Music TO GO!

2010年10月06日

オーディオファイル向けミュージックプレーヤー(9) HQ Player

今回紹介するのはその名もHQ playerというミュージックプレーヤーです。Vistaと7に対応していて、WASAPIの排他モードもサポートしています。

hqp1.gif

Signalystという会社がやっているようで、ホームページはこちらです。ダウンロードは一番下にリンクがあります。有料のソフトですが、お試し期間があります。
http://www.signalyst.com/consumer.html
CAフォーラムでは下記スレッドがHQ Palyerに関するものです。
http://www.computeraudiophile.com/content/Audiophile-player-HQPlayer

*HQ Playerの特徴

1. 詳細な信号処理オプション

HQ Playerの大きな特徴は普通DAC側でやるデジタルフィルターなどの信号処理をプレーヤー側で行うと言うことです。
これには理由が書いてあります。多くの普及価格のDACでは高いサンプリングレートを受けられるにもかかわらず、デジタルフィルターとかアナログフィルターの性能は二の次になっているものが多くあります。それで生じるartifacts(意図しない副産物)を避けるために、はじめからソフトウエア側で綺麗にしてしまおうというものです。
普通ハードでやるものをソフトで行うという点でPure Vinylをちょっと想起します。
そのためにかつてないくらいの豊富な信号処理のオプションがあって、ユーザーが任意に組み合わせられます。また、処理のタイプによっては組み合わせがあるので、ある処理の組み合わせについては取りうるサンプリングレートが限定されるという制限もまたあります。

ちょっと難しいプレーヤーソフトではありますが、XXHighendなどよりはソフトウエアとしての完成度も高くそれなりに使えて、デフォルトの信号処理の組み合わせでもかなり良い音を出してくれます。ただしプレイリストがないなど、欠点もあります。

2. 専用機への考慮

また、昨年紹介したcMP2にも近く、foobarのような普通のデスクトップ型の操作画面のほかに、cPlayなどのような組み込み型(embeded)の大型画面も別に用意されています。この二つは別のアプリケーションです。

hqp.gif
embededタイプ(組み込み型)の画面

それとルームアコースティックを考慮したイコライザー(convolution)があり、実際にスピーカーの距離をcm単位で入力して計算に反映させるなど、本格的なリビング用途も考慮されています。そうした点ではHTPC向けともいえます。embededタイプでは主にASIOを使うというのは内蔵サウンドカードを意識しているのでしょう。それとCDDA対応もあるので、この用途に都合よいように思います。

3. DSD対応

もうひとつの特徴はDSD対応です。これについては別の記事にして書きたいと思います。

ここからは少し詳細に中を見て行きます。

*信号処理オプション

トラック表示・時間表示の下のオプションメニューはデスクトップ画面で言うとそれぞれ左から、(1)リサンプリング時に利かせるデジタルフィルター設定、(2)Word長(リゾリューション)変換時のノイズシェービング・フィルター設定、(3)リサンプリングレート設定、(4)イコライザー(convolution)のオンオフとなっています。
もう少し簡単に言うと(1)はサンプリングレートを変えるときの変換設定、(2)はビット幅を変えるときの変換オプションともいえます。ただし後で書くように(1)と(2)は関係がある場合もあります。

設定は再生中に変更できるものとできないものがありますので注意してください。

(1)はつまりは44.1を88.2とか176.4に変換するときのリサンプリンに関するフィルタ設定で、これはサンプリングでの折り返しノイズに対する対応ということになるのでしょう。マニュアルには書いてありますが、フィルターによる特性もいろいろとあります。代表的なデジタルフィルターであるFIRはホール録音されたクラシックが良いとか、AsymFIRはアコースティック楽器によいのでジャズが良いとか、minphaseFIRはきつさのあるロックPOPに良いとか、マニュアルにはそれなりに分かりやすく適用例が書いてあります。
作者的にはpoly-sincの派生した系統がおすすめとのこと。

