Music TO GO!
2010年12月02日
Audio-gd NFB10ES 到着
*Audio-gd NFB10とは
Audio-gd製品は私は初めてですが、HeadFiなどを見てもらっても分かるように人気のある中国メーカーです。また6moonsなどでもレビューがあり、きちんとした評価を受けている、コストパフォーマンスの高いメーカーと言えるでしょう。CDトランスポートからパワーアンプまで製作しています。
このNFB-10はDACとヘッドフォンアンプの一体型で、バランス構成で設計がされています。内部もバランス設計で、ヘッドフォンもバランス駆動できます。ただしコネクターはHE6の記事でも書いたように日米でよく使われる3ピンXLRx2ではなく、4ピンXLRx1のAKG K1000タイプとなっています。実際K1000用のアンプと互換性があるようです。Head DirectのHE5LEやHE6などもこの4ピンXLRを使っているので、相互に使うことが出来きるようです。
DACとしてのデジタル入力はUSB(96/24対応)、SPDIF(RCA)、光が基本ですが、後で書くように派生型があります。
普通DAC一体型のヘッドフォンアンプは、Benchmark DAC1みたいにDACがメインでヘッドフォンアンプはモニター的に使うためのサブとか、Headroom desktopみたいにヘッドフォンアンプがメインでDACがオプションで内蔵できるとか、どちらかに重点ポイントがあり、片方はサブみたいなものですが、このNFB10は両方とも等しい割合というなかなか面白いコンセプトの一体型機です。$700 DAC + $700 balanced amp相当という広告文句がそれを表しています。
$700 DACというのはES9018を使用した単体DACであるNFB-1の8掛けで、$700 balanced ampというのは前任のバランスヘッドフォンアンプであるROCの8掛けという意味でしょう。($700+$700の中身で$850くらいの価格ということです)
そういう点ではコンピューターオーディオ+ヘッドフォンという流れにもうまくマッチします。
またAudio-gdの特徴として中でACSS(Audio-gd Current Signal System)という電流方式の信号伝達を使っています(ふつうオーディオ機器は電圧変化を信号とします)。NFB10はDACとしては外部へは普通のアナログ出力(RCA+XLR)でもACSSでも出せます。ACSSは同じAudio-gdのアンプ同士でのみ使えます。名称のNFBというのはこのACSSの出力回路がノンフィードバックデザインだから、ということのようです。従来の回路ではノンフィードバックだとあまりSNを改善できませんが、ACSSなら音のよさもSNも両立できるというのがAudio-gdの主張のようです。
DACチップは電流で信号が出るものなので、DAC+アンプのパッケージで電流駆動というのは的を得ているかもしれません。
やはりDACとアンプを結線するケーブル不要ということもあり、DAC+アンプの一体型パッケージというのはいろいろと魅力があると思います。
*ラインナップ
Audio-gdって製品ラインナップが多いことでも知られていますが、NFB10にはNFB10ESとNFB10WMという大きく二つのバージョンがあります。
NFB10ESはDACチップにESSのES9018(Sabre32)を使ったもので、WMはWolfsonのWM8741を二基使用しています。
ESとWMの差は音質とUSBの相性があげられます。ESSの方が分析的で、Wolfsonの方が音楽的というのが音質的な差異です。また現在Audio-gd製品ではSabre32とTenor USBチップの間でタイミングの問題が発生していて、これの解決にがんばっているところですが、これはSabre32独特の問題が要因のようで、Wolfsonの方では発生しないようです。そのため、USB入力を使う人のためにはWM版が薦められているようです。(ただES版でも近いうちに対策ができたボードができるはずです)
このため、ES版ではさらにUSB入力がない代わりに、BNC端子のSPDIFが追加されたNon-USB版というのが用意されています。これが私が今回買ったものです。価格は同じですが、聞いてみたところパーツコストを考えるとほとんど等価交換だということでした。
