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2009年09月15日

HiFiMan HM-801、その印象

hifiman801b.jpg

1. HiFiMan HM801とは

端的に言うとHM801は高音質のポータブル・オーディオプレーヤーです。
ただし、ここでいう高音質というのはiPodと他のDAPを比べて云々するというレベルのものではなく、まさにハイエンドオーディオに匹敵するような高音質をポータブルで実現するという野心的なプロジェクトです。

製作はHead-Directの責任者であるFangさんにより進められました。
Head-Directはうちでは何度も触れていますが、中国のヘッドホン関連のオーディオ製品を主に米国に展開しているディーラーです。こちらがホームページです。
http://www.head-direct.com/

HiFiManはこのプロジェクトの名前であると同時に、これまでのHead-Directというブランド名に代わるものです。この辺からもその意気込みが伝わりますが、HM-801はその第一弾の製品となります。

いままでポータブル環境の高音質化というと、iPodのラインアウトからケーブルを介してポータブルのヘッドホンアンプにつなぐということが一般的でした。HM801は単体のプレーヤーのみでそれらを統合してひとつの箱にまとめたものと考えるとわかりやすいかもしれません。
HM801はモジュール構成によりそれを実現しています。それに沿ってHM801の特徴を簡単に紹介します。

プレーヤー(ソース)部ではAAC/MP3/OGG/WMAの非可逆(ロスのある)の圧縮形式のほかに、高音質プレーヤーらしくWAVの非圧縮形式、そしてロスレス圧縮形式としてFLACをサポートしています。またFLACではなんと96k/24bitの高品質データ再生が可能です。この辺もいままでMP3プレーヤーとしてくくられてきたこのカテゴリの製品とは一線を画しています。ちなみに一番上の写真の液晶表示はLINNの高品質楽曲配信から購入した96/24の曲を再生しているところです。
そしてなによりプレーヤー部分の目玉はDACチップがPCM1704というハイエンドオーディオのDACに採用されている高性能チップを使用していることです。PCM1704はマークレビンソンのNo360やWadiaのシリーズ9などでも使用されています。
従来ポータブル機で音がいいといっても、たとえばiBasso D10ではWM8740というPCのサウンドカードに使われているようなDACチップです。DACチップだけが全てではないにしろ、これだけでもHM801の本気度には驚かされます。また、このDAC部分は単体として使うことが可能です。HM-801のキーのひとつはこの強力なソースコンポーネントにあるといえるでしょう。
楽曲ファイルは本体にも2GBのメモリーがありますが、SDHCカードで32GBまで増設できます。これも差し替えて何枚でも使うことができます。(わたしはちなみにSandiskのUltraIIです) 
UIはシンプルな仕様ですがカラー液晶で視認性は問題ありません。

アンプ部は取り外し可能なモジュール方式になっていて、その仕様は公開されています(下記アドレス参照)。現在標準でついてくるのは前段に15Vで動作しているOPA275と、後段はディスクリートバッファになっているようです。高いソース部の性能をディスクリート回路で十分に生かしているということですね。

電源部はリチウムポリマーの内蔵バッテリーですが、15Vもの高い電圧を得ることができます。このためにホームユースのチップ等を使えるということになり、安定動作できるチップも増えることでしょう。これも取り外しが可能でスペアバッテリーと交換できます。

入出力も豊富で、USB DACとしても使えますし、同軸デジタルケーブルから入力してDACとして使うこともできます。ただデジタル入力はミニプラグになります。ラインアウトもついているのでmini-miniケーブルを用意しておけばポータブルアンプと繋ぐこともできるでしょう。

現在は正式受注というよりは先行販売を行なっています。
定価は$750-$800となると思いますが、現在は第二次の先行販売申し込みを受けています。
価格や仕様など詳しくはこちらのHeadfiページをご覧ください。
http://www.head-fi.org/forums/f87/updated-hifiman-hm-801-portable-music-player-preorder-424053/

販売開始は遅れていましたが、今日時点で私のものを含めて3台のみ出荷されています。今後続いて出荷されていく予定ですが、しばらくは品薄となるかもしれません。


2. HM-801 Hands On

実物のHM801は横幅がやや広いものの重さは思ったより軽いという印象です。

hifiman801d.jpg     hifiman801c.gif

iHP140とD10の組み合わせと比べるとこんな感じです。右のペアが左にすっきりと統合されたという感じですね。実際にはケーブルも不要です。単体でiHP140と比べると3D CGでは右図のような感じです。手前の青がiHP140で紫がHiFiManです。厚み的にほぼ変わらず、横方向にやや広い感じです。

パッケージについては最終決定されていませんので、ちょっと省きます。わたしのものには本体のほかにチャージャーとアンプベイをはずすドライバー、そしてデジタル入力のためのRCAとミニ変換プラグが付いてきました。またポーチやクリーニングクロスも付いています。

