Music TO GO!

2012年10月29日

ヘッドフォン祭2012秋レポート

ヘッドフォン祭2012秋は初めて2日にわたって開催されました。いままで一日ではやはりすべて見て回ることが難しいという声も多かったので、それにこたえた形です。
実際にいつもよりも全体に人がばらけた印象ではありました。ただし二日目などはいつもよりは少なめで始まったんですが、昼過ぎにはあまり変わらなくなりました。いつもどおりに最後の日の撤収間際まで人がいっぱいつめて熱心に聴いてましたね。雨だったことを考えるとけっこう人が来たと思います。ヘッドフォン祭の初期の頃は来るひとみな顔なじみという感じでしたが、ヘッドフォンマニア層以外の人も着実に増えてる感じです。女性が彼氏に連れて来られて、というのではなく女性単独のグループも珍しくなくなった感があります。日曜にやるということがやはりマニア層以外の一般的な集客にはプラスなのかもしれません。
全体にいつもの8割くらいの人が来た日が二日あったという感じでした。ばらけて見やすいという効果はあると思いますので、今後も二日開催されるようでしたら人気ブースを聞きたい人は二日目の午前が狙い目です。

私もおかげで今回ゆっくり見られました。いつもはいろいろとやることもあるので、展示については注目製品でハイクラスの興味のあるところだけをざっとカバーするという感じでしたが、今回は2日目に少し余裕があったので、1万円以下領域も含めて全体的にカバーしてみました。いつもパタパタして中身が書けないのでもしかすると今回がいままでで一番まともなヘッドフォン祭レポートかもしれません。いつものマニアック系は後の方に書いています。

まず今回の注目製品からです。今回もたくさんの新製品発表会がヘッドフォン祭で行われました。
一日目のタイムロードさんのUltrasone発表会では注目のUltrasone初のイヤフォンであるIQ、TioをはじめとしてSignature DJやEdition8 Romeo&Juliaなどたくさんの新製品が発表され、私は公開質問者として登場させてもらいました。
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IQ、Tio、Signature DJについてはこちらにレビューを書いていますのでごらんください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/298442071.html
Ultrasone新製品群はマイケルCEO&マイケルCOOに別に雑誌インタビュー取材も行いました。

Astel&Kern AK100の発表会も行われました。発表内容ではヘッドフォン・イヤフォンの伸びに比してポータブルアンプ関係の伸びも大きいという資料が興味深かったですね。iriverが高付加価値分野にAstel&Kernというブランドで参戦した意味がわかりますし、音にこだわる人たちも増えているというのは良い傾向だと思います。AK100の販売も好調のようです。AK100のように手軽で高音質の機器が音にこだわるひとたちを増やしてくれればオーディオのすそ野は広がっていくことでしょう。
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AK100についてはこちらにレビューを書いていますのでごらんください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/296384375.html

ゼンハイザーも多数の新製品発表をしました。
IE800はIE80の後継ではなくハイクラスの別機種となります。ハイクラスによくあるマルチBAではなく、シングルのダイナミックを使ったところがポイントです。しかも大口径ではなくあえて小口径ドライバーを使用しています。また内部のダンパーメカニズムからイヤチップのスナップ機構に至るまでかなりこった設計がなされています。
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聴いてみましたが、楽器の音のキレが良くハイスピードで、ハイもローもよく出ていてワイドレンジを感じさせます。細かさもBAにそれほど引けを取らないくらいあるように感じられます。
適度にダイナミックなところがあり、聴いた印象ではHD800のイヤフォン版というよりもHD700のイヤフォン版という感じに思えました。
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もうひとつの注目はゼンハイザーとしては初めてヘッドフォンアンプを開発したことです。単にヘッドフォンメーカーが作ったヘッドフォンアンプならばベイヤーのA1がありましたが、ゼンハイザーはDAC付きのヘッドフォンアンプも開発しました。HDVD800とHDV600の違いは800がUSB Class2対応のDACを内蔵していることで、アンプ部分は同じようです。
800にも600にもバランスアウトがありますが、800の場合はDACの出力をアナログアウトできて、600は入力のスルーアウトのようです。800の内蔵DACはDAC自体バランス出力できるようです。つまりDACからアンプまで内部バランス対応となっています。
800も600もバランス駆動ヘッドフォン対応ですが、注意はバランス駆動のプラグはXLR3ピンx2ではなく4ピンだということです。つまり2個あるのは4ピンバランスヘッドフォンを2個使えるということになります。
4ピン対応も最近は増えているので一概に4ピン対応が悪いというわけではありません。なぜXLR3ピンx2が多いかというと、もともとバランス駆動の発想自体がBTL的にステレオアンプを2台使うという発想であり、はじめのバランス駆動アンプのHeadroomのBlockHeadが実際に2台のアンプをくっつけたものだったため、物理的にプラグが2本必要だったという経緯に寄ると思います。
私は4ピンバランス対応はHE6しかないので、HDVD800はHD800標準ケーブルで試聴しました。
音はかなり細かくニュートラルでフラットで、HD800では試聴曲でやや高域がきつめな印象がありました。そのため帯域特性的にはHD650に良いのではないかと思いました。
こちらも別にゼンハイザースタッフに雑誌インタビュー取材も行いました。なんか試聴室の隅っこで皆に見られながらでしたけれども。