ご存知のように私はAudiophilleoとかHalide Bridgeのように優れたUSB-DDCがいくつもあるので、USBよりもAudiophilleoのためにBNCをつけたモデルのほうが得と考えたわけです。
つまりNon-USB版では入力切替でRCAとBNCの二つのSPDIF入力を切り替えられます。これはこれでおもしろい実験ができそうです。また、WMではさらに96kと192kバージョンがあります。これもスペックというより音質的な差異があるとのことです。
いまは前機種(ROC)のシャーシを流用しているからか、10%オフということでやや安くなっています($850のところを$765です)。送料と手数料込みで$850くらいでした。
*セイバー・インサイド
今回のメインはやはり流行のSabre32(ESS9018)を使ってみたいということがあります。このSabre(セーバー)チップの特徴はCAフォーラムのこの辺に良いまとめがあります。
http://www.computeraudiophile.com/content/ES9018-vs-PCM1704UK
SabreはデルタシグマのDAチップで、特徴は8chのDACを内蔵しているということと、DA変換に必要な周辺チップまで一体化された統合チップであるということです。たとえばSPDIFレシーバーとかデジタルフィルターなどもチップに内蔵されているようです。さらにDAチップというとふつう電流出力ですが、Sabreはチップから電圧出力が出来るようです。これでDACの鬼門であるI/V変換回路を省略できます。
DACという機材は単にDA変換を行うチップだけではなく、SPDIF入力のレシーバーとか、デジタルフィルター、あるいはI/V変換回路など周辺が必要です。さらに性能を高めるためにDAチップを2個とか4個(8ch)とか重ねてSNを稼ぐわけですが、Sabreならこれらの周辺回路を含めてなんとワンチップですべてカバーできDACが作れてしまうというわけです。
つまりはPCM1704なんかは音はいいだろうけど、I/Vでかなり気合の入った回路が必要になり、周辺まで含めると複雑でかなり手間がかかった高価なものになってしまいます。それがSabreでは不要ということになります。またPCM1704だとDAチップを4つとか8つ使って性能を高めるなんていうのも、8chのSabreならたった一個で済みます。NFB10WMだとWolfsonチップが2個ついてきますが、そもそもSabreならステレオDAチップ4個分あるわけだから、一個でそれ以上のことをしているわけです。
性能というよりもむしろその辺が新時代のDAチップたるゆえんです。これは最近のCPUがグラフィックまで統合されワンチップ化するトレンドがあるのにも似ているのが興味深いところです。
Sabre32はPure Music プレーヤーのintegerサポートのところでも触れましたが、その32ビット版になります。この辺もいろいろと試してみて行きたいですね。
*インプレッション
到着してみると思ったよりも大きくて重いのにまず驚きました。だいたいDigital LinkIIIよりも大きいくらいに思います。
仕上げはわりときれいに思います。パネルのロゴはROCと記されています。前面にはシングルエンドヘッドフォン端子ひとつとバランスヘッドフォン(4ピンXLR)がひとつ、ヘッドフォンアンプとDAC出力の切り替えスイッチ、ボリュームがついています。ボリュームはまわすとカチカチ音立てるので、なんかのエンコーダーが入っているかもしれません。
背面にはゲイン切り替え(low=0dB, Hi=+16db)がついていて、わたしのはnon-USBなのでBNC, RCA, 光のデジタル入力(アナログ入力はない)と、L/R一対のRCA,XLA,ACSSのアナログ出力端子があります。
Win7とFoobar、HQ Playerまた、MacからPure MusicやAmarra、Audrvanaなど一通りいろいろ使って聴きました。PC/MacからはUSBでAudiophilleo1でNFB10のBNCにつなぎます。まずは単体のDAC+ヘッドフォンアンプとして聴きます。
音はいわゆるニュートラルフラットで、かなり色付が少ないようです。わざわざES9018版は分析的なので音楽的に聞きたい人はWolfson版を買ってくださいと断っているように、かなりそうした傾向はあります。コンデンサーレスのアンプにあるようなかなり着色を廃した音で、ともすると無機的になりがちだけど、あまりそうは感じられないのはパーツなどをはじめとして品質が高いので音にほどよく厚みがあるせいかもしれません。
