巨匠冨田勲の80歳の作品にして初音ミクが管弦楽作品で起用されたということでも話題となった公演のライブアルバムです。
本作は冨田勲氏の敬愛する宮沢賢治の作品世界を表現した合唱とオーケストラ(とヴォーカロイド)のための作品です。音楽は賢治の詩や小説の一節を合唱と初音ミクで歌い上げるもので、加えて壮大な冨田勲らしい映画のようなオーケストレーションが楽しめます。最近は惑星のリメイクをするなど積極的に活動をしている冨田勲氏ですが、TVでこの作品に関する番組を見ていたら、さすがにもう80でオーケストラのスコアを書くような細かい仕事はもう難しいと言ってましたので、300名もの合唱団を取り入れるような大規模な作品としてはこれが最後なのかもしれません。
初音ミクを起用した理由としては賢治の不思議な世界観を表現するのに"バーチャル世界の"存在が好適であると語っています。冨田勲氏はご存知のように電子楽器であるモーグシンセサイザーをいち早く取り入れた作品を発表した作曲家ですが、今回もヴォーカロイドという新しい可能性を取り入れているわけです。
しかし、この作品で特徴的なのは単に流行のヴォーカロイドを入れてみました、という以上に新しい試みも行われています。本来は「作り置き」しておく初音ミクの音楽を、11/23の公演ではリアルタイムで歌わせているのです。これはつまり録画・録音されたものではなく、きちんとその場で指揮者の指揮に合わせて歌っているということです。対していままでのいわゆる初音ミクのライブみたいなものは周りの演奏者が合わせていたわけです。これは演奏者が弾くキーボードに合わせたタイミングで歌わせるという仕組みのようですね。CGもリアルタイムということです。これで名実ともにオーケストラのソリストとして歌い踊っていると言っても差し支えないわけです。逆に言うと単に話題性とか集客効果から初音ミクを取り上げたわけではなく、真にヴォーカロイドを表現手段として起用したいからオーケストラと合わせられるように工夫したと言えるんでしょう。
80歳の巨匠の口から初音ミクという言葉が出てくるだけでも驚きのような気がしますが、いまなお進取の気鋭のある巨匠には頭が下がります。なお本作にはリボンの騎士のオーケストラバージョンも収録されていて、歌うのはもちろん初音ミクです(下記動画の後半にちょっと出てきます)。こちらは手塚治虫が生きていたら、とちょっと考えますね。
こちらにコンサートの様子が少しアップされています。
初音ミクとのコラボでは日本のノイズバンドの元祖というか大御所バンドの非常階段とのコラボ作品が最近リリースされたのも驚きです。
新人歌手としてみると初音ミクはデビュー間もないのにこんなに大御所との共演を可能としてすごい、という見方もあるようにやはり時代の寵児的な存在であるとはいえますね。もちろんスケジュールを合わせやすいとか、文句を言わない、スキャンダルもないと製作側にとって都合の良い側面もあるのでしょうけれども。
Music TO GO!
2013年02月14日
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