Music TO GO!

2010年06月27日

マイクオールドフィールド初期三部作(2010 Mix)

いまなぜかプログレ本の出版ブームで、二冊のムックの他に雑誌でもBeat Sound誌がプログレ特集を組んだりしています。

          

最近は学生など若い人がCDを買わなくなったので、大人が代わりにがんばってCDを買ってあげるはめになり、往年のバンドもそれに答えるようにがんばっています。そんな中で今年はELPが40年節目の年ということのようですね。
反面で最近新しい目立ったプログレバンドがあるかというとそういうわけではなく、お馴染みになったAnekdotenとかアニーハスラムとも共演したMagentaもまあいいんですけど、オリジナリティは今ひとつという感もあります。
そういうわけでプログレムーブメントが再度活性化してきたわけではなく、ビートルズ再発から続く復古ブームの延長なのかもしれません。

新しいものがないなら、結局古いCDを取り出して来ることになりますが、さすがに聴き飽きたという愛聴盤も数多くあると思います。そう言うものにはちょっとスパイスをかけると、また味を変えて楽しめるかもしれません。
最近マイクオールドフィールドの初期三部作が2010 Mix(チューブラーベルズは2009)ということで再発され、まんまとわたしも三つとも買わされてしまいました。私は通常版の2010/2009ミックスだけ買いましたが、他にSHM-CD仕様と最近流行の5.1chサラウンドDVDの付いたデラックス版もあります。下記リンクはデラックス版のものです。

          

聞いてみると音の曇りが取れてクリアに晴れあがる、いわゆるリマスター的な明瞭感があるのですが、それよりも聴いて行くと「あれ?こんな楽器あったっけ」という箇所が随所に出てきます。始めは新しく録音をして音を加えたのかと思ったんですが、オリジナルをよく聴き返すとそこにその音がもともと入ってるというのが分かります。
前には埋もれていたある楽器・あるトラックの音が2010年版では浮き出るようにシャープに描かれています。そのためまるで新しく音が加わったように感じられます。おそらくミキシングの調整だけで新しい録音のようにしてるようですね。

前にもリマスターしてる「チューブラーベルズ」よりも手を加えられることが少ない「ハージェストリッジ」とか「オマドーン」の方がよりはっきり気が付きます。多少重めのオマドーンよりもハージェストリッジの方がはっきりしているように思います。この辺はちょっと新しい発見があって面白いところです。

ミキシングの考え方も昔は音を混ぜるという考えだったのが、今は一つ一つ音を際立たせると言う方向に行ってるのかもしれません。結果的に複雑感が増し、豊かに聞こえます。オーディオ装置の発展というところも絡みそうです。
Dead Can DanceのSerpent's EggやイエスのFragileのようなモービル盤のオーディオファイル向けリマスターとも方向性が異なりますが、あたらしいスパイスで古い作品がまた楽しめます。

実際、これらは残して行きたい作品です。ある意味もう作られることはないでしょう。アーチストのマイクはまだまだ現役ですが、周りの時代がもう異なります。
映画音楽ともなったチューブラーベルズはあまりに有名ですが、他の二作も秀作です。ハージェストリッジはマイクのルーツ的なケルトをより志向し、オマドーンではワールドミュージック的な展開も見せ、最後にインストゥルメント多重録音で知られた彼が素朴な民謡と声で締めくくる、という本当に文句のない作品群です。当時のプログレムーブメントの中で生まれた、当時ならでは完璧な音楽作品です。
実際は三部作プラス「インカンテイションズ(呪文)」まで初期作品群としてみなせますが、ある意味インカンテイションズとかイエスの海洋地形学みたいなLP二枚組で全4曲の作品は彼らのやろうとしていたことの完成系に近いと思います。しかし、ロックであってロックでなく、本来は今なら吉松隆あたりが逆側からやろうとしていることに近いとも言えそうです。ただこれらはある意味やり過ぎだったのかもしれません。究極のロック進化型を目指していたら、あまりにもロックではなくなりすぎたという批判もあります。
そしてこれらは続くものもなく、やがてプログレや他の70年代巨大音楽産業自体が廃れていく反面でパンクやオルタナが出てきて、混沌として爆発的な80年代へと突入して行くわけです。

ただオーディオでも黄金期に最高を目指して作らた名器は素晴らしさを失うことはなく、いまでも敬愛され使われています。カメラでもライカやツアイスはそうです。時代が最高のときに最高を目指して作らた、という点でこれら三部作も残っていくでしょう。
高名な写真家のアンセルアダムスは「ネガは楽譜で、プリントは演奏」といいました。これは同じネガフィルムから、プリント技術でいかようにも表現の違う写真が作れると言うことです。
そういう意味では音楽もそうで、同じマスターからリミックスすることで色んな最終形態としてのCDが作れるということでしょう。
これからの音楽の配信形態がどうなっていくかということも大事かもしれませんが、むしろこれらの良い作品をどう残していくかということが重要なことにも思います。
posted by ささき at 20:33 | TrackBack(0) | ○ 音楽 : アルバム随想録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック