Music TO GO!

2006年09月27日

STAX登場 -- SR007(OmegaII)

SR-007(OmegaII、以下O2)はSTAXの現在のフラッグシップで国内外から高い評価を受けています。
もはや語りつくされたという感はあるかもしれませんが、とりあえずはわたしなりに書いてみたいと思います。

blog_omega2d.jpg

まず良く言われることですが中高域再現性は秀逸で、とくにヴァイオリンはダイナミック型の追随をゆるさないものがあります。再現性というよりも独特の音色というべきかもしれません。O2の世界は独特の音色に彩られています。
ヒラリーハーンのデビュー作にして名盤である「バッハ:シャコンヌ(B0002ZF01M)」では自信に満ち溢れたジャケットの彼女の表情のような完璧な演奏の魅力をあまさず伝えてくれます。ヒラリーハーンは技巧というだけでなくヴァイオリンの音色の引き出し方がとても上手な人だと思いますが、O2で再現される豊かな厚みのある音色には聞き惚れてしまいます。

また、バッハのシャコンヌといえばギドン・クレーメルも連想します。最近も無伴奏の新録音を発表しましたが、ここでは彼が音楽監修をして演奏もしている映画「無伴奏シャコンヌ」のサントラ(B000064ILG)を聴いてみます。
地下鉄の構内で演奏して暮らすヴァイオリニストが主人公のこの映画のサントラでは雑踏や電車の音など映画の環境音がたくさん入っていますが、その環境音のリアルさは驚くほどです。STAXが特殊用途のモニター用にも使われるというのも納得できます。
その地下鉄に響く環境音にクレーメルの尖鋭なヴァイオリンが空間を裂いて切り込んでくると背筋がぞくっとするような感覚を覚えます。このCDはこんなに良かったのかと再認識させられました。

そしてその真価は古楽の演奏で遺憾なく発揮されます。
良録音にこだわることで有名なM・Aレーベルの「サント・コロンブ師のトンボー:ヴィオールのための作品集(M069A)」ではさまざまな古楽器が織り成す美しい音のタペストリーをたくさんの音の糸をつむいでいくような繊細で美しい音で表します。
古楽の場合は古楽器の音を楽しむという側面が大きいのですが、ここでは古楽器の独特の音色の響きがそれぞれの色で塗り分けられます。ダイナミック型だととりこぼしてしまうような音と音の間に埋もれる飛び散った小さな音のかけらまでも拾い上げてくれるようです。古楽演奏は単調にも思えるかもしれませんが、こうした音色の心地よさだけでも聴き進めることができます。
しかしSTAXがこのCDに向いているのは当然のことかもしれません。なぜならこのCDの製作ノートにはマイクやレコーダーの機材とともに「モニター: STAXラムダ・シグニチャー・プロ・イヤースピーカー」としっかり記載があります。
STAXでモニターした録音をSTAXで聴くというわけです。この音楽のモニターにはSTAXが必要であったともいえるかもしれません。


これで静電型という形式から期待される繊細さと高域の美しさという点では十分満たされました。
しかしOmega2はさらにそれを上回ります。
O2の場合は高域に偏らずに低域も含めて帯域全体で高性能を発揮するのが特徴です。これはダイナミック型に比しても遜色ないくらいです。またしっかりした低域が、強みである高域の再現性を下支えしているともいえます。
たとえばストリングカルテットではヴァイオリンとチェロの音がみごとに両立します。ヴァイオリンだけ取ってみてもシンバルのように高域だけで成立しているわけではなく、もう少し下の帯域の再現性が重要であるといえます。
またNYの女性ギタリスト、カーキ・キングの最新アルバムのようにアコースティックギターだけのシンプルな音に分厚い電子音をかぶせていくような場合でも繊細な高音と沈み込む低音が完全に両立するさまは驚くほどです。ジャズでは007tAとの組み合わせでなかなか締まってタイトなベースラインを聴かせます。
サラ・ブライトマンのクエスチョンオブオナーではストリングスは静電型らしい再現力があるし、パワフルなビートもタイトにリズムを刻みます。前にK701で書いたようなポップオペラのポップとクラシックの要素を両立させる再現性がここにもあり、複雑な音のミックスをほぐしてきれいに描き分ける力はかなりのレベルです。静電型がこんな音楽でも向いていると改めて可能性を示唆してくれます。

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このようにOmega2だとどんなジャンルでも聴ける万能性があります。
しかしそれではダイナミック型をも置き換えるかというと、同じ曲を聴いても静電型とダイナミック型では受ける感じが違います。

ダイナミック型では音楽に抑揚がないと聴けませんが、静電型の場合は古楽のように単調になりがちな音楽でも音色のきれいさだけで聴き通すことが出来ます。しかし逆に言うと抑揚が十分にある音楽の場合はダイナミック型で聴きたくなります。これはミクロ的な音楽の再現性を得意とする静電型と、マクロ的な音楽の再現を得意とするダイナミック型の根本的な違いとも思えます。
静電型とダイナミック型の使い分けについて、はじめのうちは静電型の長所・短所というところからジャンルで考えていました。しかしOmega2を基点に発想すると万能なゆえに別な観点が見えてきます。静電型とダイナミック型はなにを聴きたいかではなく、どう聴きたいかで使い分けられる、と言うべきか自然と選択の手がそう動くのに気が付きました。同じCDを聴いても静電型とダイナミック型では受ける印象は違います。別な言い方をすると同じ曲を解釈の異なる二人の演奏者または指揮者で聴いているかのようです。

ミクロ的というのは細かい音のニュアンスから音楽を感じたいとき、マクロ的というのは音楽のフィーリング・雰囲気とかノリとか抽象的なものから音楽を感じていきたいとき、とも思えます。
静電型は音の細部(内側)から音楽を再現していく、ダイナミック型は音の全体像(外側)から音楽を再現すると言えばよいでしょうか。STAXで聴くと音楽において細かいひとつひとつの音の積み上げがいかに重要かがわかりますし、GS-Xで聴いていると音楽においてダイナミック感やPRaT(Pace Rythm & Timing)、または雰囲気の再現が欠かせないものだと思います。
それらはまた二つの方向から見た同じもの、であると思います。

この辺は個人的な感想ですし、いずれにせよまだ聴きはじめですので、これからもいろいろと発見していくことはあると思います。
またもうひとつの楽しみはゼンハイザーの静電型であるHE60(baby-o)との聴き比べで、またあらたな側面から静電型ヘッドホンを見ることが出来るのではないかということです。
HE60のSTAXアダプターを発注しましたので、届けばゼンハイザーの静電型とSTAXを同じ静電アンプ(SRM-007tA)で聞き比べて見ることができます。アダプタの発注先はミハエルさんのところ(SinglePower)です。

さて、駆動力の高い007tAを使ってbaby-oがどのくらい歌うようになるか、O2と比べてどうか、なかなか楽しみなところです。

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posted by ささき at 22:12| Comment(2) | TrackBack(0) | __→ STAX ΩII, 007tA | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コンデンサ型の魅力の一つは情報量の多さから
来る録音された場所にいるかのような臨場感
や空気感だと思います。
HE60とSR-007は大分キャラクターが違いますね。
コンデンサ型もダイナミック型に負けず
かなり個性があるのが面白いですね。
Posted by gajira at 2006年09月27日 23:11
たしかにコンデンサ型も個性豊かですね。そのうちいろいろと聴いてみたいものです。
Posted by ささき at 2006年09月28日 23:03
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