以前速報しましたが、本日タイムロードからChord QuteHDの国内発売発表のプレスリリースがありました。
http://www.timelord.co.jp/blog/news/chord-qute-hd/?mode=consumer
税込価格は142,800円で発売は2012年6月10日ということです。
本記事では実機を使った音質評価も交えながら詳細にレビューして行きます。
Chord QuteHDはGEMのようなコンパクトでChordの普及価格帯のChordetteシリーズのUSB対応DACです。
* QuteHDとは
QuteHDは下記のようになかなかユニークな特徴を持っています。
*最高384kHzのUSB入力を将来的にサポート
*DSDネイティブ再生可能 (標準規格DoP対応)
*パルスアレイDACやWTAフィルタリングのような高級機にみられるChord独自技術を採用
*USBだけではなくSPDIFもBNC端子を備え、SPDIFは将来的に384kHz入力対応
*コンパクトでかつ高剛性、Chordの個性を持ったアルミ切削の筺体設計
まずQuteHDは価格に対しての音質面での作りこみが半端ではありません。いままでChordetteラインはGEMをはじめとして、上のDAC64やQBDなどに比すると少しギャップが大きすぎる印象がありました。
しかしQuteHDでは上の特徴に見られるように、内容的にも上級機に近いものでミニDAC64とか、ミニQBDなどと呼びたくなります。そしてそれにとどまらず中には凌駕する仕様さえあります。
実際に回路設計もコードらしくFPGAを多用したもので、DACの心臓部はこの価格帯では異例なことに、出来合いのDACチップではないパルスアレイDACを使っています。たいていのDACはPCM1794とかES9018のように出来合いのDACチップにメーカー独自のI/V変換とかアナログ出力、デジタル入力段を組みあわせたものですが、このパルスアレイDACはDA変換部分がChord独自のアルゴリズムによるもので、いわばオペアンプに対してのディスクリートのようなものです。この辺からも高級感が感じられます。
QuteHDのパルスアレイDACはDAC64の第4世代から一歩進んだQBD76相当の第5世代で、QBD76よりは簡略化されているというものです。さらにQuteHDではこのパルスアレイDACはなんと設計段階でDSD入力を考慮したという点でも特筆できます。WTA補完フィルターなどもDSPを10個並列仕様で実現するなど、なかなか凝ったものです。またジッター低減もかなり本格的な設計がなされています。
そしてこれはChordがはじめて本格的に取り組むPCオーディオ製品です。
ChordはDAC64やQBD76など電子回路設計は優れていましたが、コンピューター周りが弱い印象があって、たとえばQBD76でもこんなすごいスペックなのに当初USBは48/16対応でした。後からハイレゾ対応されましたが後手後手に回っていた感は否めませんでした。
ところがこのQuteHDは一転してUSBで384kHz、しかもDSDネイティブ再生対応と、先手で一気に他社を抜き去ってしまいました。
DSDネイティブ再生は最先端の話題でもある業界標準規格のDSD Over PCM(DoP)を採用しています。標準規格のため幅広く再生ソフトを選ぶことが出来ます。
USB 384k対応は将来的拡張ではありますが、おそらくUSB 384kHz対応とDSDネイティブ再生の最先端スペックを同時に満たしたDACは、どの価格帯を探してもまだないと思います。
USBドライバーはカスタムドライバーでアシンクロナス転送を採用、MacもWindowsも用意されています。
端子はBNC(SPDIF)、光、USB
PCオーディオ以外でも手を抜かず、これも将来的ではあるけれどもSPDIFで384kをうたっているところも地味にすごい点ですね。SPDIF端子もBNCと、このクラスでは普通に見られるRCAよりもひとクラス上を感じさせます。
光入力に対してもしっかり作り込んで、トランスポートと電気的に切り離せる光の利点を積極的に利用できるとうたっています。
実機を使う機会を得ましたので、さっそく使用感と音質についてレビューしたいと思います。
* QuteHDの使い方
Chord QuteHDは他のCordetteシリーズと同じサイズなので片手で楽に持てるほどコンパクトで場所を取りません。電源はACアダプターを使用します。
仕上げもきれいでアルミ切削シャーシは高級感があると同時に効果的に放熱すると思います。QuteHDは使用しているとDACとしては意外なほど熱くなります。
ちなみに電源スイッチはありません。初代DAC64みたいですね。質実剛健です。本体カラーはシルバーとブラックがあります。
デジタル入力は信号が出ていれば自動的に選択されます。手動で切り替える必要はありませんが優先順位があって、優先順はUSB、同軸デジタル、光入力となります。たとえばUSBと同軸デジタルを同時に接続している場合には、USBからの再生が選択されます。
QuteHDはカスタムドライバーを使用しているので、Windows/Macと接続する際には同梱のCDからドライバーをまずインストールします。Windowsは32bitと64bitが別に用意されています。Macのドライバーはdmgで格納されています。インストールした後は"Chord Async USB 44.1KHz - 192KHz"としてサウンドの設定に表示されます。
MacとWindowsのインストーラ