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わたしは生ギターの音を聴きながらいろいろ変えてもみましたが、デフォルトのpoly-sinc - TPDFの組み合わせでかなり満足できます。poly-sic - shapedも生楽器にはよいかもしれません。
たしかに「松脂が飛ぶリアルな感じ」はいままでで一番かもしれません。ただ良録音の自然なアコースティック楽器には良いけれども、コンプレッサーやデジタル処理が満載されたロックやポップに使うとややエッジがきつめになったりするので、ここは好みの問題と聴く音楽でいろいろと可変させるというのが良いと思います。
実際にJRMC15とも聞き比べてみましたが、チェロやギターなど生楽器の生っぽさ、リアルさはHQ Playerが勝っているように思います。

(2)は24bitを16bitに変換したりするときのワード長(リゾリューション)変換に対してのフィルター設定です。これはつまりは量子化ノイズに対しての処理ということになります。
TPDFが一番一般的に使われているのでこれがデフォルトだそうです。標準的に24bitが再生できるDACならばRPDF(簡易計算)でも良いけれども、他のNS(ノイズシェービング)になるとやや複雑です。

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ここは再生サンプリングレートとも関係していて、たとえばNS1だと計算エラー(ノイズ)が主に高周波にいくので192/176での再生サンプリングレートに適しているなどです。
ノイズシェーピングはノイズを除去するのではなく、高い方に追いやることなので、高い方にいったノイズをオーバーサンプリングとフィルターで除去してやるという合わせ技が必要です。そのためノイズシェーピング自体はオーバーサンプリング(アップサンプリング)と切り離せない関係にもなっているようです
なんか書いてるとソフトウエアというよりDACとかハードの解説してるみたいですが、これもPure Vinylのところで書いたようにハードの代替わりとしてソフトを使うという応用ともいえますね。

(3)はリサンプリング設定でアップサンプリングしたいサンプリングレートに設定します。これはfoobarでもなんでもあるのでおなじみに見えますが、HQ Player独自なのはさきのフィルターの設定によっては選べないサンプリングレートもあることです。

(4)はconvolution設定を適用するかどうかのオンオフスイッチです。
HQ Playerはスピーカーとルームアコースティックのためのイコライジングを行うConvolution engineというのを搭載していて、このconvolution設定はパネル上でオンオフできます。convolution(コンボリューション)については下記Wikiの音響学のところに記載がありますが、ルームアコースティックのエコーの補正みたいなものでしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/畳み込み

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またマルチチャンネルの設定ではなんと実際にスピーカーまでの距離を入力するダイアログが出てきます。

ボリュームもついていますが、わざわざ音量調整には使わないでくださいと書いてあります。これはデジタルでボリュームを変えると余分な計算処理が入って丸め誤差が出たりするからです。つまりビットパーフェクトになりません。そのためハード側で調整できないときのアッテネーターのような補正手段ということです。

出力はASIOとWASAPIのみです。end pointというのは前にも書きましたが出力デバイスのことです。
マニュアルでは組み込み型はASIOのみ、デスクトップ型はWASAPIも対応とありますが、実際は組み込み型でもWASAPI対応しているのではないかと思います。最新版では出力設定画面がマニュアルと異なっていてここは不明なところです。

*再生できるフォーマット

再生できる楽曲ファイルのフォーマットもちょっと他とはいろいろな点で異なっています。

まずCDDA(音楽CD)を直接読むことができます。CDDAはISO9660などとは違ってコンピューターがファイルシステムとして認識できるCDフォーマットではないので、リッピング機能のないソフトがCDDAをサポートしているというのは面白いところです。
これはHQ Playerが組み込み型のHTPCなどでの用途を考えられているので、内蔵CDドライブでCDプレーヤーみたいに使うことを想定しているからだと思います。もちろんHTPCでなくても使えます。そのため通常のプレーヤーソフトならライブラリの設定をするところでCDドライブもソースとして設定できるところが特徴的です。
通常のプレーヤーでファイル選択やプレイリストを読み込み設定するところはtransportと称していますが、CDドライブも一元管理するためと思われます。

