またオーディオショウの季節となり、まず恒例のインターナショナルオーディオショウ(IAS)に3日間行ってきました。
今回Twitterでも写真付速報(銀座のランチレポート付き)をあげてきましたが、ここではまとめと全般的な感想を交えて書いていきたいと思います。
まず個人的に目を引いたものをいくつか挙げます。
写真はIXY25とiPhoneを使用しています。
今回個人的に驚いたことのひとつはFirst Wattが国内取り扱いとなったこと。エレクトリさんで扱うようです。
First Wattはもはや仙人の域に達したアンプ設計の鬼才ネルソン・パス先生の個人プロジェクトで、インディーアンプみたいなものですね。下記にホームページがあります。
http://www.firstwatt.com/default.html
普通の市販アンプではできないようなコンセプトを自分の好きなように限定品として製作するというものです。たとえばFirst Watt F1は電流出力(power current source)のアンプです。電流出力はそれなりの利点もあるんですが、普通のアンプ向けに設計されたクロスオーバーを通すと特性が狂うのでフルレンジ向けとなってしまいます。
またF3のように増幅素子にMOSFETとかではなくJFETを使用したものとか、F4のようにアンプというよりユニティゲインのバッファ(Power Buffer)というコンセプトのものもあります。F4は真空管アンプの後段につけて電流を足すために考えられているようです。F2はF1があまり扱いにくかったようなのでその改良版です。
ほとんどみな大出力が無理なコンセプトが多いんですが、First Wattはアンプははじめの1Wが重要という名言から来ているんでしょう。大出力よりはいかに1Wの質を上げるかということがパス先生の考えというわけです。
国内へはJ2とM2という新型から取り扱いがあるようです。
お願いして実際にJFETのJ2を試聴させてもらいましたが、柔らかで絹のように滑らか、かつニュートラルな音調です。かなりいい感じです。はまる人ははまる音だと思います。
First Wattはレビューサイトの6moonsでは常連のアンプですがあまりにマニアックなのでまさか国内に来るとは思いませんでした。
わたしも一時期欲しかったんですけど、基本的に現代スピーカーよりは昔風の高能率スピーカーに合いそうです。
それとLINNの好評DSシリーズでSEKRIT DS-IというプリメインアンプとDSの融合されたものが出ていました。
価格的にはSneakyに似ていますが、DS+おまけのアンプ的なSneakyよりは、DSのところを入力のみにしてよりアンプとしての性能を上げたというところでしょうか。コンセプトがより明確になったように思えます。使う方も分かりやすいと思います。IはIntegratedから来ているのでしょう。
Dクラスのようですが試聴して見るとデジタル臭さはあまりないところがLINNらしいところです。コンパクトで性能もなかなか高いようです。
ボリュームはなく、PC等のソフト操作です。背面にLAN線の端子があります。
よく光とか同軸で入力するDAC内蔵型のアンプがありますが、その光や同軸がLAN線になったという感じです。これも見方によっては新しいことです。
それとディスクプレーヤーはBoulder 1021に興味を惹かれました。これはCDから直接読むのではなく、いったんRIPしてメモリーバッファに蓄えてリクロックしてから送出するというものです。
これはどこかで聞いたコンセプトですが、うちで結構フォローしているPS AudioのPerfect Wave Transport(PWT)と同じです。そのためPWTと同様にディスクに書き込まれたハイサンプリングのWAVデータを、PCのようにいったんHDDに書き出すことなくディスクプレーヤーとして読むことができます。
たまたまブースにいたBoulderの技術者に聞いて見たところ、PWTとの違いは価格(クラス)である、と即答されました。実際1021は325万円とのことなのでPWTの10倍近くします。
1021にハードディスクはなく、バッファリングは1分30秒ということです。これは読むデータ量によります。上の画面は外部出力された1021の画面ですが、下部のバーの赤いところが現在再生中のところです。
そのさきに灰色の長方形がありますが、ここが先読みバッファに入っているところで、左の44/16のCDデータに対して右の192/24のディスクを読んでいるときは短くなるのがわかります。
音的にはシステムも違うのですが、すっきりとしてるけどPWTのようにいかにもジッターが取れましたという贅肉の全くない感じではないですね。
アクシスではWadiaのiTransportと重ねられるDAC121が出ていました。
まだ出来てないけどヘッドホンアンプをオプションで内蔵できるようです。背面にはバランス出力もあります。
また151というデジタル入力のできるプリメインアンプが用意されているようですが、これはPowerDACと称しています。これはSONYとかTACTのデジタルアンプのように直接DACがスピーカーを駆動できるというコンセプトのようです。
iTransportと言えば、昨年あったGoldmundのiTransportもどきは今年ありません。完全に消えたみたいですね。
またハイエンドへのiPodアプローチではタイムロードさんのところのIndigoもあります。これはメインはQBD76一体型のプリアンプ的なコンセプトのようですが、改造したiPodからデジタルを取り出すことができます。
今年はPCとの融合もすっかり普通に行われるようになってきました。
リンデマンのUSB DDコンバータは96/24対応で新登場です。低域に淀みがなくいい音でした。
これはUSBから高精度クロックを経て高品質のSPDIFに変換します。上の写真のようにコンポーネントの上にパソコンがちょんと乗っかる絵も当たり前になって行くかもしれません。
結局旧来のオーディオ製品のデジタルの入り口はSPDIFですから、デジタル機器をいかにオーディオの世界に融合するかは、いかにしてデジタル機器の信号をSPDIFに変換するかということにかかっていると思います。たとえばPCであればUSBからSPDIFに変換するとか、iPodであれば独自形式のデジタル転送をSPDIFにするかということですね。
