iFi(アイ・ファイ)はポタ研のさいにトップウイングのブースで展示されていた新オーディオブランドです。
今回はヘッドフォンアンプのiCan、USB DACのiDAC、そして「USBクリーン電源」のiUSB Powerを発売に先行してお借りしたのでレビューします。下記では親会社のAMRの技術者に直接聞いてみた情報も反映させています。
* iFi とAMRについて
iFiというのは新しいブランドですが、AMR(Abbingdon Music Research)というイギリスのハイエンドオーディオメーカーの新ブランドです。AMRというのも日本ではなじみがないのですが、クラスレンジは数十万から百万くらいだと思います。私はAMR DP-777というDACは知っていたんですが、これはAudirvanaが初期のころにインテジャーモードをテストするのにダミアンがAMRとタイアップして進めていたので名前を覚えていました。私が訳出したインテジャーモードの白書にも書いてあります。また実際にAudirvanaのショウデビューもイギリスのオーディオショウのAMRブースでした。
AMR CD-777
AMRの人の話によると、AMRは過去と最新の技術の良いところどりをするというのが開発哲学であるということです。英国オクスフォードにあるAbbingdonというのは大型車を打ち負かすような高性能の小型車ラリーで有名なところだということで、AMRも電源やアンプを分離しないでコンパクトなワンパッケージとして、かつ大きなセパレートタイプのシステムに対抗できるような製品を目指しているということです。(たとえばプリとパワーを分けないでプリメインで高性能を目指すという感じ)
なかでも先に書いたDP-777というDACはユニークで、16bitのDACチップと32bitのDACチップをいっしょに搭載しています。それを切り替えて使えるという仕組みになっていて、かつアナログ回路には真空管を使っているというものです。DACチップ切り替えは入力によるようで、16bit DACはフィリップスのUDA1305ATという「最後のマルチビットDAC」をNOS(ノンオーバーサンプリング)で使用しています。これと真空管を組み合わせるのですから音はだいたい想像はつきますね。つまりアナログっぽい滑らか志向の音楽的な音なんでしょう。一方でハイレゾは32bit DACで再生できるというわけです。こちらはWolfsonを使用しているようです。ちなみに定評あるマルチビットDACのTDA1541はおそらくAMRが世界で一番ストック持ってるんじゃないかと言ってました。(PCM1704は一番ストックあるのはAudio-gdのような気がしますが)
AMRの音再現の方向性というのがこれらからわかるのではないかと思います。
こちらはAMRのホームページです。
http://www.amr-audio.co.uk/index.php
AMRの話を長めに書いたのはこれらの技術やポリシーがiFiに受け継がれているからです。
iFiはほぼAMR出資の子会社で、2011年のRMAF(ロッキーマウンテンオーディオショウ)のときにデビューしました。新ブランドの目的としては、従来AMRが対象にしていた伝統的なスピーカーオーディオに対して、動きが早く若者向けのヘッドフォンオーディオに特化した製品開発をするということです。やはり若年層の顧客開拓というのが大きい理由のようですが、この辺の事情は日本とも似ているところが興味深いところです。
そのために価格は手頃な現実価格にするけれども、技術的にはハイエンドのAMRを受け継いでいるということです。たとえば下記で紹介しますが、A級増幅、TubeState、DirectDrive(ダイレクトカップリング)、オーディオ品質の電源供給などです。(価格的にはAMRが$3000-$5000くらいなのに対して、iFiはいずれもUS$200-300くらいの価格帯です)
ですから新ブランドといっても出自があやしいものではなく、血統正しく技術的にも確立した安心できるブランドであると言えるでしょうね。
こちらはiFi audioのホームページです。
http://ifi-audio.com/en/index.html
以下製品紹介をしていきます。
このシリーズはすべてコンパクトな同一サイズでまとめられていますし、パッケージもデザインも共通しています。アクセサリーは異なりますが、おおむねはじめからケーブルなどが付属していて初心者でも困らないように考えられています。上面に状態表示のLEDがついているところも同じですが意味は機種で異なります。プラグ等は入力と出力がそれぞれ反対側にまとめられています。機器間のケーブル接続の間に挟まるようなイメージですね。
