Ety8はER-4シリーズで知られるエティモティック・リサーチがこの12月(米国)に発売を予定している新製品で、ブルーツースによるワイヤレス機能を持っています。
今回フジヤさんにおいてあったデモ品をお借りすることができましたので、いつものようにレビュー記事を書いてみました。
エティモティック・リサーチというと日本でも一部の人しか知られていなかった時代をへて、いまでは普通にパソコンショップなどでも売られるように一般的になってきました。ER-4Sに代表される高解像力と忠実な再現性という点と耳に差し込むカナルタイプという遮音性の高さが大きな特徴です。
しかし最近ではカナルタイプもShureやUEをはじめ国産でもたくさん出るようになりました。ShureのE500やUEのTriple.fiなどライバルメーカーの強力な新製品が聞かれるようになってくるとエティモティックはどうしたのだろうと思うこともありました。しかし、それはこうして意外な形で現れました。
ここでブルーツースについて簡単におさらいしてみます。
たとえばPCを買うときに周辺機器をどんどん揃えていきますが、たいていはUSBやらシリアルやらのケーブルを使ってPCと接続します。しかしそれがスパゲティのようにこんがらがったり、そもそもいちいちつけ外したりプラグの大きさを調べたりが面倒になってきます。そのケーブルの代わりを無線という形で救済する手段がブルーツースです。
つまりブルーツースは無線といってもトランシーバーのような遠距離の通信を考えたものではなく、近距離で機器の接続を主眼としています。また、もともとは携帯と周辺機器の接続のために考えられたため、小型・省電力と低コストが優先されたので性能的な面での出力やバンド幅(情報量)は後回しという感じでした。そこが従来のブルーツース機器の性能的な制約になっていたと思います。
エティモティックによると最新のブルーツース規格ではWaveデータを劣化させずに送ることが可能になったということで、そうした進化から生まれたのがこのEty8なのでしょう。
手軽さと柔軟性を秘めたブルーツースと高音質で知られるエティモティックが出会ったことでなにか新しい予感を感じます。
* パッケージ
パッケージは外箱と中箱に別れていてわりときれいな造りになっています。小型の革製のキャリングケースが付属していて、Ety8イヤホン本体とトランスミッタの8mateを収納できます。
チップはトリプルフランジ、ダブルフランジ、フォームチップが一組ずつ入っています。ダブルフランジは大きいのと小さいの、トリプルフランジはステムの長いものと短いものがそれぞれ入っています。これだけ入っているのはEty8だけだと思います。またクリーニングキットも従来通り付属しています。トリプルフランジのステムの長いタイプは自分でカットして好きな長さにするためのものです。私的には今回はダブルフランジの大が一番良かった気がします。
わたしはER-4ではフォームチップが好きなのですが、ety8のフォームはER-4と互換性がないというか改良されてます。ステムに入れるパイプがラバーになって、奥に入れる時のプラスチックパイプが耳道にあたる不快感がなくなってます。また上の写真のように入り口と出口が異なる大きさになっています(左がEty8用で右がER-4用です)。そのせいかフォームチップは音の違いが感じられます(後述)。
パッケージには加えて充電用のUSBケーブル(ety8側の口は専用)とマニュアルが入ったCDが入っています(中箱の裏)。
Ety8の本体はかなり軽量でRとLでは別の作りになっています。
R側には回路とアンテナ、L側にはバッテリーが入っています。Rにはボリュームの上下とスキップ/リワインドができる操作ボタンとPlay/ポーズを兼ねる電源スイッチがついています。イヤホン側は充電式で一回の充電で7-8時間持つとのことです。
iPod側のブルーツース送信機の8mateはDock端子に装着してiPodから電源を取ります。
送信機といいましたがブルーツースなので送受信機というべきで、イヤホン側の操作がiPod本体にも反映します(ボリュームは最新のiPodのみ)。
nanoに装着するのが一番フィットしますが、わたしの第二世代nanoだとややずれがあります。無線の到達距離は10m届くといいます。
装着はつけるときにステムが太いのでER-4よりてこずりますが、いずれにせよフランジが隠れるくらいまでは挿入できます。エティモティックのホームページの公式装着ガイドムービーを見るとだいたいこのくらいでOKのようです。
イヤホンは軽いので装着感自体は快適です。ケーブルの引っ張り感が少ないのでかえってなれると有線よりいいかもしれません。
* ワイヤレスの世界
雨の日に傘をもって行ってもつい電車に忘れてしまうというのは、意識していなくても傘を邪魔だと思う深層心理が働いているのだそうです。
Ety8で感じることは気が付かないところでもいろいろとケーブルを邪魔に思っていたということです。ポケットから取り出す時、聴き終わってバッグにしまう時、満員電車から人をかき分け降りる時、バッグを肩からかける時、そして何もしないときでさえ垂れ下がるケーブルがいかに邪魔だったかをety8に教えられます。etyの有名なタッチノイズから解放される、という人もいるかもしれません。
また電車ではバッグにiPodをいれたまま網棚においておくということも普通にできます。
よくこれを普通のヘッドホンでやって網棚からだらっとケーブルがたれている人がいます。Ety8の見た目は奇異ですが、これを考えるとスマートにケーブルの処理ができるEty8とトータルの見た目はどちらが悪いかは分かりません。
nano+8mateだとまさにリモコンのように使えますが、もしTVのリモコンにケーブルがついていたらどんなに邪魔か、と考えるとケーブルのない快適さが想像できるのではないかと思います。
イヤホン側の操作は慣れると手探りで分かりますが、本体が傾いているときがあるのでどれかのボタンにポッチがあったほうがよかったと思います。操作はちょっとSFの小道具のようなサイバーチックなおもしろさがあります。
とくにポーズボタンが使いやすく、電車のアナウンスなど周囲の音をちょっと聴きたい時に便利です。(もちろんPTHと違うので遮音されて聴こえる程度です)
ety8のキーワードのひとつはカナルタイプのブルーツースヘッドホンを実現するためにサイズが小さいということです。他のブルーツースヘッドホン・ヘッドセットは耳かけかオーバーヘッドになっています。
このために考えられたアンテナの実装方法は特許申請中ということで、これがety8を実現するためのキーのひとつのようです。Ety8はつけた見た目が気になりますが、これでもかなり小さくしたというわけです。
* 柔軟性と互換性
"Bluetooth"はバイキング時代のハラルド王の通称から名をとってますが、これはブルーツースを提唱したのが北欧のエリクソン社だからでしょう。ただBlue toothと言っても実際は王の歯が青かったのではなく、ハラルドは北欧系に多い白い肌や髪ではなく褐色系だったようで暗い色の王と呼ばれたそうです。そしてその意味の古い言葉"Blatand"を現代に直訳すると"Blue tooth"になるということのようです。そしてハラルド王の偉業は北欧諸国を統一したというところから、統一規格をかけているようです。
このようにブルーツースはさまざまな機器との互換性ということがキーになっています。Ety8の互換性の基準としてはBluetooth 1.1以上ということになっています。わたしは他の機器と接続して試していませんが、携帯から音楽を聴いている人とかPCの音楽を家で聴いていてそのまま料理もするとか、いろいろと応用はありそうです。
ブルーツースでは機器と組み合わせるときにペアリングという操作をしますが、付属の8mateとety8ははじめから設定されているのでなにか行う必要はありません。すぐに使えます。
他のブルーツース機器と組み合わせるときにペアリングをしなおすことになります(詳しくはマニュアルを参照ください)。
ety8は最新のiPod(5世代以降とnano)にもっとも適合します。iPod miniの第一世代につけてみましたが、動作は問題ありません。スキップとポーズは本体と連動しますが、ボリュームは連動しません。ボリュームはety8の耳側でのみ操作することになります。
上の写真はiPod nanoとiPod Photoに装着してみたところです。
* エティモティック・クオリティ
Ety8のもうひとつの特徴はもちろん高音質です。
これまで無線方式のヘッドホンは音がよくないという定説がありましたが、ety8はまったく一線を画しています。
実際にER-4Pとnanoにつけてサイドバイサイドで聞き比べましたが、まったく同じではないにしろあまり遜色ないといってもいいくらいだとおもいます。ほぼ新品でデモ機を借りましたので、それと2年前から使ってるER-4Pとの比較ですのでエージングの差を考えるとかなりいい線をいっています。有線・無線の差はあまり感じられません。
ただしカナルタイプなのできちっとフランジ・フォームをいれることが条件になります。ER4よりステムが太くてまた装着がまだ完全に分かってないので実際のところ音の印象は参考程度と言って良いかもしれません。
まずダブルフランジで聴いてみました。音は一聴してエティモティックの音、ER-4の音という感じです。
nano(第二世代)に差したER-4Pと直に聞き比べるとアタックとか切れがやや甘くなるところはあります。とはいえ、ぱっと聴いた感じはER-4Pに少し落ちるかほぼ同じくらいと言っていいと思います。これは言い換えると一般的なヘッドホンに比べるととても高い音質だということです。
ちょっとおもしろいと思ったのはER-4Pにはない音の広がりがあります。聞き比べると(これが慣れたER-4の音ですが)ER-4Pの音はこじんまりと聞こえ、Ety8は少し広がり感があって立体的にも聴こえます。
これらの音の違いはドライバーの差というよりむしろety8の内蔵アンプとnanoの内蔵アンプの違いのようにも思えます。実際にあとで互換性テストのためiPod miniにつけたときはER-4Pの音も劣ってしまいました。
また少し左右の分離がよく広がりを感じるのはアンプではなく、もしかするとワイヤレス方式なのでケーブルのクロストーク(左右チャンネルの混濁)がなくなってセパレーションが向上したのかもしれません。
ただこの辺はなんとなくそう思うという程度でまだちょっとよく分かりません。製品版を買ったらまた少しずつ書いていこうと思います。
フォームチップにするとさらに柔らかい音になり、低音が太くなって相対的にやや迫力を感じます。Shureのイメージに近い感じで、ER-4の音はいいけどShure的な聴きやすさがほしいという人にはちょうどよさそうです。これは芯がラバーになったからかもしれません。
遮音性はER-4Pと全く同等で地下鉄の中でも小音量で音楽を聴くことができます。
またiloungeのレビューで指摘されたノイズはたしかにたまにポチッと言う音が聞こえますが、USBでDACにつないだような音切れに近いような気がします(Ety8の場合はポチッとするだけで音は切れません)。ただ頻度はあまりないように思えます。
* オンリーワン
Ety8のEtyは海外のひとがエティモティック・リサーチを言うときに縮める愛称です。エティモティック・リサーチというとなんとなくShureとかUEより硬いイメージがありますが、その愛称をそのまま商品名にもってくるというのはカジュアルさを目指しているのだと思います。
いままでのブルーツースヘッドホンはいわゆるデジモノで、ER-4はわりと硬派なオーディオものという区別がありました。しかしety8にはオーディオのおもしろさとデジタルもののおもしろさが両方含まれています。
いままでのブルーツースヘッドホンではケーブルのない自由を得るために音質を犠牲にして、高音質ヘッドホンではケーブルのない自由がありません。
しかしety8では両方を手にできます。
まだ売値は分かりませんが、ety8を買うならER-4Pとブルーツースヘッドホンの二台が買えるかもしれません。
しかし、それらを二台同時に持っていてもety8にはなりません。
ということで、予約販売が始まったらさっそく予約しようと思います。デモ機だとあまりラフに扱えないので、自分のを入手してまたあれこれ使ってみるのが楽しみですね。
興味のある方はフジヤさんに問い合わせてみてください。
Music TO GO!
2006年12月11日
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気になるアイテム
Excerpt: ラスベガスで開催されたCESでは、やはりiPhoneが一番注目を集め、ジョブズさんの講演も力が入っていたようです。 http://japanese.engadget.com/2007/01/09/ma..
Weblog: soundrabbitの無駄話
Tracked: 2007-01-16 20:42
またまた、気になるなぁ
Excerpt: ●Bluetooth対応ヘッドホン SONY DR-BT50 DR-BT21Ghttp://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070226/sony2.htm ささき..
Weblog: soundrabbitの無駄話
Tracked: 2007-02-28 17:05
たしかに補聴器の技術応用の利点という側面もあるかもしれませんね、ふむふむ。
たしかに夢がひろがる分野ではあります。
日曜に聴く機会を作ってあげれなくてすいませんでした。
ちょっとなにかと忙しくて。。
> ラインアウトから取ったものに
ええ、とてもクリーンな音です。
音の広がりがあるのでちょっとしたポータブルアンプをつけたような感じもあります。もちろんXinをつけたようなレベルではありませんが、そこが自分としては一番気に入ったところですね。
ささきさんのレビューを読んで、一気に購入熱が高まっています(現在ER-4Sと4Pを所有してます)。
ラインから音が取れるということは、iPod photoなどのやや古いiPodでは、場合によってはイヤフォン・ジャック+ER-4Pよりも音がクリアに聞こえたりするでしょうか?
また、ety8を使った状態で、旧iPodラインと最新ラインの音質面の違いについても、ぜひ教えていただきたいところです。
いまはもう返却してしまったのであれこれと試せませんが、たしかに言われるとおりでiPod miniにER-4Pをつけた音よりもiPod miniにEty8をつけた方が良かったと思います。
そういう点では旧タイプにとっても恩恵がありそうですね。