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2012年12月24日

Heir Audio Tzar 350と90 - ハイインピーダンスの高性能イヤフォン

Heir Audioはカナダ・中国系の会社で、主にカスタムイヤフォン(CIEM)のメーカーとして知られています。Heirは王位継承者(読みはエア)ということでしょう、エンブレムは王冠になっています。
こちらはHeir Audioのホームページです。
http://www.heiraudio.com/

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AK100とTzar 350

Heir AudioはカスタムIEMで知られるメーカーではありますが、今回紹介するTzar 350/90はユニバーサルタイプです。つまり耳型なしの普通のイヤフォンです。
Heir Audioにはいままでも3.Ai、4.Aiというそれぞれ3.A、4.Aというカスタムイヤフォンに対応するユニバーサルイヤフォンはありました。これはつまりFitEar MH334に対応するToGo 334のようなものですね。それに対して11月に発表されたこの新しいTzar 350とTzar 90はカスタムのベースモデルがないオリジナルのユニバーサルイヤフォンです。あとで書きますが音的には従来品に比較すると350が4.Ai、90が3.Aiのラインに対応するようです。
価格はTzar 350が$399、Tzar 90は$369です。

* Tzar 350/90の特徴

両者とも特徴はまず350オーム(Tzar 350)や90オーム(Tzar 90)という高いインピーダンスを持っているということです。
一般的なイヤフォンは普通は32オームですから従来にはあまりなかったタイプです。強いていうとあのEty ER4Sですね。Head-FiではよくER4Sと比較して言われてます。もう一つはYuin PK1/OK1です。どっちかというとこちらに近いかもしれません。

ヘッドフォンでもスピーカーでもそうですが一般にインピーダンスが低いものは緩め、高いものは締まった音になる傾向があります。
特にヘッドフォンはインピーダンスの幅が大きいのですが、もともとゼンハイザーなどのハイインピーダンスのヘッドフォンってスタジオなんかで複数台を並列接続させるのにインピーダンスが下がりすぎないようにという配慮もあるようです。
ポータブル用と言われるイヤフォン・ヘッドフォンのほとんどが32オーム程度のインピーダンスなのはiPhoneなど「非力なソース機器」でも鳴らすことができるということが説明として言われます。ER4SやYuin PK1/OK1の時代に比べるとはるかにたくさんのイヤフォンが選べるようになった今でも、そうしたハイインピーダンス系統のイヤフォンというのは多くはありません。またそれがER4Sがいまでも支持されているゆえんであると思います。
今はポータブルアンプが一般的になってきたので、こうしたアプローチが一般的になっても面白いかもしれません。実際にHeir Audioは独自にRendition 1というポータブルアンプも開発中です。これもイヤフォンメーカーとしては面白いところです。
ただしTzarがPK1やOK1とやや異なるのは、音量を取るためにヘッドフォンアンプ必携というわけではないということです。これはインピーダンスは高いけれども、能率も高いと言うことですね。このインピーダンス:高、能率:高という組み合わせというとヘッドフォンで言うとベイヤー T1の考え方に近いと思います。

ドライバーの構成でいうと350も90もドライバーの構成は1 High、1 Mid/Lowというデュアル・バランスドアーマチュア構成です。
面白いのはドライバーの数の多い3.Aiや4.AiよりもTzarの方がより高価であるということです。Heirの"Wizard"氏がいうにはTzarでは位相問題を考えてあえてドライバーは2個で作ったということです。また、使用しているBAドライバーはWizardの話によると補聴器などに使われるタイプの流用ではなく、純粋に音楽用に作られたものであるとのこと。
音導口はシングルボア(ひとつ穴)です。

350と90の違いはというと、Tzar90は単にインピーダンスを90オームに下げただけではなく、ドライバーの種類も音の作りこみも違うとのことです。音は350がいわばモニターライクなのにたいして、90ではVシェイプといってますがいわゆるドンシャリ的な派手な音作りにしています。
もちろん単に下げただけ、と言っても90オームはかなり高いのであとで書くように350と90の音の共通な印象は他のイヤフォンとは際立っています。

こうしたリファレンス系(350)と楽しみ系(90)を分けるというのは従来のカスタム・ユニバーサルでも同様で、3.Aiが90に相当する楽しみ系、4.Aiが350に相当するリファレンス系として音づくりをしていたということです。