もちろんUSBを直接入力させるというのも盛んで、GoldmundなんかはMythos2のような高価なDAC(というか多機能プロセッサ)にもUSBが組み込まれています。これなんかはUSB入力イコール低価格という図式を壊してくれます。
手頃なところではナスペックさんの新規に取り扱うCambridgeのDACなんかは価格も高くなくメディアで賞を受けていたりして海外の評判もかなり高いようです。
PCともあわせられるような小型コンポーネントで良かったのはデジタルドメインの小型アンプB-9です。下の写真の上に乗っている小さい方です。
これはひとつ12万5千円のステレオアンプですが、それを二台繋げてBTL(ブリッジ)として使うことができます。BTLの効果も大きいのか、試聴してみると大きい方が鳴っているって言っても信じるようなきちっとした音です。
デジタルドメインからはさすが西社長らしいというかソフトウエアも出ています。これは楽曲用のデスクトップソフトです。
上の写真の中では左手下奥のソーテックのPCトラポの画面として、
右手前のタッチパネル付きのLCDにつないで、このソフトで操作性をあげてます。楽曲ファイルの整理やジャケットの検索も出来ます。
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講演では角田さんの講演をLINNとタイムロードで拝聴してきました。
角田さんは最近はPCオーディオ関係でも知られるようになってきましたが、デジタルであってもアナログ同様に個性を楽しんで行きたいと言うことでした。
またさまざまなソースを楽しむことができましたが、この春のハイエンドショウで紹介したHYPSのはたけやま裕さんの録音にも角田さんが携わられたということで、ボンゴの録音を披露してくれました。
また92鍵モデルという低音拡張されたベーゼンドルファーを使ったドビュッシーの録音を聞くことができましたが、ベーゼンドルファーで撮った低い方から高い方へと音階だけの録音も披露してもらいなかなか興味深いものでした。こうしたソースが聴けるのもショウならではの楽しみです。からっとしたスタインウエイと重厚なベーゼンドルファーの違いもなかなかよく分かります。
ちなみに拡張鍵はピアニストが迷わないように普段は蓋してるそうです。
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ショウを見渡してみるとやはりPCの世界に寄って来ている傾向はあると思います。
これはCDに継ぐ次世代のソースがSACDのような円盤ではなく、配信データになりそうであるということですが、問題はCDやSACDのように規格化されたものではないので、その解法たるソース機材は様々なものがあるということです。
しかし、こうして新製品を見ていると、いくつかパターン分けできそうなことに気がつきました。それはコンピューターの関与度合いというスタンスです。
1. 半分コンピューター
これはコアはLinuxなどを使っていても、コンピューターとして汎用性のない専用機です。
たとえばPerfect Wave Transportとか今回のBoulder 1021などです。
このタイプはハードディスクは持っていません。
主目的は格納されたデータの再生よりはやはりディスクの再生です。
いったんメモリに格納するタイプのジッターレス再生のために従来のファームウエアの枠を超えて、ソフトウェアが肥大化したものと考えられます。たとえば1021はよく分かりませんが、PWTでいうとEACをモジュールとして実行させる必要があります。
高機能なためNASなどをつけて格納データの再生も可能となります。
2. ほとんどコンピューター
これはいわゆるPCトラポとか上に挙げたソーテックのHDCなど静音PCベースのもので、音楽専用に見せているけれども、Windowsなどを用いていて音楽用途以外も隠してるだけで汎用性が残っているものです。
これらはディスクの直接再生ではなく、格納されたデータの再生が主です。デジタルカードなどが入ってるため直接デジタルデータを供給できます。
上のようにデジタルドメインのソフトを入れられたり、応用は広いといえますが、反面でPCそのままなので手間もかかります。
3. そのままコンピューター
ノートパソコンをラックにおいたりして、そのままコンピューターを使うものです。これはUSB接続がメインでUSB DACやUSB DDコンバーターも効果的でしょう。
内部的には2と3の境はあいまいですが、運用面からはこう考えた方がすっきりとしていると思います。
4. コンピューターとは分業
これはLINN DSのようにPCやNASとはネットワークで切り離されているものです。距離的な自由度が大きく、電気的にも分離出来ます。
また機器自体はオーディオに特化して設計が可能ですので、ノイズ源であるPCをコンポーネントに組み込む必要はありません。
百花繚乱とは言えある程度のパターンはあるという感じですが、それぞれに得失がありますね。いずれにせよキーはハイサンプリングにしろ、配信にしろ、物理ディスクとは異なり、形の定まらない楽曲データの取り扱いということになりそうです。
ところで実は今回のショウでもうひとつ驚いたのはまさかの国産の300B真空管の登場。35年ぶりでの国内生産だそうです。
高槻電器というところでホームページはこちらです。
http://www.takatsuki-denki.co.jp/press_release/index.html
40年前にも製造していた会社のようです。
イギリスやアメリカでもマラードやRCAの施設を利用して再生産の動きというのがありましたが、日本でもそうした動きがあるとは驚きです。
かたやデジタル、かたや真空管というのもまたオーディオの面白いところですね。こうした多様性がある限りはオーディオ文化も安泰ですし、先がまた楽しみなことです。
Music TO GO!
2009年10月05日
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