インプレッションについてはマニュアルがまだ到着してないので、機能の詳細等はまだ分かりません。そこで箱を開けてから数時間程度の基本的な音の印象のみ書いておきます。
ヘッドホンのほうも現在ポータブル最高峰といえるEdition8とJH13で聴いてみました。

全般的な音調は精緻でかつ洗練されていてニュートラルであるという典型的なHiFi系のオーディオサウンドです。音質のレベルはもはやiPodとかDAPのレベルではありません。iPod+アンプのシステムを越え、外部DACのiHP-140+D10をも超えています。
大きめの高級DAPというよりは高級オーディオ機器が小さくなったというべきで、これは明らかに高級オーディオを感じさせる音です。
高級オーディオを感じさせるというのは、まず音が単に細かいというだけではなく質感が豊かです。研ぎ澄まされて一音、一音が明瞭というだけではなく、声や音の質感再現が豊かで滑らかです。8色のクレヨンでは表現できない微妙な中間色を24色のクレヨンなら再現が可能であるとたとえると分かるでしょうか。また、堂々とした深みのあるスケール感があります。音場が単に広いというのではなく空間表現が豊かです。
これらは例えばヴォーカリストの声のニュアンスの違いとか、楽器の音の色彩感、音色の書き分けをテクスチャ豊かに描き出します。ミクロ的にはヴォーカルのささやくような肉質感、マクロ的にはオーケストラの堂々たる迫力に圧倒されます。
単に音楽を聴くだけならばラジカセでもミニコンポでも聴けます。ハイグレードなオーディオの世界の良さはこうしたアーチストの音楽表現やサウンドエンジニアリングの妙を感じることができることです。そうして音楽の作品としての深みにひたることができます。そういう意味で高級オーディオ機器らしいというわけです。

またUE11でいつものようにヒスが聴こえるかということを試してみると、ボリュームがほとんど振り切っていてもヒスらしい背景雑音が聞こえないのに驚きます。まさに驚くほどのノイズフロアの低さです。おそらくiPodベースのシステムではiPodから流れてくるような背景ノイズのもとがほとんどないのでしょう。
これだけ背景が黒いとSN比もかなり高いことでしょう。これはかすかな細かい音が背景ノイズに埋もれずにかなりはっきり聞こえるということで、DACチップの細やかな再現を生かすことにもつながります。

UIはカラーで背景にはうっすらと波模様が見えているように階調再現が可能です。視認性は問題ありません。ただ操作等はやや直感的ではないところもあります。また機能的にもよく分からないところもありますが、この辺はマニュアルが来てから少しまた見直してみます。
楽曲ファイルはわたしはFLACを使用しています。フォルダー移動ができるのでRockbox的にフォルダーを作成してドラッグ&ドロップで曲をUSB経由で移動させます。96/24もOKなのはうれしいところですが、たまにひっかかるファイルがあるようです。もっともいまのところこれは少数で、たとえばLINNの高品質配信のファイルは問題ありません。また44/16の普通のCD品質ならまったく問題ありません。

早くからJudeさんのレビューでわかっていた出来のよさそうなソースセクションに比べると未知のアンプセクションは心配でしたが、なかなかの出来のようです。はじめはminibox-eをベースにするといっていましたが、完成品ではそれとは異なりディスクリートバッファを持っているようで、十分なカレントを確保しているようです。
音もしっかり引き締まって、Edition8でHandsのウッドベースを聴いたときは贅肉のない引き締まった音にちょっと驚きました。DACの良さもさることながら、がっしりと低域を押さえ込むのはやはりハイカレントのアンプ部が必要です。そうした意味できちんと上流の良さを生かす性能をもっていると言えるでしょう。
また再生側のヘッドホンやIEMもそれなりのレベルのものが必要になるでしょうね。

使用しているとすこし熱をもちますが、これもまじめに働いているオーディオ機器の証に思えます。その分でふんだんに電流を流しているせいか電池も長時間再生とはいきませんが、この辺はいまLCDなどの省エネ設定の組み合わせをしながらちょっと工夫しています。この辺はまさに音質第一というところです。
音質以外のところが華やかなオーディオプレーヤーは他にたくさんあります。実のところ音質というのは一番セールスポイントになりにくいところです。新機種で新しくビデオが表示できたり、新しくノイズキャンセルができたりすると新機能はすぐに違いがわかりますし、アピールとしてカタログに書きやすいところです。しかし、音質がよくなったと本来の基本的なところの向上を地味に行ってもなかなかセールスポイントには結びつきにくいでしょう。

この製作指揮をしているHead-DirectのFangさんは中国では知られたポータブルプレーヤー通のようで、実際に雑誌に記事を執筆したりしていたようです。そうしたポータブルオーディオへの情熱がこうした真のHiFiプレーヤーの登場となったのでしょう。
このブランドの今後の展開にも注目です。
posted by ささき at 00:43 | TrackBack(0) | __→ HiFiMan HM-901, 801 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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