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2007年02月07日

S6とEL34 (真空管交換)

EL34はかつてはオーディオではマランツ、ギターアンプではマーシャルがそのアンプに装備していたことで勇名をはせた真空管です。おそらくもっとも有名な真空管のひとつでしょう。
EL34はPhilips系で開発された真空管で1940年後半に生まれました。EL34が他の真空管と違うところの一つはこれがオーディオ(ラジオ等も含む)の専用球というところです。つまり他の真空管に比べてより音質ということも考えて作られているといえます。


ECC82とちがってEL34は現行管が選択の中心となります。
それは前球と違って出力管はビンテージものが高いということがあります。S6の場合は6本ものEL34を替えねばならないというところで、ヴィンテージのEL34メタルベースなんかを6本も買った日にはマークレビンソンくらいの値段になってしまいます。
それとマッチドペアの扱いがやっかいで2本ならともかくクアッド(4本)以上のペアをビンテージでそろえるのはかなり難儀です。ちなみにS6の場合はマッチドペアは右・左の3本ずつのマッチが必要です。

もうひとつはEL34がまだ生産が盛んだからです。
真空管というと骨董趣味的にも感じますが、一説によると全世界で数百億円程度の市場があり10%程度成長を続ける市場だそうです。ただしその90%はHiFiオーディオアンプではなくギターアンプです。
もともとEL34が今日にメジャーになったのは二つ大きな理由があって、ひとつはさきに書いたようにマランツ#8Bで採用されたのをはじめとしてオーディオアンプとしての音の良さがありますが、もうひとつはEL34の丈夫な特性を使用して軍用、またギターアンプとして使われたということがあります。
ギターアンプはゆがませるのがひとつの眼目でそのためにいまでも真空管が主流なわけですが、消耗もはげしいようです。そのために常に供給が必要です。逆に言うと現代管はそうした市場に主に供給しているわけなので、耐久性や音質よりも価格を優先される傾向にあるとは言えるでしょう。

そこで管球王国の現代EL34の聴き比べを見てみると、現代管でわりと良さそうなのではJJ、燭光(トライオード選別品)、スヴェトラーナ、ナショナルエレクトロニクス(クラシックコンポーネンツ企画品)などがレポートから読み取れます。
ちょっと注釈するとスヴェトラーナは複雑で、もともとスヴェトラーナという名前のペテルスブルグにあった会社はいまはSED(Svetlana Electron Devices)というブランド名で販売されています。現在Svetlanaという名前で販売されているのはNew Sensorというアメリカの会社がロシアのRefrektor(サラトフ)などに発注している企画品だそうです。
ちなみにこれはカメラの世界でも同じですが、ロシアはもとは国営だったので工場名で区別されます。Refrektorは工場名であり、現在は会社名でもあります。


現行管で考えた方がよいとはいえ、EL34というとやはりマラードが代表格といえます。ただしEL34のビンテージというととてつもなく高価なものになってしまいます。でもやはりマラードのEL34がほしい、というとそこで出てくるのが復刻ものという選択です。これは当時の設計をベースに忠実に再現したものです。

実は復刻マラードにはふたつのタイプがあります。
ひとつは日本ではこれが復刻マラードと呼ばれているものですが、さきのNew Sensorという商社が企画してReflector工場で製作しているもので、これが公式な復刻マラードになります。日本の店頭でマラードブランドの箱でMade in Russiaと記載されているものはこれです。公式というのはNew Sensor社が正式にMullardという商標の使用権を得ているからです。
音は評判は悪くないのではじめはこれを考えましたが、もうひとつ見つけました。

それはギターアンプで有名なGroove Tubeが企画して作成したEL34Mです。これはブランド名は使えませんので暗に復刻ということを示しています。これはわたしが入手したときはまだ日本では正式に入っていなかったのですが、わたしがこの件をGroove Tubeの営業の人とメールしていたらその人の好意で代理店さんから正式に入手することができました。

el34m1.jpg

マラードのEL34にはXF1、XF2、XF3、XF4というタイプがありますが、New SensorもGroove TubeもXF2をベースにしています。XF2は量産型の基本が固まったモデルですのでこれを手本にしているのでしょう。
XF2は上部の放熱板の下が平らでヒーターの温度がやや高いのが特徴で普通の管より明るくなるそうです。実際に使ってみるとたしかに前のスヴェトラーナより明るくなっているのできちんとコピーされていると思います。

el34m2.jpg

ちなみに差し替えにはアンプがセルフバイアス(またはオートバイアス)でなければ手動での調整が必要です。S6は問題ありません。
スヴェトラーナと比較するとGT EL34MはややSNが良くなった感じがして厚みがでます。
音数が増えて空気感があり、アコースティック楽器の擦れる音が生々しくリアルに聴こえます。
上はやや抑え気味ですがきつさはまったくありません。低域はスヴェトラーナより量感は減った感じがしますが、ボワついた感じが減ったともいえてバランスはかえってよい感じはします。下には十分沈んでいます。
やはり全体に上品といわれるマラードのイメージのように思えます。(わたしはビンテージ管を聴いてないのであんまり言えませんが)
音は暖調で柔らかみがあります。これらのGTレイティングは5(中間)ですが、これを高くするともう少しかっちりすると思われます。ただ真空管アンプとしてはこのくらいがよさそうにも思えます。(Groove Tubeはハードレイティングという値があって高いほどHiFiむけで低いほどギター向けでゆがみやすくなります)
全体にEL34Mはかなりお勧めな真空管だと思います。


EL34Mとクリアトップだとやや細身ですが、低音はスレンダーでバランスよくより下に沈む感じがします。
EL34Mとビューグルボーイだと低音はややふくらみがあり沈み込みが少し足りなく思います。コントロールはクリアトップの方が上手かもしれません。
その代わりビューグルボーイの方が広がりが豊かで彫りも深く感じます、ただしやや荒れ気味のところがあり低音も膨らみます。
クリアトップは広がりと奥行きに欠けますが、低域は膨らまずにより深く沈み重低音まで感じます、またより高くきれいな高域が豊かな倍音の響きとともに感じられます。帯域バランスの整いと豊かな倍音をより感じます。スヴェトラーナのときは低域が出力管のほうで膨らんでいたのでクリアトップの低域の良さに気が付かなかったという感じです。
なんといってもIKEMI->クリアトップ->EL34Mの組み合わせは美音の極地で感動的な中高域を堪能できます。前に書いたようにEL34自体が中高域が得意な管なのでこれはまさに絶妙の組み合わせです。
ここに至るとたしかにS6がシングルで無理してパラレルでパワーを稼いだという意味が感じられます。真空管の響きとやわらかさとタイトな低域のコントロールを両立させています。

いまはEL34Mは固定してたまにクリアトップとビューグルボーイを差し替えています。より繊細で美音のクリアトップとよりダイナミックなビューグルボーイでアンプがちょっと変わったものに聞こえ、気分や曲に合わせてけっこう楽しめます。

次の興味としてはGroove TubeがGEの6CA7の完全復刻というプロジェクトがあるのですが、ちょっと難儀しているようです。
真空管は電気的な互換性があればかならずしも同じタイプでなくてもかまいません。EL34と6CA7は構造はかなり異なりますが電気的互換性があります。
(ちなみに互換性はこちらのサイトで確認できます)
http://www.nostalgiaair.org/Tubes/
ちょっと上品なEL34に比べると野太く力があるといわれる6CA7はまた面白そうではあります。
posted by ささき at 22:32| Comment(0) | TrackBack(0) | __→ Unison Research S6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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