DSDが再生できるのがポイントの一つですが、ここは別にDSDネタとして独立した記事にしたいと思います。

また、サポートファイル一覧のところでWAVをRIFFと称していますが、ここも説明が必要でしょう。
とても一般的なWAVファイルですが、AIFFとかDSDIFFのような本来のファイルフォーマットではRIFFという形式になります。RIFFファイル形式にWave形式の音声データが入っているものを通称WAVファイルと呼んでいるわけです。ファイルフォーマットは入れ物のことなので、その中身はいろいろつめられます。そのため動画のAVIなんかもRIFF形式のひとつです。
この辺は画像のJPGも同じで、実際はJPGファイルではなくJFIFというファイルフォーマットにJPGという圧縮形式のデータが詰まったものです。なぜかというと画像データだけではなく縦横サイズとか色空間の情報も含まれねばなりませんので、その並びを決めたものがJFIF、中身の圧縮方式(CODEC)がJPGです。
RIFFとAIFFの違いはバイトオーダーです。ビッグエンディアン(上位・下位の並び)であるか、リトルエンディアン(下位・上位の並び)であるかということになります。例えば16bitのABCDはリトルエンディアンではCDABとなります。もっと簡単に言うと、インテルチップ向け(マイクロソフト向け=RIFF)か、モトローラチップ向け(アップル向け=AIFF)か、という違いです。
とはいえ普通は画像のTIFFとか、UNICODEのUTF16なんかでもバイトオーダーの違いはBOMという先頭データで吸収していますが、なぜに音声形式はRIFFとAIFFに分かれるのかはよく分かりません。たぶんマイクロソフトとアップルの仲が悪かった頃の名残だと思います。

*絵で見るアップサンプリング

このSignalystのページで面白いのは、デジタルオーディオ処理の効果の説明を画像で見せていると言うことです。なんとなく作例はいい加減なように見えますが、モワレが出やすい素材を選んでます。
http://www.signalyst.com/upsampling.html
前にも書きましたが、デジタル記録と言う点で画像処理とオーディオ処理は似ています。例えばオリジナルの192/24のスタジオマスターが44/16のCDに対して画像サイズが大きいと言うのは、1600万画素のデジカメと400万画素のデジカメの差に似ています。
また、NOSの説明の所でアーチファクト(画像処理による副作用みたいなもの)を出してますが、これ私もHM602での説明でオーバーサンプリングをデジカメ画像で例えた時に説明で同じことを考えていました。ただ言葉で説明しても分かりにくいので書くのを止めたんですが、こう見るとたしかによく分かります。filterless NOSとwith filterの違いはデジカメやってる人はローパスフィルターのありなしでこういうのを見たことがあるかもしれません。
最後ではオリジナルの192/24には及びませんが、4倍のアップサンプリングでわりかし近い所に持っていけるのがわかると思いますし、アップサンプリングとデジタル処理の効果が分かるでしょう。また、それでもオリジナルには及ばないのが分かりますので、アップサンプリングよりもやはり192/24のマスターデータでダウンロードした方がよいというのが分かります。

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HQ Playerは設定がむずかしいので、単純に音を楽しみたい人はJRMCみたいなものがよいかもしれません。ただ微妙な細かいところの音にこだわりたい人にはHQ Playerは面白いと思います。自然にして繊細でリアルな生楽器の再現はちょっと魅力的です。

しかしJRMCみたいにWindowsも有料のソフトが増えてきましたね。それだけミュージックプレーヤーが本格的にコンピューターオーディオの核の製品として真面目に捉えられてきたということでしょうか。
posted by ささき at 23:30 | TrackBack(0) | __→ PCオーディオ・ソフト編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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