このまえGRADO GS-1000を試聴してみましたが、ぱっと聴いたときの第一印象は「やはりHP-1000の音を意識してるかもしれない」というものでした。名前から推測されたことだったからです。
ただし少し聴き進めてRS-1とA/Bで比べて行くうちにその印象は変わり、やはり音はRS-1のサウンドシグネチャーの延長上にあり「(いろんな意味で)少し大人になったRS-1」と言う感じに思えました。GS-1000については自分の環境では聴いてないのでコメントはこの程度にしておきますが、そうした第一印象からちょっと最近聴いてなかったGRADO HP-2を取り出してまた聴いて見ようと言う気になりました。
HP-2はHP-1000シリーズの中核機ですが、何回か書いたようにHP-1000というのは型番ではなくHP-1/2/3を総称したJoe時代のGRADOのフラッグシップの総称です。これは約1000台作られたということに由来しているようです。
わたしのHP-2はLarryさんのところ(headphile.com)でケーブル交換してもらったものを買ったものです。もとはいわゆるJGUWBRCケーブルでした。
外観を見るとハウジングのロゴが消えていますが、HP-1000にくわしいLarryさんいわくロゴが消えた固体も多いとのことです。思うにわたしのHP-2の表面仕上げは後期型の磨き方ですが、おそらくコストの関係で後の方ではロゴの彫り込みをプリントにしたと思われます。カメラなんかでもよくやられるコストダウンの方法です。
以前書いたようにこのHP-1000ヘッドホンシリーズはMCカートリッジで成功してオーディオの殿堂入りを果たしたJoe Gradoが晩年の道楽のような形でやっていたようで、一時期はほんとにGRADO社の存続が危うくなったようです。そのあたりできびしいJohnの手が入ったという気もします。
いずれにせよ全金属製でアルミの削りだしというハウジングを持ったHP-2は美しく輝きます。左右のユニットはビスで固定しますが、頭に載せるとずっしりとかっちりとした感触でいまから聴こえる音を予感させます。
音特性はとにかくフラットなことで有名ですが、これは録音の状態を浮き彫りにします。HP-2でヴォーカルが引っ込んでいればそれはそう録音されているということと推測できます。もともとスタジオ用に作られたHP-1000ならではということでしょう。
全体の音調はやや高域よりに感じますが、これは前にDrewさんケーブルとの比較で書いたようにLarryさんのケーブルの特徴でもあり、それに影響されていると考えられます。下記の音の印象もLarryさんケーブルの影響も含まれていると思います。
今回は本来K701やHD650と比較試聴する記事のつもりだったのですが、これは少し聴いてやめました。ケーブル交換したHP-2とストック(ノーマル)のHD650やK701では同じ土俵に立てません。これはあとでまた考えるとします。
HP-2の音は渓流のようにクリアでかつ都会の雑踏のように音数が多くハイスピードです。音の立ち上がりは早く、細かい音も純粋な形をもって解像されエッジはきりっとしています。音のすっきりとした純度の高さはK1000をちょっと思わせます。
低音も必要な量感はありますが、出すぎはしません。ボクサーのようにひきしまったタイトさでウッドベースのピチカートなどは圧巻です。弾くときの音のエッジが情報量の多さと音の立ち上がりの速さとあいまって驚くほどのリアリティと気持ちよさがあります。
音場の広がりは特筆すべきものではありませんが十分広く、それより音の重なりが立体感を感じさせます。やや耳に近い感じがしますが、あまり気になりませんし低能率なのでちょっと引いた感じさえします。
楽器の分離はかなりはっきりしていて、立体的に聴こえます。これは複雑に絡み合った曲で音の構造をレリーフのように浮き彫りにします。ヴォーカルも空間にロットリングで書いたようにはっきりと歌詞がわかります。それでいてサ行(S音)の痛さはあまりありません。
こう書いていくとHP-2がジャズとか室内楽向きのように思われるかもしれませんが、実はロックもかなりかっこよく聴けます。リズムの刻みのテンポが気持ちよく、ドラムのインパクトも小気味良いものです。これはK1000がロックに意外と向くと書いたとのと同じです。また高域がきつくないことも激しい音楽で疲れにくい要因だと思います。
ただし低音の塊りが投げつけられるような迫力や荒々しさを求める人には向きません。
HP-2で気が付くのは金属ハウジングだけれども金属の付帯音があまりしないということです。GRADOのヘッドホンは金属や木などハウジングの素材で響きに色がつきますが、削りだしの構造とかドライバーの材質のせいか余分な音はあまり感じません。
人間の耳は面白いもので、真空管の偶数次歪みとかエンクロージャーの鳴きのように本来は性能的に無い方がよいはずのものが聴こえた方が美音と感じることがあります。そうしたものを求める向きにもHP-2はあわないかもしれません。
しかしHP-2のよいところはこうしたモニター的とも思われる正確なHiFi調の音でありながら、きちんとした音楽性も感じるところです。音色もよく、解像力のせいもあるのかジャズの女性ヴォーカルは艶っぽくなまめかしさを感じますし、ジョニー・キャッシュのような枯れた男声ヴォーカルは年輪を感じる渋さを覚えます。
この辺はIKEMIというかLINNの特徴でもあり、その良さがそのまま出ているともいえます。HiFi調の機器がかならずしもシステムの中でドライな要素として音楽性にマイナスに働くわけではなく、こうして他の音楽性の高い機器のブースターともなり得るというよい見本のようです。
こうしたところがオーディオのシステム作りの面白さでもあり、ヘッドホンシステムでもそれがきちんと生きているというのはさすが殿堂入りしたJoeならではの腕の冴えと言えるでしょう。
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*この記事のシステム
LINN IKEMI → (根岸通信XLR) → Luxman P-1 → GRADO HP-2
Music TO GO!
2006年07月27日
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文章を読んでいるだけで、好みの音と思えます(笑)
今のところの目標は音場の広いCD900ST・・・(^^;)。
おそらくGRADO好きなひとなら少し違和感を覚えても共通するところが見つかるような音です。
しかしいつ見ても見栄えのするヘッドホンですね。音はもちろん、それ以外のところにも惹きつけられるというか・・・。理屈抜きで欲しいと感じるというか・・・。
上手く説明できませんが、HP-2は私にとって理想のヘッドホンのひとつみたいです。
確かに今のある種の荒々しさ(作りが雑とも言うw)のあるグラドも大好きですけどw
いつか復刻してくれたらうれしいんだけど、
無理でしょうね。
たとえ復刻できても、値段的にも当時よりかなり高くなりそう。
まあHP-1000はコスト度外視みたいなものですから、そういう意味では復刻というのはJohn時代では可能性が薄そうです。
ただHP-1000も一時期よりはプレミアも収まったということですから、こまめにチェックしてると手頃なのが見つかるかも...
HP-1/2/3は私がヘッドホンに懲りだしてから(6〜7年前?)ネット上で名前は聴くのですが、実物は見たことない憧れの機種だったりします。
最近のGRADO音とは、まったく別傾向の音のようですね。う〜ん、聴きたいなぁ。
GS-1000は、私もRS-1の延長上、ある意味正常進化した音だと思います。というか、エージング前は、イヤーパッドを同じものにすると高音の伸びくらいしか差を感じませんでした(^^
ハウジングの位置をネジ止めするというのだけでも一見の価値があるかもしれません(^^