ラックスマンはやはりバランス駆動対応のフラッグシップヘッドフォンアンプ、P-700uを発表しました。
こちらはXLR3ピンx2でよく使われているので選んだということです。こちらは上に述べたようにバランス駆動では現在のところはより一般的です。ちなみに初めてのヘッドフォン祭(当時はハイエンドヘッドフォンショウ)のときに私はバランス駆動方式の国内普及のためバランス駆動アンプのGSXを持ってきたわけですが、なぜ日本語でこれを「バランス駆動」と訳したかというと上で書いたようにこの方式の嚆矢であるHeadroomがその解説文で"Balanced headphone drive"という言葉を使用していたからそれを「ヘッドフォンのバランス駆動」方式として紹介したわけです。
http://www.headphone.com/learning-center/balanced-drive.php
まあそのころは国内大手のオーディオメーカーがバランス駆動対応のヘッドフォンアンプを出すとは夢にも思いませんでしたが、、
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P-700uは手持ちのHD800にピッコリーノを使用したJabenのバランス対応交換ケーブルを使用して試聴しました。ラックスマンでは交換ケーブルに関してはSAECを推奨しているということです。
私は初代P1を持っていたんですけど、音はそれを思わせるようなきめ細やかな音表現です。とても高い透明感とSN感の高さはODNF方式が効いてるんでしょうか。帯域特性がフラットでリファレンス的な点もそのままP-1から引き継いでいます。それにバランス駆動方式でドライブ力が高くなってHD800を鳴らし切る感じですね。適度に耳に近い音表現も魅力的で、試聴ディスクのダイアナクラールの声も細やかでかつ魅力的でした。
バランス駆動をメインにしてそれを売りにするというアンプもありますが、P-700uはまずP1から受け継がれているODNFなどのラックスマンらしいアンプ設計のノウハウを生かした基本的な音性能が高く、それにバランス駆動という魅力が加わったという感じでしょうか。
いまは普通のシングルエンドケーブルで聴いているけれども、将来的にはバランス駆動を試してみたいと言う人にもよさそうです。

またラックスマンではDSD DACが出ることも注目ですね。こちらは来週のインターナショナルオーディオショウで発表するようです。
今回のヘッドフォンショウでもティアック、コルグ、ラトックもDSDネイティブ対応DACを出展していて、この分野も活気づいています。一年前のヘッドフォン祭2011秋でMytek192を見せてもらったんですが、つい一年前にはMytekくらいしかDSD対応機種がなかったことを思うと驚きではありますね。

新製品ではフォステクスが直前のRMAFで発表したTH900の兄弟機であるTH600の試聴もできました。
TH900とハウジングが異なるだけではなく、ドライバーも1テスラと900とは異なるようです。音はやはりハイスピードでキレが良く、音のバランスもニュートラルでした。コストパフォーマンスが良い感じですね。
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上右はTX50という平面型の1975年頃のヘッドフォンだそうです。音はビンテージって感じですが当時はよかったんでしょうね。
海外ではフォステクスというと平面型というイメージが強くて、たぶん向こうでは「平面型はださないの?」と必ず聴かれると思います。ここは期待に応えてほしいところですね!
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上はHeadFiのJudeからフォステクスにやってくれと頼まれて預かったHeadFiシャツをスタッフに着ていただいているところです。これは私がくださいと言ったわけではなく、Judeから特に頼まれたものです。RMAF/CanJamを通じてHeadFiとも良い関係を築いているようですね。
フォステクスさんは積極的にこの世界に入っていこうという気概がとても良い姿勢だと思います。ヘッドフォンブームだからと言って単にヘッドフォンとかアンプを出せばよいというものではなく、ユーザーが真になにを求めているかというのはこっち側の世界に入ってきてもらわないとわからないと思います。

