Music TO GO!

2009年08月04日

UE11とES3X 、クロスレビュー

いままでES3XとUE11を何度も引き合いに出していましたが、きちんとしたレビューをしてなかったので、ここでクロスレビューということで両者を考えてみようと思います。
とはいえ端的にいって両方ともかなりレベルが高いカスタムイヤホンです。それに多少の優越をつけるということは難しいことです。
ですので結論をはじめに書いておくと「どちらもよいところがあるし、好みによる」となります。

これ以降はその結論以外のところが知りたいという方のために書いてみました。

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1. UE11とES3Xの違いを考える

この両者をぱっと聴くと性格的な違いがまず大きいということがわかります。
そこでまずはじめにお互いの違いを見極めてみようと、ES3X、UE11とも、D10(8397)+iHP140の組み合わせにつけて比べてみました。

それぞれ端的に言うと、
UE11は相対的に明るめで良い意味の軽さと空気感があり、精細感が高く豊かな低域を基調にしたスケール感豊かに鳴らします。
ES3Xはより立体的で明瞭感がありタイトでかつシャープです。動的なダイナミックさがあり、低域も十分にありますが支配的な低域の強さはありません。
まずこの違いがわかりやすい帯域バランスあたりから考えていくことにします。

1-1 帯域バランスの違いを考える

ES3Xはオリジナルのプロ向けES3に比べてもよりフラット化を目指したIEMであり、低域が支配的とよく指摘されるUE11とは対照的といえます。そのため、帯域的な意味でのバランス感覚はES3Xの方がよく感じられます。
UE11はTF10ほどではなくともES3Xに比べるとヴォーカルが埋もれがちです。またES3XはES3に比べれば中域はフラットとはいえ、UE11に比べると明確に浮き上がり、ES3X独特の滑舌の良さ、歯切れのよさとあいまってヴォーカルは力強く明瞭です。
しかし、低域が強いからUE11が悪いというのではありません。

1-2 低域の違いをもうすこし考える

低域はオーディオのかなめになります。
あるイベントでサブウーファーをつけはずししてバイオリンのソロを聞くという試聴をやっていました。バイオリンのソロにサブウーファーが必要とは普通思わないでしょう。しかし、実際にはバイオリンのソロであってもサブウーファーのつけはずしをすると音に違いが生じます。スーパーツィーターの逆みたいなものでしょうか。
UE11についてはスケール感の豊かさというところにサブウーファー的な強みがあるように思います。3Wayというよりもサブウーファーを備えた2+1構成と言う感じでしょうか。

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また量感のほかに重要なのは、低域の質があります。
よく言われるようにUE11の低域は豊かで支配的ですが、低域における解像力も高くコントラバスやウッドベースの音はかなり生々しく感じられます。またかなり低く沈むように感じられます。このことからUE11が単に量感だけではなく、質も充実した低域を持っていることが分かります。

UE11の低域で問題になるのはコントロールの甘さから来る緩さにあると思えます。これは量とかバランスではなくインピーダンスの低さから来ていると思います。
ES3Xの低域は量感に関してはこうした比較をするときはUE11に比較すると相対的に控えめのようにも感じられますが、ES3Xだけで聴いているときはそうした感じはなく、むしろたっぷりとした量感があります。支配的に過剰な感じではないというだけです。
ES3Xではタイトさもあって、低域のアタックがシャープでソリッドに感じます。ソリッドというのは低域にたっぷりの重みが乗っているからです。この辺はインピーダンス的なところも関係しているでしょう。

このようにUE11とES3Xの低域での鳴りの違いというのは、帯域バランスというよりもむしろインピーダンスの違いから来ている相違のように思います。

1-3 解像感の違いを考える

高性能機といった場合に、おそらく焦点は解像力という点に注目がくると思います。ただ、耳は測定器ではないのであくまでこれも感覚的なものです。

聴覚より見る世界のほうが分かりやすいと思うので、ここで少しカメラの話をさせてください。
カメラの世界などでも解像力という言葉はよく使われますが、その実はわりと主観的なものです。
たとえば「シャープさ」という言葉はよく使われますが、「シャープさ」を客観的に測定はできません。また測る単位もありません。
その代わり「コントラスト差」は測定できます。これはMTFという基準があり、ミリあたりの黒白の並び(コントラスト)が確認可能な本数で表され、顕微鏡などで計測します。
しかしMTF=シャープさではありません。MTFには高周波(ミリあたり30本とか40本)と低周波(10本とか20本)の数値があり、本来は高周波数の数値が良好なものが解像力が高いといえそうですが、人がシャープと感じる定評ある名レンズには実は低周波数での数値が優秀なものが多く存在します。実際人がシャープと感じるのはかなり複合的な理由があり、そのためよく解像力ではなく、解像感と書いています。ここではそれにならいます。

