Music TO GO!

2010年04月26日

Ultimate Ears UE18 pro インプレッション

ちょっとあきましたが、Ultimate Earsの新フラッグシップ・カスタムIEM、UE18のさきの到着報告の記事の続きです。到着記事はこちらです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/142529009.html

UE18についてはこちらの本ブログのカテゴリーをご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/category/3938556-1.html

*デザインと外観について

UE18がトータル片側6基のドライバーで4Wayというのは下記のLogitecのブログによると、低域がサブウーファーとウーファーというように二つに分かれているようです。UE11のときはサブウーファーx2というのが低域側の構成だったので、少し帯域ずらしを行っているようですね。これで低域の強さと深さがUE11のように低域過多にならずに最適化されているように思います。他の中域と高域が二つずつなのはJH13と同じ理由なのでしょうね。
http://blog.logitech.com/2010/03/10/ultimate-ears-18-now-available-for-the-ue-labs/
実際のところバランスドアーマチュアというのは高価なイメージから最強のドライバかとも思われますが、そうではなく、むしろひとつずつは弱々しいもので、このように注意深くいくつものピースを組み合わせてはじめて力を出すものという気もします。

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外形的な特徴は音導孔が通常のカスタムとは違うということです。出口では二穴ですが、白いビニールチューブがふたつのユニットからまとめて導かれています。
また、ケーブルが新型に変わっています。写真では縦で編んであるケーブルがUE18のもので、それに直行しているのはJH13のケーブルです。

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同じ耳形を使ったこともありフィットは良いんですが、UE11にくらべてシェル造型の三次元的なアールは減って、他のメーカーに似た感じの普通なシェルになったような気もします。

*音の第一印象

まずぱっと聴いて感じるのは立体的に広がり軽やかな空気感が感じられる音場空間、そして楽器や声の表現が自然でリアルなこと、また期待通り低域もたっぷりありますが中域が前に来てヴォーカルの存在感が大きいことです。少し聴くとJH13に比して音色が美しく感じられてきます。

これらからニュートラルな音色でフラットな帯域特性のJH13とは異なる点が感じられます。前のUE11は音に贅肉がつくのが感じられるところがJH13に比べるとマイナスでしたが、UE18ではこの点は大きく改良されてかなり引き締まって聞こえます。ただしJH13に比べるとまだアスリートのような細身のしなやかさには及ばないように思えます。

*UE11とJH13とUE18

これらを総合して考えると、HeadfiでJudeさんが初めにコメントした"UE11 mkIII"というコメントが非常に的確で、端的に象徴されていているよう思います。ひとことでいうとJH13的に洗練され、進化したUE11というところでしょうか。
つまり音の個性や性格的にはUE11の延長上にあるけれども、UE11にあった妙な帯域バランスの悪さを改善し、JH13的に低域の強調感が薄れ、音自体も全体に引き締まった方向へと変わっています。またUE11の良さだった広がり感、空気感と柔らかさからくる音楽性、ぱっと感じる細やかさも受け継がれて向上しているように感じます。
そうした意味でMkIIよりも一歩進化したMkIIIという表現は的を得ています。「UE11の完成形」ともいえるかもしれません。もしかするとUE11はJH13にたいするJH16のように、UE10に対してライブ向けに埋もれる低域強調を図ったモデルだったのかもしれませんが、今見るとずいぶん甘さがあります。その方向がUE18で結実したということかもしれません。

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それぞれ左がUE18で右がJH13

カスタムIEMでいま自分の基準になっているのはJH13です。JH13を基準とすると、UE18はJH13をも越える部分と、JH13のようには満足できない部分があります。UE11を基準にする場合には、すべてにおいて優れていると思えます。UE11とJH13を比べた場合の欠点がかなり改善されていて、よりタイトに、バランスよくなっています。そういう意味ではかなりJH13を意識した音ですが、一方でやはりJH13まではきっちりとした音にはならずにやや膨らむところが残っています。
逆にUE11の持っていたJH13に対してのよさ、空気感や柔らかさ、暖かみ、は残っていてプラスになって音楽を楽しく聞かせてくれます。ただ能率はUE11より下がっているとも思えますが、そのせいもあってか軽やかさはUE11よりも特徴的というほどではないかもしれません。いずれにせよJH13に比べると ー あくまでJH13と比べて相対的に、ですが ー 全域緩めで、オーディオファイル向けと言う点ではやはりJH13かもしれません。

音楽を聴く機材として考えると、JH13は音楽と向き合うもの、UE18は音楽と楽しく過ごすもの、という見方もできると思います。これが設計者の意図どおりかは別として、相対的にはそう感じます。

*音の広がり

UE18のJH13に比べてよいと感じる点は立体的というか立方体的なボリューム感のある空間的な広がりと、UE11ゆずりの少し明るめの軽やかな鳴りから感じられる空気感のような雰囲気再現がうまくマッチして、すばらしい空間表現を作り出していることです。
この辺ではちょっとGrado PS1000に似たよさがあり、またヘッドホン的な感じもあるかなあと、ちょっと感じました。 (比喩的な、という意味ですが)

