前の記事でChord QuteHDの解説をしました。本記事ではQuteHDとDSDネイティブ再生の設定の仕方について述べていきます。
* DSDネイティブ再生とは
QuteHDは最新の技術とChordの独自技術がうまく織り込まれて設計されていますが、その最新技術の中でもやはりDSDネイティブ再生がポイントです。QuteHD用のパルスアレイDACを設計する際にDSD入力をはじめから考慮していたという点でも力の入れようが分かります。
DSDネイティブ再生はPCMに変換せずに直接DSDをDACに転送することです。これによってDSD 対応DACの能力が最大に発揮できます。
ただしひとくちにDSDネイティブ再生といってもいくつかの方式があります。QuteHDはその中でも業界標準として最近話題のDSD Over PCM(DoP)に対応しています。普通のOSの音声システムではDSDを扱えるようにはなっていないので、DoPは176kHzのPCMにDSDを示すマーカー(05/FA)とDSDデータ本体をコード化してDSD信号をDACに送出します。(dCS方式というのはAAマーカーを使うすでに古い規格ですので注意してください)
もともとはPlayback Designの方式とdCSが提唱する方式があり、それが統合されたのが標準規格であるDoPです。DoPに関してはこちらの記事もご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/263097793.html
DSDネイティブ再生は転送する側のPCのプレーヤーソフトと、受ける側のDACの両方に対応が必要です。その間を取り持つのが転送方式です。
その点で転送方式がDoPならば業界標準として広がってきたため、プレーヤーソフトなどの送り手側の選択が広いというのが標準方式を使うメリットです。
* DoPによるDSDネイティブ再生の設定と実践編
以降でOSとプレーヤーソフトごとにDSDネイティブ再生のためのQuteHDでの設定を書いていきますが、まずプレーヤーソフトを最新版にしておくことをお勧めします。下記カッコ内は試したバージョンです。(iTunesだけ最新ではありませんが、アップデートを怠っただけです)
QuteHDでの設定を書いていきますが、DoPを採用している他のDSDネイティブ対応DACでも流用できると思います。
DSDネイティブ再生でQuteHD側でロックしたときはドームの中の色は白で光りますので、白く光ればDSDネイティブ再生が成功しています。青だと176kのPCMでロックしていますので、再度設定を確認してください。
また仮にDSDデコードが失敗しても機器や耳を傷めるほどのひどいノイズは発生しません。この辺が旧dCS方式のAAマーカーからDoPで改良された点のようです。
なお実際に試してみたのですが、QuteHDは旧dCS方式(AAマーカー)で送ってもきちんとネイティブ再生できるようにファームウエアが後方互換性を持っているようです。ただdCS方式は旧方式なので基本的には05/FAのDoPを使用してください。またdCS方式の時は曲の変わり目でノイズが出ます(この辺が問題なのかも)。以降ではDoPで解説していきます。
- Windows 7でのDSDネイティブ再生 (私のテストした環境は64bit版です)
HQ Player(2.8.0)
メイン画面の右にあるPCM/DSD(SDM)の選択メニューでDSDを選択する。
次にファイルメニュー内のDSD設定でSDM Directを選択して、その下のDirect Playback typeのプルダウンメニューからDoPを選択します。
JRiver Media Center (17.0.147)
(項目名は日本語表示を基にしています)
ツールメニューからオプション、ビデオ項目からBitstreamingを選び、DSD Over PCMにチェックを入れて選択項目の中の"DoP 1.0(FA/05)"を選択します。
次にオプションのオーディオ項目からオーディオ出力を選び、出力モードをWASAPI Eventスタイルにします。
- Mac 10.6でのDSDネイティブ再生 (10.7ライオンではまだ試していません)
Audirvana Plus(1.3.5)
ファイルメニューのPreferenceを開いて、Native DSD CapabilityにDSD Over PCM 1.0を選択します。一番簡単です。ただAutomaticDetectionは利きません(PCMになります)。ダミアンに言っとかないと。。
なお画像ではインテジャーモードがオンになっていますが、オフでもDSDネイティブ再生は可能であることも確認しました。(後述)
Pure Music(1.86)
