一月のCESで発表されていた話題の製品のひとつ、Resolution AudioのCantataが出荷され始めているようです。
こちらがResolution AudioのCantataのページです。
http://www.resolutionaudio.com/cantata.html
これは人気のあったCDプレーヤー、Opus21の後継機ということですが、基本的にはOpus21と同じCDプレーヤー部分を中心にネットワークセンターとして拡張を図ったというもののようです。DLNAベースのホームオーディオの中核という位置づけになります。DACチップとしてPCM1704を4個搭載して音もなかなか良いようです。
Cantataは面白いことにUSB DACとしても機能します。DAコンバータとしての性能も良いなら、USB DACとしてパソコンにも使えればたしかに便利です。ただ問題はコンパクトなUSB DACならともかく、こんな外装も豪華なミュージックセンターの置く場所はリビングの真ん中だし、パソコン置き場とは異なるわけです。そこでCantataではPont Neufという興味深い解法を用意しています。Pont NeufはコンパクトなUSBデバイスです。
これは上記Cantataページの下の図を見ると分かりやすいのですが、パソコンのUSB端子にPont Neufを取り付けて、他方の口からネットワークケーブルでハブなどにつなぎます。そうすると同一ネットワーク上のCantataがなんとUSBデバイスとして認識されるというもののようです。(専用のドライバーが必要でWindowsかLinux対応です)
これは無線を介しても機能するようです。つまりは無線LANを介してとなりの部屋においてあるPCからUSB DACとしてCantataが認識されるということになります。そうだとするとちょっとすごいですね。
USB DACについて隠れた問題点は接続するパソコンとの距離です。USB接続には距離(ケーブル長さ)の限界があり、具体的には5m前後となります。
これ以上接続距離を伸ばすためにはひとつにはリピーターをかませて延長する方法とか、光を使ってメディア変換する方法があります。(この辺は別なネタなので今回省きます)
もうひとつ考えられているのがネットワークを介して距離を伸ばす方法、USB over ipと呼ばれているものです。USB over networkといったほうが分かりやすいと思います。おそらくUSB over ipはUSB orgが正式に規格しているのではなく、サードパーティー規格だと思いますが、USB接続をインターネット標準のTCP/IPネットワークを使用して距離を伸ばすものです。Pont Neufはこれを応用したと思われます。
こうしたネットワークベースのUSBを使用したと思われるのはたとえばサイレックス・テクノロジー SX-3000GBがあります。
ただしオーディオに使うときはアイソクロナスに対応していることを確認したほうがよいですし、オーディオ機器が確実に動くとは限らないようですので念のため。
Pont Neufはその点でCantataと組で開発されているので安心してシステムとして使えます。Cantataは家の中心にある存在でありながら、Pont NeufのおかげでUSB本来の距離制限を無視して書斎のPCともUSB DACとしてつなげる柔軟性を確保したわけです。
同様なホームネットワークではやはりLINNのDSシリーズがあります。
LINNはもともとホームオーディオ志向の会社ですし、Knekt(クネクト)というホームネットワークのシステムをすでに持っていました。knektはCat5ケーブルを使いますが実体はストリーミングのようなネットワーク転送ではなく、スタジオみたいにアナログ信号のバランス伝送で長距離を引き回していたようです。普通のRCAアンバランスだとあまり距離は伸びないのでこれもアナログ時代の距離を伸ばす工夫と言えるでしょうね。こちらにKnektの解説があります。
http://www.linn.co.uk/faq_knekt
それがデジタル時代のホームネットが必要と言うことでLinn DSが考えられ、前のknektはアナログ伝送のクローズ技術(proprietary)だったのでオープン技術のストリーミングを使用するDLNAを採用したと言うことでしょう。そう考えると"DS"がデジタル・ストリームの略という意味が良くわかってくると思います。
LINNの中でDSは異質な製品とも思われがちですが、LINNからみた場合にDSはクローズからオープンへとあくまで自然な進化であると思います。
しかし、それが市場に導入されたときに「これが次世代のオーディオシステム」という捉えられ方をされて、ちょっと方向が異なってきます。たとえばオープンなシステムですから本来は家にPCやNASなどを中心としたネットワークシステムがすでにあって、そこにLINN DSが入るということを想定したのに、LINN DSが特別視されたためにLINN DSを入れるためにホームネットワークを設置するといういささか主客転倒な結果になってしまってもいます。
そのため結局NASを含めてもDS関連の機器しかネットワークにつながないため、ネットワークケーブルがUSBケーブルとかデジタルケーブルと混同されてしまい、DSとPCの接続はケーブルが短いほうが良いとか、Cat6ケーブルよりCat7ケーブルの方が音がいいとか、そうした風潮を生んでしまっています。それが間違っているとは言いませんが、そのことがネットワークというものに対しての誤解を生んでしまって、コンピューターオーディオというものを混沌と分からなくさせている原因のひとつになっているのではないでしょうか。
またLINN DSにしても、短いケーブルで直結がいいならUSB DACの方が手軽で良いということになってしまい、本来の力と意義を認めてもらえないことにもなるように思えます。
USB DACとネットワークオーディオがいまのコンピューターオーディオの双璧のように思われますが、Pont Neufのような新技術はその境界をあいまいにしていきます。
新技術がどんどん出てくるので、いまあるものを整理しておかないと混沌とする一方でしょう。こうしたスタンスがいまはコンピューターオーディオには必要な気がします。
Music TO GO!
2010年08月10日
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