Music TO GO!

2007年02月06日

S6とECC82研究 (真空管交換)

真空管アンプの楽しみの一つは球を交換することで好みの音にすることができることです。

わたしはカメラ趣味ではレンズについてうんちくを傾けるのが好きでカメラのムック本に解説記事を書いたりもしたんですが、道具としてのカメラ・レンズに興味をもつとその歴史や背景文化まで興味を持ってしまいます。そうして多面的に世界を広げるのがおもしろいわけです。
オーディオでレンズに相当するものというと真空管かなあと思います。実際のところ同じ規格の真空管ならだいたい似た音を出しますが、それでもメーカーや年代で異なる微妙な違いがあって、そこを突き詰めるのが面白いわけです。レンズも同じで明るさと焦点距離が同じなら似たような写りなわけですが、やはり微妙な違いがあります。そこを国産だツァイスだと言いながら、それを歴史や背景まで話を広げるのが趣味としては面白いわけです。


それはともかく話を真空管の交換に戻すと、S6において替えられるのは前球(電圧増幅管)と出力管ですが、一般に前球を替えるほうが効果が高いといわれているのと安いということでまず前球から替えることにしました。信号が小さい前段での効果が大きいというわけです。

S6は電圧増幅管にECC82を指定しています。電圧増幅管はプリアンプのようなものでアンプの前段にあたります。
真空管を替えるには同じタイプであわせますが、ブランドを変えてもかまいません。ただし左右二本の性能がマッチしていることが望ましく、これをマッチドペアといいます。さらにECC82の場合は双三極管なので中の二つの三極管のマッチも望ましいことになります。

この前球を交換するには同じECC82というタイプで選びますが、12AU7という管も使うことが出来ます。12AU7とECC82は互換性があり、おなじものを別な言い方をしているといえます。もともとECC82はRCAが開発した12AU7がもとになっています。
真空管には米式と欧州式の呼び方がありECC82というのは欧州式です。またECC82というのはメーカーの型番ではなく、真空管のタイプを表しています。ECC82は"E・CC・82"に分解でき、それを読み解くと、Eはヒータータイプ、CCは双三極管のこと、82はソケットのタイプが分かります。そのためECC82といっても各社からさまざまなものが出ていて、会社によってさまざまな個性や性能差があるというわけです。
出力管に関しても同様ですが、300Bというのは例外でこれはタイプではなくウエスタン・エレクトリックの型番です。

真空管の交換をする際に大きくはビンテージ管(過去に生産された残り)を使うか、現行管を使うかという選択があります。
またビンテージ管にはNOS(New Old Stock)といわれる新品(新古品)と中古品があります。現行管は安いので中古というのはあまり使われません。ビンテージ管にはアメリカ製やイギリス製、ドイツ製がありますが、現行管はほとんどロシアか中国または東欧生産です。
どちらが良いかというのは答えの出ない選択ですが、一般には高価でもビンテージ管が良いといわれます。
真空管の黄金期は戦前から50-60年代くらいであって70年代でも品質が落ちるといわれます。この当時は良い材質に良い職人が生産にあたっていたということもあります。材質ならば現代のほうが進んでいそうですが、現行管はロシアや中国で作られているというほかに、あとでEL34編でも書きますが主にギターアンプに用いられるため消耗品的な性格があるからです。

実はもうひとつ現行管には復刻ものという選択があります。これはEL34編でまた書きますが、いまではプレミアがついているような真空管を復刻して再生産するというものです。
ECC82の系ではJJがプレミアもののECC802Sを復刻したというのが少し前の話題になっています。


真空管のブランドというとイギリスのマラードとドイツのテレフンケンがひとつの頂点でこれらは特に人気があります。
たとえばECC82系統で一番人気があるのはテレフンケンのECC802Sですが、これはECC82の特別仕様品でかなり高値で取引されたりします。いまではテレフンケンのECC802Sはペアで$1000以上します。JJの復刻ECC802Sならばペアで$20-30程度です。
またテレフンケンではECC82にはスムーズプレート(プレートに補強リブの無いもの)、マラードであればロング(ナロー)プレートというやはり50-60年代に生産されたものに人気があるようです。またマラードの場合はCV4003というイギリスの軍用規格ものも人気があるようです。
これらはだいたいNOSだと一本$100から$200はするでしょう。ただし音質的な評価は現行管よりかなり優秀といわれます。

テレフンケンとマラードなどのかなり高価なヴィンテージ物については価格分の価値のあるなしではなく、いまの私のレベルで良いビンテージを見つけるのはむずかしいというのがネックです。私自身が真贋の判断をするというだけでなく、このディーラーの言うことなら安心するという取引先を見つけてからそうしたものに手を出すつもりです。
そこでそれらは宿題としておいて、当面はセカンドベストの選択を取りました。