ファイルメニューのAudio SetupからSpecial Optionsを選択し、そこのDSD SetupにてDSD Streaming Deviceをチェックします。次にCopyCurrent Output Devicenameをクリックしてください。するとデバイス名が表示されます。それからFlag欄で05FAを選択します。05FAはDoPのことです(AAAAは旧dCS方式)。
終わったら下の長いApplyボタンをクリックして再起動します。
Pure Musicに関してはこちらにDSDセットアップガイドが提供されています。ただし内容はやや古くAAマーカー(dCS方式)をデフォルトとして解説していますので注意ください。QuteHDでは上で書いたように05FAです。
上の画像では通常表示されているボリュームバーが非表示になっていることにも注意してください。(後述)
Pure MusicでのDSDファイルの扱いについて
Pure MusicではまずDSDをiTunesライブラリに追加する作業が必要です。このときにあらかじめiTunesオプションの「iTune Mediaフォルダを整理」と「ライブラリへの追加時にファイルをiTunes Mediaフォルダにコピー」をオフにしてください。それからファイルメニューの"add FLAC or DSD files"を選択して出てきたウインドウにDFFファイルをドラッグします(時間がかかります)。するとブックマークファイルがiTunesライブラリ内に作成されますので、それを再生します。
*注 : ここで表示されているActive I/O threadsとはCPUの並列処理可能なスレッド数のことです(ハイパースレッドもカウントます)。つまりなるべく複数ファイルを同時にドラッグさせた方が効率よくこの作業ができます。フォルダごとドラッグするとよいでしょう。
iTunes (10.1) - WAVパック方式(WAV encopsulate)
iTunesでのWAVパック方式を使用したDSDネイティブ再生
はい、MacならなんとiTunesでもDSDネイティブ再生が可能です。これは業界標準のDoP方式を採用しているDACであるQuteHDならではの利点です。
DSDネイティブ再生は通常はこれまで上で書いたような対応するプレーヤーソフトが必要ですが、あらかじめDoP形式に成型しておいたDSDデータを一般的なWAV形式に詰めてパックすることで、ビットパーフェクトのプレーヤーであればだいたいDSDネイティブ再生が可能になります。たとえばDecibelもまだDSDネイティブ再生に対応していませんが、このWAVパック方式で再生が可能であることを確認しました。
ただし176kHzを明示的に設定する必要があります。そのため、MacのiTunesではあらかじめAudioMidiで176kHzに設定しておいてください(自動サンプル切り替えができないため)。WindowsのiTunesでは明示的に176kHzを設定できないためにこの方式を使うことはできません。
DecibelでのWAVパック再生
WAVパック方式についてはこちらの私の記事を参照してください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/258376595.html
このWAVパック方式はもともとXMOSの開発者フォーラムであるXCoreのstefさんが自前のXMOS-DSDインターフェイスをテストするために、テストトーンをWAVにDoPでエンコードした音源があったので、私がこれをなんとか汎用変換ツールにできないか、と言ってお願いしたら作ってくれたというものです。
XCoreのサイトから最新のツールをダウンロードして使ってください。このツールでDFFからDSDをパックしたWAVに変換します。変換ツールは下記リンク内のDSDtoPCM encapsulate Toolです。
https://www.xcore.com/projects/dsd-audio-over-usb
このための変換作業はWindowsでもMacでも可能です。ただしJRE(JAVA実行のためのランタイム環境)が必要です。
適当なディレクトリを作成して、その中にencopsulateツールとDFFファイルをいれます。
Windowsならコマンドプロンプト(DOS窓)、Macならターミナルを開けて、下記のようにタイプしてください。xxx.dffはDFFファイル名です。
java -jar DSDtoPCMencapsulate.jar xxx.dff
するとxxx.dff.wavというWAVファイルができます。
これをMacのiTunesで普通にWAVとしてライブラリに加えて再生してみてください。上のようにまずAuidoMidiで176kHzにセットしてから再生することを忘れずに。
* DSDネイティブ再生の実際