つまりシャープさ、と言うと客観的な差のようにも思えますが、実はかなり主観的な判断基準と言えます。
解像力とかシャープネスというのは一見専門用語に見えるけれども、実はあいまい、といういわゆるバズワードの一種であるのかもしれません。

話を戻すと、ES3XとUE11は両者とも解像感はかなり高いものがありますが、その表現はいささか違うものに思えます。これも感覚的な表現です。

UE11では細かく微細な音の粒子を感じさせ、緻密さ、繊細さ、線の細さといった言葉が思い浮かびます。
たとえば背の高い草の草原で、風が吹くとさわさわとさざめき、ざわめきが次第に高まるような情報量の豊かさがあるといえます。

ES3Xはソリッドでシャープ感を感じさせ、明瞭さ、鮮明さ、という言葉が思い浮かびます。ソリッドでシャープな感じです。
たとえば夜の街で、暗い背景から夜に光る細やかなネオンの文字がはっきりと明確に浮き上がってくるいう感じで小さな音が明確に見えてきます。

解像感がある、と一口に言っても言葉で表現すると意外と異なるものです。

1-4 音場の違いを考える

UE11とES3Xをぱっと聴いたときに違いを感じるもとは音場の表現かもしれません。またここは音場というよりも空間表現の違いと言ったほうがよいかもしれません。UE11は音場も広く、二次元的な横方向にはES3Xよりも広く感じられますが、ES3Xは独特の空間の開けた感覚があり、開放感があります。
これと後述する音色のリアルさをあわせてES3Xはかなり際立った表現力があります。


2 それぞれの適用を考える

個性の差という点に着目して、もう少し両者を比較して感覚的に聴いてみます。

ES3Xはタイトで切れ味よくシャープでリアルに聞こえます。UE11はやや全体によくも悪くも甘くやわらかく感じます。明るめで低域の量感とともにいろんな意味で豊かさというのを感じます。
ES3Xの方がスピード感があり、比較するとUE11はややゆったりと感じられます。全体にUE11は情報量とか低域の量感ではすばらしいのですが、ES3Xと比べると音が全体にあいまいな傾向があります。
ES3XはHiFiであり音楽がリアルに聴こえ、UE11はウォーム感があり音楽性がよく聴こえるとも思います。
ただしES3Xはドライで分析的というのではなく、ノリがよくスピードとインパクトがあり躍動的な意味で音楽性をよく引き出します。


比較というならば本来は同じ環境、機材につけてA/Bで比較というのが妥当かもしれません。前の章ではそうしてみました。
しかしはじめに書いたようにこのくらいのハイレベルのものを比べて、どちらが幾分か上かと考えるのはあまり意味がないように思われます。どちらが上かというよりは、どちらが感覚的にフィットするか、という点に着目した方がよいように思えます。
つまり自分がどういう風に音楽を聴きたいか、ということと、この機材がそれにどう役立つのか、ということです。もちろんその質問の解答欄にはいくつもの選択肢があるでしょう。

説明しやすい例はアンプの相性かもしれません。

2-1. ES3Xを考える

よくいま一番聞いているポータブルの組み合わせはなんですか、と聞かれることもあります。でも、それは一概には言えません。
ES3Xを買ってからしばらくはES3X+iHP140/D10で聴いていました。これはD10+iHP140のように高い次元の再現力のソースと組み合わせたときにES3Xがかもす音楽のリアルさ、という点にいままでにない魅力を感じていたからです。

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ある曲にバイノーラルかなにかで赤ん坊の鳴き声が効果音で入ってたんですが、これ電車の中で思わず振り向いてしまいました。
ちょっとそれに自分で苦笑して、たまたま比較用にUE11を持っていたときだったので同じところをかけてみたんですが、UE11では再現性は高いんですが、そうした本物らしいリアルさは感じませんでした。
このリアルさというところがひとつのES3Xの特筆すべき点のひとつです。単に高い再現性というよりもいろんな意味でのリアルさという感じです。