こちらはフジヤさんで売れ筋No1という人気機種、音茶楽さんのFLAT4の新機種でFLAT4楓(KAEDE)です。 現行機種の粋(SUI)についてはこちらの記事をご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/281564120.html
楓(KAEDE)はオークビレッジと共同開発でセンターキャビネットに楓材を使用したものです。ハウジングに木材を使用したヘッドフォンのような効果があるようです。このセンターキャビネットだけではなく、ドライバーも銅メッキがなされています。
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これらによって、粋と比べても音質に違いがあります。比べると粋よりも音により厚みが加わって滑らかで豊かな音楽表現に感じられました。オーテクとかGradoがハウジングで変わる感じですね。
IQもそうだけど単に細かさシャープさを求めるっていうよりも音楽性を考えるというアプローチが増えてきたのは良いトレンドです。

今回は普及タイプも聴いてみる余裕がありました。視野を下の方まで大きく広げるとまだ玉石混交感がありますが、光るものはどのクラスにもありますね。そういう意味ではこのあたりこそ評論していくことが必要なのかもしれません。以下はiBass DX100で聴きました。

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上左はFinal Audioのheaven2で8000円くらいです。
クリアで解像感が良く、音のバランスも良いですね。ヴォーカルが魅力的で低域のインパクトもよいと思いました。上右はAKG K374で7000円くらいです。 わりとバランスが取れていて、低域もそれなりにあります。少し柔らかめでしょうか。

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上左はKOSSの il200で8000円前後ということです。
LRを互いに組み合わせられるところがユニークです。音もベースヘビーながら音場感が良く、エンヤみたいな曲を聴くのに雰囲気表現がよい感じです。上右はATOMIC FLOYDのPowerJaxで14800円とのこと。ダイナミックドライバーです。これはATOMIC FLOYDらしいヒヤリとした硬質感があり、Klipsh S4iIIあたりをさらにシャープにして明瞭感を高めた感じです。アコギなんかはかなり良い再現力があります。別な言い方をするとSuperDartsから低域を削った感じでしょうか。

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上左はオーディオテクニカのCKS99iで1万ちょっととのこと。ソリッドベースということで低音の迫力も高いけど他の帯域もオーディオテクニカらしくそつなく良い感じですね。上右はCKS1000の限定色LTDで2万円半ばくらい。CKS1000になると低域モデルというよりも聴きやすいバランスとなり、中高域のクリアさも高くなります。

一万前後では老舗ShureのSE215も来週新モデルのSE215 Special Editionの発表会があります。

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ヘッドフォンアンプも少しHD800で試聴しました。上はnuforceのプリ・ヘッドフォンアンプで、HAP100です。 12月発売で6-7万くらいになりそうということ。
これはアナログアンプですが、ある意味ニューフォースらしい音です。音の明瞭感が際立っていて楽器音の分離感が気持ちよく、ベースもレスポンスは控えめだけど正確で制動感が高いですね。ニューフォースはまあ外れないところではあります。
上右はバーソンの新型Soloistで、好評のHA160が硬質な音だったのに比べると同じ細かさでもかなり滑らかでスムーズになった感じです。高い性能を維持しながらもより音楽的で美的表現ですね。

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共同通信のブース、いつも満員盛況の角田さん講演です。共同通信では新しいオーディオ雑誌Gaudioを11/30に創刊するそうで、もっと親しみやすいスタイルになるそうです。こちらも書店で見かけたら新装なったオーディオ雑誌に注目ください。


この辺からはマニアックな世界に突入して私のピックアップコーナーとなるのですが、まず今回は何と言っても期待のHifiMan HM901のほぼ正式なお披露目となりました。
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HM901はデュアルES9018採用というアキュフェーズのDACなみの豪華さで、専用のドックが組みになるのも目新しいところです。このため豊富な入出力系はドックコネクタとして底面にまとめられています。ちなみにHDとかVintageというのはローパスフィルターの設定切り替えです。音源はすべてSDXC(max 128GB)です。
少し使用した感想はまずHM801に比べるとUIが大幅に進化しています。ころころ転がるユニークなUIは見た目も面白く使いやすいですね。音も簡単にiBasso DX100と比べてみましたが、やはりAndroidベースのDX100は透明感で妙な鈍さを感じます。これは特にJH16/Twagでは顕著です。901はさすがにデュアルES9018で音の密度感が高く感じられました。音のレベルの高さはほとんどホームオーディオレベルで、据え置きドックがついているのも納得します。基本的なドックの機能はデジタルインアウトとアナログアウト、チャージャーです。HM802と同様にアンプカードを変更することができます。カードソケットは電池室の奥にあります。これは生産モデル直前くらいのデモ品を貸与してもらったのであとで詳しくレビューします。
またHifiManでもう一つ注目は新イヤフォンのRE600です($400くらい?)。
これは「裏のIE800」という感じでマルチBAに対するIE800のアドバンテージがそのままに当てはまるなかなか優れたイヤフォンです。基本的にバランス仕様でHM901と合わせるとバランスの効果でグッと音場が広がります。シングルエンドアダプターを使用することで普通のDAPにも使用できます。

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JabenのブースではMP3プレーヤーのBiscuitが注目でした。これはWAVとMP3のみ再生可能ですが、おそろしくコンパクトでこのくらいになるとほとんど持ってる感じしないですね。それでいて音のレベルはかなり高いものがあります。ランダム再生がないのが残念なところです。今回の目玉の一つはベイヤーT1/T5pのバランス対応改造品で、これはプラグの出来が良いですね。あれ、はじめからこうだっけ、と一瞬思ってしまいました。音もT1/T5pらしさそのままに厚み豊かさがさらにました感じでかなり良いです。
JabenからはGo-Vibe miniとBiscuitを景品として提供していただきました。また、T1/T5pについては大島さんのブログでチャリティーに供する予定があります。
http://blog.livedoor.jp/yosoys/
またJabenが企画した日本のヘッドフォンブックの英語版の計画があります。海外では日本の製品だけでなくレビューも尊重されるということで、これも面白い展開になりそうです。シンガポール・アジアだけではなく欧米にも出版する予定があるそうです。
広告を募集しているそうなので、興味のある会社の方は企画・編集している(株)サイクス小松さま、あるいは直接Jabenに連絡願います。海外に出ていきたい日本メーカーの方たちは良いのではないでしょうか。

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こちらは新規ベトナムのサンライズです。出展者の都合で日曜は展示できなかったんですが、音はイヤフォンもポータブルアンプも良かった。これもデモ機を預かったので後日改めて紹介したいですね。

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今回もHeadFiのプレスルームを用意しましたので海外にヘッドフォン祭の情報を発信していく予定です。Judeは今回も都合で来られなかったんですが、2012秋スペシャルのTシャツをたくさん送ってくれました。さっそくインプレスレッドが上がり始めています。そのうちもっと詳しいレポートが出てくるでしょう。
http://www.head-fi.org/t/631894/the-legendaris-stax-iem-strike-back-by-begining-november-2012-sr-002-srm-002-and-srm-003-mk2-srm-003/60#

今回自分的に達成感があったのはやはり念願だったRay Samuels氏を呼べたことです。
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RSAからは静電型のアンプA10とバランス駆動アンプDarkStar、そして新ポータブルアンプのThe Intruderなどを展示しました。サミュエルズさんはシカゴの人ですがやはり西部とか中西部にいそうなアメリカン・ガイという感じで食事中もずっと冗談を飛ばしてる陽気な人です。アンプも濃密なサウンドでRSAらしい力強いドライブ感があります。細かな表現も見せながら、Headroomを濃くした感じのアメリカンサウンドともいえそうです。特にSTAXは標準のアンプ(ドライバー)がモーツァルト向きというか上品な感じなので、STAXでパワフルで濃密な音が欲しい人はA10も一考の価値があると思います。イントルーダーもパワフルです。
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RSAつながりではOji specialのSR71B改造ものも会場にありました。電源周りを主に強化したようで、音は対応イヤフォンを持ってきてなかったので聞けませんが、今回はサミュエルズさんがいるので中をみていろいろやってるねーというコメントをもらったそう。

そして今回は新しい宝物が出来ました。サミュエルズさんに私のSR71Aにサインをもらったものです。これはシリアルNo002で、予約始まるまでにPCの前で待ってたのを思いだします。オリンパスの米谷さんみたいにシャーシの金属にサインできる硬いペンで書いてもらおうかと思ったんですが、ちょっと見つかりませんで鉛筆で代用しました。
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私のHeadFi活動のはじまりはやはりSR71でしたので、これはまたひとつ念願かなった感じです。

また次のヘッドフォン祭では新しい出会いがあることを楽しみにしています。
次のヘッドフォン祭は来年5月です。
posted by ささき at 23:42 | TrackBack(0) | ○ オーディオショウ・試聴会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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