナルということです。
CDTとiMSBLinkはケーブルのつなぎかえ、AirMacの光(TOS)はDACのセレクタで変更します。
試聴は音そのものを確認するためギターとヴォーカルのシンプルな曲と低域方向をみるためにコントラバスの曲を使いました。実際にRIPしてもらい改造されたiPodにいれてCDと聞き比べます。これを何回か差し替えて試聴しました。
まずギターとヴォーカル曲ですが、システムの音になれるためしばらくCDTで聴いてからiMSBLinkに変えました。
iMSBLinkに替えるとまずヴォーカルが厚みをもって生き生きと聴こえます。全体にCDTがやや細めに思えますが、iMSBLinkは実体感があるというか豊かな音のテクスチャがあります。タイトなギターの切れ味を活かしながらより鮮度が高く生っぽく感じられます。CDTも音のコントロールは悪くはありませんが、聴いていて物足りなく感じます。ここは好みや曲もあるかもしれませんが、わたしはiMSBLinkの方が豊かで鮮度感がありかなり好印象でした。
AirMacはまず帯域が詰まった感じがして上に伸びる気持ちよさに欠けます。また全体に細いというより痩せている感じで、これはわたしは途中で聞くのを止めました。
そしてコントラバスの曲はiMSBLinkから先に聴きましたが、次にCDTに変えたところやはり物足りないという感じがします。ただ低音はCDTもなかなかよく制御しています。CDTもクロック改造しているそうで、そのせいもあるかもしれません。
AirMacでは音が膨らんでしまって、ちょっと前の二つとは差がつく感じがしました。ただロックなどで聴くと迫力あると思う人もいるかもしれません。
個人的にはiMSBLinkとCDTではiMSBLinkの方がよいと思いました。わたしは客観的に見てもiMSBLinkが上と思いますが、好みによるところもあるでしょう。CECは柔らかいといわれるベルトドライブの特性があったのでやや鮮度感にかけたと思ったかもしれません。
しかしDACならともかくトランスポートで音がこんなに違うというのは驚きます。
AirMacはさきの二つとは大きな差がついたと思います。AirMacに関してはテストしてみると悪くないところもあるようなのでシステムの組み方にもよるかもしれません。


次にiMSBLinkとRF送信機のテストをしてみました。これは先の曲と合わせてiPodに入っている試聴用の曲を普通iPodを使っているように腰掛けながら次々と聴きます。ちなみに写真のRFモジュールは試作品で製品版はもう少しきちんとした形になるようです。
音的には気持ち甘くなるような気はしますが、音楽に聴き入っているとあまり気にならない程度です。それよりもiPodそのままの操作感で使えるというのは爽快で不思議な気がします。あまりに自然に使えるのでシステムの存在が消えてしまいますね。
ただしボリュームコントロールはiPodからできないのでそれを補うために別にリモコンが用意されています。ここだけ残念なところです。
正直言って音もシステムとしてもかなりいいとおもいます。わたし的には外ではiPodなので、外で聴いているiPodをそのまま家でもオーディオシステムに組み込んで高音質で使えるというのはなかなかに魅力です。いずれにせよ第5世代iPodはiMod改造ができないのでALOなどのドックを使うことになりますからね。
価格がもう少し安ければ物欲だけで即買いだと思いますが、iPod込みとはいえ30万だと他の選択があるというところを考えてしまいます。
たとえばVinnieさんが主張するOliveとNokiaのPDAの組みあわせならばほぼこのシステムと同じ音と操作性が確保できるかもしれません。きちんとした電源を持ったOliveのシステムならばより安定して低ノイズの高品質な音を期待できます。
ただしOliveとNokiaの組み合わせは日本語対応されていませんが、iPodベースならその心配はありません。またOliveはAppleロスレスが使えないので別のライブラリが必要になります。
それとAppleがiPodのAV機能を高めていくと純正でこうしたデジタルアウトがでるのではないかという推測はあります。ただしその場合はCDトランスポートと少なくとも互角以上というようなこだわりの高品質なデジタル品質を達成するということはないでしょう。
4月に出荷ということなので、ま、ちょっと考えモードです。
詳細なレポート参考になります
iPodをリモコン代わりに手元で操作というのは
かなりそそられてしまいますね〜
飽くことのない音の追求は凄いですね。(@@;
そのうち普通のオーディオのように、各部がパーツ単位で売られるかもしれませんね。一般の人には煩雑過ぎますが。(−−;
この操作のシンプルさと、外と家とのシステムのシームレスな点はたしかに魅力的です。
たしかにiPodもオーディオファイルの間では評判のよくないところもありますが、こうした応用を見せられると驚きます。
オーディオのデジタル化というのはまだまだこれからですね!
どうもすいません、一時ネット障害があった関係でコメントのプロセスが止まっていました(汗)
いまは回復しました。
まあこれも「たかがiPod、されどiPod」というところです(^^
これを入手してからは、ほとんどこのOlive からDAコンバータに入れて聞いています。
とても素晴しいです。
ありがとうございます。
・リモコンは別オプションとなりました。
・RFリンクは標準で付いています。
2007年6月11日の週から在庫が入荷し、出荷できる体制となりました。
今の出荷品にはサンプラーCDが入っています。
著名レコードレーベルのものです。
そこの社長はMSB大好きですので実現できたと思われます。
ちなみにRockPod(freeのiPod用ソフト)をリコンパイルしたソフトでもデジタル出力が出ると言う報告が国内で来ました。
発売開始おめでとうございます。RFリンクがあれば、まあリモコンはいらない感じです。
なかなか面白い切り口の製品なので広まると良いですね。