Music TO GO!

2010年01月13日

風の中のマリア - 百田尚樹

最近は家でも電車でも音楽を聴くのがメインになってくると、本を読んだりする時間はちょっと減ってきました。
そこで積読がかなりの状態になってきたので本を買うというのは控えているんですが、図書館から予約してた本が借りられるようになったという連絡が来ました。人気の本なのでずいぶん待ってましたが忘れたころにやってきました。次の人もつまっているのでこれはすぐに読まねばなりません。
書名は「風の中のマリア」です。
主人公のマリアはオオスズメバチ、舞台はとある日本の山野です。これはマリアという一匹のオオスズメバチを通して、その働き蜂としての「人生」を描いた物語です。

もし今風に女性が主人公の小説なら恋に仕事に悩んで、というパターンかもしれませんが、マリアはそうしたいとまもなく、ひたすら子供たちの生活と巣の繁栄のために必死で野山を飛び続けます。
なぜならマリアは30日しか生きることはできないからです。
働き蜂は余分な乳酸を作らずに直接脂肪を燃焼できるので、人間のように筋肉疲労を起こさずに驚くほど動き回れるそうです。しかしこれは別の側面もあります。つまり実際は疲労しているのにそれを感じないということです。そのためダメージは蓄積されていって、本来一年は生きられるはずの寿命を縮めているのです。

そうして体をすり減らしてまで働くのですが、実際は30日も生きられません。戦士としての働き蜂はその過酷な戦いで一週間で1/3が死に、二週間で半分、三週間後の生存率は約一割となるそうです。
そして秋に生まれたマリアにとっては、食べ物に恵まれていた夏という季節はもう伝え聞く伝説のなかの世界でしかありません。シジミチョウのように着飾って恋にだけ生きる生き方があるのを知りながらも、今に生まれ今を戦士として与えられた仕事にひたすら生きていきます。それが力強く読むものに訴えかけてきます。

この小説が興味深いのは、ハチの生態を知るという側面もあることですが、背景にきちんとした進化論的なモデルがあることも特徴的です。
単一の女王+多数の子をうまない働き蜂というシステムは、普通の動物が父か母かの約50%の自分の遺伝子を子に残せるのに対して、75%という高い率での自分の遺伝子を残すことが可能であるということです。
これはつまり自分を犠牲にしながら、集団の存続と子どもたちのために働くという、進化論における利他的行動をモデル化した小説とも言えます。後で解説がありますが、ドーキンス的な遺伝子を中心にした進化論の考え方です。
また日本の里山から奥山での生態系もリアルに描かれています。


昆虫が主人公というと子どもの本かと思うかも知れません。しかし、ここには迷子のハチが親を探して冒険を繰り広げるというようなプロットはありません。少年と昆虫の心温まるふれあいもありません。自分の与えられた役割りを見つめ、勤めを果たして行くマリアの「人生」が克明に描かれていくだけです。
そこには弱肉強食の冷たく壮絶な世界がありますが、マリアはそれを受け入れていきます。自分のためではなく、子供たちと自分が属する組織のために。
これは大人でなければ理解できないでしょう。それがこの小説が支持されている理由だと思います。



posted by ささき at 21:09 | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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