English version here.
http://www.head-fi.org/t/597534/suyama-universal-fitear-to-go-334
須山カスタム、というと国産のカスタムイヤフォン(イヤモニ)の代名詞でもありますが、その須山さんがユニバーサルタイプの高性能イヤフォンを開発しました。K3003の向こうをはる堂々たるハイエンドイヤフォンです。ユニバーサルイヤフォンというのはいわゆる普通のイヤフォンのことで、自分の耳型で作るカスタムに対して誰でも使える汎用(universal)という意味で使用しています。
この新型イヤフォンはMH334と同じBAユニットを使用した、3ウエイ3ユニットの高性能イヤフォンで、ユニット構成もケーブルも同じです。いわばMH334のユニバーサル版です。しかしカスタムの試聴用にラバーチップをつけたものとは根本に異なります。
名称は仮称(決定?)"FitEar TO GO!334"ということです(どこかで聞いたような)。このFitear TO GOというのはユニバーサルのブランド名となり、To Goというのは(マクドナルドなんかでの)持ち帰りという意味もあるので、カスタムとは違ってそのまま持ち帰れるという意味も含むそうです。
こちらにホームページがあります。
http://fitear.jp/music/sp/togo334sp.html
FitEar TO GO!334は他のカスタム同様にハードケースとしてペリカンケースがついています。ユニバーサルなのでイヤチップが付属しています。チップは大・中・小の黒ラバーチップと白のダブルフランジが付属しています。わたしはダブルフランジが良いと思いました。
イヤフォン本体はやや大柄ですが、同じユニットを詰めているカスタムに比するとコンパクトに仕上がっています。そもそも3Wayで3ユニット別というユニバーサルはほかにないですね。しかもローユニットにはかなり大きなサイズのBAドライバが入っています。表面はとてもきれいに仕上げられています。ブラックも艶っぽくていい感じです。
耳にかける部分にはチューブとメモリーワイヤーがあるので、カスタムと同じで耳にかけて使用します。ケーブルは着脱式です。ハウジング自体は大柄でも耳にかけてしまうと、装着感は他のBAイヤフォンとあまり変わりません。重さもさほどは感じません。
試聴機がくる前に自分のカスタムMH334で少し聴き込んで置いたのですが、たしかにぱっと聴いた大まかな音の印象はカスタムMH334と似たところがあるように思いました。
しかし驚いたのはカスタムMH334よりもかなりクリアで透明感が大きく増していると言う点です。これはわずかの差ではないですね。思わずFitEar TO GO!334を外して再度カスタムMH334で聞き直してしまいましたがやはりそうです。
正直言ってカスタムよりは音質は落ちるんではないかと思っていたのが逆だったので思わず須山さんに連絡してどこが改良点なのか聞いてしまいました。
聞いてみるとやはりカスタムMH334とケーブルとかBAユニットは同じだそうで、改良のポイントは内部構造のようです。
マルチのBA(バランスド・アーマチュア)カスタム、ユニバーサルイヤフォンは高域に弱いと言うのは前に書いたんですが、どうやらこの問題のポイントはユニットではないようです。
K3003もはじめはすごい新型BAユニットかと思ったけど、意外と一般的なTWFKらしいようでWestone3なんかと同じやつですね。それでもあれだけの音を出すのはユニットと言うよりは、ユニットのポート(音導孔)やステム構造の差で周波数特性はだいぶ左右されるようです。ユニットからの音を合流させてさらに耳に導くという点でどうしても高域特性が悪くなってしまうよう。特にマルチユニットタイプはそうらしく、効率的な音導孔設計が各社のキーポイントと言うことです。
K3003は小型のBAユニット(TWFK)をステンレスのステムに突っ込むという工夫であれだけクリアさと高域レスポンスを得ているようです。ただこれは1ユニット2way(+ウーファ)の比較的小サイズだから可能なことで、FitEar TO GO!334ではさらに意欲的に3ユニット3wayを目指して、大サイズのローユニットなどを組みこんでいるのでかなり苦労があったとか。
このFitEar TO GO!334では3ポート別で高域専用の音導孔として出口方向にテーパーを付けた純チタンのチューブを使用していると言うのが一つのポイントです。須山さんのところはチタン加工もノウハウを持っているようです。
また、ユニットの最適配置を見直して効率的かつダイレクトに音が導かれるような設計をしたとのこと。細かいところでは、カスタムではないので遮音性が減った分を補うための低域の調整を行っているそうです。
これらのことから、単にカスタムの試聴用にユニバーサルチップをつけたものとはまったく異るということがわかると思います。
FitEar TO GO!334の音に戻りますが、もともとバランスの良かったMH334の音がさらにクリアになったということでかなりレベルは高いです。
特に気に入ったのがFostex HP-P1との組み合わせで、これは驚異的ですね。iPod classicとDirigent USBを組み合わせるのが自分の定番システムひとつで、これでFitEar TO GO!334を組みあわせて聞きます。
まずはっきりと際立つのは明るく軽やかですっきりとした中高域のクリアさと空間表現の立体感です。優れたポート設計の効果でしょうか、とくに立体感と空間の広がりはいままであまり聴いたことがないくらいですね。あとでJH13なんかとも比較しましたが、多分この二点に関してはいままで聴いたイヤフォン(カスタム・ユニバーサル問わず)の中でもトップクラスでしょう。
また線が細く緻密で微細な音の印象は紛れもなくハイエンドBA機の特徴を受け継いでいます。帯域バランスはとてもフラットで低域は張り出し感はなく、素晴らしく良くコントロールされていてタイトです。
低域はK3003などとは違い量感は抑えられていますが、別に書いたようにカスタムMH334とは調整しているので、それ自体はきちんとレスポンス・インパクト感あり、とくに低域表現に物足りなさを覚えることはないと思います。
実際にこの音のタイトさ、インパクト感のある切れのよさっていうのはもう一つのFitEar TO GO!334の特徴の一つです。音がタイトで輪郭が明瞭、もやっとした曖昧さがありません。他のイヤフォンだとなんだかなまったようなパーカッションのインパクトでもFitEar TO GO!334だとぴしっと決まる気持ちよさがありますね。普通にロックとかポップも聴けますし、むしろボワっとだるくなくビシッと気持ち良いくらいですね。ただ膨らみとか脚色感がないというだけですが、もちろんここは好みもあるでしょう。もしさらに低域がほしい人はコンプライがつくので(T400)それを使う手もあるでしょう。これでかなり量感は増えますね。自分でチップで音を調整できるというのもユニバーサルの良いところです。
そしてマルチBAということで期待する微細さ・解像力はJH13やUE18などのハイエンドカスタムと同等以上です。おそらく全体の音における印象もそうしたハイエンドカスタムを持っている人はK3003よりもそれらに近いと感じるでしょう。生楽器の音の鮮明さと正確さ・リアルもトップレベルですね。高い音のレスポンスは強く、芯が強固なように鳴りますが痛さ・きつさはあまりないのも良い点です。
HifiMan HM801と組み合わせると、正確な再現性の高さの中にも低域のインパクトはしっかりあるのがわかり、同時にHP-P1の時にはニュートラルと思ってた音調にほのかな暖かみが乗っているのがわかります。これはHM-801の良さでもあるけれども、こうしたアンプの違いを明確に描き出す能力もむろんあります。
たぶんK3003と比べろと言われると思うので書いておきますが、K3003と比べると音の立体的な広がりと微細な情報量の多さ、音のタイトさにおいてFitEar TO GO!334が上のように感じます。比べるとK3003はこじんまりとしていますね。
低域の量感という点ではK3003の方が量感の豊かさを感じます。この辺はぶおっとしたベースの迫力がよいか、ばしっとしたタイトで切れよいベースラインがよいかで好みが分かれるところかもしれませんが、逆に言うと二つ持っていても使い分けられるという恐ろしい結論にも導かれます(笑)。ボリュームレベルに関してはK3003の方が能率はやや低い感じです。
たぶん他のハイエンドカスタムとも比べろと言われると思うのでそれも簡単に書いておきますが、現在最高レベルのJH13+WhiplashのTWagリケーブルで比べてみました。これはちょっと似た感じになって近しい勝負ではありますが、はっきり差がつくところでは音の広がりと立体感はやはりFitEar TO GO!334が上ですね。ただこのレベルになるともう少し聴きこんでみますが、FitEar TO GO!334は標準ケーブルですから標準同士だと334を取るでしょうね。
販売に関してはフジヤさんですでに予約を開始して、店頭に試聴機も設置しています。通販でも買えるので都市部ではなく「カスタム良さそうだけど耳型とってくれる人がいない」という人にも福音でしょう。
販売に関してはフジヤさんホームページをご覧ください。
http://www.fujiya-avic.jp/products/detail11577.html
私もカスタムイヤフォンを声を大に広めてきた立場上ユニバーサルがカスタムを超えたとは言いづらいところはありますが(笑)、少なくても音質に関してはもうどちらが上とは言えませんね。設計次第です。もちろんフィット感はカスタムの方が良いです。特にシェルの造形とフィット感は須山さんとこが一番だと思います。これは私もカスタムいっぱい持ってますが、シェルの透明感もさることながら細かい造形の巧みさは他にないと思います。
いずれにせよカスタムとユニバーサルは単に音質や価格の松と梅ではなく、本来的な使い方で分けられる時代になったのかもしれません。
Music TO GO!
2012年02月21日
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