価格も安く設定されていて、コンシューマー向けブランドを思わせます。国内価格は完全に決まっていないので、参考として現地価格を乗せておきます。
* ヘッドフォンアンプ iCanについて
iCanは純粋なヘッドフォンアンプでデジタル入力など内蔵DACはありません。現地価格は$249。アクセサリーはRCAケーブル、ミニミニケーブル(iPodなどからの入力用)、電源アダプターが入っています。
入力はRCAのほかにステレオミニ端子も用意されている点はiPodなどやiPhoneなどからの使用も考慮しているのでしょう。ミニ端子からミニ端子への白いケーブルが付属しています。
付加機能としては低域強調のXBassや音場感を広げる3D Holographic Soundなどが用意されています。
3D Holographic Soundというのはヘッドフォンの頭内定位を解消するというものです。従来技術ではクロスフィードがありましたが、これは独自の技術を使用しているということです。特徴的なのはこうした機能はたいていDSPなどデジタル領域で行うものですが、この技術はアナログ回路で設計されているということです。この辺のこだわりもハイエンドメーカーの気質を受け継いでいるのでしょうか。
もうひとつの機能であるXBassはいわゆる低音増強のベースブーストです。こちらもヘッドフォンが低域特性に個性差が大きいので、低域不足と感じるヘッドフォンに対して補正するという考えのようです。ですから低域を足すというよりも、低域をあるべきレスポンスに戻すという考え方で設定しているということです。
これらは従来スピーカー向けに作られていたAMRに対して、iFiではヘッドフォンオーディオがメインターゲットになっているので、基本機能に加えてこうしたヘッドフォン向けの付加機能をプラスしたという風にも考えられます。AMRから受け継ぐ基本機能というのはたとえばDirectDriveやTubeStateと呼んでいるものです。
DirectDriveというのは後段に通常ある抵抗やコンデンサーをバイパスしてアンプ部からヘッドフォンアウトにダイレクトに出力するというものです。つまりはこの前RWAK100で書いたような改造を純正でやっているような感じでしょうか。これにより出力インピーダンスは1オーム以下となりヘッドフォンの制動力も高くなるということです。
TubeStateというのはTube + SolidStateというような意味らしく、真空管のように滑らかな音をソリッドステートのように歪みなく再生するというもので、技術というより設計ポリシーのようです。
* USB DAC iDACについて
iDACはバスパワーで動作するUSB DACです。現地価格は$299。RCAケーブルとUSBケーブルが付属します。
USB DACとしては192kHz/24bitまでサポートするUSBオーディオクラス2.0(UAC2)に対応しています。XMOSを使用しているのでアシンクロナス転送に対応しています。つまりMacOS 10.6.4以上であればドライバーのインストールは必要ありません。Windowsではドライバーをインストールする必要があります。
しかしながらAMRの技術者に聞いてみたところ、UAC2に対応していないOSの場合にはフォールパック機構(失敗したときに働く機構)としてオーディオクラス1(UAC1)ドライバーで働くようになるようです。これはAyreのQB-9ではファームのスイッチで切り替えたりできましたが、iDACでは自動で行われるようです。この辺はAMRのファームによって動作しているようです。
ただし開発者の言うことにはiFiの提供するドライバーを利用した方がバッファの制御などで優れているので44kだけ使うとしてもこちらを使用してほしいとのことです。ドライバーにはAMRのロゴがありますのでDP-777あたりと共通かもしれません。
DACチップは旬のESS ES9023を使用しているという点もiDACのポイントです。開発者の弁によるとES9023は競合と比べても優れたチップなので余分にデジタルフィルターなどを追加しないで、素のままで使うようにしているということ。これもAMRから受け継ぐポリシーのようです。マルチビットDACを志向しているメーカーが(Wolfsonはともかく)その対極のようなESSを使うというのも面白いですが、9023ではなるべくワンチップで完結してシンプルにDACを構成できるという点が良いのでしょうね。