昨年夏ころにはじめてPlayback Designs MPS5でDSDネイティブ再生を行ったときはまじないのような設定があまりに複雑で閉口しましたが、今回のQuteHDで使用をしてみるとDSDの設定も簡単になったものです。QuteHDならばあまり悩むところはないでしょう。これはプレーヤーソフト側の改良も大きいと思います。
Macは都合で10.6のみ確認していますが、iTunesでもWAVバックでDSDネイティブ再生ができるところを見ると、当初想定していたようにMacではインテジャーモードが必須ということはないようです。ビットパーフェクト経路が取れていればOKでしょう。(iTunesはAudioMidi設定が正しければビットパーフェクトになります。前に書いたこちらの記事を参照ください)
もし失敗するときは設定を見直すとともに、プレーヤーソフトのソフトウエアボリュームは切るか最大にしておき、アップサンプリングや他のDSPなどは外しておき、つまり「ビットパーフェクト」の状態にしてみるとよいかもしれません。多くのDSPはPCMを前提にしているからです。
ただしJRMC17なんかを見ていると、PCMでアップサンプリング設定をしてもDSDにしたときにきちんとAudiopathをダイレクトにしてDSPが入らないように考えています。またPureMusicなんかでもDSDのときはボリュームを強制オフにしています。このようにプレーヤーが対応していれば本来はビットパーフェクトに悩まなくてもよいはずではあります。
DSDネイティブ再生の音質という点では、Audirvana PlusでBlue Coastの音源をWAV96/24バージョンとDFFバージョンを聞き比べました。
やはりPCMは硬く硬質感があるのに対して、DSDネイティブは自然でリアルという感じです。特にヴォーカルのサ行とかギターの強いピッキングなどでの鋭角なエッジがあるとわかりやすいですね。いくつか他にも聞いてみましたが、同じ傾向です。QuteHDの品格の高い音がさらに上質で聴きやすくなります。
DSD音源のプレーヤーソフト内の管理についてはPureMusicでトリッキーな方法を使用している以外はプレーヤーのプレイリスト画面で他のALACやFLACと同様に扱えます。この辺がiTunesを流用するPureMusicの欠点ではあります。この辺を改良したAmarraもこちらの方向に来そうではありますね。
音源はBlue Coast RecordsがDSDの配信先としてよく知られています。ここはカントリーやブルーグラスのようなアメリカの音楽が主流です。
他にもクラシックならChannel Classicや、国内ならOtotoyやeOnkyoがDSD音源の取り扱いを始めています。
またDSD総合情報のポータルサイトとしてはBlue Coastの主催者が運営しているDSD-Guide.comなどがあります。たまにBlue CoastのDSD音源のセールをしているのでのぞいてみるとよいでしょう。
* さらなる高みへ
QuteHDのDSD使用においてもうひとつ面白い考慮点はQuteHDが将来的に384kHzまでUSBでサポートするということです。なぜこれがDSDと関係するかというと、DoP 1.1の規格を思い返してもらいたいのですが、1.1で拡張されたDSD128(5.6M)の実現において、次の引用のように352kHzをサポートできれば現在176kHzで搬送しているDoPの仕様を単に二倍に拡張することでDSD128をサポートできることが書いてあります。
"The solution described above for 64FS DSD can easily be extended for 128FS by simply raising the underlying PCM sample rate from 176.4kHz to 352.8kHz."
QuteHD内部のデコード部分が現在DSD128に対応しているかはわかりませんが、USBで384kHzまで拡張できるということと、DSDネイティブをサポートするということは実は深い関係があるのではないか、と考えるのもまた面白いと思います。プレーヤー側においてはAudirvana PlusなんかはDSD128対応を考慮し始めているようです。
DSDネイティブ再生の世界ははじまったばかりですが、そろそろ次のことを考え始める時でもあります。
いままでDSDネイティブ再生というと高価なPlayback Designsか、もともとスタジオ用途のMytekくらいしか選択肢がありませんでしたが、普及価格でオーディオ用途のDACであるQuteHDが対応したことで、DoP方式を軸としてさらに普及が加速していくことでしょう。
Music TO GO!
2012年05月23日
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