そこで選んだものは下の二本です。

Amperex "Bugle Boy(ビューグル・ボーイ)"

RCA "Clear top(クリア・トップ)"

これらはテレフンケンとかマラードに比べると少し安目というほかに、テレフンケンとマラードがわりと素直でくせがない音で知られているのに対して、めりはりのある音楽的な球として知られています。

海外ものの真空管の市場はやはりアメリカが巨大で入手できる数も多彩です。
また海外のこうしたショップでは測定してマッチドペアをきちんと保障してくれるシステムが完備しています。これはむこうではビンテージでも買ってきちんと実用する考えがあるからだと思います。

わたしはAudio TubeというショップのBrentさんのところに頼みました。Brentさんのところはちゃんと測定結果をプリントして張ってくれますし、対応も早いです。

bb1.jpg

AmperexはPhilipsの真空管ブランドです。これもオランダだけでなくアメリカや日本でも製作されています。
Bugle Boy(笛を吹く子供)は60年代に製作された表面にプリントされるロゴタイプをさしています。70年代から後はオレンジの別なワールドロゴと呼ばれるものに変わっています。
セカンドベストとは言っても、さすがにBugle Boyロゴ付きはそれなりに高いのでBugle Boyと同時期に同じオランダのHeerlen工場で他のブランド(Dumont)向けに製作された品を注文しました。箱が白箱というだけでは問題ないです。なぜかというとこれらのNOS品の多くはバルクでディーラーが入手することも多いからです。これらは60年代初期とのことで一番いいときですね。

電源を入れたときに管の下部が一瞬ぴかっと明るく輝く、これはAmperexの特徴ですのでまがいものでないことを証明しています。

Bugle Boyの音はぱっと聴くと音にめりはりがあってにぎやかに聴こえます。抑揚があって低域も低い方まで深く沈むようになります。
また音場も広く前後の立体感があり、全体に前よりでダイナミックな魅力があります。
SNもかなり良い感じです。


cleartop2.jpg

RCA クリアトップもまたこうしたミニチュア管では高名な球です。
これはゲッター(メッキ部分)がサイドにあるため球のてっぺんが透明であるのでそう呼ばれています。

cleartop3.jpg

全体に美音で高域はより美しく透明感があります。全体に繊細で細い感じがします。
Bugle Boyも高い音はとても美しいのですが、クリアトップはさらに二重丸をつけたくなるくらい美しく滑らかで繊細です。
低域はやや軽く感じられますが、上はかなり伸びます。
ただしオールラウンダーとしてみると音場がやや平面的で、迫力やめりはりのあるほうではありません。
音の3次元感もBugle Boyほどありません。全体に立体感はJan-Philipsよりも劣る感じです。
真空管らしい柔らかさはかなり良いかんじで、落ち着いていて静かに聴く音楽には一番良いかもしれません。

これらにたいして標準のJAN-philipsも音の分離・解像感やSNはやや劣りますが、3次元的な音の立体感はかなりあります。

ソースとの組み合わせではIKEMIから直接使うにはRCAクリアトップの方がよりよく感じます。これはIKEMIの高域部分にややピークがあり、その部分が真空管の高いほうの美しさによくマッチするからです。
また全体にウォームなIKEMIはよく言われますが、真空管アンプにマッチした音色といえます。

またDLIIIとはBugle Boyがあうように思えます。DLIIIの基本的な性能の高さ、音の分離や広がりが生きてきます。ただRCAクリアトップと組み合わせると高域がIKEMIよりややおとなしい分で、ちょっと楽しい刺激が減っているという感じです。

次はAmperexのプレミア規格である7316の方に手を出してみようかと思っています。またよく取り上げられるマラードのCV4003も製造年代を考慮すると最高のものというわけではないようですが、クライオ処理したものがよく流通していて、クライオのベースとしてはよいようです。軍用規格だと耐久性は折り紙つきですしね。
あとはやはりいつかはテレフンケンですが、これはなかなか。。
posted by ささき at 21:55| Comment(2) | TrackBack(0) | __→ Unison Research S6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
真空管って、それだけで集めて見たくなる様な魅力がありますよね。次はテレフンケンですか。ささきさんのことだから、春ぐらいまでには・・・

私もJJのKT88、買おうかな。姿形優先ですが・・・(^^;

もう一つシステムを組むなら、300B(WE製に限る)のシングルアンプで高能率のSPをドライブしたいと思う今日、この頃です。
Posted by ゴーヤ at 2007年02月07日 17:52
ゴーヤさんのアンプもいろいろな真空管が使えるので、そうした意味でも楽しめそうですね。

わたしも300Bはいつかほしいですね。音的にもデザイン的にもやはり真空管の王様という感じがします。ゴーヤさんのいうように300Bだとスピーカーも替えたいところですね。
Posted by ささき at 2007年02月07日 22:48
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