
今年のCESで発表されたさまざまな新製品が徐々に登場しつつありますが、このShure SE115もそのひとつです。
SE115は名の示す通りに従来のSE110と同じクラスでおそらく同程度の価格となると思います。また昨年発売されたSE102kのひとつ上位機種という位置づけです。基本的にはSE110と代替することになり、店頭発売は6月12日からを予定しています。
1. SE115の特徴
従来機のSE110との大きな違いはSE110がバランスド・アーマチュアのシングルドライバーであったのに対して、このSE115はダイナミックドライバーを採用しているということです。
バランスド・アーマチュアの方が高級であるとのイメージもありますが、ダイナミックドライバーの採用は低価格ではなく、あくまで音質にこだわった故とのことです。SE115ではMicro SpeakerIIという新型のドライバーが採用されています。
バランスド・アーマチュアドライバーは小型で精細な音を可能にしますが帯域特性が狭い特徴があります。上位機のSE530/420のように2つ、3つとドライバーがあり高い音、低い音と帯域別に特性を分担できるのであればバランスド・アーマチュアは力を発揮します。しかし価格が高くなってしまいますし、小型化というバランスド・アーマチュアのメリットと相反してしまいます。
このSE115が担当するところはエントリークラスです。つまりこの価格帯でいかに高い性能を両立するかというShureの回答がこの新型のダイナミック型ドライバーを採用したSE115といえます。これは特に低域性能において音質面でのメリットをもたらします。
またダイナミックドライバーを採用したことでエントリーのSE102kからステップアップがなじみやすいものとなっていると思います。
SE115のもうひとつのキーは小型化と遮音性です。実際にエントリーレベルのSE102kの10mmよりも小さな8mm径の新型ドライバーが採用されています。ダイナミック型というと高音質を得るために大型化する傾向があり、SONYなんかでは縦にドライバーを配置したりして苦心していますが、SE115では逆に小さくするという発想でこれを解決しています。
実のところ小型化と遮音性と音質は密接に関係しています。SE115では小型化されたドライバーにより耳にフィットしやすく、さらに最近のShureの秘密兵器であるソフトフォーム(海外では黒オリーブとか弾丸チップと呼ばれてます)のイヤチップを採用が可能になっています。

こうして得られた遮音性は二点のメリットがあります。まずノイズキャンセリングのような高価なデバイスを使わなくてもよいため価格を抑えられます。次に遮音性をあげることで低域を逃がさないため、より低い音のたっぷりした量感を確保することができます。
またエントリークラスの対象となるカジュアルユーザーにいかにアピールするかということがもうひとつのポイントになります。
この点でSE115はファッション性を重視してカラーバリエーションを4色(ブルー、ピンク、レッド、ブラック)に増やしています。また小型化することでさらに女性ユーザーに使いやすいものとなっています。




低域を志向した音の作りもこうしたカジュアルユーザー層を意識して、ロックや洋楽ポップなどにあったものです。それらの少しきつめの録音やMP3などの圧縮音源の対応も、音をウォームで柔らかな方向にするというダイナミックドライバーの特性に適合します。
2. SE115の印象
実際にSE115を入手しましたのでその印象をレポートします。
ただしこれは製品版そのものではなく、プリプロダクションモデルですので音や外観は異なることがあるかもしれませんことを留意ねがいます。


箱はかなりがっしりとしています。アクセサリーはポーチやイヤチップなど一式がそろっています。またShure独特の耳の後ろを通す装着の仕方も説明シートがついています。


わたしはE2cを持っていたんですが、カナルタイプをE2cからはじめたという人は多いと思います。E2cで広まった耳の後ろを回すというケーブル処理はタッチノイズの軽減として言われていたんですが、こうしてきちんとケーブルを処理することでイヤホンの音導ポートが耳道の方を自然に向くという効果もあります。
新型ソフトフォームの遮音性は高く、電車の中でもかなりの静粛性を確保できます。また装着も柔らかでぴったりとはまります。

ケーブルは基本的に短いもので、別に延長ケーブルがついてきます。小型のMP3プレーヤー(DAP)を使うときは短いままポケットや襟にクリップして使えるでしょう。iPod nanoのときは短いままで胸ポケットに挿して使えます。
延長ケーブルはかなり太めでE2cを思わせます。このためケーブルをつけるとやや取り回しづらくなりますが、しっかりした太目のケーブルのせいか延長ケーブルをつけた音質低下はさほどではないようです。
試聴はiPod video(5.5G)とnano(2G)でポータブルアンプ等は使わずに聴きました。イコライザーはFLAT(なし)です。
SE115はこれらのiPodとの相性はよくて、シングルドライバーらしからぬ重厚で豊かな低域に圧倒されます。
低域方向からヴォーカル帯の中域までたっぷりと重みの乗るところが印象的で、中域の甘みのあるヴォーカルやきれいな楽器再生の下支えとなっています。
SE115のよい点は、たしかに低域は強調されていますが単に低域がボンボンとあまり深くないところだけを誇張してチューニングされているのではなく、かなり低いほうまで重く沈んで聞こえるため、重厚感があって厚みを感じるという点です。
ドライバーの低域方向のレスポンスもよいと思いますが、これには遮音性の高さも関係しています。特にソフトフォームとあわせた遮音性の高さで低域が漏れないので、重低音というような成分がたっぷりとのっています。
こうして豊かな量感のある低い音の波が中域のヴォーカルの音を支えて、ウォーム感のある音調とあいまって上手な音楽表現を聴かせます。ヴォーカルはリッチで厚みがあり、細かいところもよく出ていて十分な肉質感や潤いを感じます。
高域はきつくなく、子音が刺さるということはありません。実際圧縮音源やきつめの曲でも聞いて見ましたがほとんど痛さはありません。柔らかめなのでバランスドアーマチュアほどシャープさは強調されませんが、楽器の細かい表現はよくできていると思います。
いずれにせよダイナミック型なのでそれなりにエージングをしてやったほうがよりはっきりとした音が出てきます。
音楽としてはやはりロックやポップ、特に電気系の打ち込みのはいったものがよく合います。またポータブルゲームをする人にも良いと思います。
ドラムのインパクトもパワフルで重みがあり気持ち良く、エレキベースのはじける勢いもよく伝わります。
バランスド・アーマチュアと比べると明瞭さとか切れは譲るかもしれませんが、書いたように低域を中心に幅広いレンジをうまくカバーしてロックとか洋楽の文字通りダイナミックで音楽的な表現力は一枚上手になっていると思います。音の広がり自体も悪くないんですが、低域の深みがそれ以上に堂々としたスケール感を与えていると思います。この辺がエントリークラスといっても薄さやチープさを感じない点かもしれません。
小型化、遮音性、低域表現というポイントはうまく絡み合っているように思いますし、エントリークラスとしてひとクラス上の音をダイナミック型ドライバーで作るという目的は十分達成されているのではないでしょうか。