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2012年11月21日

PS Audio ポール社長のブログとDACとDSD

昨年のいまころはDSD対応DACというと高価なPlayback以外はMytekくらいなものでした。私は昨年のAudio Basic誌のコンポーネントランキングの選定では欄外に枠を足してしっかりとMytekにも投票したんですが、票足りず圏外に終わりました。
まあ昨年暮れはそういう状況だったわけですが、それに比べると最近はわずか一年足らずでDSDネイティブ再生対応DACが驚くほど出てきています。しかしこれはそう意外なことでもないかもしれません。というのは流行りだからというほかに、今のDACチップにとってはDSD対応はかえって自然なことだからです。

いまPS Audioの社長Paul McGowanが自身のブログでそうしたPCMからDSDへの話題を書いていますが、ここで面白いのはPCMからDSDへの移行をマルチビットDACの問題点というところから出発している点です。
このブログポストはPS AudioのPS Tracksというニュースレター内のトピックです。
http://www.pstracks.com/category/pauls-posts/

簡単にいうとES9018とかPCM1704というデジタル信号をアナログ信号に「変換」するDACチップと言われているものは大きく分けるとマルチビット(またはラダーDAC)方式とデルタシグマ方式に分かれます。
マルチビットDACはビット幅を一ビットごとにステップのように積み上げていくわけですが、この各ビットはスイッチのようなものです。オーディオでの音声信号は一般的に電圧の振幅ですが、スイッチでゲートを開けて流すのは電流ですから、最終的には電圧が必要ではあってもDACから直接取りだされるのは電流出力となります。(だから後段のI/V変換が音質に重要なのだよ、というポール社長の持論ですし、PS Audio DACの売りでもあります)
このマルチビット方式は文字通りPCMのマルチビットのデジタル表現に対応しているので、PCMに適合した形式なわけです。つまりアナログ信号をPCMデジタルという「マルチビットのコード(16bitのワードデータ)」に変えて、それを再び各ビットに対応したマルチビットのスイッチ(ゲート)でアナログの電流に「デコード」してやるわけです。
しかしマルチビットDACの問題点は一ビット増やすごとに次のステップを達成するための精度が倍々と増えていくので16bitを過ぎるあたりからもう設計が限界に近くなるそうです。つまり16bitを超えるようなDACチップを製作するならばPCMで信号を受けても、それをいったんデルタシグマに変換して一ビットDA変換した方が簡単というわけです。それを考えれば24bit対応でマルチビットのPCM1704なんかは例外のようなものだとおもいますが、つまりPCM1704が固定的な人気があるのはマルチビットDACとPCM方式の相性が良いからでしょう。前に私のところでは書いたのですが、もともとデジタルデータ形式としてPCMを使用するならばマルチビットDACを使用するのが理想的というか自然というのもこの辺です。
ただし実際はPCM1704なんかはさきに書いたように例外的なわけで、通常は24bitを超えるようなDACは内部をデルタシグマで作るのがより楽というわけです。それならばそもそもPCMではなく、DSDを使用すればよいのではないか、というわけですね。PCMではマルチビットDACを使用するのが自然なように、デルタシグマDACならばDSDを使うのが自然というわけです。
このように結論的にはさきに書いたコッチ先生のホワイトペーパーに準ずるわけですが、こう考えていくとDSDの流れっていうのは単にPCMに対する目新しい新セールスポイントというわけではなく、24bitを超える現代DACチップの進化と適合する流れとして自然なものだということが分かるのではないかと思います。
さらに言うと、マルチビットDACという本来のデコード手段が行き詰ってきたPCM自体がすでに限界にきているということも言えるかもしれません。

それとこのポール社長のブログの良いところはとても分かりやすく書いてる点です。一連のPCMからDSDへの変化の記事を通して読むと、そもそもなぜPCM記録ではDACという変換機が必要で、DSD記録ならDACなどなくてもアナログ・ローパスフィルターを加える程度で音が取り出せるのか、ということがなんとなくでも分かった気になります。デジタルだからDACが必要、って言いますがそれはデジタルだからというよりPCMというコード化が必要な方式だからデコードする必要があるんじゃないのか、と頭を切り替えることができるわけです。
そう考えるとDACというのはデジタル信号をアナログ信号に「変換」するというよりも、PCMというコード化されたデータをコード化規約に基づいてデコードするという方がより適切で、WADIAではなぜDACをデコーディング・コンピュータと称しているのかも分かると思います。

私も人に言えませんが、難しいことを書くから偉いのではなく、難しいものを人が読んで難しく書くのはいわば当たり前で、難しいものを人が読んで分かるように書けるのが本当に理解してる人なんだとポール社長の記事を読んでて思いました。
ただポール社長も新しいエントリーで補足して書いてますが、実際はデルタシグマDACって言ってもESSなんかは中は1bitではなく6bitでのワイド表現を使っていて実際はもっと複雑のようですので念のため。上で書いたのはあくまで概念的なお話です。

というか、そもそもPS AudioってDSD対応DACありましたっけ?
ということは。。
posted by ささき at 23:21 | TrackBack(0) | __→ DSD関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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