MacのAudioMidiとWindows7のデバイスのプロパティ画面
QuteHDはChordの個性的な窓がついていて中の回路が見えますが、ここの照明がどのサンプルレートをロックしているかで変わります(DSDもあります)。ロックしていないときは照明がつきません。
色は44Kは赤、48kはオレンジ、88kは黄色、96kは緑、176kは薄い青、192kは濃い青、DSDでロックしているときは白くなります。
44k(赤)、48k(オレンジ)、88k(黄)
96k(緑)、176k(薄い青)、196k(濃い青)
DSDネイティブ再生(白色)
後で書きますが、特にDoPでDSDネイティブ再生できているかは青か白かで確認ください。
* QuteHDの音質
試聴のシステムはWindows/Macをソースにしてさまざまなプレーヤーソフトを使用し、主にUSB接続で聞きました。出力機器は当代髄一のヘッドフォンオーディオ機器としてHifiMANの平面型フラッグシップ、HE-6とEF6のプロトタイプを使用しています。
届いたばかりでエージングもしていない状態ですが、接続して音を出した瞬間にはっとするほどの高音質です。なんだかいままで聴いたことのないレベルの音世界が私の頭の中でひろがっています。
音は自然でかつシャープという理想を両立しています。まったくエージングゼロでもきつさがないのがまた驚きます。はじめはパルスアレイDACっていってもスイッチング電源のCordetteラインだし、などと不遜にも思ってたんですが、それが聞いた瞬間にみな吹き飛んだ感じですね。もちろん家ではオーディオ用の電源タップなどを使ってはいますが、バッテリー電源のWavelength Protonと比べても滑らかさに遜色がないし、Protonと比べるとかなりはっきり分かるほどよりシャープで鮮明・明瞭です。そして高域の明確さ、低域の重み・実体感もひときわ高く、レンジの広さも特筆ものです。楽器の音はかちっとして輪郭があいまいではありません。極めて明瞭でいながらきつさはなく、細かい音をよく拾います。ピュアで透明感が際立ったChordらしい音とも感じられますね。
アップサンプリングすると(色が変わり)、44k->88k->176kと素直で直線的に音質が上がる感じです。384kとなったらどうなるのでしょうか。
Chordが本気になるとこの価格のDACでもこんな音を出すんですね、と実感した瞬間です。ロバートワッツの技術を1000ポンド(イギリス)以下で、というキャッチコピーも伊達ではありません。
自然でシャープな音というところでは、いわばディスクリートのパルスアレイDACやWTAフィルターが効いているんでしょうか。そこで現在最高ともうたわれるESS Sabre32、ES9018と比べてみようと、あのマニアックなAudioGD NFB-10ESと聴き比べました。NFB10は私のはUSBを排したBNCモデルですので、Audiophilleo1を使って、同じBNCで比べました。
やはりNFB10はESSらしいシャープで精細な音で優れた音再現を聞かせますが、驚くことに重量でははるかに小さいQuteHDの方がさらに音質は上です。音の自然さ、リアルさ、厚み、低域の重みなどでQuteHDの方が優れています。特に自然さはやはりQuteHDの勝ちです。バイオリンの音色などを聞くとよくわかります。
音の細かさもEF6+HE6のような顕微鏡レベルのシステムでもあのES9018とそん色はないですね。むしろ細かい音がよく整理されてよく聴きとりやすいかもしれません。おそらく音場の立体感もQuteHDがまさっているでしょう。ポップ・ロックなんかでもQuteHDの方が整理されて良いですね。QuteHDでは細かな音が洪水のように出ていても整理されて整然と楽しむことができます。
アナログ部はどう見てもNFB10の方が電源も含めて数倍は物量投下されていますが、それを補ってもなおQuteHDの方が音が自然だというのはパルスアレイDACの素性の良さがデジタル部ですでに完成されているからなのでしょう。
次の興味はさらに上級のDACとどこまでいけるか、ですがこれはまたいずれ。
QuteHDは、いわゆる戦略的商品というやつです。Chordとしては前例ないほどエントリークラスに力を入れていて、PCオーディオ最新分野にも完全に対応しています。ChordはこのほかにもIndexというネットワークプレーヤーも投入準備をしています。
いったいなにがあったんでしょうかと思わせるこのChordの変わり方ですが、Focalのヘッドフォン発売やnaim買収を見ても欧州オーディオメーカーにいろんな変化が出ていると言えるのかもしれません。
いずれにせよ新しいChordに期待が膨らみます。
ここまででも十分にQuteHDはお勧めなんですが、さらにQuteHDではトレンドの先端を走るDSDネイティブ再生が可能です。いままでは高価格のPlaybackか、もとはスタジオ機のMytekしか選択のなかったDSDネイティブ再生の分野に、いよいよ手軽な価格で本格的なオーディオDACが現れたというわけです。
ということで、次の記事はQuteHDのDSDネイティブ再生実践編です。QuteHDは業界標準規格のDoPを採用していますので、その利点である対応プレーヤーソフトの幅広さを生かして各ソフトの設定を中心に書いていきたいと思います。
Music TO GO!
2012年05月22日
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