以前HE5LEという平面駆動型のヘッドフォンを紹介しましたが、このHE6はその上位機種となります。価格も上(米国価格$1200)ですが、性能はそれ以上に上がっているようにも思えます。これちょっと期待以上で驚きました。
http://www.head-direct.com/product_detail.php?p=92
最近edition10とかChroma MD1とか軽いヘッドフォンがひとつの流行ではありますが、HE6はがっしりとして重めの本格的なモデルであるということを感じさせます。作りはとてもよく、edition8のような鏡面仕上げも高級感があります。
ケーブルはHE5LEと同じコネクタ式で途中にK1000タイプの4ピンキヤノンXLRをかませてシングルエンドの標準プラグにつながります。ケーブルははじめからリケーブルしているような品質のよさそうなもので、HE5LEのときは音質傾向の違うケーブルを二点同梱するなど迷いが多少ありましたが、これははじめから文句のない良いものがついているという感じです。
もし途中のキヤノンプラグがあまり好ましくないときには、Moon AudioでもとからXLR二個バランスに変換するケーブルが販売されています。
http://www.moon-audio.com/HiFiman.htm
自作する人にはこちらに(HE5ですが)サードウェーブさんの解説ページもあります。
http://www.twctokyo.co.jp/hifiman/balance%20drive.pdf
Audio-gdなんかもバランスヘッドフォンはこの4ピンキャノンx1を使っていますが、中国オーディオ界の標準なんでしょうか。前にも書きましたが、バランスヘッドフォンでXLR二個になっているのはバランスヘッドフォンアンプが元々物理的に二つアンプが分かれていたときの名残です。(そのときははっきりとBTL構成のようなものだったわけです)
HE6の特徴はまずなんといっても能率が異常に低いということです。K1000以降ではこれが一番鳴らしにくいヘッドフォンだと思います。
普通は鳴らしにくいといってもたいていはiPodなんかでもフルボリュームにすると普通聴くくらいにボリュームを取ることはできますが、HE6ではまったく音量が取れません。ためしにあるポータブルアンプを使ってみたらクリップしてしまいました。あわてて音量を下げましたが少し驚きました。
つまり高性能のヘッドフォンアンプが必須です。
試聴したシステムはWin7からFoobarまたはHQ Playerを主に使い、USB経由でAudiophilleo1からHeadroom desktopのDAC/Ampにつないで使いました。
まず驚くのはいままでHeadroom Desktopってゲイン過剰かとも思っていて、HD800でさえボリュームが取れすぎるくらいだったんですけど、HE6を使うとハイゲインにしてボリューム12時前後でちょうど良いくらいという振り切り状態にびっくりします。高音質盤のノーマライズしてないタイプのレベル低めの録音だと1-2時くらいになります。HE6はスピーカーアンプ使う人もいるようで、ここでK1000端子だとK1000用のスピーカーケーブルが使えるという利点があります。
一方で鳴らしにくく発音体が動きにくいということは、いったん動かすともとにすばやく戻りやすいということですから、鳴らせる力をもったアンプを使うと端正で正確な音が出せるということにもなります。強いバネをもって引っ張り、パッと離すようなものです。
また不要な雑音程度では動かないわけですから、ノイズフロアも低くなるので背景もすっきりと黒くなるでしょう。HE6ではそれがよく音に反映されていると思います。
実際に聴いて見るとまず音が早くてシャープで切れが良く緻密です。比べるとLCD2が少し甘めに感じくらいです。良い点は、それでいてハイの痛さがなく、逆に音が豊かで厚みがある点です。弦楽器の響きが豊かで倍音をたっぷり含んでいる感じがします。またヴォーカルも肉質感豊かで滑らかに気持ちよく描かれます。
背景も深く漆黒で音像の重なりも立体的です。かつ空間が広く、ゆったりとした余裕とスケール感を感じます。低域は深くて量感を感じ、たっぷり空気が動く感じがします。それでいて帯域的なバランスもよく、不自然な強調感はありません。
オーディオベーシックの低域テストの意図的にローカットしたテストファイルでは、いままでで一番ローカットのあるなしの差がわかる気がします。
端的に言ってHE6は音楽的でいて、かつHiFiであるという点を高い次元で両立しているところがすばらしいと感じます。音が軽くなく重みがあるし、楽器の音がタイトでスピードがありインパクトがあるのでロックもかっこいいですね。もちろんオーケストラのスケール感もあり、広いジャンルに適合すると思います。
全体的なレベルはハイエンドヘッドフォンと呼ばれる中でもかなり上でしょう。HE5LEからもずいぶん向上を感じます。ケーブルの質もよいですね。すばらしい仕上がりのヘッドフォンです。
実際にあんまり文句をつけるところがないという感じです、良いアンプがあれば。
HE6は私がこういうものを作ってほしいと考えていたものを作ってくれたヘッドフォンです。それは能率が低くてきちんとしたアンプなしでは鳴らせないけれども、きちんとしたアンプがあれば、あたかもそれと有機的に一体となってすばらしい音を作り上げる、というものです。
しかし、多くのメーカーはあいかわらず32オームとか、一般に広く売れるところに固執しています。
Head-Direct/HifiManブランドってたとえばPK1のようにイヤフォンのくせにiPodではならせないでポータブルアンプが必須である、しかしアンプとあわせるとすばらしい、というような製品を前にも出しています。また最近のHM801ではポータブルのわりにはかさばるのに、中身はハイエンドCDPなみのDACチップであるPCM1704を搭載してアンプ交換式、などのまさにマニア向けのものを作ってくれます。
Head-Direct/HifiManブランドの良さはそうした「一般人には理解されなくとも、オーディオマニアがいままで欲しかったもの」を作ってくれるところです。HE6もそうです。
音はすばらしいのですが、きちんとしたヘッドフォンアンプがない人には残念ながらお勧めできません。もしきちんとしたヘッドフォンアンプをもっている人であれば、20万円出しても安いと思います。
わたしもいまのHeadroomがHE6を鳴らしきっているとは思いません。いままでHeadroom Desktopを変えてなかったのは上のような背景があって、結局どこもそうしたヘッドフォンを作らないならDesktop balancedで十分、となめて考えていたからだと自分でも思います。いまHE6のおかげでひさびさにまたアンプの方にも燃えてきました。さて、、
Music TO GO!
2010年11月29日
この記事へのトラックバック