以前USB DACと192k対応、クラス2などについてまとめた記事を書きました。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/163361655.html
しかしその後いろいろと知見を深めていくうちに、この理解に修正が必要なことが分かってきました。そこで最近洗いなおして現時点で判明していることをまとめてみます。
推測もありますが、多くは直接開発元などに確かめています。このためMSBとかdCSみたいに私があまり詳しくないところのものは入っていません。ですから実際はもっとパターンがあるかもしれません。
1. USB DAC/USB DDCの192k対応方式の違いのまとめ
hiFace、Musilandなど
ドライバ: カスタムドライバ
174k/192k達成のためのドライバのインストール: WinもMacも必要
転送方式: USB Audio device classではないBulk転送
USBコントローラ: EZ-USBなどによるHigh Speed
備考: Macプレーヤーソフトのインテジャーモードは使えないものが多い
Zodiac +
ドライバ: 標準(クラス)ドライバ USB Audio Class1 (UH1モード)
174k/192k達成のためのドライバのインストール: WinもMacも不要
転送方式: USB Audio device classのSynchronous
USBコントローラ: 独自設計によるClass1でのHigh Speed
Audiophilleo1&2
ドライバ: 標準ドライバ USB Audio Class1
174k/192k達成のためのドライバのインストール: Mac(10.5以降?)不要、Win Vista/7必要、XP不要
転送方式: USB Audio device classのASynchronous
USBコントローラ: RISCプロセッサによる独自実装、RISCは信号処理も担当する
Wavelink、QB9 192、m903、HD7A 192など
ドライバ: 標準ドライバ USB Audio Class2
174k/192k達成のためのドライバのインストール: Mac(10.6.4以降)不要、Win必要
転送方式: USB Audio device classのASynchronous
USBコントローラ: XMOS、HighSpeed
備考: XMOSについては厳密に言うとさらにベンダーごとに実装の違いがあります。
たとえばゴードン系(Wavelink, QB-9 192, m903)とHD-7A 192も違います。
Zodiac Gold
ドライバ: 標準ドライバ USB Audio Class2 (UH2モード)
174k/192k達成のためのドライバのインストール: WinもMacも不要
358k/384k達成のためのドライバのインストール: Mac(10.6.4以降)不要、他は不可
転送方式: USB Audio device classのSynchronous
USBコントローラ: 独自設計、High Speed(384k対応可)
2. 考察 - OSのHigh Speed転送の対応状況
上の表を理解するポイントの一つは標準規格であるUSB Audio Device Class2.0に対応していなくても、OSの方ではメーカー(Apple/MS)の独自実装でClass1のままでHigh Speed転送が出来るようになっているということです。たとえばWinodws7のUSBクラスドライバーはClass2の対応はしていませんが、Class1でHighSpeed対応しているというのが現状のようです。いわば暫定対応です。
Macは10.6.4以降USB Audio Device Class2.0の対応を正式にしています。その反面でWin同様にMacでもClass1でのHigh Speed転送ができるようです。つまりMacは正式対応も暫定対応も両方されています。
このようにHighSpeed転送はOSの標準ドライバーでは正式でも暫定でも対応ができるので、標準ドライバーで192kHzが達成できてもそれがイコールClass2というわけではないということです。これは規格というより実装の問題で、XPで出来てVista/7では逆に出来ないというものもあるし、WindowsとMacでも細部の動作に食い違いがあるようです。このことから私もいままで標準ドライバーで192k達成できるものはClass2といっていましたが、一概にそうとはいえないと言うことです。
またこの前提はUSB Audio Class1.0 (つまりUSB 1.1のFull Speed)では96/24が上限であって、それ以上のサンプリングレートを送るときには計算上USB 2.0のHighSpeed転送が必要であると言う前提に基づいています。しかし、ここも実は裏道があるらしいということも分かってきました。とどのつまりはこの辺はOSの実装にかなり左右されるようだと言うことです。