分析的というより顕微鏡的という感じですが、弱小音から強音への遷移が驚くほどスムーズで、細かい質感がレンズを通して見るように鮮明です。また、感じるのはスピードとか音のトランジェントが恐ろしく速く、インパクトのキレが鋭角に立つ感じがします。なにか鋭利なものが垂直に振り降ろされる感じですね。余分な音がないので歯切れのよさも感じられます。タッドの良録音のMAのnamaのパーカッションの連打なんかはありえない世界になってます。
ただしこんな音がキリッと鋭角に立ってるのに音の痛さがないのは色んな意味でさきに書いたように品質が良いと思います。たとえば、うるさいロックを聴いても意外ときつさが少なく、音の重なりが明確なので、複雑でも整理されているという感じがします。
また、SNが高いので空間の静かさや深みも上の音の歯切れよさに貢献していると思います。
ただしヘッドフォンの相性があるのをちょっと感じます。edition10とLCD2はややあわない気がします。またHE6だと4ピンバランスが使えるのでこれはけっこう良いのですが、ハイゲインで3-4時くらいになってしまいゲイン足りない感があります。たぶんHE6の音量をとるには20dB以上くらいは必要になるように思います。
よく合うのはHD800です。ワイド・フラット・ハイスピードというHD800の個性とぴったり合うし、NFB10の性格をうまく引き出すように思います。シングルエンドで使っても音の広さは十分にあるように思います。
HD800+NFB10の真価はHRx 176kHzの試聴で発揮できました。
HRxの176kHz品質のYoung person's guide to King Crimson、じゃなくYoung person's guide to the Orchestra(ブリテンの青少年のための管弦楽入門)を聴くとただ圧倒され、すごすぎて思わず笑ってしまいました。冒頭でオーケストラが全力をあげるダンダンダンダーンというトゥッティの圧倒的な迫力、続いて管楽器の楽しさを感じさせる細かい音の表現、静かな弦楽器の音の繊細さ、このすごいダイナミックレンジの広さ、深みのある音世界がただ感動的です。これこそまさにハイレゾ・ハイサンプリングという感じ。この「青少年のための管弦楽入門」にはその名の通りにオーケストラの魅力がすべて詰まっていますが、これを聴くとクラシックファンはたまらないでしょう。やっぱり176/24ってすごい世界だと思う。
この辺は分析的だからつまらないというのとはまったく違い、分析的だから音楽演奏の機微を巧みに聴かせるという良い面が伝わります。ミュージシャンがアナリーゼして曲を解釈するように、分析的に音楽の構造を再現するというところにNFB10ESの魅力が一番出てるかもしれません。
*このアルバムはグラミー賞候補になっているそうです。試聴はこちらで。
http://referencerecordings.com/HRx120_DETAIL.asp
DACとしての力を見るため、バランスでキンバーのKCAG、XLRケーブルでHeadroom desktopに繋いだんですが、DACとして使うとわかるけれども、上記のコメントで音を支配してるのはDACの音と思えます。Headroom desktopの内蔵DACはシーラスのCS4398で、Wolfsonに比べればそんなに甘口ではないと思うけどES9018の音はちょっと際立ってます。これはKCAGが銀ベースというのもあるとは思います。
ただDACとして使い外部のヘッドフォンアンプを使うよりもNFB10のヘッドフォンアンプを介したほうがまとまっているようには思う。シャープで分析的というのはDACの印象で、アンプ部分はずいぶんそれを和らげているようにも思います。
スピーカーではまだ使っていないけれども、ちょっとアンプを選ぶかもしれません。わたしはES9018ありきで買ってけれども、こだわりがなければWolfsonで買うのもありかも。
いずれにせよ$800前後という価格のものではないと思いますので、満足感は高いでしょう。ただ音の好みはあると思いますので、注意ください。
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