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2010年08月28日

HifiMan HM-602 NOS DAC搭載の高性能ポータブルプレイヤー

人気のHifiMan HM801の弟分ともいえるHM-602がいよいよ9月に発売されます。
わたしはHead Directから評価用モデルを送ってもらいました。下記の記事はそのモデルによるものです。

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こちらはサードウェーブさんの製品ページです。
http://www.twctokyo.co.jp/hifiman/HiFiMAN2.html

ひとことでいうとHM602はHM801に比べて一回り小さく、価格も抑えられたモデルです。
しかし単にHM801の弟分というだけではなく、HM602は独自の特徴を持っています。それはNOS DACの搭載です。
NOS DACとはノンオーバーサンプリング・DACのことです。HM-602で使用されているTDA1543というDACチップは実はもう生産されていないのですが、このNOS DACを製作するために使われた代表的なDACチップです。それをわざと使用してNOSというところにこだわったわけです。ちなみにHead Directでは全数検査をして品質を確保しています。

*DACのオーバーサンプリングとは

さて、ノンオーバーサンプリングを説明するにはオーバーサンプリングを説明しなければなりません。
オーバーサンプリングとはサンプリング周波数をさらに高く分割するものです。しかし、いわゆるリサンプリングやアップサンプリングとは違います。
リサンプリングやアップサンプリングはDACに入れる前(トランスポートから出すとき)にオリジナルのサンプリング周波数を44.1->88.2のように高めて音を良くしようとするものです。そのために中間補完とかも使うでしょう。
それに対してオーバーサンプリングはDACの中でアナログフィルター(ローパスフィルター)の効率を高めるための工夫です。ローパスフィルターとは最近はデジカメでよく聞くでしょう。デジタルカメラもデジタルオーディオもサンプリングをしてデジタル記録をするという点で、原理的に折り返し(エイリアシング)の問題から逃げることはできません。そのために折り返しの影響を受けるナイキスト周波数(1/2fs)より高い周波数を取り除くローパス(低い周波数だけを通す)フィルターが必要です。これは音楽でも写真でもデジタル記録であれば同じです。
ここのfig3が分かりやすい図式です。ちょっと難しくなりますが、オーバーサンプリングのポイントはサンプリング周波数を上げることで、ナイキスト周波数をシフトすることが出来るというところです。つまりローパスフィルターで図の左にある中身の音楽データに傷をつけずに取り出したいのが目的ですが、あまりデータが真ん中(ナイキスト周波数)ぎりぎりだと取出しが難しいのですが、オーバーサンプリングして周波数を高めるとナイキスト周波数がシフトして余白が多くなり、取り出しやすくなるのがわかると思います。
つまりオーバーサンプリングすることでアナログ回路で構成されるローパスフィルターの設計を簡易化できるのです。

*ノンオーバーサンプリングとは

しかし、こういう細工をすることで音質が劣化すると考える人たちもいます。基本的にデータに細工をしすぎる問題であるとか、また折り返しの影響を受けるとされる高い周波数が本当に意味がないのかという考え方もあります。そこを取ることで本来聴こえるべきものがなくなるのではないかということです。あるものはそのままにという純粋主義的な考えですね。(むこうではピュアリスト・アプローチといいます)
さらにジッターは周波数の時間方向に対しての揺らぎですから、周波数を細かく刻むとより多くのサンプルがジッターの影響を受けるようになります。
オーバーサンプリングとノンオーバーサンプリングのどちらがいいというのはよくネットで炎上するテーマのひとつなのであまり踏み込みませんけど、多くの人がノンオーバーサンプリングの音を好んで特にカスタムビルダーがよく使います。
メーカー品ではノンオーバーサンプリングというのはほとんどありません。ひとつの理由はスペック上の値はオーバーサンプリングのほうが容易に上げられるからです。それよりも聴覚上の音の良さを取るというのがノンオーバーサンプリングの考え方といえると思います。また素材を生かす料理に手間がかかるようにノンオーバーサンプリングもなかなか製作は難しいそうです。
普通にオーバーサンプリングを使えば失敗せずにそこそこ良いものは作れるわけですから、そこにこだわりを見せるところはポータブルプレーヤーにハイエンドDACチップのPCM1704を持ち込んだHead Direct/HifiManらしいといえます。