またジッター低減ではZeroJitter Liteという機能を採用しています。なぜLiteかというと、この上位に当たるAMRのDAC DP-777で採用されているジッター低減技術がZeroJitterというもので、そのスケールダウン版としてZeroJitter Liteという機能をiDACに搭載しているということです。もちろんスケールダウンしたとしても十分な能力を持っているとのこと。つまりはAMRでの経験を生かして上位機種譲りの機能を備えているということですね。この辺にもAMRの技術の継承が見えます。
またiDACには内蔵ヘッドフォンアンプがついていて、ミニ端子ですがこれ単体で音楽を聴くことができます。ボリュームもついていますが、これはおまけかと思いきや意外と力があります。
* 「USBクリーン電源」 iUSB Power
iUSB Powerはユニークなラインナップですが、USB DACへの給電をクリーンにして音質を向上するというものです。現地価格は$199。使用する際には外部電源が必要です。ACアダプタとUSBケーブルが付属します。
一般的なUSB DACでは全体をバスパワー給電したり一部を給電したりしますが、PCからのこうした信号はたいていノイズで汚染されています。そのUSB電源をクリーン化するのが、このiUSB Powerです。使用法としてはPCとUSB DACの間に挟むようにして使用します。
つまりPCからUSBケーブルをiUSB PowerのUSB Bプラグに接続します。そして反対側のAプラグからもう一本USBケーブルを使用して、DACのBプラグに接続します。またiUSB Powerには外部電源が必要です。反対側に二口USB Aがあるのは後で発売されるGEMINIという電源・信号別になったUSB ケーブル(あのアコリバのやつみたいなもの)を使用するためです。通常は一口(信号+電源の方)のみ使用します。コンシューマーブランドではありますが、こうして電源にこだわりを見せるのも伝統的なオーディオメーカーらしいところです。
電源ノイズ (iFiホームページから)
カタログの方には面白い紹介があって、普通は電池から給電するのが一番安定しているのでノイズレスでクリーンだと考えられますが、実のところは充電池ではそれほどクリーンでもないというのがiFiの主張です。そこでiUSB Powerでは電池よりもさらにクリーンな電源供給を実現しているということです。
またユニークな機能としてISOEarthというスイッチがあります。これは仮想アース?のような機能によって、グランドループを断ち切って電気的にPCとDACを分離するというような機能のようです。これによってノイズフロアを下げることができるということ。これはAMRの技術者に聞いてみたところ、機器にダメージを与えずかつUSB信号を遮断しない方法で行っているということ。ただし日本のように電源が2口プラグの環境では、やはり違いはあるだろうが大きくはないかもしれないということです。
* 音のインプレッション
試聴はWindows7にiFiのサイトからiDACのドライバーをインストールしてJRMCをプレーヤーとしたPCオーディオのシステムとして試聴しました。後でMac(10.8)でも接続は確認しています。ヘッドフォンはHD800を使っています。またRCAケーブルとUSBケーブルは聴き慣れた自分のキンバー(RCA)とSAEC(USB)を使用しています。iUSB powerについてはPC側を付属USBケーブルを使用しています。
HD800とiCan
はじめにiDACをPCに接続して内蔵ヘッドフォンアンプで聴いてみました。HD800ではミニ変換プラグが必要ですけど、iDAC単体のヘッドフォン端子でもHD800で十分音量を取ることができます。iDACの内蔵ヘッドフォンアウトもわりと悪くはないというか、後で書くiCanを通すよりこちらの方がいわゆるESSらしい音に近い感じですね。ただそれでもDragonflyあたりに比べると滑らかでわずか暖かみがあるように感じられますので、ESSのドライな感じを適度に和らげているようには思えます。反面で高域が少しきつめに出ることがありましたが、これはエージングの問題かもしれません。また後で書くiCanを通すより音の広がりが弱くこじんまりとした音空間ではあります。
