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2006年05月13日

「ゲド戦記」とル・グイン

今年のジブリは新作「ゲド戦記」を公開する予定で、昨晩の「もののけ」放映の最後でその予告編を公開していました。
今回の監督は宮崎氏の息子さんだそうですが、これを見ると最近の宮崎駿よりも宮崎駿らしい作品に思えてけっこう期待感はあります。

このゲド戦記という物語は完結した全3巻がはじめに出ていて、それからぽつぽつと続編が刊行されています。わたしは初期の3巻はずいぶん前に読んだんですが、それは当時はこれを書いたアーシュラ・K・ル・グインという作家のファンだったからです。
もともとル・グインはファンタジーというよりはSF畑の作家と考えられていますが、初期作品の「ロカノンの世界」あたりでもファンタジー的な世界観を取り入れています。また、一方で代表作の「闇の左手」に見られるように非常に深くテーマを掘り下げる人で、ゲド戦記でも一巻目では自我の目覚めを「真の名前」というキーワードで取り上げて少年の通過儀礼の物語として書き上げています。
二巻目では迷宮にとらわれた少女を思春期の複雑な少女の心の象徴として書いています。ここでは主人公が少女を救い出すことで(心の)迷宮からの脱出を描きますが、この男女というのも「闇の左手」に書かれているようにル・グインが得意としていたモチーフでもあります。

予告編から見ると、おそらくジブリ作品ではこの初期2巻を中心に描くと思います。(3巻目はやや時代設定が離れています)
またル・グインの一連のSF作品はハイニッシュ・ユニバースと呼ばれている共通の世界設定を持っています。ゲド戦記でもアース・シーという「指輪」のミドルアースにも例えられるしっかりした背景世界を持っています。そうした意味では宮崎作品的な世界観に適合するのではないかと思います。

非常に優れた作家ですので、今回の映画に興味をもたれた方は「ゲド戦記」は公開の楽しみに取っておいて彼女のSF作品を読まれることをお勧めします。まず「ロカノンの世界」が読みやすくお勧めですが、初期のサンリオ文庫版は絶版でコレクターアイテムですので、いまはハヤカワ文庫版が入手可能だと思います。
また入手しにくいかもしれませんが「風の十二方位」という短編集も彼女の概要を知るものとしてお勧めです。
posted by ささき at 00:26| Comment(4) | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ささきさん、こんばんは。
ゲド戦記は真に優れた文学作品だと思います。
よく言われるように成長の過程を描く浪漫小説の一種であるのがキモなんです。
で、子どもに読ませたら、単なるファンタジーとしてしか読まず、魔法のシーンだけを面白がるのでがっかりしております。
自分の視点を押し付けるわけにもいかず、難しいものです。
Posted by minima at 2006年05月13日 03:20
そうですねぇ、いまのファンタジーブームの火付け役になる「ハリーポッター」が受けた理由が単純に明るく軽く楽しい、というところですので、ファンタジー作品が同列に捉えられるというのはあると思います。

ただ一方で「ハリーポッター」が受けたのはもともと子供向けだったファンタジーが「指輪物語」のように子供向けとしてはやや難解で複雑な方向に行ってしまい、大人が子供からファンタジーというものを取り上げてしまった、という反動というのがあるのかもしれません。
Posted by ささき at 2006年05月13日 07:44
こんにちはー。
なつかしーですねー。
「ゲド戦記」は当然として、「闇の左手」に「ロカノンの世界」。中学生の頃読みましたよ。
ゲド戦記は初期の3作品で完結って言ってたし、残りの作品は蛇足な気がしますけど。
私は宮崎監督は約20年前から、ゲド戦記は約15年前から好きなので、監督の息子さんがどう仕上げてくれるのか楽しみです。
「ゲド戦記」をジブリが映画化するのを数ヶ月前に知ってから、もう楽しみで楽しみで。

個人的にはハリー・ポッターはファンタジーをうまく使っただけで、全然面白くないんですよね。
むしろそれまで色んなファンタジーを読んでる人にとってはつぎはぎだらけの不恰好なモノにしか見えないような。
本当に子供向けで、深みがない。

世界的に見るとそうなんでしょうね>「ハリーポッター」が受けたのはもともと子供向けだったファンタジーが「指輪物語」のように子供向けとしてはやや難解で複雑な方向に行ってしまい、大人が子供からファンタジーというものを取り上げてしまった、という反動
日本国内に限れば、その間の溝をゲームブックや所謂ライトノベルが埋めて子供と大人の中間の世代にしっかり根付いた感はありますけど。

何にせよ、ファンタジー好きには過ごしやすい世の中になりましたよ。いいことばっかりじゃないですけどね。
Posted by He&Bi at 2006年05月13日 09:17
He&Biさんもそうした作品群に影響を受けていそうですね。
たしかに、なににせよまずパイが大きくなるということはよいことだと思います。
今年になってからエルリックシリーズとか「折れた魔剣」とか、過去の名作がいろいろ復刊しだしたというのもそうした層の広がりというのがあってこそといえるかもしれませんしね。
こうしたファンタジーなんかもそれなりの一定のファン層はあったとはいえ、そうした層だけだといったんいきわたってしまえば終わりですから、新たな活力を得るためにはパイの大きさ自体が広がることが必要なのかもしれません。
まあ、これはそのままヘッドホンオーディオにもいえるかもしれませんが(笑)
Posted by ささき at 2006年05月13日 10:06
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