*再現性の細かさ、リアルさ、音色の美しさ

次にJH13との差はひとつの音、それ自体の表現の仕方、鳴り方です。
あくまでニュートラルで着色感のないJH13にくらべると、特に高いほうの音で音色が美しくかつリアルさを感じます。これはどちらが良いとはいえませんが、感性的にJH13よりも好ましく感じる点です。
音自体はJH13よりも膨らみがちではあるけれども、解像力とか細部はあるいはJH13を超えているかと思えるほどです。
はじめにUE11の到着報告の記事を書いたときに、当時一番と思ってたtriple.fi 10を聴いていてもすごいと書きましたが、今回もUE11にたいしていうとUE18はUE11を知っていてもすごいと思いますね。細かい部分の再現性とリアルな質感表現はJH13も上回るところもあると思います。
特に中域から高域にかけての鮮明さがぬきんでています。金属の擦れる音の生々しさはUE18の方が明瞭で細かく、それでいて痛さをかんじません。帯域バランスがよくなった分でヴォーカルはより前に出て、質感表現にも磨きがかかり発声や歌詞の明瞭感はずいぶん上がっていると思います。
ただ細かい表現力の差は新型ケーブルのゆえかもしれません。標準リケーブルみたいな感じでしょうか。


*アンプの組み合わせ

JH13はなにで聴いてもだいたい悪くないんですが、UE18はUE11ほどではなくてもやはり機材を選ぶように思えます。UE11のようにインピーダンスが低いからアンプの出力インピーダンスも低さ(ハイカレント)が求められるという性能的なものよりは、もっと性格的なものです。
ここまで書いてきたような性格の違いを考えると、個人的には組み合わせとしてはiMod5.5GにALO SXC、それとSR71Aの組み合わせが好ましく感じられます。特にiPod5.5GのWolfson DACの甘系のよさとサミュエルズさんアンプの暖かみが音色のよさに映えますね。それでいて音再現力はかなり高いものとなります。

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相性で言うとUE18+SR71A+iModはすばらしく、JH13+Hifiman801と同じくらいのお気に入りとなりました。(バランスのProtectorはまた別です)
前者は音楽性と音性能の高い次元での調和が美しく、後者はHiFi指向の音の冴えが気持ち良い、という感じです。UE18は自然でかつリアルな音楽体験をもたらしてくれます。自然というとニュートラルかつフラットのほうが自然という言葉にふさわしいとも思えますが、実際に感覚的に感じる自然さ、ライブ感はもっと別なものかもしれません。

iPhone直ではおそらくいままで聴いた中では一番かなと思えるくらい良いと思います。この辺は狙ってバランスを取ってるようにも思えます。
上に書いたように軽やかな空気感や細かさをiPhoneでも十分に堪能できます。低域も適度で心地良いですね。


*音楽との取り合わせ

空間表現がよくスケールが大きいのはUE11と同じで、UE18はクラシックにはとても向いているとおもいます。
村治佳織の"Viva Rodorigo"のオーケストラとのギター協奏曲なんかを聴くと、とてもぴったりしていてまたJH13との差がわかりやすい題材です。
この曲をJH13で聞くとシャープだけど細身でスケール感が足りないと感じます。UE18ではギターの音もJH13よりも軽やかでテクスチャ豊かにリアルに描き出しています。JH13はUE18に比べると音の響きの豊かさに欠けているように思えますね。UE11から引き継いでいる音の柔らかさがUE18の音を音楽的に聴きやすくしているようです。JH13は対するとドライではないけど、やや分析的で客観的かなと思わせます。
JH13と比べた低域の量感(SR71Aでの誇張も加味して)もスケール感をうまく演出しています。

一方で大西順子さんのジャズのピアノトリオなんかだと、JH13の方がシャープでかっちりとした再現で、ややUE18に比べると小ぶりに感じるけれども、スイングの小気味よさやベースのピチカートのぴしっとした切れ味などは良いですね。
UE18はこうした音楽だとやはり全体にJH13よりゆるく甘い感じは目立ちます。またジャズだとUE18(+SR71A)はちょっと低域過多かなと思わせるところはあります。

ポップ、ロックとかエレクトロニカみたいな音楽ではUE18の方がかなり向いているように思えますね。低域もたっぷり乗って、迫力とリアルさが迫ってくるように感じられ、かつ音が多くてもくっきりと分かれて整理されています。

ダイナミックさとアコースティクを兼ね備えたロドリーゴ y ガブリエーラの1111なんかは圧巻のかっこよさがあります。音がきれいで美しい、というか機器の音の美しさをよく引き出します。空気感があり雰囲気表現が良いのはUE11と同じだけど、より洗練されて演奏のかっこよさを引き出します。

*ふたたびUE18とJH13、そして

UE18は、はまると「こんな音世界はJH13にも作れない」というような離れがたいすばらしい音楽の世界を作り出します。リアルで空間表現が豊かという点で少し前に見たアバターの3Dの世界を思い出しました。ただJH13は隙なく完結してるとおもいますが、UE18は良い点もあるけど、甘さが欠点に思える点もあります。
この音でJH13のようにぴっしり締まっていると最高ではありますが、まあそれは贅沢というものかもしれません。また、おそらくそれはJH16ではないと思います。

はじめてカスタムを手にしたUE11の時はとにかく低域がすごくて、音が細かくて、音場が広くて、すごいすごいとそんな音性能に驚いただけだったけど、いまはこんな高性能機を手にしても高望みをするようになったものだと思いますね。
それだけカスタムの性能も高くなり可能性も高くなったと思います。
posted by ささき at 23:12 | TrackBack(0) | __→ UE 11, UE18 カスタムIEM | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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