* Tzar350と90のインプレッション

両方とも予定通り12/15近辺に発送され、一週間ほどで届きました。HeadFiのスレッド見てても私の予約はけっこうはじめの方だったと思います。UPSで発送されました。

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TZarはコンパクトで軽いイヤフォンです。ウッドのフェイスプレートも良い感じで、モールドは滑らかで悪くないですね。私はこれが初Heirなんでわかりませんが、他に試したHeadFi系の人は数ヶ月前に入手したHeir製品より良いと言っていました。音導口の穴の仕上がりは雑ではあります。耳へのフィットはそこそこですね。ユニバーサルIEMでチップは音に大きく変化与えるので、添付チップのみならずいろいろ試してみると良いと思います。

まず始めにいうと、350も90もiPhoneやゲイン切り替えのないAK100でも十分に音量が取れます。インピーダンスは高いけれども、能率がかなり高いようです。
音量レベルからいうと本当にハイインピーダンスかと思うんですが、音を聴くと納得します。

- Tzar 350について

少し試してみて相性が良いと思ったAK100での感想です。チップは標準の赤でケーブルも標準です。(Magnusリケーブルオプションは取らなかった)

まず感心するのは透明感が素晴らしく音が濁りなく澄んでいる点です。音の響きは高原の水のようにピュアです。背景はハイインピーダンスらしく漆黒で、それに切り立ったシャープで端整な楽器音が浮かび上がるという感じで、横の広さはあるわけではありませんが3D映画のような立体的な空間表現も特徴的です。
他のイヤフォンとは際立った感覚ですが、音の印象はあとで書くようにベイヤーT1が最も近いと思います。「高能率+ハイインピーダンス」という点も似てます。よりシャープなT1という感じでしょうか。

350の良い点は帯域バランスが良くて整ってますが、完全にフラットというより、ベースがちゃんとあるところです。低域は張り出しすぎない程度に量感もありますし、当然のようにタイトで締まったインパクトのあるベースラインです。
一つ一つの楽器音はシャープで切れ味がよく、歯切れが良くアコースティックギターの音色やピッキングのキレの良さは聞いたことがないくらいのレベルです。甘さ緩みが皆無ですね。弦楽器では「ヤニが飛び散るような」音再現の細やかさが堪能できます。
K3003に変えて聴き比べるとK3003は全体に甘く聞こえます。低域は比べるとさすがにK3003の方がずっと多いのですが、細かさはK3003に負けることはありません。

もう一つ良い点は音調が暖かくはないけど無機的でもないところで、器楽曲の再現はかなり良いですね。ロックポップもあまりきつくない音源だとリズムの刻みが切れよく小気味良くいい感じです。チップやケーブルできつさを抑えられたら意外とメタルもカッコよくならせるかもしれません。

シャープな反面で欠点は音がきつめに出るところです。ダイナミックではないのでバーンインしても完全には解消されないかもしれません。ただしギラギラしたって言うよりは録音をそのまま出す、ということかもしれません。高域がたっぷりあっても良録音盤だと痛さが出にくいですから。
良録音盤ではAK100で176kと88kの違いもよく分かります。

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- Tzar 90について

90は350と同じデザインなので同時に届くとどっちがどっちかわからなくなりますが、音を聴くとすぐ分かるくらいの個性の差があります。350と90の違いは松竹梅のグレード差ではなく個性の違いです。
ただしハイインピーダンスイヤフォンとして350と90の音は共通したところがあって、聴き比べないとどっちかわからなくなるかもしれません 笑。つまり350と90では差が明確だけども、350と90の共通部分は他の一般的なイヤフォンとは明らかに異なるということです。
ちょっと分かりにくい書き方をしましたが、350と違って90はちょっと判断に困るタイプではあります。350はハイインピーダンスとしてはいわば正道の音つくりで、イヤフォンではいままでなかったけれどHD800やT1の延長で捉えられる音です。端正でニュートラル・フラット(に近い)といういわゆる「ハイインピーダンスでモニターライクな」音調です。
でも90はそのハイインピーダンスにもともと32オームで一般的な派手で強調感の強い音つくりを組み合わせています。これはかつてなかった音です。強いてあげればHD700だけれども、もっと派手で極端ですね。

前置きが長くなりましたが、同じくAK100で聴くと、350との共通部分から行くと、クリアで音の描き出しは非常に細かく、基本的に漆黒の背景に端正で切り立った音像が浮かぶ上がるところは同じですが、その音がすごく強調感あって派手なところが違いです。また切り立つレベルもインピーダンスの差からか、90方がやや自然です。350は背景と音のコントラストがポップアップするように非常に鮮明ですが、90はそれがもう少し自然です。また350の客観的な表現よりは90ではノリの良さも感じられます。ヴォーカルにはやや甘さソフトさも出ています。ただしシンプルなギターソロを聴くとこっちが350だっけかな、と迷うようなシャープで端正な明瞭感の高さも残しています。

Wizardが言ってるVシェイプって日本でいうドンシャリみたいなものだとおもいますが、感覚的にはイコライザーを全域でフルに上げたって感じの賑やかな音ですね。低域も量感は多めです。こういうイヤフォンはたいてい甘くて緩いけど、90はその緩みがなくひきしまってます。ベースの切れの良いピチカートを聴くとよく分かります。背景や楽器音の一つ一つに注意して聞くとハイインピーダンスらしいかちっとした端正さがあるのが面白い点です。

面白いけどぱっと聴くと微妙という感じとも言えます。350はなにと組み合わせてもその音になると思うけど、90はアンプやDAPによってはなにこれ、ってなりかねません。ただポテンシャルはあるので組み合わせるのが決まるとすごく良い音世界を作れます。90は柔らかいTera Playerとの組み合わせも良いと思います。90とAK100だと添付のダブルフランジも面白く、本気で作った高性能ドンシャリイヤフォンっていう感じで妙味が味わえます。
下画像は標準でついてくる3タイプのチップです。

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350も90もチップでいろいろ変わると思います。リケーブルもいいんですが、両方ともいわゆるウエストンタイプというかカスタムで一般的なコネクタなんでJH/UE/Westoneなどの交換ケーブルがつきます。ただモールドが柔らかいのか、いったん抜くとプラグが緩みやすいように思えます。

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ヘッドフォンで例えていうと350はベイヤーT1、90はT5pという感じですが、350はT1よりシャープで90はT5pより派手という極端な性格付けされてます。
350も90も万能ではなくて使うところに使えば他のより光るという感じだけれども、350は使うところがはっきりしてるけど、90は使うところ難しいというところでしょうか。例えばよりロックポップ向けなら32オームの普通のイヤフォンの方がノリがいいんじゃないかとかありますので悩むところではあるかもしれません。

Tzar 350と90にはそれぞれTzar 350+と90+というバージョンがありますが、これは通常はカスタムとは違って自由に選べないカラーやフェイスプレートが選べるとともに、ケーブルがオプションのMagnus1にアップグレードされ、Wizardのサインが付くというものです。イヤフォンの中身自体は通常品と同じはずです。
ちなみに二個買う時は普通にオーダーページから二回買うと送料が二個分かかってしまうので、私は直接Heirに連絡してインボイスを別に発行してもらいました。

* Heir Audio

Heir Audioの"Wizard"は自分で使うために作った風なことを書いてました。Tzar向けのポータブルアンプであるRendition 1の開発もイヤフォンメーカーとしてはユニークです。(JHAがJH3A、UMがpp6とか作ってますが) Rendition 1はFacebookに最近製品版ができたむねが書いてありました(プロトは黒い箱でした)。
https://ja-jp.facebook.com/HeirAudio
Heirはクロスオーバーでもビシェイの抵抗を売りにするなどけっこうパーツにこだわっていますが、興味深いメーカーです。最近はUnique Melodyとか1964Earsとか新興カスタムIEMメーカーもいろいろと出てきました。以前カスタムIEMには第一次低コストIEMブームのようなものがあって、たとえばFreQとかLive Wiresとかいくつか出てましたが、これらにあまりいい思い出がありません。Live Wiresは長いこと注文を忘れられ催促したら耳型をなくしたとのこと、FreQなんかは何回やりとりしたかわかりませんが結局まともな音になりませんでした。それ以来UEとかWestoneあたりのメジャーで実績あるところ以外はあまり頼みたくなかったというのが本音です。
TzarはユニバーサルということもありますがHeir Audioのそうした独自色が興味を引いたので買ってみました。Tzar 350のカスタム版があっても面白いと思いますけど、ハイインピーダンス版のカスタムが出たらちょっとHeirもいってみたいところです。
最近ではUE900とかも良いかもしれないけど、ちょっと食傷気味ではあります。やはりTzar 350/90のようにユニークで尖った個性的な製品が出てくるとワクワクとしますね。
posted by ささき at 23:56 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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