Music TO GO!

2006年01月24日

HE60/HEV70と音の印象など

he60a.jpg

HE60はゼンハイザーの静電型ヘッドホンで、専用のドライバーであるHEV70と組になっています。
価格は販売されていた当時はセットで定価(MSRP)が$1800くらいということで、売値は米国で$1500-1200くらいだったようです。これは専用のドライバであるHEV70とのセット価格です。販売は既に終了していて2001年頃にディスコンになっています。

HE60/HEV70は通称"Baby Orpheus"とも言われるように、ヘッドホンの王様といえる$14000もする"Orpheus"システム(HE90/HEV90)の廉価版と言えます。オルフェウスシステムは静電型ヘッドホンHE90と専用のドライバーHEV90のセットで、HEV90は真空管アンプでDACを内蔵していました。ちなみにHEV90のアンプ部の設計はドイツのブルメスター社と言われます。
HE60はHE90と比べると一回り小さくハウジングがHE90の木製からプラスチックになっているなどコストダウンが図られて、振動板も小さくなっています。この辺は製作の歩留まりを向上させるでしょう。
とはいえ、たいていのHE60とHE90の比較レビューではHE60は"HE90の90%"といわれますので差は確実にあるけれども、そう大きくはないということのようです。また音の性格的にもかなり似ているようですが、キャラクターとしては低域の表現で少し違いがあるようです。そうしてみるとコストパフォーマンスは良いと言えるかもしれません。
HE60は軽い(260g)ので装着感は良好です。装着感に関してはベルベットのパッドの感覚とあわせてゼンハイザーの普通のダイナミック型と同じと思います。

he60b.jpg

音の印象はHE60とHEV70の組み合わせにおいてのものとなります。CDPはLINN IKEMIでアンバランスのアナログ出力からAQ AnacondaでHEV70に接続します。(ちなみにHEV70にはスルーアウトの端子があります)
HE60/HEV70の音を聴くとまず静電型らしく明るくとても精細で上への伸びが印象的です。これはSR404などのSTAXと似ていますが、高域以外でも音はかなり引き締まっていてタイトです。そのためバイオリンとチェロの二重奏ではどちらもよく再現され、弦楽器においてはかなりよい相性を示します。
また音の二次元的な広がりがかなり感じられます。これはAKG K1000/SAC K1000と似ていてバランス(XLR)接続ならではのものと考えられます。別に書きますがAKG K340のXLR接続でも音の広がりは似た傾向があります。
それとHE60/HEV70の大きな特徴はそのハイスピードさで、FaKIEの例の課題曲のファンタジーなんかはギターの早引きのピッキングの歯切れよさはかなり気持ちがいいです。これもK1000と良く似ています。

欠点としてはサ行が少しきついことです。ただアンプのウォームアップや電荷のチャージの関係もあるのか、電源投入後に時間がたつとわりとこの辺は気にならなくなります。ただし完全にこの傾向がなくなるというわけではないようです。
また上はかなり伸びますが、下はあまり伸びません。ただし低域はかなりタイトなので、量感はほどほどでも良いパンチを感じます。これとハイスピードさを合わせてロックも意外と鳴らせるところもやはりK1000と性格的には似ていると思います。
ただK1000/SACの組み合わせほどは強いくっきりとしたSN感ではないようです。

専用ドライバーのHEV70はHEV90とは違って真空管ではなくMOS-FETを使用しています。またかなり小型なのも特徴で、アンプとしてはめずらしいことに立てておくことも出来ますのでスペースをとりません。
電源は230Vのために一回100V昇圧トランスが必要です。ACアダプターと本体のコネクタはどうやら独自形式のようです。なおHEV70は内部ではスイッチング電源を使用しているようです。

HeadFiなどではHEV70はかなり不評ですが、個人的にはそれほど悪いとは思いません。HEV70の音自体は端正ですっきりしているところから歪みも少ないと思います。またボリュームもなかなか良いものがついているようです。
ここでHEV70を考える前にHE60/HEV70のペアとしての印象を簡潔にまとめてみます。

pros
1. 静電型らしい精細さと高域の伸び
2. かなりハイスピード感がある
3. 音がタイトで定位がシャープ
4. 音場が広い

cons
5. 子音がきつい
6. 低音が深く沈まない

1はともかく、これを見るとヘッドホンもさることながらHEV70の性格がそれなりに影響していると思います。
たとえばヘッドホンの方がいかに反応が良くてもアンプのトランジェントが追従しなければこんなにハイスピードには聞こえないと思いますし、アンプでの左右のセパレーションが良くないと音場の広さとフォーカスの良さは両立しないと思います。HEV70は表面実装されているようなのでこの辺もコンパクトさとトランジェントに貢献しているのではないかと思います。
また欠点もそのままアンプの欠点が出ているようにも見えます。トロイダルトランスなどの電源ならもっと低音は出やすいかもしれませんが、そうコンパクトには作れません。
これを考えると長短含めてHEV70はコンパクトさをまず念頭に作られ、その線上で静電型という強みを強調する方向で設計(性格付けされた)されたアンプではないかと思います。実際に他の静電型アンプにつけると低域はよく出るが、もっともったりした感じになりスピード感は落ちるというインプレもheadfiにはありました。またSNも向上する余地はありそうです。

そうしてみると次のステップ(笑)としてはHE60に他のアンプを付けてみる、ということがあるかもしれません。
ただHE60/HEV70間のコネクタが独自形式なだけではなく、バイアス電圧がSTAX(pro)の580Vに比べて540Vと異なっていてこの辺もちょっと考慮が必要なようです。またHE90とHE60もゼンハイザー同士なのになぜかコネクタも違うし、HE90はバイアス電圧が500Vとさらに違うので互換性ははじめから考慮されていないようです。ちょっと不思議ですが、この辺もまだまだ奥が深そうではあります...
posted by ささき at 23:00| Comment(2) | TrackBack(0) | __→ Senn HE60/HEV70(Baby O) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
音も素晴らしそうですが、
AKGのK340といいBaby Orpheusといい、
奥が深そうな製品ですね
新年会ではいろいろなお話聞かせてください!
Posted by ためごろう at 2006年01月25日 08:53
そうですね、ヘッドホンのオーディオ世界もなかなかに奥が深いものでいろいろと興味を引くものが出てきます。歴史もあるし様々な個性あるものが見つかりますね。

新年会はこちらこそよろしくお願いします!
Posted by ささき at 2006年01月25日 21:34
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