*HM801とHM602

単にアンプ前段のオペアンプが同じだから改良HM801とHM602が同じかというとこのようにDAC部分では別物の考え形、コンセプトで作られているわけです。
HM801はマークレビンソンのDACでも採用されていた様なハイエンドのDAチップであるPCM1704を使用して、ハイエンドオーディオ的なアプローチをポータブルオーディオに持ち込むことで良い音を追求し、HM602はDAチップにTDA1543を使用してノンオーバーサンプリングというハイエンドオーディオとはまた別な自作マニアが作るカスタムビルドのオーディオマニア的なアプローチをポータブルオーディオに持ち込むことで良い音を目指していると言えます。

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ちなみにHM-602では24bitは再生出来るけれどもTDA1543自体が16bitなので、互換性がある程度に考えておいたほうが良いと思います。この辺でも違いは出てきます。
またHM801ではアンプモジュールが差し替えられますが、コンパクトさ優先の602ではそれが固定で、代わりにゲイン切り替えがあります。アンプ自体は801の標準モジュールに近いものということです。IEMの相性はわたしはJH13が良いと思いました。使っていると熱くなるところは同じで、まじめにA級増幅仕事をしているという感じです。
602で改良された点も多々あって、まずチャージャーがコンパクトになりました。初版の801を持っていた私にしてみるとちょっと驚きです。

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キーは普通の十字キーとなることでわかりやすくなりました。ちょっとタッチは軽めなのでロックはしておいたほうが良いでしょう。厚みはちょっとありますが、本体はだいぶ軽く感じます。
スクリーン周りはほとんど同じでメニューも同じです。801で使用していたSDカードがそのまま使えます。

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なお機能はかなり引き継いでいて、USB DACとしても使えますし、各種入出力も801に似ていますね。それをコンパクトな筐体に入れ込んでいます。正面のボタンは上から電源ボタン、キーロックボタン、DAP/DAC切り替えです。

*602の音質

一番重要なのはもちろん音質です。技術は音質のためにあります。
届いてからまる二日程度はもうバーンインしていますが、JH13とEdition8で聴いてみました。
HM801と比べるとぱっと聴きの音質は近くて上質な感じは共通しています。帯域バランスは自然で、音表現はクリアで明瞭感は改良型の801に近いように思えます。
低域もタイトでドラムスのインパクトもよいし、ひとつひとつの音は明確でJH13で聴いてると音の細かさがはっきりわかります。もちろんドライではなく、オーディオ的なウォーム感があるのは801と共通する良い点です。性能偏重に陥らないということですね。
これを考えると602のコストパフォーマンスは高いと思います。

両者の差は細かく聴くとわかります。HM801は立体感や楽器の音の重なりのコントラストが明確で、音像の緻密さに優れています。洗練された音像や空間表現もさすがにハイエンドDACです。
HM602はアコースティック楽器の音を聴くと顕著ですが、音再現がとても滑らかでスムーズです。これは届いてすぐから感じたことですので、602の個性といえるでしょう。
ヴォーカルも聴いていてとても気持ちが良い再現力を持っています。ハープの音色も絶品という感じできれいに感じられますね。空間表現も独特で音楽のリアルな空気感や雰囲気をよく伝えられます。
とにかく聴いていて気持ちのよい音で、高い音性能を兼ね備えながら味のある良い音という感じです。この辺はNOS DACの効果なのでしょう。

602は単に801のスケールダウンで価格を求めやすくしたのではない、違ったアプローチで作られたポータブルオーディオといえます。いうなれば弟といっても異母兄弟的な感じでしょうか。
801をすでにもっている方にもお勧めできるのではないかと思います。
posted by ささき at 23:32 | TrackBack(0) | __→ HiFiMan HM-901, 801 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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