そしてES3Xのよいところは、リアルだからといって分析的とかドライとかそうしたことはなく、音楽の躍動感にも優れた再現力を発揮するというところです。
iHP140/D10でしばらくずっと聴いていて、ちょっとiPodベースの組み合わせも考えようとSR71Aと組み合わせたときにまたハッとさせられました。ES3Xの立体感や先鋭さといった性能的な長所がSR71Aの音楽性とマッチして生かしあうということで良好な音のマリアージュを楽しめます。ケーブルはわりと広く合うんですが、特に銅系のケーブルが良いように思います。

もちろんSR71Aの高性能さとあいまってかなりハイレベルの音質ではありますが、音の精密さではやはりiHP/D10のシステムに一歩譲るかもしれません。しかしトータルではSR71A+ES3Xをを好む人も多いでしょう。わたしもこの組み合わせはすばらしいと思います。

またES3XのHiFiな音傾向を生かしたいときはiQubeもよい感じです。こういうときは旧世代iPodのウルフソンDACより、iPhoneや新世代iPodのシーラスDACの音調がよりマッチするように思えます。ケーブルはiPhone用のQables Silver Cab proがよく合います。
iQubeとES3Xの組み合わせは高度なHIFiな高い再現性とダイナミックな音楽性が調和した良さを感じます。

いずれにせよES3Xはかなりいろいろなアンプに、やわらかめからシャープさの追求まで、いろいろな方向で合わせられると思います。
ES3Xはプロ用だけではなく、コンシューマーも視野に入れて設計されたといいますが、かなりバランスよく考えられて設計されているといえます。

2-2 UE11を考える

一方でUE11ですが、これはまたES3Xとは別の側面を見せます。

UE11といま一番お気に入りの組み合わせというとRSA P-51です。これはRSAアンプとしてはP51はややウォーム感が押さえ気味なので、UE11のウォーム感と重なりすきない程度に、かといってドライにならないように、UE11の持ち味を生かしつつ程よいレベルにシステムを持っていけると思います。
これとALO Cryo SXCの組み合わせはUE11のポテンシャルを最大に高め、演出系と性能系をうまくミックスしたような音に向いているように思えます。そうするとUE11の持ち味のウォーム感を生かしつつ高性能を引き出して、全体を高い次元に持っていけるように音楽性と高い再現性を高次元で両立させています。
こうなるとUE11の豊かな低域は全体的な音の下支えになり、マイナス要因ではなくなります。しかし、これを引き出すにはアンプにもそれなりのものが要求されます。

過去の気に入っていた組み合わせというとMOVEがありましたが、P-51とはハイカレント・低ノイズフロアという共通点があります。
UE11がハイカレント・低ノイズフロアのアンプと合うというのは、UE11はインピーダンスの低さがハイカレントを要求し、非常に高い能率が低ノイズフロアを要求しているからです。
ES3Xの場合はやはり能率は高いのですが、全体にアンプ依存性は低く、あわせやすいというわけです。

たとえば低域において、実際はUE11の方が低域の解像力など上回っているのに、やはりインピーダンスの異常な低さというところでUE11は低域に緩さを感じてしまい損をしているように思います。
UE11は若干要求が多くわがままで個性が強いので、高いレベルの音にはなるにしろ、アンプにもそれを引き出す能力が求められます。

反面でES3Xはいろいろなアンプと音楽性にふったりHiFi系にふったりといろいろな相性で楽しめる、素直さというか素性の良さがあり、システムのベースとして捕らえやすいところがあります。


3. 結論を考える

端的にまとめるとUE11は音の繊細さ、緻密さ、明るさ、低域の豊かさとスケール感で荘厳な音世界を表現するのに適していると思います。
またES3Xは音のリアルさ、メリハリが利いてエッジがきりっと立った明瞭さ、ダイナミックさ、タイトで締まった音楽表現から生っぽい白熱した演奏などに向いています。ヴォーカルのよさもそれに寄与します。

つまりは「どちらもよいところがあるし、好みによる」と、なります。

そして結局のところどちらも捨てられない人は、両方買う、ということになります。わたしみたいに。
そして、また個性の異なるIEMをも探すわけです。この結論の解答用紙の選択欄はたくさんあるわけですから。
posted by ささき at 00:56 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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