次にiDACをiCanに接続してiCanからHD800で聴いてみました。iCanを通すとより暖かく厚みのある豊かな音楽的な音になります。全体的なバランスも含めて、かなり良い感じですね。また音の広がりは3D Holographic Soundを使わなくても十分にあります。
ここでiDACをバスパワーで性能の良いWavelength Protonあたりと変えて比べてみました。iDACは透明感や解像力が際立つタイプではないけれども、適度なクリアさがあり音の広がり感や滑らかで音楽的な表現が良いと思いますね。この辺もAMRの音の継承という感じなのでしょう。また前述したようにiDACの内蔵ヘッドフォンアンプだとこじんまりとした音空間ですが、DACとして使うとiDACは意外と音が広いのも面白いところです。
iCanとiDACの組み合わせはなかなか素晴らしく、一体感のある音で組み合わせて使うことを考えていると思います。音楽的で音色も美しく、滑らかで温かみがあります。女声ヴォーカルも魅力的ですね。ただ柔らかすぎずに楽器音の分離もしっかりしていていて、ギターなど生音の切れも良いようです。ヘッドフォンオーディオ的には聴き疲れも少ない上質な音だと思います。価格的に考えると十分な能力を持っていることを感じさせますね。
基本的にはiCanは素性の良いアンプという感じで極端な帯域強調はないので、味付けは3D Holgraphoc soundやXBassの機能を使っていくことになります。
3D Holgraphoc soundをオンにすると世界がぱっとひらけて明るく広くなった、という感じになります。単に音が横に広くなっただけではなく、感覚的には帯域特性というか音の個性も微妙に変わっているように思いますね。
XBassの効果はこの手の低域増強の機能にしてはわりと自然で音質の低下も少ないように思います。「・・・」と「・」のモードがあって・だとわりと自然にかかり、・・・は効きがかなり大きいけれども、これはHD800のようなフラット傾向のヘッドフォンでビート主体の音楽を聴くときに良いかもしれません。通常は・で常用してもあまり違和感はないかもしれません。
DragonflyとiUSB Power
iUSB PowerについてはまずUSB直結のDragonflyで試してみました。余分なUSBケーブルを追加してもなお効果があるかということを見るためです。この時の接続はこうなります。
変更前:PC→Dragonfly
変更後:PC→付属USBケーブル→iUSB Power→Dragonfly
実際に聴いてみるとDragonflyだとかなり効果はわかりやすくありますね。Dragonflyなんかは直差しからiUSB Powerについていた付属USBケーブルを追加しても、なお音質は大きく向上します。透明感が高まってクリアになり、音の広がりも向上して低域もより深みが増します。ISOEarthは微妙だけれどもやはりオンにしたほうが良いかもしれません。
次にもともと透明感の高いAudio-gdのNFB11.32にもつけてみました。USBケーブルはSAECを使用しています。
変更前:PC→SAEC USB→NFB11.32
変更後:PC→付属USBケーブル→iUSB Power→SAEC USB→NFB11.32
これはDragonflyほどではないけれども、たしかに効果はあって音の広がり・奥行き感の向上とさらに透明感も向上します。
そしていわば純正ともいえる3段重ね、iCan+iDAC+iUSBpowerだとiCan+iDACの印象をさらにひとレベル上げて豊かさを増した感じですね。
なおiUSB PowerはMac10.8でも使ってみましたが問題なく使用できました。
*
まとめるとiFiは全体的に音楽性を重視した気持ち良い音再現のシステムと言えるでしょう。またiUSB PowerはPCオーディオでUSB DACを使っている人には良い音質向上手段となると思います。
iFi製品はAMRの上位機種の技術をうまく理由することでコストパフォーマンスの高いパッケージに仕上げていると思います。低価格といっても中国製品のように原材料や工賃で安くするというのではなしに、すでに確立した技術や手法を流用することでコストを抑えるという考え方でしょう。
ちなみにAMRの技術者にこういう普及価格のDSD対応DACがほしいよ、と言ってみたら、作ることはできるけどまだ検討段階で市場を見ているところだと言ってました。そのうちにはiDSDなんていうのがほしいですね。
Music TO GO!
2013年02月20日
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