逆に言うとこうしてメーカーごとにばらついたHighSpeed対応状況を標準化してデスクリプタにまとめたのがUSB Audio Class2.0といえるかもしれません。
3. 考察 - USBの転送制御とコントローラの問題
ここでいったん前に書いた記事に戻るのですが、192k対応を引き出すためにはUSB コントローラの制限があります。これは仮にClass1でHighSpeedを実現していても同じです。
たとえば96/24時代でよく使われたTAS1020だと対応はFull Speedまでなので、Class1だろうがClass2だろうがHigh Speedを使用するにはこれらでは対応できずに独自設計のコントローラが必要です。また、さきに書いたようにこの設計にはOSの実装が関係してきます。
つまりポイントは先のようにOSの標準ドライバーといっても、その実装はかなりまちまちであり、それを独自設計のコントローラで引き出すことで規格外の転送が可能であるというのも分かってきたところです。
そして、そのためにはコントローラ設計にも柔軟さが必要です。
ここで上の表のUSBコントローラの項を見てもらうと分かるのですが、この「独自設計のカスタムUSBコントローラー」も様々です。
本来はUSBの制御などはハードウエアの高速な論理ゲート動作などで行いそうですが、96/24ハイレゾを実現するためにTAS1020でゴードンさんなどベンダーがソフトウエアを書いて対応するようになって以来、プロセッサ+ソフトウエアという形式で転送制御をするのが一般的になってきました。
さらに192/24時代のいまではトランスピューター(トランジスタ+コンピュータ)と称されるXMOSが一般的になり、AudiophilleoではRISCでUSB制御のみならずさまざまな信号処理も担当しています。これで柔軟性と多機能化などをもたらしています。つまりはDACといえどもソフトウエア(ファームウエア)の比重が大きくなってきたということです。
XMOSという点で言うと、USBの192k技術はXMOSでそろってきたようにも思えますが独自の実装があります。これはさきのHD-7A 192のカスタムファームウエアの記事で書いた通りです。
プレーヤーソフト的に見てもインテジャーモードのようにかなりDACよりのバッファなども見据えたきわどい実装をするものも出てきたので、ファームの違いも関係してきます。Audirvanaのインテジャーモードは0.9.1からクラス2に対応していますが、当初同じXMOS採用機でもばらつきがあったのはこのあたりに関係しているようです。
たとえばインテジャーモードの対応の場合、DAC側のコントローラーがPCM270xのようにハードの固定動作チップの場合はDACベンダーで変更ができないので、PCM270xが入っていればインテジャーモードの対応はどのDACでも大丈夫だろうと推測ができます。しかしコントローラーがXMOSのようにDACベンダーが書き換え可能なソフトウエア比重の高いチップの場合は一概にXMOS搭載のA-DACがOKだったからB-DACもOKとは保障できません。ただしベンダーによってはグループ化が可能なので(たとえばゴードン系)、WavelinkがOKならQB9 192も大丈夫だろうと言う予測は可能です。そういう意味ではこうしたカテゴリー分けは必要であるといえるでしょう。
ちなみにインテジャーモード対応DACのリストはこの辺のCAリンクが便利です。
USBの転送制御をソフトで行うと言う点では昨年のキーワードとなったAsync云々というところも関係してきます。これはDAC側の高精度固定クロックが有効に使えるということでAsyncがもてはやされたんですが、クロックで知られたアンテロープ社製で高精度クロックを売りにするZodiacがクロックを生かすために必要と思われていたAsyncではなくSyncであったというのも興味深い点です。SyncはAdaptiveの元になった規格で、いまはあまり使われていないという理解でした。これも意図的にやっているようで、あえて第三の方式などと言っていました。
4. コンピューターとオーディオの世界
こうしてみただけで、コンピューターオーディオの世界は深く多様で全て理解しようとするとめまいがしてきますが、トランスポートであるパソコン(OSやプレーヤーソフト)も、DAC/DDC側のコントローラも、ソフトウエアの比重が大きくなるとそのベンダーごとの実装で挙動がおおきく左右されてしまうと言うことはいえると思います。これは実際は規格化されて同じことをやっていそうですが、見えない挙動は異なってきて、それがときに見える違いとなると言うことです。
このソフトウエアによる柔軟性の高さと、柔軟ゆえの不統一さというトレードオフが従来ハード一辺倒だったオーディオ機器にないコンピューターオーディオの特徴を端的に表しているようにも思えます。
Music TO GO!
2011年06月12日
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