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2012年01月21日

アンドレアス・コッチ氏のDSD解説

DSDの第一人者であるPlayback Designsのアンドレアスコッチ氏がオーディオサイトのPositive Feedbackに興味あるDSDの解説を寄稿しています。
Positive Feedbackのリンク

すごく長いのでかいつまんで紹介しますと、
まずDSDと言う言葉はSACDとともにできたものだけれども、実際には80年代に遡って開発されたデルタシグマ変調と変わらないということ。この方式は図1(fig1)に書かれた流れを実現するためのもので、こうする利点と言うのは処理の複雑なポイントを電子部品からデジタルドメインに移すことが出来るということだそう。つまりすでになんらかの形ですでにずっと以前から"DSD"の音を聞いているということになります。
DSDはよくSACDに使われた形式で、と説明されますが実際はSACDの出る前からDACを効率化するための手段としてデルタシグマという方式が開発されて、一般的になっていき、それならば音源もDSD にしたら、と言うことでSACDの登場となる、という訳ですね。
つまりレコーディングからCD再生にいたるAD-DAというプロセスは実際はADもDAも中はデルタシグマ(PCMに対してPDMと言えばよいんでしょうかね)で行っているけど、中間にどうしてもPCMが挟まるので変換が必要になる、これはつまりメディアとしてのCDがPCMを必要としているからです。そこで中間のメディアもDSDにしてしまえば、この流れはすっきりして無用なPCM/DSD変換に関する副作用を減らせるというのがそもそものSACDの考え方だと言うわけです。
DSDには2.8Mと二倍の5.6Mがありますが、もともとは2.8Mが一般用であり、5.6Mは製作側のマスターとしての位置づけとのこと。いわばDSDのスタジオマスターというわけですね。

そして面白いのはDSDとダイナミックレンジの関係です。(図2)
DSD自体はPCMと違って量子化数(ビット幅)というのがないので(1bitだから)、ノイズシェービングなどでダイナミックレンジをかせぐということです。これはだいたい2.8M DSDで150dBということなので24bitハイレゾの144dBとほぼ同等ですね。
ただ面白いのはこのPCMとDSDの周波数によるダイナミックレンジを比較した図(Fig2)です。色のついた矩形の枠がPCMでギサギサのカーブがDSDです。このPCMの切り立った特性はプリエコーのような音の副作用(audible side-effects)を生じやすいが、高周波帯域に向かってゆるやかなノイズフロアの立ち上がりのDSDは特性上それが生じにくいと言うことです。つまり自然な音再現ができるということですね。

ここでポイントなのはDSDがPCMに比べるとダイナミックレンジと言う観点でフラットな周波数特性を持っていないということです。これはノイズシェービングのため、ノイズが高周波方向に寄って行くということによるようです。ノイズシェービングはノイズの量を減らすのではなく、発生位置をシフトさせて目立たない場所に追いやると言う考え方ですね。つまり5.6MのDSDフォーマットを使えばさらに高周波側に余地があるので、このノイズはさらに高いほうへ追いやることが可能と言うことです。DSDというと単に周波数(fs)が高いと言うことでPCMと比べがちですけれども、こうしたそもそもの特性的な違いがあると言う点は注目すべきところでしょう。
DSDの音質としてのポイントは副作用の少ない自然な音再現が可能であるということと、その反面でフラットでない周波数特性ということがあるというわけですね。PCMに比べてDSD(SACD)の音が自然だけどいまひとつ違和感を感じる人も多いのは、こうしたPCMとの違いがあると言うことに起因するのかもしれません。
他の別の人が書いたDSD関係の記事も少し読んでるんですが、やはりDSDのよさって言うのはプリエコーやリンギングのようないわゆる副作用・アーチファクト(もともとないはずなのに計算上できてしまった音)がないという認識は共通のようです。

またDSDのもうひとつの利点はファイルの容量です(Fig3)。これはダウンロード時間で有利になります。DSDは352/24と比べてもおかしくはないのに96/24なみのダウンロード時間で済むということですね。

問題としてはPCでDSDを扱うときに物理メディアにしばられないと言う利点はありますが、ファイルフォーマットがばらばらな点があげられます。dff、wsd、dsfについてはやはり画像の扱いなどメタデータの柔軟性でdsfがよいと言うこと。これは前に書いたBlue Coastの主催したセミナーでの意見と合致しますね。こちらの前に書いた記事です。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/216833841.html

またPCでDSDを使う場合のDACへの伝送手段では同軸、AES/EBU、Toslinkは適さずにUSBはその柔軟さで適しているということです。この辺から最近話題にしているDSDネイティブ再生の話題に近くなってきます。つまりUSBがDSDの転送には適しているために、OSのUSBドライバーのつくりが大きく影響すると言うことです。
WindowsではUSBクラス2に対応していないので、サードパーティードライバーが必要ですがASIOが適しているだろうとも書いています。
MacはUSBクラス2は対応していますが、DSDそのものは非サポートであるだけではなく、DSDをサポートできるインテジャーモードを10.7ライオンで削ってしまったのが問題と言うわけです。
つまり現時点ではDSDを出すのに適しているのはOSがUSBでPCMを搬送していると思わせるような方式であるということも書いています。またこの方式ではうっかりPCMとしてDACが再生してしまってスピーカーを壊さないような必要もあると言うこと。これらはdCS方式のことを言っているようにも思いますが、Playback Designsは独自方式なのでdCS方式そのものには触れていませんが、いくつかのベンダーはこうした方式を策定中でありPlaybackはこうした方式をすでに採用していると書いています。dCSなんかがやろうとしているけど、うちはもうやってたよ、と言う感じでしょうか。逆に言うと記述からしてPlayback Designsの方式もdCSのものに似ているのかもしれません。

現在DSDネイティブ再生をサポートしている製品のリストが記載されていますが、ソフトウエアではPure Music、AudirvanaのほかにJriver Media Centerもサポートしているようです。(HQ Playerは抜けてますね)
またMerging TechnologiesのEmotionというソフトウエアが2012年中に対応するとのこと。実際にCES2012ではPlayback DesignsのDACとこのEmotionを使用してDSDのデモをしていたようです。こちらに写真があります。
http://www.my-hiend.com/leoyeh/2012a/IMG_1971cc.jpg
http://www.my-hiend.com/leoyeh/2012a/IMG_1968cc.jpg
EmotionはWin7ベースだと思いますが、Mykonosというサウンドカードを使用したDAWを扱っているスイスのMerging Technologiesのミュージックサーバーのようです。

レーベルでは良く知られているototoy、2LやBlue Coastのほかには下記のレーベルも記載されています。
Wheatus: http://wheatus.com
David Elias: http://www.davidelias.com/

アンドレアスコッチ氏は最後に、昨日はエンコーディング形式(DSDとかPCM)がハード(CDプレーヤー)にあわせる必要があったが、今日ではハードウエア(PC)がエンコーディング形式にあわせることができると書いています。別な言い方をするとこれは次のメディアと言うものをユーザーが選ぶことが出来るということであり、今日ではそれがハイレゾPCMとDSDだが、明日はほとんどがDSDとなるだろうと結んでいます。

以上は訳ではなく私が読んでまとめたものですので念のため。
posted by ささき at 23:00 | TrackBack(0) | __→ DSD関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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